表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/246

3・宴の終わり

 祝言の日から二日が経った。連中はまだ飲んでいる…戦国時代の結婚式は三日三晩続くと何かで読んだ記憶があるが本当の事だったのだ…馬鹿じゃなかろうかと思う…


 ただ、大人共が馬鹿騒ぎをしている間にもせっせと情報を集めた甲斐もあり(酔っ払いに愛想を振り撒き、酒臭い息を浴びながら膝の上に座って色々聞き出したのだ。非常に疲れた。)、少しずつだが周辺の状況がわかってきた。

 まず自分の事だ。名前は若鷹丸、御年三歳の立派な幼児である。勿論、この時代は数え年であるはずだから現代の満年齢で言えば二歳前後である。そりゃ箸も使えませんわ。

 また、この通り思考は前世と変わらずに行えるのだが体の年齢に引っ張られるのか、言動は年相応だ。話すと単語ぶつ切りの短文が限界だし、すぐ泣く。あと、すぐ漏らす!!これでも昼間は自発的に厠に行くようになったことで周りを驚かせているのだ、寝ている間は勘弁して頂きたい。

 それから、幼児にあるまじき思考を働かせて脳を酷使しているせいか、はたまた二人乗りのせいかわからないがすぐに眠くなる。赤子は寝るのが仕事とは良く言ったものだが夜たっぷりと寝た上に昼間も半分位は寝ている気がする…ひょっとすると幼児とはこういうものなのかもしれないが。

 次に自分を取り巻く環境も少しではあるがわかってきた。まず時代だが、はっきりとはわからないが住んでいる城(俺から見れば城?砦じゃないのか??というレベルだが…)の作りを見るに、平屋で木造板屋根の屋敷の周りを土塁が囲みその上には木の柵、要所に木製の櫓が建つ様を見るに江戸時代よりは前であることは間違いなさそうだ。また、現在進行系で戦の話をしていたのもこれを裏付けるだろう。

 そして、我が家の事も多少掴めて来た。父は山之井広泰。山之井家の当主であり山之井庄を治める国人領主のようだ。

 実の母はやはり故人であり、産後の肥立ちが悪く亡くなったそう。元は重臣の娘であったそうだ。

また、父方の祖父母も既に他界している。

 此度、後妻として当家に嫁いで来たのが近隣の有力国人領主の娘で(りょう)と言い、その父である御爺は三田寺政道というらしい。

 まぁ、ようするに近隣の国衆での政略結婚であり身代としては三田寺家の方が大分大きいようだが、父の武勇に期待した御爺が縁談の話を持ち込んだらしい。その為、家中では今後に期待する声も多いらしい。

 それから、身の回りの世話をしてくれている侍女は(やはり侍女だった、俺は正しかったのだ)(みつ)といい、分家筋の娘ということだった。



「若鷹丸様、御祖父様達がお帰りになるそうですよ。お見送りに参りましょう。」

光が俺を呼びに来た。

「じじ、かえるの?」

「そうでございますよ、宴もようやく終わりましたからね。」

途端に悲しみが湧いてくる。慌てて玄関に向かって走り出した。本当の若鷹丸も御爺に懐いたということだろうか。力加減はあれだが随分と撫でて貰ったからな。


「じじ〜!」

「おぉ、若鷹丸よ。見送りに来てくれたの…」

ズベしゃっ!!

…玄関から土間に下りる所で見事に転んだ…そもそも、玄関の段差は三歳児には少々高過ぎた…痛い…


「若鷹丸よ、大丈夫かの?」

「若鷹丸殿、怪我はありませんか?」

御爺と母が心配して声を掛けてくれる。


「じじ、かえっちゃうの!?」

涙目で問うと、

「そうじゃ、祝言も無事に終わったからの。」

「ダメ〜!!」

叫んでお爺の脚にしがみついた。なんか若鷹丸の感情に引っ張られて体のコントロールが向こうに移っている感じだ。

「これは困った。」

と、全然困っていないニヤケ顔で御爺が宣っている。

「これ若鷹丸よ、我が儘を言うでない。お祖父様も領地に戻らねばならんのだ。しかし義父上、すっかりと懐かれましたな。」

「ホホホ、其方より懐かれているかもしれんの。」

御爺が言うと父が苦笑する。

「また会いに来るでの、約束じゃ。」

「うぅ……」

渋々引き下がる俺。ようやく体のコントロールが戻ってきた。ビックリした、本当の若鷹丸の感情が高ぶると体を持っていかれるのか。気を付けないといけないな…いや、気を付けたところで対処のしようがないか??


 落ち着いたところでお爺が供の者が引いた馬に跨がる。馬だ、ポニーのようなサイズだが間違いなく馬だ…乗ってみたい…脳内議会(定数2)で満場一致にて可決された。


「じじ、おうま!!」

満面の笑みで両手をびよんと御爺に向かって挙げた。

「乗りたいのか?」

大きく頷く。

「これ、余り我が儘を言うな!!」

父が窘めるが、御爺は少し思案した後、

「武士なら馬に慣れておくに越したことはないであろう。ちと其処らを一回りしてくるか。」

と言い、馬上から俺を抱え上げて自分の前に座らせた。

…非常に酒臭い…こいつ飲酒乗馬じゃないのか?失敗したかもしれん…しかし今更降りるとは言えない…困った…まぁ、幼児を乗せて無茶はせんだろ…多分…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ