先代フェルリート
第九紀 九四七年
15歳の少年は剣士だった、名はルーク、どこにでもいる、モンスターを追払い、金を稼ぐ、ただの村人にすぎなかった、しかしある時、戦争により全てが奪われる。
その日は動物の駆除のため一人で森へと向かい、帰ってくると村は焼け野原となっていた。
「...な....なにが...起きた....?」
ルークはあまりの光景に絶句し、絶望し、立ち尽くしていた。
そうして丸一日、ただその光景を見ていると一人の純人が声をかける。
「君はジート人かい?」
ルークが振り向くと、そこには輝くような金髪、絹のような白い肌、赤い目を持つ15歳の女がいた。
「お前...一体...」
ルークの問いかけに女は答える。
「私の名前はフェルリート! 剣聖って呼ばれるとっても強い美少女なの!」
「....それを自分で言うかよ...」
ルークが呆れながら言うとフェルリートは頬を膨らます。
「え〜私可愛いじゃん! ほら! おっぱいだっておっきいんだよ!」
フェルリートは胸を曝け出し、ルークは反射的に目を塞ぐ。
「バカかお前!! しまえ!今すぐだ!!」
「見てないだろ! みろ!!」
フェルリートはルークに胸を押し当てるとルークは走って逃げる。
「やめろおおおおおお!!」
「ちょっと待ちなさい!!」
第九紀 九五〇年
「ねえ、ルークはさ、なんで剣を振るうの?」
素振りをしてるルークにフェルリートは問いを投げかける
「そりゃ強くなるためだ、男は強くあるべきなんだよ、何にしろな」
ルークの答えにフェルリートは不満を顔に出す。
「私はやっぱり剣は嫌い、何かを殺すためのものなんて、可愛くないもん」
「はあ...才能を持つ人間は違うね、俺はお前と違って才能がないからな、努力をしてもしても、才能にはきっと勝てねえんだよ」
ルークが少し諦めながら言うとフェルリートは立ち上がる。
「才能なんてみんな持ってるよ!!」
フェルリートの言葉にルークは少し苛立ちを覚える。
「何いってんだ、現に俺は才能がない、お前に勝ったことなんて一度もないんだからな」
ルークの言葉にフェルリートは少し言葉を荒げる。
「向き不向きは確かにあるかもだけど! 努力もしないで才能がないって言うのは違う! 十年、二十年、どれだけ努力をしてもできなくて、それで初めて才能がないって言うんだよ! 私だって物心ついた時から剣を振ってるし! どんな才能があっても努力ができないなら、それは才能なんて関係ないの!」
フェルリートの言葉でルークは自らの顔を叩く。
「ちょ...どうしたの?」
フェルリートが若干引き気味にルークを見つめる。
「確かにそうだな、なんか元気出た」
ルークが微笑みながら言うとフェルリートはルークの顔を胸に沈め、頭を撫でる。
「ちょちょちょ!!!」
「よ〜しよし! 元気出たか〜? おっぱい飲む?」
「やめろおおおおお!!」
しかし幸せな時は続くことなどなかった。
第九紀 九五一年
「今から山賊退治だって! ルークをついてくる?」
「ああ、じゃあいくか」
フェルリートはルークに地図を見せる。
「これが山賊の拠点ね!」
「今回はなかなか大きいな」
ルークが戦略を考えているとフェルリートがルークの顔を持ち上げる。
「さてルークさん? 私たちの教訓は?」
「殺さず、殺されず、だろ?」
ルークの言葉にフェルリートは屈託のない笑顔になる。
「そうそう! 生きていればみんな幸せなのだよ!」
〜山賊拠点〜
「うおおおお!!」
山賊が斧を振るうがフェルリートは斧を刀で受け流すと山賊の首に蹴りを打ち込み気絶させる。
「よっしゃ行っていこう!!」
彼女には戦闘のセンス、反射神経、動体視力がとても高かった、その全てを活かし、相手の急所を一瞬で見抜き、殺さず、相手を無力化していった。
そうして山賊の拠点を潰し、家に帰ることにした。
「今日はいろんなことがあったね! 家に帰ったら鍋にしよ! 鍋!」
フェルリートが無邪気に言い、ルークもそれを見て穏やかにしてるとフェルリートがルークの前に出る。
鈍い金属音が鳴り響き、そして血飛沫が舞う。
「フェルリート!!」
ルークが叫ぶがフェルリートは力無く膝を崩し、刀を地面に刺してなんとか体勢を戻す。
「痛たたた....」
フェルリートは笑顔を貫いているが腹部から肩まで斬られた傷はとても痛ましい。
男がニヤリとすると口を開く
「これが剣聖か、弱いなあ、過大評価ってやつだな!」
男の言葉にルークは声を荒げながら反論をする。
「何が弱いだ! てめえが不意打ちで仕掛けたからだろうが!!」
「まあ面白けりゃいいんだよ、まあ剣聖に勝っちゃったしなあ、またやることが一つ減っちゃったよ」
そう言って男が空を見た瞬間にフェルリートが剣撃を入れるが、男に防がれる。
「待ち...なさい...まだ負けて...ないわよ...」
「へえ、まだ戦おうとするんだ? そんなボロボロなのに?」
「知らないわね、私は不死身なのよ?」
フェルリートは余裕そうな顔を見せながらも血を流し続ける。
「ふーん? じゃあやろうか?」
男とフェルリートの戦いが始まる。
互いの剣、拳、脚、身体全てを使った接近戦をルークはただ見ていた。
俺はこの時、こう思った
「美しい」
フェルリートの戦う姿、その信念、動きの全てが美しい、目を奪われてしまった、しかし俺にとってそれは最大のミスだった。
「ルーク危ない!!」
男の剣撃はいつのまにかルークに向いていた、ルークは対応しきれない、完璧な死であった。
その時、一撃を喰らったのはフェルリートであった。
「おっと、こりゃ美しい愛だこって」
男はキョトンとしながらも剣を納刀する。
「それじゃあ俺はもう行くわ、楽しかったぜ、冥土の土産に教えてやろう、俺の名はトゥリア! 世界最強の男さ!」
そうしてトゥリアは立ち去った。
「フェルリート!!」
ルークは出血を抑えようとするが血が止まらない、布を使い手で抑え続けるが、どんなに頑張っても血が止まらない。
「ルーク...」
「俺のせいで...!!」
ルークが患部を抑えているとフェルリートがそっとルークの手を握る。
「もういいよ...これ以上は無駄だからさ...」
「そんなことない! そうだ助かる! 助かるんだよ! 相手はいないんだ! だからさ! だからさ...だか...ら...」
ルークから涙をポロポロと溢れる、頭の中で全て理解できてしまっているからだ、希望的観測に縋ってしまう。
「はぁ...明日の仕事どうしようかな...ルークの子供欲しかったなあ...いろんなこと...してみたかったし...」
フェルリートは今までにないほど落ち着いていた、喜び、悲しみが混じったなんとも言えないほど冷静に
「ルーク...復讐なんてしなくていいから...剣聖じゃなくてもいいから...幸せに生きて...」
「フェルリート?」
彼女が動くことは2度となかった、そして剣聖が発見された時、ルークは彼女の遺体にずっと話し続けていた、何度も何度も何度も何度も、そうして少年は世界に絶望し、ただ鍛錬に打ち込んだ、そして筋力、技術、戦闘センス、全てを磨き、彼女の動きを間近で見ていた全てをできるだけ、忘れないように
そうして少年は剣聖となり、フェルリートの名を授かった、彼女の刀を持って。