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断罪後の公爵令嬢  作者: まるや
56/61

56、ラビエラ−2

ラビエラ様に出逢ったのは4歳の時 ラビエラ様は24歳だった。

3年経った今 俺は7歳、ラビエラ様はどこかに行く時俺を伴ってくださる。何をさせる訳でもなく、ただ俺に様々な世界を見せてくださる。


「あそこにいる者 ホリイクにはどう見える?」

「身なりは良いところの…そうですね伯爵家子息と言った感じですが、身に纏っているモノは時代遅れに思われます。あの石は…イミテーション、羽振りが良さそうに見えて内情は火の車といったところでしょうか。ああ、持っているステッキもかなりの傷 持ち手のところは最近まではついていた宝石を取り外し別のものを取り付けたあとが、それから」

「もういいわ。ホリイクの見立て通りでしょうね。ではあの男は今 何をしているのかしら?」

「そうですね、偶然を装って知り合いを見つけ何かをタカるつもりではないでしょうか?」

「ふふ あるいはね。 …きっとどこぞの令嬢をたらし込むつもりではないかしら。」

馬車の中から行う人間観察という名の暇つぶし。


「カルタス様、お待たせいたしました。」

「やあ、地上に降り立つ私の女神、貴女に逢えた事で私の心は満たされた、来てくださり有難う。ちゅう。」

恭しく手の甲にキスを贈る。


「ご慧眼感服いたしました。」

「ふふ 偶々よ、 ただ…あの後ろ手に持っている袋は最近王都で流行っている ラミューレと言う店のチョコレート菓子なの。ああ言ったモノは女性が好みそうでしょう? そして今のお金に困っていそうなあの男にはちょっと値のはる品なの…ねえ?」


こうしてラビエラ様は俺をそばに置いてくださる。

俺はラビエラ様を母にように姉のように師のように慕い、かけがえの無い存在になっていった。4歳でこの屋敷に来た時にラビエラ様には既に1歳のご息女がいらっしゃった。俺に教育を施すのはご息女ケイトラン様の侍従にするためだと誰しも思っていた。

ケイトラン様がお茶会などに参加される際はお供を申しつかることもあるのだが、専属の侍従にはならなかった。当然と言えば当然だが 身元もハッキリした優秀なスレイ様がお付きになった。可愛がられているという自覚があっただけに正直ショックでもあった。

ケイトラン様のお為でないなら 何故俺を? 悶々としたものを抱えていたが、成長するればするほど 勉強時間以外ではラビエラ様のお傍にいる時間が増えていった。


「ホリイク、昨日学んだ事はなに?」

「ホリイク、剣術を見せてごらんなさい。」

「ホリイク、今日は美術館に行きます。後で感想を聞きます、いいですね?」

「ホリイク、今日は舞踏会に同行なさい。」

ホリイク、ホリイク、ホリイク、ホリイク、ホリイク

私はラビエラ様のお好きなお茶を覚えた、お好みの淹れ方、お好みの菓子、お好みの本、お好みの観劇 徹底的に覚え学び研究し お側に仕えた。気付けば私はケイトラン様の侍従ではなくラビエラの側付きになっていた。お側において頂けることが何より嬉しかった。


ただ、私は気づかなかった…私は1日の殆どをラビエラ様の側で過ごし、自分の勉学の時間はラビエラ様の元を下がってから自己流で行っていたのだが、一体いつ ケイトラン様との時間があるのだろう?


いつもは側にいる事をお許し頂けるのに、偶にビスマル様にしか同行をお許しにならない時がある。それがどうしても気になった、私はまだそこまで信頼していただけていないのか、私に足りないモノは何なのか。ラビエラ様の秘密を暴きたい訳ではない! ただ私の何がいけないのか知りたかった、そしていつものようにお側にいさせて欲しかった。


私はバレないようにお二人の跡をこっそりつけた。


ラビエラ様は細い肩を震わせ時よりビスマル様にもたれかかりなかなか一歩が踏み出せないようだった。苦しそうに眉間に皺を寄せ目を閉じ何度も深く呼吸を繰り返している。ビスマル様は片手でラビエラ様の手を支え、もう一方の手を背中に回し何度もさすっている。

どうやらあの扉の向こうはあの凛としたラビエラ様をもってしても足が向かない場所らしい。俺は外の壁をつたい扉の向こうの部屋が見える場所に行った。


外から見ていると顔色の悪いラビエラ様とビスマル様が入室した。

その部屋にいたのは老女だった。

老女は恨みつらみを呪文のように繰り返しラビエラ様に投げかける。それを黙って聞いている…老女の言葉には魔法が乗っているのではないかと思うほど ラビエラ様の顔色はますます悪くなって行く。時々聞こえる言葉の端々、『お前が王子を籠絡できていれば!』だとか『役立たず』とか『お前のように役立たずにならないようにケイトランは私が育てる』だとか『バネッサが病気になったのも全てはお前のせいだ!』など立たされたまま6時間も続いた。ラビエラ様はフラフラと揺れ出してその場で気を失って崩れ落ちた。それをビスマル様が支えた。だがそんな状態になってもその老女は退出を許さなかった。そこから2時間も呪いを聴き続け、老女は汚いものを払うかのようにラビエラ様を部屋から追い払った。


怒りに任せてその老女を殺してしまいそうだったが、必死に自分を落ち着かせて元の場所に戻った。怒りでどうにかなりそうだったが、努めて冷静になり話を整理した。そして屋敷の人間にもそれとなく探りを入れた。あの屋敷の奥深く妖怪のように生きていた老女がエントランスに飾られた イザベラ・オルデバ 絶対君主 その人だと知った。



よく観察するとラビエラ様が熱を出し寝込まれるのは決まってイザベラ様とお会いした後だと分かった。何度かラビエラ様があの部屋に向かわれた時 窓の外から様子を覗くと毎回同じ話をされていた。何時間も続く拷問、毎回 毎回具合を悪くするほど辛いのに何故あの部屋に向かわれるのか! お可哀想で見ていられなかった。

そして理解した ラビエラ様には2人の人質がいたのだ…母親のバネッサ様と娘のケイトラン様 お2人がいらっしゃるので逃げ出すことができないのだ。もしかすると私を側に置かれるのはケイトラン様の代わりなのかもしれない、自分の娘にできない事を俺に……。


俺にできる事なら何でもするのに…、王家を滅ぼせって言うなら俺が代わりに殺してくる! 本気でそう思っていた。 

その前にいつもラビエラ様に言われているように今見えているものだけで早急な答えを出さずに、まずは情報収集 全てが出揃ってから吟味する。そう思ってお母上のバネッサ様とご息女ケイトラン様が現在どこでどのようにお過ごしになっているか 確認することにした。いざとなれば救い出すつもりで。


屋敷の部屋を一つ一つ当たって行く。

ケイトラン様はすぐに分かった。英才教育と王家に対する負の感情を植え付ける洗脳が行われていた。4歳のケイトラン様はそれを素直に受けていらっしゃった、すくすくと成長され王家に対する恨みを募らせていった。素直に受け入れているのであの鬼婆 イザベラ様の長々と呪いを聞かずに済んでいた。


バネッサ様を見つけるのにかなり時間がかかった。

広い屋敷の隅々まで探したが見つからず、地下も探した。この敷地以外であれば見つけ出すのは困難だった、だがラビエラ様のために少しでも手がかりになる様なものを探している時に質素な食事の様なものを持った侍女を見かけた。俺たち使用人にだってもっとまともな物を食わせてくれるのに 一体誰の分だ?と訝しんだ。その第六感に従いコッソリつけて行った。まさか離れの屋敷でこの家のイザベラ様のご息女が監禁されているとは思いもしなかった。

バネッサ様にはユリシーズ様と言う現在の公爵を継がれている旦那様がいる、だが王都にある別邸で愛人を囲っているらしく滅多にこのオルデバ公爵邸にはお戻りにはならない。

バネッサ様との間に子供が出来てから つまりラビエラ様がお生まれになってから徐々にこの公爵邸から足が遠のいたらしい。


だが、実際は…違った。旦那様はラビエラ様と密に連絡を取り合っている。それに一役買っているのはこの俺だ。旦那様は確かに王都の別邸でお過ごしになることが多い。それは勿論イザベラ様から離れる為だ。バネッサ様をこの公爵邸から切り離すために別邸を持ち、実際に連れ出した。それがバレてバネッサ様は監禁されたのだ。それからラビエラ様にも影響が出ると困ると、別邸がある事をいいことに必要以外の立ち入りを拒まれて関与できないようにされているのだ。


バネッサ様は連れ去られた後 行方不明だった…イザベラ様に聞いても知らないの一点張り、それがまさか同じ敷地内に監禁されているとは思いもよらなかった。


ラビエラ様の旦那様も見たことがない! どうなっているのだ!?


この家はおかしい!

どうして女神のように優しいラビエラ様がこのような地獄で生きなければならないのだ!! いっそあの鬼婆を殺してしまおうか……。



バネッサ様の監禁されている場所に忍び込んだ…書斎には 沢山の苦悩の跡があった。

日記のようなものが書き綴られていて隠されていた、それを俺は読みあさった。


バネッサ様は当然のように幼少期からイザベラ様からの呪いの言葉を聞いて育っていた。

だから王家とは忌まわしいものだとして育っていた。自分たちを騙し父の命を奪った忌むべき存在、それに何の疑問も持たず成長していった。そしてイザベラから引き継いだ 両国間ヴァルモア王国とガーランド国の誇りを胸に誰よりも高いプライドを持って他者を見下していた。

だが…バネッサは家に引きこもっている訳ではない、学園にも通うしお茶会や夜会など社交も年ごろになれば行うようになる。そこで自分はその尊き血筋ゆえに遠巻きにされていると思い込んでいたが 実際は『王家に叛意を持つ一族』として関わり合いにならないように避けられていると知るようになった。バネッサが成長する過程ではまだまだ事件は生々しく人々に焼き付いており風化していなかった、故に色濃く『反逆者』としての烙印を押され『反逆者がのうのうと生きて大きな顔をしている』そう囁かれている事に苦しさを覚えていった。


本当の事が知りたい……でも知りたくない。


そんな中 決まったユリシーズ・ボンド侯爵子息との縁談。

貴族の結婚なんて政略結婚が常だ、だけど目の前のユリシーズは悲壮感たっぷりで公爵家に嫁ぐ野心も野望もなく見えた。まるで魔窟に投げられた子ウサギのようにブルブルと震えていた。その頃には自分たちが世間からどう思われているか知っていたため、『ああ、逃げ遅れたのだな、ボンド侯爵家とはそこまで強い家ではないのだな まるで生贄だな』そう理解した。


母 イザベラの操り人形として生きてきた。その生き方に不満もなかった……何も知らなかったから。知れば知るほど息苦しさが増えて生きる事が苦しくなった。

『反逆者の娘』……それが重くのしかかった。


ユリシーズとは仮面夫婦を続けていた。

最低限度の夫婦生活を送っていた。ユリシーズも日々痩せてやつれていく、バネッサも同じだった。そして意を決してバネッサはユリシーズに知りたかった事を聞いたのだ。

バネッサもヴァルモア王国の人間だ、文字を覚えるのは竜神様の恩恵が描かれた絵本だ。

やはり父 ジュードラスはこのヴァルモア王国、王家に対し王位を簒奪するつもりがあったと判断できた。家族が処刑にならずに公爵位を頂けたのはひとえに母の身分のせいだった。表沙汰にすれば国際問題になるため秘密裏に処理されたと、今のバネッサには理解できた。母イザベラの全ては被害妄想だと分かった、分かってしまった。

分かったのに王家に復讐など考えられるはずもなかった。


そこでバネッサ様の苦悩に夫のユリシーズ様がイザベラ様と離れて暮らす事を提案したのだ。そこでユリシーズ様はバネッサ様と暮らすための別邸を用意した。


考えてみればイザベラ様はガーランド国から嫁がれた、このオルデバ公爵邸に移られた時には既にジュードラス様は病床についておられた。つまりこのオルデバ公爵邸で住めるように整えたのは王家だったのだ。それだけでも十分に恩恵を受けていると言えた。その事実にもオルデバ公爵邸で行われている事はきっと王家に筒抜けだと思うと、恐ろしさでバネッサは心が耐えられなくなってきていたからだ。


オルデバ公爵邸を出て生まれて初めてユリシーズと2人の生活に安らぎを感じた。

政略結婚であった2人だったが、共通の脅威 イザベラと言う存在が2人を血より強く結びつけた。少し経つとあのオルデバ公爵邸に置いてきてしまったラビエラの事が気になり始めた。


イザベラがいくら暴言を吐き王女と言う権力を使おうとも 実際はオルデバ公爵邸の中だけの事だった、正直に言えばユリシーズが働いて公爵家を維持しているのだ。屋敷の者たちも王家から派遣されユリシーズが雇用している、別邸にいる限り手が出せない。金が無くなれば譲歩も見られるだろうと思っていた。だから、ユリシーズが公爵家に寄った際に隙を見てラビエラを連れ出すつもりだった。だが想定外の事が起きた。

別邸に人が雪崩れ込みバネッサを連れ去ったのだ。そしてユリシーズはオルデバ公爵邸には立ち入りを拒まれるようになった。屋敷を守っていた者たちはいつの間にかガーランド国の人間に入れ替えられていた。

そしてイザベラの横には腹心のシュベルツが立ち采配を振るっていた。


イザベラを甘く見すぎていた。


このままでは本当に反逆行為を行いそうだ…! 胸に抱き家族をその妄執に巻き込むだけではなく 多くの人間を!人生を!奪ってしまうことに!!

だが、ユリシーズには何も出来なかった、バネッサとラビエラを人質に取られてしまった、ユリシーズにはイザベラの動向に注意し王家に情報提供というカタチで野望を実現しないための布石を打つことしか出来なかった。

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