毎日俺のためにお弁当を作ってくれと言われましたが私は貴族なので料理なんてしませんよ?なら毎日俺の背中を流してくれ?私たちは貴族なので使用人がやってくれるではありませんか。いったい何を仰りたいのですか?
なろうラジオ大賞6参加作品です。
「リズ! 毎日俺のためにお弁当を作ってくれ!」
ある日のこと、侯爵家の嫡男であるロビン様が唐突に私にそんなことを言ってきた。
「……えーと?」
思わず首を傾げる。
「ど、どうだ?」
とても不安そうな顔。紫水晶の瞳が揺れている。
何やらロビン様には重大な出来事のようだ。
「どう、と言われましても、私は貴族ですので料理などしませんよ?
使用人にさせればよろしいのでは?
そもそも食堂のある学院に通う私たちにお弁当など必要ないですし」
「ぬぐっ!」
ロビン様はしまったといった顔をしている。
「な、ならば、毎日俺の背中を流してくれ!」
「……はい?」
この人は何を言っているのか。
ただの変態なのだろうか。
「いろいろと置いておいて、そもそも使用人がやってくれるではありませんか」
「はうっ!」
面倒だったので、そもそもの前提条件を崩すことにした。
「え、えーと、そ、それならー」
「……」
この人は何をこんなに……そもそも。
「ロビン様はエリーゼ様と婚約されてますよね? 私のような伯爵令嬢と二人で話していては、あらぬ誤解を招きますよ?」
エリーゼ様は公爵家。
そんな二人の婚約には幼馴染みとはいえ私が口を出せるはずもなく。
「……実は、エリーゼとの婚約は破棄されたんだ。
真実の愛を見つけたとかで、男爵家の男を婿に迎えると」
「……え」
確かに親の決めた婚約で納得はしていないと二人とも仰ってたけど。
「リズはまだ婚約者がいないと聞く!
だから! だから俺は今こそリズに!」
「っ!」
「……えーと、毎日俺とおはようって朝の挨拶をしてくれないか?」
「……」
コイツは。
「ふふふ。挨拶なら毎日しているではありませんか」
「あ、い、いや、だから……」
貴族令嬢でありながら婚約者を作らなかったのはなぜか。
それはそうなりたいと思った幼馴染みが他の人と婚約したからで。
どうせ叶わぬ恋ならこのまま修道院にでも、などと思ったぐらいで。
「えーと。な、なあ。やっぱり俺にお弁当をー!」
「だからお弁当なんて必要ないんですー」
くるりと振り返り、歩き出す。
にやけてしまいそうな顔をまだ見せたくなくて。
「あ、待ってくれよ」
ついてきてくれることが分かってたから。
「え、えーとえーとー」
「ふふふ」
早くいい例えが見つかるといいわね、ロビン。