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新人愛子さんの物語(2) - ゆ、勇者?所長の見立ては当たるのでしょうか?

新人の愛子さん 現世にて


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「所長。杉咲さんの転移ですが、処置終わりました。」


 ありがとう、と言って、所長はカルテを覗いていた視線を少しだけ私に向けて微笑えみました。そしてまたすぐにカルテに視線を戻しました。

 本当にこの方は絵になる方だなと思ってしまいます。椅子に座っているのですが、リラックスしているのにすらっと背筋が伸びていて美しい姿勢です。そして、首の傾け方、カルテをめくる滑らかな指先の動作、微笑みで自然と微かに上がる口角、どれも絵画的で美しいのです。


 私は思わずふーっと大きくため息をついてしまいました。


「おや、アイコさん、お疲れかい?ちょっとクセのあるお客さんたちだったからねぇ。」


「え?はい?そ、そうですね。そうです。はい。クセの。はい。」


 少し頬がぽーっと熱くなるのを感じながら私は答えました。


「今回はなかなか難しいお見合いになるかもしれないねぇ。」


 所長はカルテから目を離さずに言いました。


「どうしてですか?」


「どうして?うーん、どうしてって、、、アイコさん、あの二人って結ばれそうに思える?」


「えっ、?えぇと、そうですねぇ。二人というか、杉咲さんは難しそうには思います。なんというか、理想の男性像が高そうというか。相手がどんな男性でも難しそうというか。」


「そうだねぇ。ああいうコンシツの人は大きくこじらせることが多いからねぇ。」


「コンシツ?コンシツってなんですか?」


「ああ、ごめん、ごめん。説明したこと無かったのかな。魂の質と書いてコンシツって言うんだ。僕たちはそうよく呼んでいる。もともとはラテン語のNatura Animaeナトゥーラ・アニマエというのが語源なんだけど、日本語ではそのまま直訳しているんだ。」


「はぁ。ナトゥーなんとか。はぁ。その、杉咲さんはコンシツが問題なんですか?」


「そうねぇ。杉咲さんに限らず、佐藤さんも現世の環境では全くマッチしていない。というか、お二人とも魅力的なコンシツだけど、それが宝の持ち腐れになっていると言えるだろうね。」


 私は頭の中にはてなマークがいくつも並んでいる気がしました。


「まぁ、あとは二人の異世界お見合いを経過観察しようよ。そうしたらわかると思う。」


「えーっ。所長のそういうもったいぶった言い方って嫌いです!」


「おいおい、アイコさん。上司を嫌いとか簡単に言うものではないよ。困ったね。うーん。」


 所長は両手で後頭部を抱えながら、天井を仰いでのけぞりました。

 なんでしょう。男性が脇を無防備に晒すのって、なんだかドキッとします。


「そうね。まず、杉咲さんは生命の根源のような、原始的で強いコンシツを持っている。これは、とにかく近代文明とは相性が悪くて、その本質を抑圧しがちなんだ。」


 所長は頭の後ろに当てていた手をおろし、デスクの上に両肘をつきました。そしてデスクの上で組んだ手の上に顎をのせて自分の心の中に集中するような顔つきで、話を続けてくれます。


「佐藤さんはね。あれは勇者の器を持ったコンシツなんだ。」


「えっ勇者?」


「そう。彼のポテンシャルは底なしと言える。まあ、アイコさんからは普通の優しそうなおじさんぐらいにしか見えないのかもしれないけどね。」


「そう、ですねー。佐藤さんが勇者?」


 私は受付したときの佐藤さんの様子や、杉咲さんといっしょに眺めていた佐藤さんの転生ルームでの様子を思い浮かべました。人がよくて、出過ぎない感じで、周囲に気配りできるような男性だと思いますが、勇者という、そう、強そうなイメージからはかけ離れて、どちらかというと、押しに弱くて、気弱な男性に見えた気がします。


「まあ。佐藤さんがどうなるかは、転生先の状況次第でもあるからなあ。ただ、覚醒したら異世界の1つや2つを簡単に救済してしまうほどの能力を持っていることは間違いないね。」


「はあ。」


「おっと、もうこんな時間だ。今日はもう一組、お見合いがあるから、そろそろ準備しようか。次のカップルもこれはこれで特殊だけども。とにかく、佐藤さんと杉咲さんは定期的にモニタリングして、なにか変わったことがあったら知らせてください。」


「はい。そうですね。次のカップルの準備をしますね。」


 私は頭を切り替えるために、大きく深呼吸をして、所長室を出ました。



 

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