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新人愛子さんの物語(1) - 愛子さんのやりがい

新人の愛子さん 現世にて


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 私は柏崎愛子、今年で24歳になります。前職はいろいろあって、半年前に辞めました。今はここ異世界お見合い研究所で働いています。

 この研究所の建物は、ある街の路地裏にあって、一般には知られていはいません。偶然でも一般の人が知らずに入ってくることもありません。

 そういう特別な場所にあります。


 ここの研究所のアシスタントの仕事を紹介してくれたのは叔母でした。父の葬儀の際に、叔母が私の窮状を知って紹介してくれたんです。

 正直、名前からしてなんだか怪しいし、叔母も合わなかったら気をつかわずに断っていいからと言ってくれました。

 面接からして変わっていたし、業務内容も、その、異世界とか、現実離れしています。

 最初はなにかの冗談だろうって思って説明を聞いてました。

 でも、ここでは本当に異世界に転生したり、転移したりするんです。もちろん不思議なことばかりです。

 所長は年齢不詳で、たまに気味の悪い笑い方をする人です。なんというか、たまに別の人格が憑依しているのではないかなと思ったりします。それと、見えない誰かとよく喋っていて気味が悪いです。

 でも、叔母は信用のできる人だと言っていました。叔母は実直な人ですし、いつも誠実で嘘を言うなんてことはあり得ないので、私も所長を信用しようと頑張ってみたいと思います。

 それに喋らなければ結構素敵な男性なんです。容姿は俳優さんみたいで、背が高くて細身でウエストが高くて。いつも白衣なんですけど、なんとなく膝下が長いだろうなって思います。そこまで濃くはないのでわからないですけど、たぶん欧米のハーフか、クォーターじゃないかと思います。綺麗なキューティクルたっぷりの栗毛と長い睫毛が羨ましいです。仕事中は常に黒の薄い手袋をしてるんですけど、外すとすごく綺麗な手なんです。

 人間の年齢って手の甲とかに表れたりしますよね。肌のきめ細かさや若さとか。

 ただ、叔母が出会った数十年前から姿が変わっていないんですって。不思議ですよね。


 この研究所で起こることにはいろいろと目をつぶっています。

 とにかく常識が通用しないですから。

 でも、クライアントのみなさんが幸せになるお手伝いをできるというのはとても喜ばしいことなんです。それが私のやりがいでもあります。

 ただやりがいといっても、お客様によって好みは出てしまいますね。いつも素敵なお客様ばかりというわけでも無いんですよね。

 今回の案件では、男性は素敵な方だなって思いました。佐藤さんは見た目は年齢相応の方ですし、私とはけっこう年齢が離れていますけど、人としての優しさとか、思いやりとかを短い間でも感じました。ちょっとした会話や立ち居振る舞いに温かな人柄が滲んでいるんです。

 どうして、こんな人柄の良い方がこれまで独身だったんだろうというのは少し気にはなりました。


 一方で杉咲さんは、その、綺麗な方ですけど、ちょっと性格がきつそうだなっていう感じで。


「ねぇ。もういいから、とっととやってくださいって言ったなじゃない?」


「あ、はい。杉咲さま申し訳有りません。申し訳有りません。」


 私は物思いに耽るのをやめて、杉咲さんを転移装置に寝かせました。病院にあるCTみたいな機械です。

 異世界に転生する場合は特別な方法で成仏させる必要があるそうです。転生はいつも所長しか処置しないので私にはよくわかりません。

 転移の場合は、魂を異世界に一時的に飛ばすのだそうです。肉体は現世に残したままにして、帰りたくなったら帰れるそうです。ちょっとした旅行感覚で転移する人もいるらしんです。

 私もクライアント様の異世界生活を見ていると転移してみたくなることは度々あります。

 でも、この現世に残した肉体を管理するのが大変ですし、すごくお金がかかるんです。だから、気軽に転移は選べないんです。


「はい。それでは転移装置を起動します。あちらの世界にて、先に転生された佐藤さまと出会いますと、お互いにお持ちになっているペンダントが光ります。そうしましたらお見合いが始まります。それでは、異世界にてごゆっくりお過ごしください。」


 私は一気に口上を述べて、スイッチをオンにしました。

 杉咲さんは何かを言おうとしていましたが、気にしませんでした。どうせ、もうお会いすることは無いですからね。

 今まで、この装置で何百人と転移させてきたそうですけど、一度も帰ってきた人はいないんだそうです。


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