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佐藤さんの物語(1) - 転生場所って選べるんですね

佐藤様 現世にて


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 あと一週間で40歳になる。

 40にして惑わず。という言葉が好きだ。憧れだった。

 歳を取れば、大人になるとばかり思っていた。


 今は惑っている気分にはなれない。

 親に言われて仕方なく来ただけだ。

 お見合いしろって言われて、ここにきただけなんだ。


 それが、なんか、なんか、胸に刺さってる。


「なんか、俺、胸を刺されてるんだけどっ!」


 眼の前の男が営業スマイルを浮かべている。

 研究所の所長って言ってたよな。


「ええ、ええ。間もなく佐藤さまは死亡します。残念ですね。悲しいですよね。でも、このナイフ、痛くないでしょう?」


(は?)俺は声が出せなくなっていた。


「当研究所で開発した最新型の転生用ナイフでして。痛みも苦しみもなく、安全かつ安心して転生いただける唯一無二のナイフなんです。イヒッ」


(イヒッ?イヒッてなんだよ。。)


「佐藤様におかれましては誠に残念ではございます。今回のお見合い相手の杉崎さまのご希望で、転生が良いということでして。」


(転生?おいおい何を冗談を。。)


「といっても、お相手は転移をご希望されてまして。ええ。ひどい話ですね。彼女はこの世界に帰ってくることもできるのですが、佐藤様はお亡くなりになりますので。」


(え、ちょっと、なに?俺はただお見合いがあるってここに来ただけなのに。)


「意識が無くなりまして、しばらくしますと、冥府のほうに転生ルームという場所がありまして、受付番号を呼ばれます。」


(はい?受付番号)


「AE1027、というのが受付番号ですので、呼ばれましたら、、」


 男の声が次第に聞こえなくなり、視界も暗くなり始めた。

 急に暗闇に包まれた。その暗闇の中で奈落の底を落ちているような感覚を覚え始めた。しばらくすると、落下しているようでもあり、逆に天上に浮上しているような感覚も感じた。

 何が起こっているのか、理解が追いつかない。

 落下するような感覚と、浮上するような感覚が次第に強く増していく。


 突然、「チン!」という電子レンジのようなチープな音がした。


 しだいに視界が明るくなり、人のざわめきが聞こえ始めた。


 そこは「場所」というより「空間」という言葉があてはまるようなところだった。

 建物は無い。

 ただ、ぼうっと白い光が四方を包んでいる。

 床もない。けれど、足の下には固い地面があるのを感じる。


 周囲はさまざまな容姿、さまざまな年代の男女で溢れていた。服装はみんな同じく、白のワンピースのようなものを来ている。

 私も同じ格好だった。

 周囲に数百人は居るだろうか。ときおり、明るい光の玉が現れて、次第に人の形になり、そして人が現れた。

 多くの人は同じ方向に歩き始めていた。

 歩く人の列が出来ていて、100メートルぐらい先まで続いているのが見える。その先は霞がかかったようにぼやけてよくわからない。


 声があちこちで聞こえる。


「はーい。みなさーん。2列になって進んでくださーい。みなさん、もう死んでますからねー。諦めて審判の部屋に進んでくださーい。」


 全身白ずくめだが、私とは違う服装の男女が見える範囲でも十数人ぐらい居て、現れた人を誘導していた。


 私は何が起こっているのか飲み込めずに、何度も周囲を見渡した。

 よく見ると、いろんな人種の人達が居た。肌の色も様々だ。

 声に導かれて、素直に進む人もいれば、その場に座り込んでいる人も居る。


 遠くでは大声を出しながら殴り合いの喧嘩をしている一団もいた。

 ただ、そうして騒ぎを起こしていると、どこからともなく、灰色の影のようなものがいくつも飛んできて、それらの人々を包み、そして、居なくなった。彼らは灰色の影に包み込まれた後、影が消えると同時に、その場から居なくなっていた。


 誰かに肩を叩かれた。

 振り向くと、髭面の男が立っていた。


「お前さん、転生じゃろ?転生番号聞いとるじゃろ?」


「え?あ、はい。え?えっと、、受付番号というやつですかね?たしかAEの、、」


「おー。研究所さんからのお客さんかね。そうしたら、こっちじゃ。こっちについてきなされ。」


「え?」私は訳がわからなかった。


「はよ、来なせい。こっちじゃ。」


 男に腕を掴まれ、私は周囲の人々とは違う方角に進まされた。


「ほい。ここよ。」


 男は空中に浮いた黒い円、小さなブラックホールを指さした。


「はぁ。」


「ほら、はよ行きなされ。」


 私は腕を引っ張られて、そのブラックホールに吸い込まれた。


 吸い込まれた、と思ったら、小部屋に吐き出された。


 そこは原色の壁とデスクで出来た部屋で、女性がデスクの向こうの椅子に座っていた。

 その女性はメガネを指でクイッと上にあげながら話しかけてきた。


「ああ、どうもどうも、佐藤さんですね。」


「は。はぁ。佐藤ですけど。」


「はい。佐藤さんね。えっと、ここでは、これから転生する先を決めていただきます。」


「あ、はぁ。」


「ド定番の中性ヨーロッパ風のファンタジー異世界から、近未来SFファンタジー、現世と近似のファンタジー世界とか、まぁいろいろです。最近はモノとか、人間以外に転生するのも流行ですね。」


「はい。あのぉ。」


「はい。じゃぁ、これからいくつかの候補をお見せしますので、気に入ったものがあったら、いくつか選んでくださいね。」


「えっと、あのぉ。」


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