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生きる世界と冒険譚  作者: 山田浩輔
リライプル編
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思伝の力

 獣人の少年は常に笑みがなかった、感情がないわけではない、喜怒哀楽、全ては存在する、しかし幸せとは時に残酷である、幸せの罪悪感、何もできなかった無力感、そして、怒りと悲しみ、それが消えてしまうこと、その全てが申し訳ない、少年はずっとそう考えた。

 少年の本心は冷静でも合理的でもない、そう繕い続け、何かに縋り、そして意味のある死を求めていた、誰かの役に立つための死である。




 「あ...あ...あ...あああああああああああああ.....!!」

 


 結衣はその視界に入ったものに絶望する、涙が滝のように流れ、その場に膝から崩れ落ちる、そこにあったのは口から肛門を柱で貫かれたヒューズの死体であった、ハエが集り、歯、爪、眼球、陰部のないその死体は絶望という二文字を体現していた。

 「ヒュー....ズ...さん....」

 フォルトはあまりの光景に目を疑う、悲痛の声が響き渡り、避けたくなるような現実を直視しなければならないのだから。

 「ヒューズ、まあ予想できてはいたが...こんな...」

 ウィリアムは考えつく限りの言葉を捻り出し、無念と言わんばかりに下を俯く。 


 「許さない...こんなことをした人を....絶対に!!」 

 怒りに満ちた結衣に顔、その顔は般若とは言えない、しかしそれ以上の感情の起伏にウィリアムは恐怖した。


 「そうだな、行こう、終わりは近い」

 ウィリアムはヒューズの死体を横目に流すとそのまま最深部の扉を開ける。

 そこにはたくさんの信者の死体の山、そしてその中央でまさに今、三神器の一人、テプラを男が殺した


 「おまえ...誰だ...?」

 ウィリアムが男に声をかけると男はこちらを振り向くと笑う。

 「お、ウィリアムじゃん、やっほー!! トゥリアだトゥリア!」

 ウィリアムはあまりに拍子抜けで力を抜き、地面に倒れる。 

 「はあああ....お前本当に....」

 

 「ウィリアム、この人は?」

 結衣がウィリアムに耳打ちをするとウィリアムは答える。 

 「こいつはトゥリア、フェルリートとまともに戦える唯一の人間だ、俺らの味方だ、安心しろ」

 結衣はなんとも言えない表情をする、諸悪の根源、ヒューズを殺した人間は既に皆殺しにされていたからである。

 しかしそれも束の間、爆音が轟くとトゥリアが吹っ飛ぶ。

 そこにはウィリアムの手足、ヒューズの左腕、リカル、エレナの命を奪った人間、フェルリートがいたからである。


 「まずい!!」

 ウィリアムはすぐに剣をとるがフェルリートは既にウィリアムの後ろを取り、首に刃を当てていた。

 「お前は騙されている」

 ウィリアムはフェルリートの言葉に疑問を抱く。

 「何を言っているんだ...お前!」

 ウィリアムが殺気を放つがフェルリートの冷静な顔は崩れない、結衣が銃を向けようとするとウィリアムの首に刃を少し押し当てる。

 「話を聞け、お前らは、トゥリアに騙されている」

 「.....わかった、話してくれ」

 ウィリアムは剣を捨て、両手を上げる。

 「話が早いな」

 フェルリートがウィリアムを解放すると結衣は即座に銃を構える。

 「待て! 待て、どうせ勝てない、話を聞くべきだ」

 ウィリアムが結衣を止めると結衣はゆっくりと銃を下ろす。


 そしてフェルリートが口を開こうとすると後ろから声が聞こえる。

 「いいや、飽きたし、教えてやるよ」

 フェルリートが居合いの構えをするとトゥリアが両手を上げる。

 「待て待て、せっかく話をするんだろう? 俺から話してやるからよ!」

 トゥリアの今までの笑顔、何も変わらない笑顔、それなのに、今までと違い、根源的に嫌悪する、そんな気持ち悪さをウィリアム達は感じた。


 「まあ色々話すことはあるけどなあ、んじゃあまずウィリアム! お前に秘密を教えてやろう!」

 ウィリアムは怪訝な目つきでトゥリアを見る、そうして衝撃の一言を明かされる。

 「リリアン、知ってるだろ? ヒューズの母親だ、と言うか皆殺しにしたのは俺だよ」

 「何を....言って...」

 「リリアンの殺され方、明らかにおかしいだろ? 抵抗されたにしても目には普通刺さねえだろ、面倒臭えし、それに家畜まで殺すにはあり得ない、遺体の数が合わないのは俺が趣味で使っただけだからな!」

 いつもの笑顔でトゥリアは口にする、あまりにも、とても衝撃の告白とは思えない、そんな無邪気な笑顔で

 「お前が...おばさんを...」

 ウィリアムの言葉にトゥリアはきょとんとする。

 「あー、そういえば言ってないけど、リリアンって俺のことだぞ?」

 あまりの情報量の多さに脳が処理できずにウィリアムは呆然としているとトゥリアはフォルトの方を向く。

 「あ、そうそう、フォルト、お前の馬車を襲ったのも俺だ、わかるか? 俺だ!」

 

 

 「さっきからあなたは...何を言って...」

 「主従媒体だけぶっ壊れる確率なんて相当低いぞ? 俺がわざと壊したに決まってんだろ!」

 結衣はトゥリアに銃口を向けるがトゥリアは一切動揺しない。

 「お前らの旅、仲間、精霊、敵、死亡者、全て俺の計算通りってわけなんだよ」

 トゥリアの言葉にウィリアムは口を開く。

 「嘘だ...そんなこと...いくらなんでも一人でできるわけがない、それに大人数でやったとして...なんの意味があるんだ...」

  

 「そうだな、楽しいからだな!!」

 トゥリアの言葉にウィリアムは更に動揺する。

 「そんなので協力者なんて...」

 

 「じゃあそろそろ種明かしだ、俺はスキル、[思伝(テレパシー)]を持った人間だ! 人に声を送る能力がある!」


 「止まれ!!」

 騎士達がゾロゾロと現れるとフェルリートが叫ぶ。

 「そこの男だ!! そいつが全ての元凶だ!!」

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