3鞍目 望む大きさは
コミケ103 12月31日(日)小説出品します。続きが気になったかたは是非!東地区 ホブロック 40a
母が実家へ戻った数日後、R学園大学二〇〇二年度の入学式の日が訪れた。式は広い体育館で行われた。この大学には最先端の設備を持つ獣医学科や、将来の酪農家を育てる酪農学科など農業に関する学科が七つある。すべての学科をあわせると新入生は六五〇名ほどいるらしいが、式に参加している新入生はどう多く見積もっても四〇〇から五〇〇名程だった。
学長の挨拶などありふれた式次第を終えた後は各学科の建物や教室、それぞれの場所へ移動しオリエンテーションを受ける流れだった。
体育館大ホールから移動の為いったん外へ出ると、様々な部活動やサークルの勧誘をする先輩方が新入生たちの歩く道を挟むように何列も並んでいた。
「体験入部来てね!」
「新歓コンパ参加しない?」
各サークルが我先にと新入生へ声をかけ、勧誘を行っていた。馬術部への入部を決めていた私は様々なサークルからの声を受け流し、馬術部はどこやろ? とチラチラと探しながら歩いた。遠くの木陰に目をやると、白いキュロットに燕尾服や上ランという馬術競技の正装に身を包んだ集団がいた。そして集団に囲まれるように一頭の馬が青々とした芝生を食んでいた。
私が馬術部の存在に気が付いた時、黒のスーツに身を包んだポニーテールの小柄な女子が猛ダッシュで馬の元へ駆け寄っていった。何やら部員に話しかけた後、一心不乱に馬をカメラで撮り続けていた。馬術部への入部希望なのか、はたまた写真部希望なのか。どこでも面白い人はいるもんだな、これからの学生生活が少し楽しみになった。
入学式の翌日、私は厩舎に向かい入部希望の旨を伝えた。高校の二の舞は避けたかったから、この日に行くと心に決めていた。厩舎へ向かう足は緊張で重たく感じられたが、過去の後悔が足を止めることを許さなかった。
そんな私の緊張をよそに「経験者なの?」「どこ出身?」先輩たちから矢継ぎ早に質問され、必死に返答しているうちに陽は落ちていった。
四月中は仮入部期間で、本入部は五月になってから。四月中は練習に参加するもしないも自由との事だったが、私は翌朝から練習に参加する事にした。馬術部に入るため選んだ大学だ。仮やら本やらどうでもよかった。だから私にとってはこの日が入部初日。
翌朝四時半、馬術部厩舎前。昨日顔を合わせた先輩から五時の集合までに女子部室で着替えを済ますように指示を受けた。案内された部室には一人の小柄な女の子がジャージに着替えようとしていた。
「おはようございます! 新入生の立花可奈っていいます。よろしくお願いします!」
私が手にもった乗馬用ズボンが目に入ったからか、彼女は私の事を先輩と勘違いしたらしい。
「おはようございます。私も新入生! 西宮響です。よろしくね」
「えー同級生! 大人っぽいし勘違いしまいたー。同じ学年の女の子がいてうれしいです。仲良くしてくださいね! 私……」
話は続いていたと思うが何を言っていたのかは覚えていない。私はついつい可奈に魅入ってしまったからだ。
(ひとみ、でっか!)
(まつげ、なっが!)
(鼻筋、綺麗や……)
(んで顔、ちっさ!)
(お肌、きれいやし)
情報があふれかえる。テレビや雑誌から飛び出てきたようなかわいさと、凛とした可憐さがその小さな顔に共存していた。
(おっぱいもでっかいし……何カップあるんやろ?)
(ウエストも細いんかい……足首くびれ過ぎやろ!)
(声もめっちゃかわいいし……。やばいやばい……)
ジロジロとなめまわされるように凝視された可奈はさすがに我慢できなくなったのか
「あのぉ。なにか私変でしょうか? このジャージとか? その乗馬用のズボンとかもっていなっくって……」
「あ、ごめん。そういうわけじゃなくって。動きやすい恰好なら何でもいいと思うよ」と返答した時に、可奈のポニーテールが目に入り気が付いた。この子、昨日のカメラ女子や!
なんなんだこの可奈って子は。ここは馬術部だよ? くさい・きたない・きついの3Kで有名な部活だよ? あなたのようなキラキラした娘がいていい場所じゃないんじゃない? アイドルのオーディション会場はあちらです。(どこか知らんけど)
圧倒的なビジュアルを目の前にし、デビュー曲のジャケット写真まで想像してしまった。
「よかったですー。昨日お馬さんに一目ぼれしてしまって、何も知識ないまま早速来ちゃいました」
ズキューンと音がした……気がする。満面の笑顔の可奈と目が合った。同性でもドキドキした。見るモノを魅了し、誰をも明るくするその笑顔は満開のヒマワリを想像させた。きっとお姫様がヒマワリ畑で産んだ子なんだ。私は勝手にヒマワリの子と名付けた。
初日の練習中も行動を共にした可奈は、背が高くてかっこいい! 細くてモデルみたい! 髪の毛きれい! 関西弁うらやましい! など私の色々な部分を気に入ってくれたようだ。私からしてみれば圧倒的な高みから発せられる憐みの言葉のようにも思えたが、全く嫌味がしないのが可奈のすごい所だった。
同じ女性としての優劣は元より、発せられるオーラが圧倒的に違うと感じた。それほど可奈には人を幸せにする力があった。ヒマワリの魅力が宿ったこの子ならどんな力をもっていても不思議ではないと思った。
初日の練習は、説明と勧誘を織り交ぜたような先輩のトークを中心に進んだ。仮入部初日に訪れた新一年生は五名。皆少しの時間だけど引馬に乗せてもらい、可奈はとても感動したようだった。
早朝の練習が終わり、私たちは私服へ着替え厩舎を後にした。可奈と二人、厩舎から校舎までの約一キロを自転車に乗り話しながら向かった。可奈はとにかく馬に心を打ちぬかれたようで、初めての乗馬は絶対に忘れることは出来ないと思う。と宣言していた。あぁ可愛い。そんな可愛さに惚れ惚れした私は不意に聞いてしまった。特別な意味があったわけではないんだ。
「おっぱい何カップあるの?」
「えっ! もしかして馬に乗るのに制限とかあるんですか?」
「いや、ごめん。馬は全然関係ない。変なこと聞いてごめん」
「……。Fカップです……」
ヒマワリは少し赤くなっていた。
後から知ったことだけれど、本当はGカップだった。可奈がFと言ったのは馬に乗るためには少しでも小さい方がいいと思ったのか、私の胸元をチェックした末の嘘なのかはわからない。
――――――――――
次がたのしみ!と少しでも思っていただけたらブックマークと評価(☆☆☆☆☆を★★★★★へ)お願いいたします。
1件のブックマークでやる気出る単純な人間です。