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断罪後の公爵令嬢  作者: まるや
55/61

55、ラビエラ−1

アスカ商会のホリイク・タキトーは愕然としていた。


地下都市には滅多に行く事はない。地下都市だけではない、善人で通っているので違法に手を染めている商売関係は全て 手下のゲーリックを表に立たせていた。だからホリイクが直接足を運ぶ事はないのだが、そうも言っていられない事態が起きた。


「大変です! 地下都市で栽培している夢花の材料が全部枯れて腐ってます!!」

「はっ!? 何を言っている!! 試行錯誤した末 やっと栽培環境に適した場所を見つけてここまできたのに どう言う事だ!! 何か不手際があったのか? それとも奴隷たちが何かしでかしたのか?」

「いいえ 突然だそうです 見てる前で急に萎れ始め枯れて腐ったと、私も確認に行きましたが……地下都市の花は全滅です。収穫しておいた種があるだけです。」

「くそっ! 確認に行く!見にいくぞ!」


変装して周囲に警戒しながら地下に潜ると 愕然とする 何も変わっていなかったのだ。


「おい、ゲーリックどうなっておるのだ!? 何も変わっていないではないか!!」

「そんなはずありません!! 確かに一面枯れてしまっていたのです!!」

「お前夢でも見たのではないか!? いや、…まさか幻覚症状がでたのか…? 他にも症状が出ている者がいないか確認するのだ、まあここが無事で良かった。では私は戻る……!!」


ドカドカドカドカドカ ズチャ ズチャ カチャ

気付けば兵に取り囲まれていた。

「なっ!」

「ホリイク・タキトー 麻薬製造販売、奴隷製造及び所有及び販売、ヴァルモア国民に対し麻薬による洗脳支配、誘拐罪 まあ他にも余罪は沢山あるがそれらは詮議の場で明らかにするとして 先に申した容疑で逮捕する。」

「ま、待ってください!! 何かの間違いです!!」

「これだけの証拠を前によく言う、ふっ。 連れて行け!!」


な、何故バレた!?

どうしてこうなった!? 何が起きている? どうしてここが!?


突然の事で頭がついていかなかった。



雪崩れ込むように兵が押し寄せあっという間に制圧されてしまった。

ここにいる用心棒たちは夢花によって 身の危険よりここを守る事を第一に動く精鋭に育てた。夢花でリミッターがないここの人間はそこいらの兵士には負けないと自負していた。それがこうもあっさりと捕まるとは……。

今まで人生の全てを賭けて進めてきた計画が崩れ去っていった。

「ラビエラ様………。」



地下都市からはそこで働く人間や囚われていた人々も次々に連れ出される。

そこには子供から大人まで 中には生まれたばかりの赤ん坊も多数連れ出され多くの人間が出てきた。次から次へと明るみになる罪に取り締まりに関わった兵たちも驚愕していた。


地下都市には麻薬の原料である幻夢を栽培しているだけではなく、恐ろしい事が行われていた。借金を返す事ができない者たちはここで働かされていた。

若く見た目のいい男女は特に媚薬を使って強制的に子供を作らされていた。そしてできた子供も基本的には密偵や奴隷として売るために、高位貴族に潜り込ませるために 製造しているのだ。

他にも勿論誘拐して来た子供たちもいる、見た目が良く好まれる容姿のものは無理やり拐ってきて、他の子供たちと一緒に教育を始める。


文字を教え、教育を施し、剣術や体術を教える。使い物になりそうであれば更に密偵や侍従や侍女など様々な事を教え込んでいく。そして出荷するのだ。

当然 誘拐して来た者たちも借金でここに繋がれている者たちも逃走を図る、だがここは秘密の地下都市 まず脱走してもすぐに捕まってしまう。

ここにいる見張りたちは全員夢花でゲーリックの従順な下僕なのだ。金も誘惑も何も効かない。以前 第2段階まで逃げ出した者がいたが、結果見つかって連れ戻された。

その女は雌鶏と呼ばれ子供を出産させる役割に充てがわれていたが、脱走がバレて今では夢花によって従順な下僕となり夢花製造ラインに回された。


誘拐した子供もここで生まれた子供も 中にはいくら教えても身につかない者はいる、そう言った者たちは夢花製造ラインに回される。

夢花製造ラインは単純作業だ…だが 長く夢花に携わっていると自身が侵される。幻夢のエキスを乾燥させ粉末状にして小分けにしてクッキーなどに練り込んだり飴に練り込んだりしているが、粉末は室内に舞い散り純度の高い夢花を吸い込み1ヶ月もすると狂い始める。その際には全身が黒ずんで唇が緑色っぽくなる。だからその兆候が現れると、「少し休もう」と部屋から連れ出されて殺されて処分される。それも遺体が見つからないように捨てるのだ、見つかれば捜査が始まる、余計な詮索をされないためにそっと人知れず始末される。


子育てスペース、教育スペース、鍛錬スペース、出産スペース、セックススペース、夢花の保管スペース、幻夢の栽培スペース、さまざまな事がこの地下都市では行われている事が分かった。

あまりの広さに驚きを隠せない。これは3〜4年程度で出来るものではない、一体いつからここが作られていたのか…。


地元住人たちも アスカ商会は善良な会社、社長のホリイク・タキトーは善人だと思っていたのだで、地下から出てくるタキトーと子供たちや赤ん坊や虚な顔の人々に言葉もなかった。善人に見えていたホリイク・タキトーの顔は今は別人のように見えていた。


「母さん……? ねえ! 母さんよね!? 母さん! 母さん!! 離して! あそこに母さんがいるの! 母さん! 母さん!! ねえ! こっち見てよ! 母さん!!」

「………………。」

「あなたの娘さんですか? さっきから必死に呼んでいるようですが?」

「??」

「ねえ、私が分からないの? 母さんの娘! テレーズよ! 母さん!!」

「残念ですが、長く麻薬を使われていたようで自分が誰か分からないようです。」

「う、嘘でしょう? 母さん! 母さん!………テレーズだってば…母さん!!」

とうとう相手の女性はそれが娘だと気づく事はなかった。



ホリイク・タキトーは気づいた時には王宮の牢に入れられていた。

順調だったはずがどうしてこうなった!?

これからだったのだ! 本当にやっとラビエラ様望みを!やっと叶えて差し上げられるところまで来たと言うのに!! ラビエラ様! ラビエラ様!!


牢に入れられて翌日の朝から何故かすぐに裁判が始まった。

通常は入念な調査が行われるはずが 目の前には夥しい数の書類が積み上げられ 数々の犯罪の証拠と罪と罪状が読み上げられていく。一向に読み終わらない進行人に多少の同情を覚えた。

断罪場にはホリイクの妻も息子もホリイクの部下たちも皆揃っていた。

妻のモーランと息子のジョアンが仕切りに泣き叫んで文句を言っていたが、私の心はそれらには関心を示さなかった。私の心にあるのは ラビエラ・オルデバ様 ただお一人。

悲願があと少しで達成されると思った矢先に 野望が潰えたのだ。

ラビエラ様に優しくないこの世界を壊してしまう事、いっそ無くなって仕舞えばいいのに。

胸が抉られるほど苦しかった、約束を果たせなかった不甲斐なさで自分の胸を叩く。


会場内で男が私を殺す勢いで睨んでいた。

きっと私に恨みを持つ者だろう…心当たりが多過ぎて全く分からないな。いや知っている顔だ、アイツは何も分かっていない若造…青臭い生意気なガキ、あの方の守ろうとした者。

ああ、あと少しでご恩が返せるはずだったのに……。




私はその昔 名もなき孤児であった。

両親も知らない、毎日どうやって生きていたのかも思い出せない。ただ物欲しそうに周りを眺めていた。頼るべき大人がいない孤児は孤児で集まり盗みを働いて凌いでいるものだが

生憎私には頼れる大人も仲間もいなかった…だから4歳の私は観察し隙をついて食べ物を盗んだり、街ゆく人から金をスったりして生きていた。


その日も身なりの良さそうな女がいた。

貴族の女は大抵侍女を伴っている。そして金を払うのは侍女の方だ、だから令嬢の方を狙ったりしない…経験で学んだ。

あの女は1人だけどきっと侍女だな…お付きの女のものを買いに来たか、休みの日に買い物に来たか知らねーが 金は持っていそうだ。

俺はわざと他の女の足を引っ掛けてその侍女にぶつけて気を取られている隙に 侍女から財布を盗んだ。今日も楽勝だった…意気揚々と温かくなった懐に思いを馳せ 自分の頭脳プレイに酔いしれ本日の晩餐を考え口の中を湿らせていた。

次の瞬間 殴られ意識を失い落ちていった。俺は失敗したのだ。



何度も殴られ覚醒した俺の前にいたのは数人の男たちと見たこともない美しい女だった。

金髪にアッシュグリーンの色合いの入った髪色にピンクと薄紫が入った瞳の色に大きな眼は意思の強さを感じさせる、小さな蕾のような唇は朝露を纏った薔薇のよう、透けるように白い肌は正真正銘の深窓の令嬢といった感じだ、身なり仕草 どれをとっても今まで見てきた女の中で極上の部類だとわかった。


女は上から下まで俺を見ている。

「お前 先程私の侍女から財布を盗んだわね。」


ああ、くそっ! さっきの身なりのいい侍女はこの女の侍女だったのか、ついてねー。

この女の侍女ってんならまあ納得か。 死ぬほど殴られて終わるか、殺されるか…。俺の人生短かったな、まあこんなクソみたいな人生じゃいつ終わっても同じだな。

「何か言う事は?」

「別に、ついてねーってだけ。」

「泣きもしないのね。」

「泣いても状況は変わらねー。殴るなり殺すなり好きにすればいい。」

「そう、仲間もいないの?」

「………。」

「ふふ ほら行くわよ。」


ここで殺すんじゃねーのか…まあ死体が見つかれば面倒しな。目立たないところで始末すんのか? あっ。

「これ、あんたの侍女のなんだろ?」

財布を出すと、

「何故 私の侍女だと?」

「だって身なりも良いし、良いところの侍女って感じだったから。」

「ふーーん。」

そう言うと歩き出した。


連れて行かれたのは見たこともねーでけー屋敷だった。

「後は任せるわ。」

そう言うとスタスタ歩いていってしまった。

彼女の背中を見てると彼女が見えなくなったあとにエントランスにはこれまたすげー美女の肖像画があった。だけど見た瞬間に萎縮するほど迫力のある美人で、目はこの世の全てに恨みを持っているかのようだった。とても人を出迎えるような絵ではなかった、今すぐこの絵がないところに行きたい そう思った。


さっきの侍女とは違う侍女が来て、「ついてきなさい」そう言った。

俺は殺されるんじゃないのか? これはなんだ?

大人しくついて行くと まず素っ裸にされてわしゃわしゃと全身を洗われた。生まれて初めて使った石鹸とタオル、垢が溜まっていて一度では綺麗にならないと侍女が文句を言っていた。それから綺麗な服を用意されて朝から晩まで仕事をさせられた。

朝起きてすぐに馬屋で汚れた藁をかき出し床を掃除して新しい藁をひく、水が入っていた桶を洗い新しい水を井戸から汲んでくる。チェックを受け合格が出れば次の仕事だが不合格であればやり直し。馬の餌を取りに行き用意し、次は馬車を洗う、これもチェックが入る、合格すると整備士が馬車の整備をする。ここで休憩兼朝食だ。

初めて見た時は豪華な食事を自分が食べられるとは思ってはいなかった。てっきり食べているのを見ているだけで我慢させられると思っていた。こんな豪華な食事がまさか使用人用だとは思いもよらなかった。いや、それ以前にまともな食事を孤児に出す家はない、ボロ雑巾の様にこき使って使えなくなったら捨てる、それが普通だ。

食事が終わっても次の仕事まで何をしていても文句は言われない。基本的には敷地内の屋敷の外の仕事が多かった、それに水を使う仕事、どうやらそれが一番下っ端の仕事のようだ。

なんで俺は殺されずにここに連れてこられたんだ? ここでの生活は街での生活よりまともだった、盗人に罰を与える感じではない。


3ヶ月が経った、最初に会ったあの美人にはあれ以来会ってない。


半年経った時 あの最初に会った美人が目の前にいた。唐突に質問された。

「あそこにいる男はどんな仕事をしている?」

はっ? 何で自分の屋敷の使用人について俺に聞くんだよ。

「サムクルさんは 屋敷の警備を担当している人。」

「ではサムクルについて知っていることを話しなさい。」

「サムクルさんは 警備担当者の小隊長で部下は8人。主に屋敷の西エリアを担当している。年齢は30代位で比較的木曜の夜に外出する事が多い。食事は肉系が好きで肉が多いと機嫌がいい、人参が嫌いで入っていると機嫌が悪くなる。左のポケットにナイフを3本、右の足首にもナイフを仕込んでる…あと…薬かなんかも持っている気がする 変わった匂いがするから。部下のヨグオンさんに信頼を置いていていつも指示はヨグオンさんに出している。ああ、あと靴底にもなんか隠してるか左右で音が違った気がする。」

「そこまででいいわ、ビスマルどう?」

「はい。」

「………では 次に行きましょう。」

「承知致しました。」

次? 次ってどこ行くんだよ。

「ほら行くわよ。」

大人しくついて行くと。


「文字は読めない?」

「ああ、読めない。」

読めるわけねーだろ! いつ読む機会があるんだって!


「これを読んで見て。」

だから読めねーって言ってんだろ!

「ああ? こ…うきゅう…ひん。 かね、おんな…じかん…ほうしゅう ?これがなに?」

「いいえ、何でもないわ。ビスマル頼むわね。」

「承知致しました。」


それから文字を教えられた、しばらく経つとまた美女が現れ 試験をされ合格すると次の工程に入るらしい。今はこの美女がラビエラと呼ばれこの家の孫だと知っている。でも普段はお嬢様と皆が呼んでいるからそれに倣う。

驚いた事にこの美女 いやラビエラ様はこんなにお若いのに既に旦那と子供もいた。


「ところであなたの名前は何て言うの?」

「名前? 名前はない。名前を呼ぶやつがいないから。」

「そう、適当でいいじゃない。あなたが誰か分かればいいだけのことなのだから。」

いつも『おい』とか『お前』としか呼ばれなかった。

『ほら行くわよ』生まれて初めてかけられた言葉だった。そこにいることを許され俺を必要だと勘違いできる言葉、存在を認められた気持ちになった。俺にとっては生まれて初めて貰った優しい言葉。

「ホリイク」

「へぇ、いいじゃない。ホリイクね。」

『名前なんて適当でいいじゃない?』最初に貰うプレゼント…家も、親もなければ名前もない…自分を呼ぶ人間がいないので不便はなかったがコンプレックスはあった。この屋敷に来てからは尚更だ。それを大したことじゃない、適当でいいって言われて 肩肘張っていることが馬鹿らしくなった。ラビエラ様にとっては大したことじゃないらしい。

名前を聞いたと言う事は名前で呼んでくれるって事なのかも知れない。

生まれて初めて持った名前 それを呼んでくれたのがラビエラ様で今はすごく嬉しい。


「俺、名前 ホリイク・タキトーにします!」

「そう、ホリイク・タキトーね。いいんじゃない? ホリイク これからは侍従の勉強も始めるわよ。」

「はい、宜しくお願いします!」

「ビスマル、言葉遣いもキチンと教えてね。ああ、それから護衛の仕方も いいわね?」

「承知致しました。」


何もかも!全てを俺に与えてくれた人 ラビエラ・オルデバ様、俺は彼女に生きる目的を見出した、俺にとっては神のような美しい人 彼女のためなら何でもできる そう思った。

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