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瑞雲高く〜戦国時代風異世界転生記〜【1周年感謝】  作者: わだつみ
三章・明日をも知れぬ村(青年編壱)

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76・半ベソ

「何で俺はみんな捨てちゃったんだよ…」

そうぼやきながらも雪の下で凍った地面を掘り返す。


 あの白い粉が硝石でないと分かってから一月程、雪が最も深くなる時期を過ぎて徐々に雪も解け始めたかなという頃。俺はついに硝石の抽出に成功した。いや、違う。多分硝石だと思われる物質をだ。

 結局あの後もあれこれ試したものの、結果は何も変化は無かった。唯一変化らしい変化があったのがあの灰汁を使った方法だったのだ。だが、結果として出来たのは石灰っぽい何か。そこで考えたのは水溶液中の何かが灰汁の成分と反応して石灰らしき物が分離したならば、残った上澄みの成分も変化したんじゃないかと言う事。つまり、なんか白い成分の元になる分子が取れたとか灰汁の中の成分と付け変わったとか、そう言うごにょごにょ的な文系には難しい何か的な事が上澄み側でも起こったんじゃないかなぁ…と思った(期待した)のだ。


 と言う事で、今回は上澄みの方を煮詰めてみた所…出たのです。またしても白い何かが!乾燥させた結果、先に手に入った石灰っぽいやつと比べ、粒の大きな白い粉が手に入りました。ぱっと見の印象で例えるならば、石灰っぽいやつは片栗粉や小麦粉っぽい見た目と触感で、硝石だと思いたい方は塩や砂糖に近い感じがする。

 これに火を近付けた所…何と燃えない!いや、前回のと同じじゃねぇか!と思ったのだが、炭の粉と混ぜて燃やした結果、明らかに火の勢いが強くなり、燃え尽きるのも早かったのだ。つまり?硝石って言うのは良く燃える物質では無くて燃えやすくする物質なのか?だが、これでは火薬とは言えない。だってバーンと爆発してくれないと困るのだ。これに硫黄を混ぜると爆発するって事だろうか?


 と言う所までが、今の状況である。で、何で俺は半ベソで雪の下を掘り返しているかと言えば。ここに捨てていたのだ。今までの上澄みを!小屋を出て直ぐ左側のここに!

 捨てた水を含んだ雪や土を判別するのは割りと容易だった。何せ熱した湯を捨てた所は一度溶けてから再凍結しているので色や硬さが周辺と違うからだ。

「何やってんだ?」

そこにそう声を掛けて来たのは祥猛だ。

 声を掛けて来たと言っても向こうは裏手の斜面の中頃に居る。狩りの帰りだろう。奴等の荷物を見る限り今日は坊主だった様だ。釣り以外も坊主と言うのかどうかは知らんが。そこで、小屋の前で奇行を繰り返す俺を見て呆れて声を掛けて来たのだろう、一緒に居る弥彦と寛太の視線も心なしか冷たい気がする。

「き、気にするな!それより戻ったら仁淳にここ来る様に…いや、何でもない俺が自分で行く。」

そう言い返すと、俺は股下まで雪に埋もれながら作業小屋を後にした。硝石の存在を仁淳に知られるのはまだ早い。


 果たして仁淳は長屋の女衆の作業の中に居た。雪も深まり、薬種の探索も行えない仁淳は当初木材の運搬に組み込まれたのだが、余りの体力の無さから初日に御役御免を言い渡されたのだ。それを目にした菊婆に「じゃあこっちに寄越せ」と言われ(本人は頑強に抵抗したものの)、以降は女衆に言われるが侭に糸を績んでいる。母ちゃん達に勝てる訳が無いのだ。因みに、手先が器用で丁寧だと好評の様である。薬の調合も繊細だからね。

「仁淳、少し良いか?」

「これは祥治殿。どうぞどうぞ、いくらでも。」

俺が玄関から声を掛けると、仁淳はそれ来たとばかりに嬉しそうな表情でそう返事をすると、手にしていた藤の繊維を放り出してこちらへやって来た。

「すっかり板に付いているではないか。」

俺がそう揶揄うと途端に心底嫌そうな顔をして、

「やめて頂けませんかね…」

そう言った。

「大将、長くなりますか?」

そこへ小枝がそう聞いてくる。

「いや、直ぐに終わる。」

俺がそう答えると、

「さぁ、仁淳様。仕事をしながらでもお話は出来ますよ。」

抜群の笑顔で小枝は仁淳にそう言ってのけたのだった。

「仁淳、諦めろ。世の中には絶対に勝てない相手と言う者が居るものだ。」

俺もそれを受けて仁淳の肩を叩いてそう諭す。


「それで、何の御用でしょうか?」

完全に目の死んだ仁淳がそう聞く。

「お主硫黄は持っておらぬか?確か薬にも使うと聞いた覚えがあるのだが。」

そう硫黄は漢方では薬になるはずなのだ。

「祥治殿、薬と言うのは高価な物に御座います。中でも石に由来する物は総じて値段の高い傾向が御座いましてな。」

焦点の合っていない目をしながらそう言う仁淳。

「そうか…湊であれば銭さえあれば簡単に手に入るか?」

「曽杜湊で御座いますか?」

「うん。」

「私はあの地には余り詳しくありません故…只、堅枚国かたひらのくにでは多く採れると聞いておりますので、それが運ばれておれば手に入るのではありませんかな?沓中にも堅枚からの物がそれなりの量が入って来ておりましたし。」

「成程。」

堅枚国は彌尖国の東、沓前国の南に位置する山中の国だ。地力に乏しく、農業には向かないが豊富な鉱山資源を持つ事で知られている。そこで得られた鉱石の多くは川を使って豊かな南の阿久津湊方面へ運ばれると聞いた事があるが、川が北に向かって流れる地域ではそちらに運ぶのかもしれない。

「因みに、どの位の値段で買えるものなのだ?」

その質問に対する仁淳の答えに、俺は頭を抱える事になるのだった。


作者注:堅枚国については三章先頭の『三章 設定・地名一覧 壱』を参照

 前回から続く一連の化学実験の結果につきましては、作者があちこちで科学情報を聞きかじった物を脳内で捏ねくりまわした挙句に出力したキットタブンコーダロウな実験結果になります。大いに、いやほとんど正しくない可能性が御座いますので話百分の一位でお願いします。

 あ、みんなは自分で火薬とか作っちゃ駄目だよ?法律的には知らんけど危ないからね。

 次回からはこの火薬をどう使うか頭を悩ませる回を挟もうと思うんだけどみんなは銃砲火器の話は好き?私は大好きだ!!そう言うオタクの早口で話の長い回は興味ないので簡潔にって意見が多ければサクっと流しますのでご意見お待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「それを捨てるなんてとんでもない」 親切なシステムメッセージはなかったんですねえ…… 微に入り細を穿つ描写を期待します! (内政大好き)
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