表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

日常シリーズ

この眼鏡は……

作者: 釜瑪秋摩
掲載日:2024/07/24

 私の名前は、伊達 勇(だて いさむ)

 年齢は五十二歳。

 とある企業の部長職についている。


 朝はいつも早めに家を出て、職場近くのお洒落なオープンカフェでモーニングを頼む。


 軽く焼いたトーストとサラダ、スクランブルエッグだ。

 そしてコーヒーではなく、イングリッシュブレックファースト。

 少し濃い目でミルクを落としてもらう。


 食事のあとは眼鏡をかけて新聞を開く。

 この眼鏡はお気に入りのブランドだ。

 フルリムのスクエアタイプで、色はダークブラウン。


 気になる記事だけを読み終わるころには、出社にちょうどいい時間になる。


 朝の挨拶を交わしながら、エレベーターに乗り込み、私の部署へと向かう。


 みんな、今日も忙しなく仕事に取り掛かってくれている。

 良い部下たちに恵まれている、と思う。


 ある程度、仕事が落ち着くと、休憩室に置かれたカフェメーカーでコーヒーを淹れて飲む。


 今日はこのあと書類を整備して、明日、訪問する取引先への確認メールを送らなければ。

 などと考えていると、女性社員の柿崎かきざきさんと小松こまつさんも、コーヒーを淹れにきた。


「あ、伊達部長、お疲れさまです」


「お疲れさま」


「部長、今日も素敵ですね。その眼鏡、とても似合っていますよ」


「そうかい?」


 褒められて嫌な気持ちになりようがない。

 私は年甲斐もなく、嬉しさで笑みをこぼした。


「でも部長、視力、良かったですよね? ひょっとして、伊達メガネですか?」


「そんなことはないよ。この眼鏡は、()()()()()()()


 そう答えた途端、二人は突然、笑い始めた。

 なにかおかしなことを言っただろうか?


「ふふっ……じゃ、じゃあ、それ、度が入っているんですか?」


「最近、視力が落ちたとか? んっふふ……」


 笑いを押し殺しているようだけれど、言葉の端々に漏れているよ。笑いが。


「ああ。近視じゃあないんだけれどね。()()()()()()()()()()が、歳には勝てないと実感しているよ」


 柿崎さんも小松さんも、色めき立ちながら「また出た!」などと小声でささやき合い、笑いを漏らしている。

 そんなにウケるようなことを、言った記憶は……。


 ああ、そうだ。

 彼女たちは確か、アニメがとても好きだった。

 きっと、私の言葉のなにかが、彼女たちが好きなアニメにでも出たんだろう。


 彼女たちは、時折、そうやって勝手に盛り上がる節がある。

 私も子供のころは、それなりにアニメもみていたし、面白いと思った。

 しかし、そこまで夢中になることはなかった。


 いつだったか、彼女たちと、有名なロボットアニメの話をしたことがある。

 それはもう、驚くほどのマシンガントークで熱弁をふるわれたものだ。

 そんなことまで? と思うほど、詳細までを記憶して、私に説明を続けたものだった。

 あの勢いでプレゼンをしたら、すべての企画が通るんじゃあないかと思うほどに。


「あっ! そうだ! 私、A社への見積りを作らないと」


「私も、発注かけなきゃいけない案件が……それじゃあ伊達部長、お先です」


 まだクスクスと笑いを残したまま、彼女たちは休憩室をあとにした。

 思わず眼鏡を外し、眺めみた。

 眼鏡一つで笑われることになろうとは。


 けれど、これがないと、最近は特に困ることが多い。

 読めないのだ。

 新聞も本も、スマートフォンのメールも。


 老眼というものが、これほど不自由だとは思ってもみなかった。


「明日はまた違うフレームにするか……」


 予備に作ったフレームは、別ブランドのものだけれど、形も色も、今かけているものと差異はないと気づくのは、家に帰ってからのことだ。


-完-

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ