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13・やりたい事が多すぎる

 今朝からは朝の稽古に槍の素振りも取り入れた。その分、刀の稽古は減らした形だ。父には残念がられたが、昼間二人と稽古する分で補うと言ったら納得してくれた。

 それから、嬉しいことに椎茸の胞子が落ちていた。箱の底に紙を引いておいて良かった。溜まった胞子を簡単に集められる。胞子は取り敢えず細い竹で作った容器(竹の水筒のすごく小さいやつと思えば分かりやすい。)にまとめておいた。竹の成分で椎茸菌死滅なんてことになると困るので早めに培養道具を作ろうと思う。これで椎茸は天日干しで干し椎茸に出来るな。高級品だ、光に見張っていて貰わないといけないな。


 今日は松吉の木刀を頼んで。あ、二人の稽古槍も頼もう。きっと松吉も鮎を欲しがるだろうな、筌も追加で作らないといけないか。胞子を培養する為に底の浅い箱も欲しいな、いや、陶器の皿の方がいいか?迷うな。あ、原木用の丸太も切って運ばないといけない。くそぅ…やることが多すぎるぞ…


 あれこれ考えていると光が二人が来たと伝えに来た。玄関で迎えて、取り敢えず父の所に挨拶に行く。流石の松吉も父の前では緊張した面持ちだった。逆に紅葉丸の前ではいつも通りの松吉で、紅葉丸は大分引いていた。まぁ、この城にはあんなにグイグイ来る奴はいないからな。いい経験だろう。


「源爺、度々すまんが良いか。」

源爺に声を掛ける。

「若様ですか。今日は何用でしょうかな。」

「実はお供がまた一人増えてな…」

そう言うと、

「木刀ですか。」

「それと稽古槍も二本頼みたい。」

「爺さん、頼むぜ。俺も早く若みたいになりてぇんだ。」

松吉が口を挟む。あ、睨まれた。

「な、なんだよ、爺さん。睨むことないだろ。」

「なんじゃ、お主は。」

「お、俺は松吉だ。下之郷の康兵衛の息子の。若の近習になったんだ。」

つっかえながら言った。

「そうか、まずは名を名乗れ。お前の評判は若様の評判にもなるのだぞ。」

「わ、わかったよ…」

さっそく鼻っ柱を折られる松吉。

「源爺、すまんな。松吉は馬鹿なのだ。気が付いたらどんどん叱ってくれ。」

「馬鹿って…」

追い打ちを掛けてやる。

「何故、馬鹿などを近習に?」

「爺と父上が決めた。まぁ、霧丸のような扱いやすい者ばかり近くに居てはいかんという事らしい。」

凹んだ松吉を置いて話が進む。


「まずは、木刀ですな。おい、馬鹿者。こっちに来い。」

「馬鹿者!?」

悲鳴を上げながら素直に従う松吉。逆らうのは得策ではないと野性が理解しているらしい。

「取り敢えずこれを振ってみろ。」

「俺、若と同じのがいいんだけど。」

「あれは結構重いだろう。お前に振れるのか?」

「一昨日も昨日も借りて振った。大丈夫だ。」

そういえば、コイツ俺の木刀を普通に振ってたな。一つ年下のくせに背丈も俺と変わらないし、三年毎日振ってる俺と同じ重さを振れるのか…腹が立つな…いや、あれだな、馬鹿力だな、うん溜飲が下がったぞ。


「霧丸、お前も来い。槍の重さを決める。」

そんな訳で木刀はアッサリ決まって槍選びに入った。今のうちに次の用意をするか。

「源爺、追加で筌を作りたいんだ。竹を貰っても良いか?」

「竹ですか、この間から若様がよく使いますな。」

「む、そうか…では後で裏山で切って来て補充する。どんな竹が良いのだ。」

そう言われては仕方ない。

「竹は三年目の物がしなやかで良いと言われますが。それはまぁ難しいので今はいいでしょう。なるべく真っ直ぐ伸びているもので、節の間隔が広い物がいいですな。太さはそこらの物と同じ程度で、枝は落として下され。しかし一番肝心な事は、今の時期は竹は水分が多くて腐りやすく材にするには適さぬのです。」

「なに、そうなのか?では、いつの時期ならいいのだ?。」

「竹は乾燥する秋から冬に切り出しますな。」

そうか、知らなかった。でも良く考えれば竹も木も切った後は乾燥させるのだ。乾燥した季節に切るのは当然の事だな。という事は椎茸用の原木も冬がいいんだろうか?でも、夏も試さない訳にもいかないしな。

「そうか、その時は手伝うから言ってくれ。それから薪割りに使う小さめの斧があっただろう。あれを貸してくれ。」

「何に使うのです?」

「ちと、細い木を倒したいのだ。」

「そうですか、竹や木を切り倒す時は決して倒れる物の後に入ってはいけませんぞ。根本が跳ね上がって大怪我をすることがあります故な。」

「む、そうなのか?つまり、倒れる方向でなく横におれば良いということか?」

「左様です。後ろが安全と思いがちですが大間違いですぞ。」

知らなかった、知らないことばかりだ。何か新しい事をやるときは必ず誰かに一度相談する癖を付けるべきだな。

「わかった、気を付ける。ありがとう。」


 引き続き、三人で筌を作る。案の定、松吉はこの手の細かい作業が苦手だった。

「あっ、ちくしょう!!折れた…」

「力まかせにやるからだ。しっかり火に当てれば自然に曲がる。」

霧丸にまで言い篭められている。というか霧丸は松吉には厳しいな。

「そうだ、源爺。魚籠は作れるか?それと葛籠もなんだが。」

お互い作業をしながら尋ねる。

「魚籠ですか、竹編みは余り得意とは言えませぬな。」

「そうか…」

源爺は木工職人だものな。誰に頼むか。

「竹編みなら母ちゃんと婆ちゃんが得意だぞ。」

松吉がそう言った。

「そうなのか?」

「あぁ、行商人にも売ってるんだ。」

山之井に年にニ度来るという行商人が買取るならそれなりの物かもしれない。

「材料はあるのか?」

「あぁ、山盛だぜ。」

ふむ…

「近い内に頼みに行くと伝えてくれるか?」

「わかった、言っとくな。」


 そう言えば行商人にも伝手を作っておかないといけない。やる事が増えてるじゃないか…

「そう言えば、行商人はそろそろ来る時期なんじゃなかったか?」

「そうだったかな?」

「大体、田植えの後暫くしてからと、稲刈りの後ですね。」

肝心なところで役に立たない松吉としっかり答えてくれる霧丸。いいコンビ、と言ったら霧丸は確実に嫌な顔をするだろうな。

 昼を過ぎてようやく完成した。というか、俺と霧丸はアッサリ出来たのだが松吉は遅々として進まないので途中から二人でやった。以前の分と合わせて七つになった。漁獲量も倍になるといいのだが。

源爺から斧を借りた俺達は一度河原に行って筌を仕掛け、今度は城の横の田んぼの畦を斜面に向けて歩く。

「本当にあんなので鮎が獲れんのか?」

松吉は半信半疑だ

「疑うならお前にはやらん。」

「い、いや、信じる!信じるから!!」

分け前が無くなると思ったのか、焦ったように松吉が言う。


 斜面を登りながら手頃な太さの椎の木を探す。

「なるべく、搦手に近いところがいいな。」

そう言いながら歩いていると、

「若様、これはどうですか?」

霧丸が聞いてくる。うん、良さそうだ。

「よし、松吉取り敢えずコイツを切ってくれ。」

担いで来た斧を松吉に渡す。あれ?こういう荷物って、お供が持つんじゃないか普通??

「よし来た。」

まぁ、いいか。勢いよく答える松吉に対して、

「気を付けて切れよ。」

と、一言釘を刺すのは忘れなかった。


「ぜいっ、はぁ!!」

松吉が息も絶え絶えだ。幹は三寸(一寸約3cm)程の太さだが、まだ半分も切れていない。

「松吉、斧をくれ。交代でやろう。お前は休んでろ。」

「あいよ…」

松吉から斧を受け取ると木と対峙した。

「よし、もう倒れるぞ。」

結構時間が掛かったが一本目が倒れそうだ。

「後ろに入るなよ?」

「わかってる!」

ガサガサと葉の擦れる音と共に椎の木が倒れる。

「ふぅ、案外大変だな。」

満足そうに言う松吉に、

「俺達はまだ体が小さいからな。霧丸、鉈で枝を払ってくれるか。やり方はわかるか?」

そう言って霧丸に鉈を渡す。頷きながら鉈を受け取る霧丸。この様子なら大丈夫だろう。

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