59、真相−1
ホリイクの裁判が行われる。
見渡せばよくもこれだけホリイクの関係者を集められたものだ、と感心する。
読み上げられる罪状に妻と息子は顔色を悪くする。
妻モーランは夫の外面しか知らなかった。いや多少あくどい事もしていなければあそこまで店を大きくする事は出来なかったと理解している。だが、殺人罪なんて大した事がないと思うほど罪が明らかにされていく。
息子のジョアンは母モーランの知らないところで父ホリイクの裏家業のお手伝いをしていた。主にジョアンの仕事は奴隷生産・確保だ。薬物製造に関しては関与していないが当然従順な奴隷を作るために怪しい薬を飲ませている事は承知していた。地下都市での奴隷生産はゲーリックが管理していたが、国内の誘拐・聖女による物色などはジョアンが管理していた。
その事が告げられると母モーランは泣き叫んで夫ホリイクを罵った。
「私たちの愛する可愛い息子に何をさせるの!?」
妻は知らないがジョアンは聖人君子などではない。寧ろ笑顔で人が殺せるこちら側の人間だ。本人は楽しんで仕事をしていた、国を欺き兵を嘲笑い、 自分を善人だと思っている人間たちを馬鹿ばかり…そう心では思い周りの人間を自分の思い通りに動かす怪物。その本質に気付いたのでホリイクは手伝わせていたのだ。
ホリイクは妻モーランを愛していたから結婚したのではない。
善人ホリイクを演じアスカ商会が大きくになるにつれ 自身の存在が目立ち始めてしまった。言い寄ってくる女も独り身でいるホリイクに女を紹介したり 陥れる為に噂を流す者も…そこで選んだのがモーランだった、何の薬にも毒にもならない人間、ホリイクの真の目的に気付かず隠れ蓑になる存在。だからラビエラに結婚を伝える事はしなかった。きっと言えば祝ってくれる(正気であれば)、そして愛のない結婚だと知れば悲しんでくれる…だから言わなかった。
ああ、やっと夢花の正しい使い方がわかってこの国を根底から壊す事が出来るところまで来たのに……どこで失敗したのか。
あの地下都市は我が人生最高傑作だったというのに…決してバレずにことを成し得られると昨日までは信じていたのに!!
ホリイクは淡々と己の罪状を聞いていた。
「次に『聖女リリー』についてだ。」
シスターとして各地に奉仕活動をする際に幼気な子供を誘拐し奴隷するなどの罪状が読み上げられる。これに関してはジョアンが主犯だ。
「さて、聖女リリーをスタンビーノ皇太子殿下の側室にと望んだのは誰かな?」
ザワザワと波紋が広がる。
ここにいるバース男爵、チャールストン伯爵、ブルックス侯爵も顔色が悪い。
これでは聖女を使って王家に叛意を示したも同然だった。
「お、お待ちください! 私は聖女と呼び声高いこの者であれば皇太子殿下のお子を身籠るのに適していると判断したに過ぎません!」
「そうです、も もし 叛意があるならば表立って聖女を近づけたりしません! ぜ、善意です! この国を導く皇太子殿下をお支えできる存在と…あぅ。」
「そうです、病弱で誘拐など曰く付きの娘ではなく…ゴホン 純粋に聖女のような健康な娘そして健やかなお子を待ち望んだに過ぎません!!」
殺気があちこちで飛んでいる。
「聖女リリー……か、知っているか? 今この国を根幹から滅ぼそうとしているホリイクの手先となり 多くの無辜の民に夢花によって自由意志を奪い、王宮でも菓子に仕込んだ夢花によって暗殺者となり 今も王家に牙を剥こうとしていること。
王宮内に夢花入りの菓子をばら撒いていたのが ここにいる聖女リリーだ。とんだ聖女だな。そんな者を次期王位に継ぐべき子を産ませると言うのか? 恐ろしいことだ。」
「ああぁぁ、そんな存じませんでした! 本当です! 知りませんでした!!」
「知らない…そうだろうな。 やれ。」
そう言うとリリーは兵に取り押さえられ侍女がリリーの顔の化粧を落とし始めた。
「や、やめてよ!! ウプ いや! ちょっと何すんのよ!! ぎゃー! ふざけんな!」
化粧が落とされた顔に大半の者は見覚えがない。
ただ、リリーと認識していた顔とは違う顔になったとしか思わなかった…だが、一部の者にとっては信じられない顔が出てきた。
「お、お前! お前はテレーズ・ダンビルじゃないか!!」
誰だ? テレーズ・ダンビル? いや、知らないな 誰だ?
「この女! レティシア皇太子妃殿下を貶め殺害未遂で平民に落とされた罪人です!」
ザワザワと一気に騒然とした。
「はぁ!? レティシアは死んでなかったんだからもういいでしょ! そうよ、あの時は殺人罪で平民に落とされたんだから生きていたんだから取り消してよ! それで謝って! この腕に刻まれた罪名も消して! それから今まで苦労させたお詫びにスタンビーノと結婚させて!!」
殺気で殺せるならテレーズはこの場で死んでいただろう。
「黙れ! 黙らねばこの場で首を落とすぞ!」
「聖女の正体は『竜妃』殺人未遂の罪人、そして多くの者を夢花で薬物中毒に陥れた罪人だ。」
「次だ、オルデバ公爵家についてだ。関係者を前へ。」
現在のオルデバ公爵はケイトランの夫 パードック、その場にいたのは
パードック・オルデバ ケイトランの夫
ケイトラン・オルデバ
トゥーリッヒ・オルデバ ラビエラの夫
イーザック・オルデバ ケイトランの息子
「オルデバ公爵家はラビエラ・オルデバを中心とし王家に叛意を抱き夢花の開発により大勢の者を操り王家に仇をなそうと目論み、そこなるホリイク・タキトーを使い夢花による支配を行い国家に危機を齎しました。元凶ラビエラ・オルデバは既に亡くなっておりますが、かの者の罪は明らか、ここは関係者全員処刑の上、お取り潰しが妥当と考えます。」
「違う! 違う! 違う! 違う! 違う! お前らは何も分かっていない!! 元凶!? ラビエラ様が元凶の訳がないだろう! この馬鹿どもが!!」
今まで何に対しても反応を示さなかったホリイクがラビエラを元凶と言った途端にイキリ立った。
「何を言っている! 全てはあの女が原因じゃないか! オルデバ公爵家がこんな風になったのも、父上がこんなになったのも!! 全てはアイツのせいだ!!」
「お前…イーザックはあの方と違って阿呆なのだな。お前は何も分かっていない! 本当に分かっていない…ラビエラ様がお可哀想だ。
いいか! お前がハッシュ家で今日まで安穏な生活ができたのは全てラビエラ様のおかげだ!!」
「はっ、今更嘘をつくな! 父上に毒を盛ったくせに! 安穏? そうだ、公爵家を出て安穏な生活をしていたのにそれを壊したのがラビエラだろ!」
「ふざけるなー!!」
地を這うようなおどろおどろしい声でにらむ。
「ハッシュ家ではすぐに何の不自由もなく生活出来ただろう? それは何故か、全てラビエラ様が用意したものだ! 家具も使用人も全て 全てご用意したのはラビエラ様だ!!」
「そんな訳ない! あれは父上が…。」
隣に立っている祖父トゥーリッヒを見ると 悲しそうに頷く。
「な、何を言ってるんだよ! だってラビエラから逃げる為にあそこで隠れて住んでいたんだろう? 何言ってるんだよ……。」
「いいか、あの家はラビエラ様のお父上であるユリシーズ様のものだ、イザベラ殿下から隠れる為にご用意されたものだ! わざわざ別邸という隠れ蓑を用意してまでな、そこでユリシーズ様は奥様のバネッサ様とラビエラ様と家族だけで静かに過ごされる為にご用意されたのが始まりだ! だが、その前に別邸でユリシーズ様とバネッサ様はラビエラ様奪還のために潜伏中にイザベラ殿下にバネッサ様を奪われた。そしてバネッサ様はどこかへ隠されてしまった。
最初はバネッサ様を思い通りにする為にラビエラ様が人質となった。そしてラビエラ様はイザベラ殿下を止めるために婚姻も望んでいなかった、だが無理やり組まれた縁組。そこで、ラビエラ様はトゥーリッヒ様にお願いして子供を作らない意思を伝えた、そしてイザベラ様の野望に巻き込まないようになるべく公爵家に近寄らないように話した、外で愛人…好きな女性を作ってもいいとまで言ってらっしゃった。
だが、イザベラ殿下に気付かれお二人を監禁し媚薬で無理やり子供まで作らされた。
産んだ直後からご息女は取り上げられてラビエラ様はケイトラン様を抱く事も許されなかった。
ラビエラ様は両親と子供を人質に取られ 王家に叛意を持つ者と懇意になることを強要された、だがそれを断り続けると悪意を吹き込んだケイトラン様を利用し始めた。
そしてお母上のバネッサ様には食事を与えず、従者に強姦させ、まだ小さいケイトラン様に体を使って下級貴族たちと関係を持たせようとさせていた。それを必死に食い止めていたのに! …あの日事件が起きた。
お前の母親 ケイトラン様がラビエラ様のお父上のユリシーズ様を刺し殺したんだ。
ケイトラン様は役立たずだから殺したと言って笑ってた…その事でラビエラ様は壊れてしまわれた。正気を失われたのだ、イザベラ殿下とイザベラ殿下が呼び入れたガーランド国の者たちを全員抹殺した。
長年監禁されていたお母上も漸く救い出す事ができた、だがお体がだいぶ弱られていたバネッサ様は余命幾許もなかった、それでも必死に救おうとあらゆる薬を取り寄せ藁にもすがる気持ちで試されていた。ようやくバネッサ様をお救いできる薬が見つかったと思ったのに…バネッサ様のお体が耐えられず亡くなってしまった。その事がラビエラ様をこの世に繋ぎ止めていた心を壊してしまった。
やっとラビエラ様はイザベラ殿下から解放されたというのに…、ラビエラ様は罪悪感に耐えきれずイザベラ殿下として振る舞われる事が多くなってしまった。
だけど! だけどその時に私に言った『イザベラになった私がイーザックやパードックの安寧を奪いそうになったら止めて、ハッシュのお家には手を出さないようにして、お願い。ケイトランに気づかれても駄目、どうかあの子たちだけでも幸せに生きられるように、お願い! このお願いだけは守って、私からあの子たちを守って』そう仰られていた。
パードック様はオルデバ公爵家の事をご相談になっていただろう?
勿論ご存じだった、この怨嗟を断ち切れるなら御身がどうなっても構わないと考えてらっしゃった。だから黙認されていた。
お前の父親パードックに薬を盛ったのは母親のケイトランだ!ラビエラ様は関係ない!
信じられなければトゥーリッヒ様に聞けばいい、ラビエラ様はそんな方じゃない! ラビエラ様はあの屋敷の中でも狂いながらも使用人に手を出すこともない、俺みたいな孤児を拾って育て教育まで与えてくれた、優しい…聡明な方だったのだ。お前の母親がラビエラ様からささやかな幸せまで奪ったんだ!
元凶? 元凶と言うなら王家だろ! ジュードラス殿下にイザベラ殿下との婚姻を認めなければよかったんだ! イザベラの子供の伴侶に公爵位なんて与えないでサッサとガーランド国へ送り返せばよかったんだ! ラビエラ様がこんなにも人格を壊されるほどお苦しみにならずに済んだのに!! お前たちがイザベラにジュードラスの罪を知らしめないからずっと 生まれた瞬間から苦悩の中で生きるしかなかったのだ! うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
「まさか、あの人がそんな事…。 父上に毒を盛ったのが母上だって?」
信じられずにケイトランの方を見れば 悪びれるでもなく太々しい態度だった。
「ほ、本当なのか? 化け物は母上なのか!?」
「はぁ? 親に向かって化け物だなんてなってないわね。お母様は無駄な抵抗するから悪いのよ、私たちはこのヴァルモア王国とガーランド国の血をひく尊き血筋なのよ!! 王位を継いで何が悪いって言うの? 反逆者だなんだ堅苦しいこと言って本質を見誤るからこんな事になったのよ バッカみたい。
私たちは欲しいものを欲しいと言って許される特別な人間なの。お母様がガーランド人を皆殺しにしちゃったから兵隊がいなくなっちゃった、言う事を聞く便利な駒探ししなくちゃいけないじゃない? はぁ〜、お母様って面倒な人だったわ、狂いながらもお前に手出ししないように見張りをいっぱい置いちゃって、ウザイったらない。お前は父親と逃げ出すし軟弱な人間に育っちゃって失敗だわぁ〜。その点大お祖母様は見事なまでの我が儘な王女って感じで爽快だったわぁ〜!」
黙っていようと思っていたが王家の秘宝『お口すべ〜る』で何でも話してしまう。
イーザックは母親の醜悪さに吐き気をもよおした。
「ホリイク、お前の目的は何なのだ? ラビエラの本質が悪ではないなら何のためにこのような事を犯したのだ?」
「ラビエラ様を壊したこの国を潰すためですよ、ラビエラ様には救いがなかった。醜悪な祖母と娘、守るべき両親と娘の婿や孫 常に板挟みで苦しむばかりの人生。ラビエラ様を最後まで苦しめたこの国をいっそ壊して仕舞えばいい、そう思ったのです。」
「お前は夢花の解毒剤を作ったか?」
「…いいえ。偶然の産物でしたし、全てを壊すつもりでしたから。」
「わ、私たち親子の事は考えなかったの!? ジョアンについては?」
「考えなかった。」
「酷い…酷いわ!!ああぁぁぁぁ!」
イーザックは正直 父パードックが陛下に相談(当時は皇太子殿下)しているとは思ってもいなかった。だが狂い始めたあの時 15歳のイーザックには出来ることはほとんど無かった、その時自分の机の上に父パードックと陛下とのやりとりを記した手紙が置いてあった為、陛下に救いを求め保護されていたのだ。あの時あの手紙がなければ 今こうしていられなかっただろう。
「あの時 父上と陛下の手紙を机に置いてくれたのはホリイクなのか?」
「お前をお守りする事もあの方のご意思だったからな。」
「…有難う、お陰でここまで大きくなった、あの手紙がなかったらきっと私も狂い復讐に身を捧げていた。」
「あの方は…ラビエラ様は 本当にイザベラ殿下の妄執を断ち切りる事を望んでらっしゃったのだ。」
「ラビエラ…お祖母様は何故 私にイザベラ殿下みたいな事を言い聞かせていたの?」
「ケイトラン様にユリシーズ様を殺させた事に猛烈な怒りを覚えイザベラ殿下とガーランド国の人間を感情のままに皆殺ししてしまった…その行為が 自分の中にイザベラ殿下と同じものを感じた…、更にお母上を死なせてしまったことに罪悪感を覚え自分を嫌悪し 自身をイザベラ殿下と重ねられていた。が、深層心理ではあの家にはケイトラン様がいらっしゃるから あの家とケイトラン様からお前を切り離す為だろう。自分の意思で家を出る決意をしたらトゥーリッヒ様に手助けを頼むつもりだったと思う。」
「そんな…お祖母様。私は一体何を見て…。」
愕然とし膝をついて自分の母を見ていた。
その後は奴隷生産システムについて言及する。
「何故 無理やり子供を産ませたりしたのですか? それも非人道的な手段で奴隷を作り何をするつもりだったのですか?」
「最初の目的は…、 俺みたいな人間をラビエラ様は掬い上げてくれた、だから同じように孤児に俺がラビエラ様から頂いた選択の自由を与えたかった、そしてその自由の中から自らの選択でラビエラ様をお守りする道を選んだものだけをあの方のそばに置きたかった、私の代わりにお側でお仕えするものを育てるつもりだった。だが、イザベラ殿下がガーランド国から私兵を呼び寄せ あの方の御身が日毎に危険に晒されるようになり、護身術を学ばせあの方に何があっても背かない従順な兵、そしてラビエラ様の盾になる者を作る目的に変わっていきました。
偶然 夢花を手に入れ効能を確かめられたので 正に理想の奴隷が出来たって訳です。」
「ねぇ! 何で私の母さんがあの地下都市にいたのよ!」
1人の女性に目をやれば 聖女リリーことテレーズだった。




