60、真相−2
「お前の母親? 知らないな。」
「嘘よ! あの地下都市から出てきたもの! ずっとずっと探していたのに! 私の事も分からなくなっていたわ、あんなのおかしいわよ 母さんが私を分からないなんて!! 何したのよ 私の母さんに何したのよ!!」
「私は知らん、ゲーリックは知っているか?」
「ああ、地下都市から出る時にいた奴か……、借金のかたに入ってきた女で顔が良かったので子供生産ラインにいましたが、以前脱走したので 現在は夢花製造ラインに入っていました。」
「あ…あ…あ…酷い! 母さんに母さんに何したのよ! ジョアンもグルなの!?」
「………。」
「ジョアンが知らねー訳ねーだろ! あの女の顔がいいから普通の仕事じゃなくて闇落ちさせたのジョアンだからな、はっ。 大体お前が配ってたクッキーと同じだよ! 他人は平気で落としていたクセに甘い事言ってんじゃねー!!」
「酷い! 酷い! 酷い!!」
「知るか! 借金作って返せなくなった奴が悪いんだろう? お前だって別に特別じゃない、利用できそうだから優しくしてやったんだ、用済みになればお前だって同じ末路だった。面倒な事言うのやめろ、 『聖女リリー』なんて言われて調子に乗っているのか!? お前なんて何も特別じゃない、夢花で馬鹿が懐いていたに過ぎない 勘違いしてんじゃねーぞ。」
ジョアンは紳士的な優しい青年だったのに、本性を露わにした彼はクズだった。
あまりの衝撃に言葉が出ない。
「ホリイク・タキトー、ジョアン・タキトー、モーラン・タキトー、ゲーリック、司祭ポートス、ケイトラン・オルデバ 及びホリイク・タキトーの部下 更に重度の中毒で回復が見込めない者を処刑とする。
イーザック・オルデバ… 本来であればそなたも父パードックも処分を受けるところだが、事前に報告をし王家の管理下に入っていたため罪は不問とする。そこでだ、そなたはオルデバとハッシュどちらを名乗るか?」
「………数時間前まではオルデバを呪いのように思い潰すことだけを考えて来ました。ですが……、知らなかった事実を知り揺れております。まさか、母が原因だったと思いも寄らず 混乱しております。
ですが、オルデバについてはガーランド国の事もございますので、陛下と協議させて頂きご意向に従いたく存じます。」
「そうか。ではそのように。」
「さて、テレーズ・ダンビルは偽名を使って王宮に侵入し夢花入りの菓子をばら撒き、多くの人間に危害を加えた罪で即刻処刑とする。」
「ちょっと待ってよ! 何で私まで処刑なのよ! 元はと言えばあんた達が間違って私を平民にしたからこうやって生きるしかなかったんじゃない! その責任とってよ!
正しいルートから外れて物語りが捩れて進行しちゃってるからここで軌道修正が必要だと思うの、だからレティシアと離婚してスタンビーノ君と私を結婚させて!
そうすれば ぜーーーんぶ元通りになって上手く行くと思うの、ラブラブな私たちは国民の羨望の的で〜、書籍が発売されて〜、これでやっと第2作に移っていくのよ! ね! 私たちは結ばれる運命なんだから、きっと上手くいくわ!!
はぁ〜、これで貧乏生活ともやっとお別れできる! そう言えば、母さんおかしくなったのって王家の力でなんとかなる? 母さんも王宮に住めるよね? 多分住むところないと思うんだ〜、母さんもこれで幸せになれるよね!
オッケー これで解決―! 私って頭いい〜!!」
シーーーーーーーン
呆気に取られた後 物凄い殺気が会場に充満した。
「殿下、今すぐ抜刀しテレーズ・ダンビルを処刑する事をお許しください。」
「はぁー!? 何言ってんの! ふざけないでよ!! ムカつくんですけど!!」
カチャリ
扉からレティシアが入ってきた。
この殺伐とした雰囲気にそぐわない人物だ。まさに掃き溜めに鶴。
無表情な精巧なビスクドールのよう…人形の腹が大きいことに違和感を抱くほど、同じ人間には見えない。だがこの中の幾人かはレティシアの感情豊かな表情を知っている。そしてそのレティシアの背後にはこれまた中性的でな美しい男が控えている。そしてもう1人中性的で美しい水色の髪の女性?も控えている。静かに入室したが全員の視線がレティシアに集中しているためかなり目立っている。
レティシアはスタンビーノを見つけるとそちらに歩を進める。スタンビーノもレティシアが近寄ってくるのでそれを待つ。側まで来てエヴァン隊長を見る、するとレティシアの椅子をスタンビーノの横につけてくれる。目で礼を言い、その椅子に座りスタンビーノに耳打ちをする いつの間にか2人の手は握られている。そしてスタンビーノの顔を覗き込み微笑む。それにスタンビーノも甘やかな笑みで応える。ここがどこか忘れてしまいそうだ…2人の仲睦まじい様子はこの断罪場にはひどく不似合いだった。
テレーズの非常識な発言でうっかり忘れていたが、罪人たちを放置していた。
「改めて罪人を連れて行け!」
「「「はっ!」」」
「待ちなさいよ! スタンビーノ君は私と結婚するんだから離れなさいよ! あんたは悪役令嬢でしょう!? なに結婚して妊娠までしてんのよ! あんたはヒロインじゃないんだからサッサと離婚しなさいよ!! お腹の子は邪魔になるから一緒に消えてくれる?」
ポロポロポロポロ
レティシアの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
「あ、あの方どなた? スタン…うぅぅぅ。 スタンの恋人なの?」
「レティ! 泣かないで! 私の妃はレティただ1人だ。 アレは恋人なんかじゃない!勘違いしないで …テレーズ・ダンビルだよ、覚えてる?」
レティシアの頬に手をやり大粒の涙を指で拭う。
「テレーズ? 私を殺そうとした方? あの3人を操ってた方でしょう? 何故そんな方がスタンと結婚するの?」
「しないよ! する訳ないでしょ! 頭がおかしいんだ、例の聖女リリーも夢花を王宮にばら撒いたのも全部あの女の仕業だ、これから処刑するところだったんだ。」
「そうなのね。 ねえシエルは知ってたの?」
「はい、皇太子殿下が言った通り罪人が罪を重ねた上、処刑を免れるために妄言を吐いているに過ぎません。お気になさるとお腹の子に触ります、覚えておく必要のないものです どうぞお忘れください。」
「分かったわ。殿下 終わられたなら一緒に戻りましょう?」
「そうだね、先ほどのことも詳しく聞きたいし、後はドルスト卿に任せて退出しよう。
エドワードは後で報告をしてくれ。 ギルバートは一緒に来い。」
「「承知致しました。」」
「では 行こうか。」
部屋から退出しようとすると、唸り声を上げたのはテレーズだった。
「まーちーなーさーいーよー! やっぱりレティシアお前が邪魔なのよ! 死んでよ!
さぁ! レティシア皇太子妃を殺して! 邪魔する者も殺して! 」
「「「ぐあぁぁ! うぅぅ あ゛あ゛ぁぁぁぁ!!」」」
会場内に夢花の影響を受けた者がかなりの数いた。
急に自分の意思を無くし、テレーズの声だけが響き支配される。心ではその声に拒絶するのに自分の意思ではどうにもならず、一斉にレティシアに襲いかかろうと迫ってきた。
シエルとアクアがいるのでレティシアに手が届くことはなかったが、次から次へと襲い掛かる。最初は皆レティシアに向かって襲い掛かったが、その内混乱し始めレティシア以外も襲い始めた。命令が曖昧だったからだ『邪魔する者も殺せ』 誰が何を邪魔しているか 混乱の中分からなくなり始めた。攻撃的な言葉を発する者は皆邪魔する者と判断された。
「やめろー! あっちへ行けー!」
「お前、この縄を切れ!」
「やれー! 殺せー! 皆殺しだー!!」
「おわっ! 何してんだよ! こっちじゃねー! あそこにいる奴らだろーが!」
「間抜けー! サッサと殺せー!!」
アクアが体内の毒を水で包んで体外に出す、その作業をしている。
徐々に正気に戻る者が増えてきた。正気に戻ればその者も戦力となる…形勢は逆転? 元に戻りつつあった、その混乱の中動きがあった。
「お前のせいだ! 役立たず! 何の為にお前を産んだと思ってる!? イーザック お前はこの国を変える駒になる筈だったのだ! 我々はどんなに願ってもその任に就くことが出来ない、だがお前が男と生まれやっと悲願が叶えられるというところまで来たのに!! お母様が影で邪魔をするからこんな軟弱人間に育ってしまったのだ、こんな失敗作 責任をとって私の手であの世へ送ってやる!!」
ケイトランが落ちていた剣を拾ってイーザックへと剣を突き立てようとした。イーザックは母親の狂気に過去のトラウマが重なって小さな子供のように震えて動けなくなってしまった。
「ごめんなさい お母様 ごめんなさい お祖母様 ごめんなさい イザベラ殿下。」
カタカタ震えて膝をつき頭を抱える。振りかぶりケイトランが剣を振った…そこへ手を縛られたホリイクが走ってきてケイトランに体当たりをした。
「ぎゃー! 何するのだこの下臈が!!」
「あっあっあっ。ホリイク?」
「本当の下臈はお前だ! イザベラ殿下と一緒になってラビエラ様を苦しめて!!
お前さえいなければとっくにラビエラ様はあの家を出ていた!
ずっと孤独を抱え それでも俺たちみたいな使用人を大事にしてくださり……家族のように大切にして下さった。あの方はずっと仲の良い家族に憧れ 夢見てらした!
叶わないとご存知でありながらずっと!! だからあの方は気高き滅びを望んでいらした! それをイザベラ殿下とお前が壊したんだ! 何度お前を殺そうと思ったか分からない、何故お前なんかがあの方の娘なんだ!!」
「煩い煩い煩い!! そこを退け、退かなければお前も一緒に道連れだ。
ラビエラ様、ラビエラ様って煩いんだよ!!
お前だって分かっている筈だ、あの家ではイザベラ中心に回っていた。逆らえばどんな目に遭わされるか!! お母様は馬鹿正直に抵抗していたけど、イザベラに恭順の意を示した方が生きやすいって気づいたから そうしたの! あんな家で狂わないでいられるわけないじゃない! 私を思うならサッサとイザベラを殺せば良かったのよ!!」
グサっ! ズズ…ズズズズズ
「あっ!」
「ほら、こんなに簡単なことなのに、サッサとやってくれないから 手遅れになったの。」
「ホリイク! ホリイク!!」
「こちらへ来てはいけません!」
「あっ、何で俺なんかのために…。」
「イーザック様はラビエラ様が大切にされていた方なのです、これで良かったのです。
お守りすると あの方に誓ったのです。」
「へぇー、じゃあその誓い破らせてあげなくちゃ。」
ホリイクに突き刺さっている剣を抜き、今度こそイーザックに剣を振り下ろす。
ブスっ!
やはり今度もホリイクへと剣は埋められていく。
「ぐはっ!」
ボタボタと血が口から流れていく。
「お、お逃げください…。」
「ホリイク! あ゛あ゛ぁぁぁ 私が愚鈍なせいで! 貴方は私の母ではない! 怪物だ! あんたをこの手で殺してこの妄執を終わらせてやる!!」
落ちていた剣を拾いケイトランへと向かう、ケイトランの剣を弾き飛ばし思いっきり剣を振り下ろした。
バシュっ!!
「うぐっ!」
だが、イーザックが斬ったのは母ケイトランではなくホリイクだった。
「なりません。」
「あ゛あ゛何故… 何でだ!! ホリイク、ホリイク!!」
「お、お母上をイーザック様の手で…ゴフォ な…りま…せん。必要…なら 私が…致し…ますから。お母上を…その手で…殺せ…ば、心に傷…が残ってしまいま…す。
です……から…堪え」
「分かった、分かったから もういい話さなくていい。ああ、ホリイク、ホリイク!!」
「では遠慮なく殺してあげるわ!」
ズシャッ!!
頭が吹っ飛び床に転がった。
転がったのはケイトランの頭だった。そして剣を振るったのは父パードック。
夢花の初期の薬で狂ってしまっていたパードックだったが、この場でレティシアに治療をされていた。そして現実に戻ってきて見た光景は 妻が息子に剣を振り下ろすものだった。
まだハッキリしない頭で息子を守るために駆けた、そして迷わず妻の首を刎ねた。
「イーザック! イーザック! 無事か!?」
「ああぁぁぁぁ、父上? 父上 私が分かるのですか? 父上ぇぇぇぇぇ。」
「すまない、すまないイーザック 大丈夫、大丈夫だ 私がお前を守る もう大丈夫だ。」
「ああ、父上! 良かった、よかっだぁぁぁぁ 父うえぇぇ!!
あっ、ホリイク! ホリイク? は、早く治療を 早く!」
「……。」
首を静かに振った。
「どうせ…しょ…けい…される ハーハー あの方の…の分も…幸せ…って」
パタリ
強張っていた体の力が抜けていった。
「ホリイク! ホリイク!! ホリイクー!!」
混乱が収まり罪人の殆どが処刑場へと運び込まれ、怪我人は治療を施していく。
目の前のテレーズは猿轡を噛ませ後ろ手に縛られている。
可愛らしい顔は醜悪に歪みこちらを睨んでいる。
拘束から逃れようと暴れて縛られた手首は血が滲んでいる。
「ふがっ ふごっ んがぁー!!」
スタンビーノの頭に声が響く。
それに従い、ここには最低限の人間しか居なくなっていた。
まだ血の跡や乱闘の痕跡の残るこの場には テレーズとスタンビーノとレティシアの護衛を含む人間しかいない。
ブーーーーン
結界が張られた。
姿を消していたが、そこに光り輝く3人の人物が現れた。
レクトル様とフェルティア様とオルシィミ様だ。
レクトル様は夢の中の姿をしていた。
スタンビーノとレティシア以外は 目の前の人物が誰か知らない。
スタンビーノとレティシアは膝をつき礼をとる。その行動に周りの人物たちは察し、同じように膝をつき首を垂れて敬意を払う。
「テレーズと言ったか、牢の外の世界はどうであったか?」
『はっ?』
何言ってんの? 誰よ、このオッサン!
パチン
猿轡が外され話せるようになった。
「どう言う意味?」
「頭も察しも悪い娘だ。 お前が牢屋に入った時『外に出たいか』そう聞いたであろう?」
「えっ? ああ あったかも。何、今度も逃してくれるの?」
「スタンビーノ、レティシア すまなかった、私の読みが甘かった、牢の中より辛い罰を、と思ったが 想像以上に頭が悪くこんな事態になってしまった。」
「はぁ!? 頭が悪いって何よ! 私はねこの世界のヒロインなの! あんたがこの世界を歪めた本人ってこと!? 本当マジムカつく!! 私はスタンビーノと結婚して皇太子妃になる運命だったの! それを邪魔して許さないんだから!!」
ズドーーーーン
けたたましい音と共に現れたのは巨大な鏡だった。




