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断罪後の公爵令嬢  作者: まるや
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7、旅の始まり  ソトマウラ国

テレーズは投獄された、両頬は血が乾き皮膚が引きつれて痛い。

痛くてさわれない頬、ボロボロの服、叩きつけられた際に流れ出た血の跡が生々しくドス黒くしている。これは悪い夢だと自分の爪を噛んで牢の中のシミを見つめる。

誰も助けてくれない、牢の中で汚物まみれの最期などありえない。

スタンビーノとそれ以外の攻略者とのハッピーエンドのその後について頭の中でおさらいをする。何度考えても何も出てこない…。ハッピーエンドのその後って幸せに生きていくものでしょ? だからハッピーエンドって言うのでしょう?

こんなルート知らない!! 何か間違った? 私がヒロインよね? だって乙女ゲームのシナリオ通りだったじゃない!! 悪役令嬢は国外追放の上 殺害…これもそうテロップには出ていたわ!

ゲームではハッピーエンドのその後なんて描かれていない! その先ってどうしたら知る事ができるの!? ヒロイン以外の人生なんて気にした事ないもの! 私の為の人生でしょう? これも何かの伏線なの!? でもルートが分からない…ゲームにないシナリオをどう生きて良いか分からない!



混乱の中のテレーズに近づく人影。

「お前はここから出れるとしたら何がしたい? お前が望むものはなんだ?」


悪魔の囁きに喜んで応え、テレーズは牢から出る選択をした。

テレーズは人知れず王宮の牢から抜け出し世に放たれた。



そして平民に落とされた事も張り紙がされ、社交界にも瞬く間に広がった。


テレーズをダンビル男爵家は跡継ぎとして迎えたが、今回王族に不敬を働いた事で身分が平民となった。ダンビル男爵家程度では実情を教えては貰えない。

ただ王家からの通達で、『テレーズ・ダンビルは王族に対する不敬罪で身分を剥奪とする。尚、今後一切の関わり、援助などをした場合 ダンビル男爵家を取り潰しとする』

一方的な通達があっただけ。


ダンビル男爵家は愕然とした。

何があったか分からないのだ。テレーズは貴族学園に通い 王子を見事射止めたと聞いていたのに、いきなり不敬罪で身分剥奪、その上今後一切の接触を禁ずる。

別にテレーズに愛情を感じてはいないので援助をしてはならないとの項目には何の問題もないが、いきなり不敬罪って!! 王子を捕まえた話しはどこへ行った!?

兎に角詳しい話が聞きたい………ああ でも誰に聞いていいかも分からなかった。


他の3名と違いダンビル男爵家の門は衛兵もいない、家の中に入ると両親から説明を求められた。テレーズは自分がいかに理不尽な目にあったか訴えたいのに言いたいことが言えなかった。口から出てくるのは自分の言いたい事とは全く違うものだった。


「貴族学園に入ることができた上、同じ学年に王子殿下がいた事で舞い上がってしまいました。その上、王子殿下に優しくして頂きどうしても王子殿下の婚約者になりたくなって、婚約者のレティシア・マルセーヌ公爵令嬢が邪魔になりました。

私を虐めたと嘘の噂を流し貶め卒業パーティの場で断罪させようと画策し王子殿下の友人を籠絡し様々な罪をレティシア公爵令嬢に対し犯しました。それが全てバレてしまい、3人の子息と共に貴族籍を剥奪されました。今後 この家と関わりがあると知られれば迷惑をかけるので出て参ります。

ご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。」


「何だとー!! なんてことをしてくれたのだ!! おま、おま、お前を引き取ったのは家を継がせるためだ!家を潰すためではない!! なんて事をしてくれたのだ!!

で、で、出ていけ!! 二度とこの家の敷居を跨ぐな! お前などこの家と何の関わりもない!無心なども決して許さない!!出て行けー! 出て行けー!! お前など私の娘でもなんでもない!!」


「ああああそんな!! 私はお父様の子なのでしょう? 何故 また捨てるのですか!!お母様と同じように捨てるのですか!?」


「はぁ? 捨てる? 侍女など人間の数には入らない。モノだ! 道具だ!! 道具は古くなれば変えるのものだ。捨てるもクソもない 道具から生まれたモノは同じく道具だ!? 役に立たぬ道具など必要ない! 馬鹿が!!」


「ど、道具? 何言ってんの? 人間は道具じゃない。私はヒロイン…ヒロインにあんたみたいなクズの父親なんているわけがない! あんたなんて私のあたしの父親なんかじゃない!!」


「何を言っているんだか、くだらない! 早く出て行け!!」

「ううぅぅぅぅ、なんで? なんで? おかしいよ! おかしいよぉぉぉ!!」


身一つでテレーズは家から追い出された。

折角 牢から脱走できたのにテレーズには身を寄せる場所がなかった。行く場所がないテレーズは次に実の母のところへ向かった。



ソトマウラ国はとても暑い国だった。

レティシアは夜会で攫われたため竜神様がドレスを綺麗にしてはくれたけど、場違いなドレスそれに暑い!! 旅には向かない。

「ねえ、シエル……そう言えば私誘拐されてそのまま旅に出てしまったので、その…持ち合わせがないの。」

「ご安心ください。必要なものは何でもご用意出来ます。」

「……言いにくいのだけれど、この格好では目立つわ。この国にあった旅の格好と装備が欲しいわ。」

「なるほど、少しお待ちください。」

そう言うと目を閉じてしまった。


えーーー!! えっと、えっと私はどうしていたらいいのよ? せめてもう少し何か話してよー。えっとここで休憩タイム?


「お待たせ致しました。こちらでの平均的な旅人の服装を確認いたしました。

パチン! こちらでよろしいでしょうか?」

「うわっ! あ? あー、有難うございますぅぅ。はい、だいぶ楽になりました。

シエルはそのままでいいのですか?」

「私ですか? では パチン! コレでよろしいですか?」

「うん、いいと思います! 凄く素敵です! 機能的で動きやすそうでそれでいて暑さも適度に逃してくれそうで……うん、いい感じです! ぐっ!」

片目を閉じてウィンクした。

「・・・。 有難うございます。」


レティシアは前世を思い出し 森の中から国を転移してまた森の中 生きる事に必死で貴族のお嬢様の被り物をする余裕がなかった、今のレティシアは令嬢感がかなり薄れていた。

そんな様子にシエルは少々面食らっていたがすぐに リカバリー。出来る男は違うのであった。



「ねえ シエル、ソトマウラ国は暖かい気候だからか店に並んでいる物も随分違うのね。

教科書ではたくさん勉強したけど実際に見たのは初めてよ。

暑い国で雨もよく降るようなので、わりと食物がよく育つって教わったわ。

あっ、見て! 凄いカラフルな魚! あの果物?凄い毒々しい色をしているわね。」

「ええ、そうですね。」


びくっ!

「シエル! あ、あれ!」

「あれが何ですか?」

「さ、魚に羽が生えているわ!!」

「…ぷふっ、そうですね くっくっく。」

「どうして笑うの?」

「すみません、何だか本当の旅行みたいに楽しんでらっしゃるので、お可愛らしくて。」

「も、もう、揶揄わないでよ。」


「ねえ、シエル。」

袖をツンツン突く。

「どうしました?」

「あのね、あれ あれが食べてみたいの。」

「ああ……、すみません。昨日から何も食べていませんでしたね。しかも夜会の前から殆ど召し上がっていませんよね。気が利かず申し訳ありません。

レティシア様・・・ すみません名前でお呼びするのは危険です…何とお呼びすればよろしいでしょうか?」

「えっ? そうね…えーっと、ティアでお願い。」

「はい、ではティア様 お一人にするわけにはいかないので一緒に参りましょう。それで食べたいものを仰ってください。それを買いますから。」

「有難う。お金は大丈夫?」

「ええ、大丈夫です。ティア様に苦労はさせませんので遠慮は入りません。」


魚の唐揚げとマッシュポテト それにトロピカルドリンク。

魚の唐揚げは王都では見たことがないものだった。日本人のレティシアにとっては魚は馴染みのある食材だが、ヴァルモア王国の王都にはあまり馴染みがなかった。

だから試してみたくなった。


シエルと買ったものを見晴らしのいい階段に座って2人で食べた。

暑い国ならではの甘ジョッパイ味付けであまり味のないマッシュポテトと一緒に食べるととてもおいしかった。


トロピカルドリンクも自国では飲んだことのない味だった。


「シエル…美味しい?」

「ええ、美味しいですよ。貴女は如何ですか?」

「すっごく美味しい! 行きたいところに行って食べたいものを自分の足で歩いて選んで食べるって幸せ! 

第3の人生は楽しくおばあちゃんになるまで生きたいの!」

「左様でございますか、私も出来る限りお供します。」

「ふふ うん! お願い!!」


それからもちょこちょこ買っては2人でシェアして食べ歩きをした。


レティシアの目的はハネチャナ。

ハネチャナは海の生物で、この時期になると夕日が沈む頃に水面からジャンプした姿がキラキラ輝いてとても綺麗だと言う。ハネチャナが見られる海岸は このパラポラという街をもっと西へ8kmほど行った ヤーカンと言う街まで行かなければならなかった。

そこで馬を1頭買って2人乗りして行く事にした。


8kmくらいなら歩いてもいいかな?って思ったけど、この国の公爵令嬢は8kmも歩いたりしない。私もうっかり前世の記憶でいけるだろう!と思っていたが生まれてこのかた勉強以外あまりしてこなかったので体力は自分で思っているよりなかった。

ダンスは習っていたけど18歳にしてポンコツ体力だった。


シエルが気を遣ってくれなければ今頃筋肉痛で悶え死んでいたかも!!

馬の上に乗っているだけでもお尻が痛くて分厚いクッションを引きたかった。しかも馬を跨げず横座りをしている訳で・・・首も腰も痛い。初めて馬から降りた時は地面が揺れてまともに歩けずシエルにお姫様抱っこしてもらった。くぅぅぅ不覚!


脳内イメージトレーニングではカバー出来ないことが多かった。

この乙女ゲームってサバイバル要素あったかな〜?

そう言えばスタンビーノ王子とテレーズってくっついたのかな〜?


はぁー、最近は恋愛ラブラブとはいかなかったけど、同志・親友くらいはなってると思ってたんだけどなぁ〜? 勘違いだったのかなー。スタンは今何やってるかな……? 

ねえ、スタン 今回の事ってスタンの意思じゃないよね? ねえ私が連れ去られたの気づいてくれた? 少しは心配してくれた?

それはスタンにとって悲しいことだった? それとも嬉しいことだった?

今も探してくれてる? もし悲しませていたらごめんね……でも、でもね、もしスタンがテレーズと幸せになっていたら見るのは辛いんだ。すぐに帰らなくてごめんね。


そんな事を考えながら体をシエルに預け馬に乗っていた。

ヤーカンに着いたのは夜になってしまっていた。今夜は宿に泊まって明日の夕方見に行く事にした。


どこか泊まれるところを探す……観光地の割にあまり宿がなくて驚いた。

習った時はこのシーズンは各国からハネチャナを見に来る観光客で賑わっていると聞いたのだけれど……? 


「すみません 少しお尋ねします。この街の宿はどこにありますか?」

「ああ、もしかしてハネチャナを見にきたのかい?」

「はい。」

「そうだねー、この街にある宿屋は3軒だ。ランクはA〜CってところでAは貴族向けにできている、Cは平民とか旅人ようだね。間をとってBに泊まる奴が多いが、そこは窃盗事件が多いって話だ。見たところ貴族って訳じゃないならCを勧めるよ。」


「おばさん有難う! おばさんに聞いてよかった! じゃあお礼にこのマンゴスチン頂戴。」

「ふふん、あんた若いのによく分かってるね、あいよ まいど!」


「ティア様は 人心をよくご存知ですね。」

「そんな事もないわ。ずっと勉強しかしてこなかったからあまりコミュニケーションは得意ではないの もっと上手に出来ていれば……こうして国に戻る事もできない状況なんて招かないわ……、駄目ね 考えないようにしてるのに。」

「いえ、よく頑張ってらっしゃいますよ。それお持ちします。」

「ん、有難う。ふふ さあ! おばさんおすすめの宿に行きましょうか!」

「ですが、ティア様には不快かもしれませんよ?」

「野宿を考えれば きっと何とかなるわ。」


とは言ってみたものの参った。

4畳半くらいのスペースにベッドが1つあるだけ・・・。

ここに2人〜!?

きっと寝るだけなら確かに安くて雨風凌げるし問題ないけど…そっか恋人同士に見えたのかもね、はぁ〜。

お風呂などは共同である。食事は近くに食べに行くか、宿屋に別料金を払って弁当のようなものを用意して貰うか。まあ今回はさっきまで食べ歩きしてお腹いっぱいだし、レティシアは食べた事ない地元の食べ物などを食べたかったから食事は頼まず素泊まりだ。


でも何故2人一緒の部屋かと言えば、部屋が分かれると敵の侵入に気付くのが遅れるかもしれないから。割となんでもレティシアの意見を取り入れてくれるシエルだがこれだけは譲らなかった。でも……でもね、この狭さに2人ってどうやって寝ろって言うのよ!


「ティア様はベッドをお使いください、私は床で座って寝ますから。」

「だ、駄目だよ……シエルだって疲れてるんだから………。」


そうは言ってもこれが現実……、よし!

「シエル 一緒に寝よう!」

「はっ!? 良家のご令嬢の言葉とは思えませんよ。」

「だって、どう考えても自分だけベッドでだなんて…気になって眠れないもの。きっと気になって何度も確認してしまうわ。それならいっそシェアすれば気持ちが軽くなるもの。」

「はぁー、普通の令嬢は従者に気を使いません。人間扱いしないものですよ?」


「そうね、それが正解だと知っているわ、でも私にはシエルをモノとして扱えないもの。

んー、私にとっては兄みたいな友達のような存在よ? 頼りになるから依存もしているけど絶対に裏切らない信用できる存在。だから…やっぱり貴方だけ床でなんて眠らせられないわ。」


「はぁ〜、困った人だ。私も男だと分かっていますか?」

キョトン

「やだ、勿論知っているわよ! そんな大きな女性はいないしガッチリしていて凄く俊敏で凄く有能! 何でもできてイケメンでパーフェクトな人よね、スタイルもいいし一緒に歩くと女性の視線を独り占め。それに魔法も万能に使えて頭もいい それにぃ……。」

「ティア様、…もう結構です。信頼が厚いことはよく分かりました。それから案外 疎いと言う事も……。承知致しました。旅は始まったばかりですからもう休みましょう。」


パチン


そう言うとシエルは体を清浄魔法をかけて 服も簡易ドレスにしてくれた。

ちょっと狭いけど安心感もあってレティシアは今世での初めての旅に疲れていたのであっという間に深い眠りについた。


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