第3章 キャシーさんとの再会
今回は妹のシャーリーさんに彼女の友人で腕利きのエンバーマーのキャシーさんから話を聞いていただきました。大してグロくはないと思いますがエンバーミング作業の表現があります。一応これにて完結となります。
先日、キャシーさんのところへ行ってきました。彼女と出会ったアドベンチャーゲームはもうだいぶ前にサービス終了してしまいましたが今でも定期的にオフ会が開かれ彼女と話をするのが楽しみになっていますが、今回は珍しく彼女の仕事場に向かいます。あれからもうだいぶ経ちますがもうそろそろお姉ちゃんに注ぎ込まれた防腐液の交換をしたほうがいいかな、と思って。それで彼女に前日撮ってきたお姉ちゃんの写真を見せました。
「見た感じ大丈夫そうね。でも万が一顔色が変わったり白カビが見えたりといったことがあったらすぐに連絡してくださいね」
それを聞いて私はほっと安心しました。キャシーさんは続けて、
「そもそもこのプランは祖父が息子、つまり私のおじですが、彼がまだ小さい頃突然交通事故で亡くなって、あまりの喪失感が祖父を襲って当時の技術を注ぎ込んで腕によりをかけて処置して式が終わった後家までこっそり移動し、箱に入れて寝かせたり、たまにリビングやダイニングにある椅子に座らせたことが始まりなの。私もそんな彼に何回か会ったことがあるの」
「あの日ね、エミリーさんを病院から弊社に連れて行くときね、仕事柄、絶対に顔に出せないけど、心の中ではそれこそ号泣していたの。あなたの立ちすくんだ姿を見て。そして帰社してから悲しい気持ちを振り切って仕事を始めたの」
「それでどんなお仕事をされたんですか?」
と、私が尋ねて、彼女は、
「言っても大丈夫ですか?人によっては気分を悪くするかも……」
と答えたので私は
「はい大丈夫ですよ」
と答えました。
「まず体を丁寧に洗って目の中にアイキャップを差し込んでまぶたを閉じてから、注入ポンプにピンク色の防腐液を用意して、「痛いかもしれないけど少し我慢しててね」とつぶやきながら首筋というか右の鎖骨の上の動脈と静脈にポンプから伸びた管を通して防腐液で押し出すような感じで血液を外に出すの。その時手足の指先を助手さんがしっかりもんで血流を良くして防腐液が全身に確実に回るようにするの。「気持ちいいかな?それともくすぐったい?」とつぶやきながら。管を流れる液体の色が澄んできたらポンプを止めて管を外して手術用の糸でふたをしたの。そして、「また痛いけど少し我慢しててね」とつぶやきながら脇腹から金属管を差し込んで腸や内臓に穴を開けて内容物や詰まった血液をそして鼻の穴から脳細胞を吸引器で抜いてそこに防腐液を注ぎ込んでふたをしたの。最後に体を軽く洗ってタオルで拭いて乾かしてから渡された服を着せて少しおめかしさせて完成」
「そしてエミリーさんを弊社のホールの奥に用意した椅子に座らせて彼女やあなたの友人や親戚一同を出迎えたの。普通、箱に入れると思うでしょ?弊社はそんなにアコギじゃないの。あの箱2千ドルくらいするから。埋めるんだったら当然必要だけどそうじゃないですよね」
「そしてエミリーさんをバンで家に返してやっと仕事が一段落、というところでほっとしたの。」
「改めていろいろとお世話いただいてありがとうございました。」
私はそれを聞いてキャシーさんには頭が上がらないと思ってしまいました。
「いえいえ、私たちはプロ中のプロですからそんなのは当たり前のことですの。」
彼女はこう返した。そして、
「あなた確か今ITエンジニアをしているんだったよね?ギルド仲間にアルバイトに誘われたのをきっかけに。お互い大変な仕事だと思うの。だから一緒に頑張りしょうね。」
逆に彼女に励まされました。そう、私は今コンピュータサイエンスの修士を出た駆け出しITエンジニアなのです。
私は家に帰った後いつものようにアクリル板越しにお姉ちゃんの寝顔を眺めてほっとした気分になりました。