6鞍目 ひまわりの子
コミケ103 12月31日(日)小説出品します。続きが気になったかたは是非!東地区 ホブロック 40a
ひまわりの子、可奈。大きな目、長いまつげ、きれいな鼻筋。もともと童顔だが高めに結んだポニーテールがさらに幼く見せる。そんな顔とは裏腹に出るとこは出て、引っ込むとこは引っ込んでいるというギャップ。守ってあげたくなる低身長。そしてとにかく明るく笑顔が輝く。同じ性別の私でさえついつい目で追ってしまう。見ていると目がハートになってしまう。そりゃまぁ、とんでもなくモテるだろう。
しかし可奈は毎日のように馬に対して目をハートにしている。趣味のカメラで撮りまくり、そしてとにかく馬に触る。可奈にとっての馬はあらゆるところにカッコよさと可愛さを感じる存在のようで
「あの子の王子様気質がキュンとします!」
「このつむじ見てください! どんだけかわいいのー」
そう語る可奈は要するにウマ馬鹿だ。入学式で馬を見て以来、寝ても覚めても馬のことが頭から離れないらしい。馬が彼氏だと自信満々に言い張る姿は少しこじらせていると感じることも無くはない。
部内に限らず、学部でもかなり多くの異性に想いを告げられているようだ。そのたびに「ありがとうございます。嬉しいです。だけど、あなたといて馬との時間が減るのなんて考えられないんです」と断っているらしい。
可奈にとっては相手にすごく配慮した断り方だそうだ。これなら相手も傷つかないだろうと信じ込んでいる。だが相手は相当のダメージを負っているだろう。特に部外の者は。可奈にとって馬の優先順位が高すぎて、その辺りの感覚は普通の人には理解できないだろう。そんな風に理解されていない事自体を理解していない可奈は罪な女だなと思うと同時にとても微笑ましい。
私はそんなヒマワリの子に元気と笑顔をもらい、そして癒される。唯一の同性同期として男どもには話せないようなお互いの秘密もたくさん共有している。
お互い隠し事なくさらけ出していると思っていた。それでもすべてを理解することはできていなかったんだな。と後々、私は思うことになる。同時に可奈への思いはさらに強く大きくなるのだが。
可奈はカメラ好きで暇さえあれば馬の写真を撮っていた。その趣味がきっかけで一年生の頃からビデオ係に任命された。練習の時、ラチの外から練習風景をビデオで記録するのだ。障害を飛ぶ人馬を撮り、新しい練習内容にチャレンジする人馬を撮り、時には新入生の初めての駆歩も撮る。日頃から馬とカメラを愛する可奈らしく、重要な瞬間を見逃さず撮りきる。私をはじめ全部員が日々の練習を振り返る教材として重宝していた。そんな可奈は先輩たちからもとてもかわいがられ、多くの騎乗機会を得ることが出来ていた。
馬術部で過ごす時間のうち、騎乗して練習できる時間はとても少ない。部員全員が満足できるほどの運動に馬の体力は耐えられない。また運動は常に肢元のケガのリスクが付きまとう。だから部員たちは練習の何倍もの時間を馬の手入れや作業で費やすことになる。
「暴れ馬の手入れは可奈にまかせろ」そう言った先輩がいたほど可奈は馬の扱いが上手い。お腹を触られるのを嫌がる馬も可奈だけには素直に従う。引馬で暴れても「ハイハイ」と言いながら平然といなし、数分後には頭を撫でまわしてる。そんな風景を見ていると愛って伝わるもんやなと私はいつも思うのだ。
ただ可奈はなぜか絶望的に乗馬のセンスがない。なぜこんなにも馬を愛し、馬からも愛される可奈が上手くならないのか。私には全く理解できなかった。私だけではなく、全部員が同じ気持ちだったと思う。
可奈が乗ると暴走する。可奈が乗ると動かない。可奈が乗ると跨げるほどの低い障害でも馬は飛ぶことを拒否する。要するに可奈は背中に跨った瞬間、馬に舐められてしまうのだ。理解が出来ない現象だった。
多くの騎乗機会に恵まれた可奈だったが技術の成長は亀の歩みのように遅かった。その原因を明確に説明できる言葉を誰も持ち合わせておらず、とにかくセンスがないとしか言い表すことができなかった。馬に舐められて散々だった練習が終わり、手入れをしていると馬は可奈に甘えている。本当に不思議な光景だった。
可奈、馬術嫌いにならへんかな? 私の頭にそんな心配がよぎることもあったが
「毎日馬に触れられるこの生活はとても幸せです」と話す可奈を見て安心していた。
「うまく乗ってあげられなくてごめんねー」
どれだけ不甲斐ない騎乗になってしまっても、どれだけ馬に舐められても、可奈の馬に対する愛情は変わらない。毎日、愛撫と撮影を繰り返す。
私たちが二年生になったある日、大学学生部から馬術部に依頼があった。地域住民や入学希望者とのコミュニケーションの手段としてポニーを飼育してほしいという事だった。部活への補助金が幾分増額されるという条件は馬術部にとっては渡りに船で、すぐにポニーを譲ってくれる相手を探した。
OBの先輩が経営する牧場から一頭のポニーを譲りうけた。白地に茶色いブチ模様はまるでアンさんの縮小サイズだった。ポニーは出身の田村牧場からタムと名付けられた。
馬術部で飼育する全馬には、その年ペアを組む担当が割り振られている。一年間その人馬で競技に挑み、最終的には北日本学生馬術大会に挑むことになる。タムは競技に出るわけではなかったため、明確な担当者はいなかったが、自然と最も多くの時間を過ごすことになる可奈が担当だと部員全員が認識していた。
可奈はタムに対してもほかの馬と同様愛情を注ぎ、タムも他の馬たちと同様に彼女のことを信頼し甘えていた。
タムは小さくてかわいいし、そばによりそう小さい可奈もとてもかわいい。
馬たちも部員たちも、もちろん私も。皆、可奈が大好きだ。
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