52、夢花 ムカ−3
「殿下、オルデバ公爵にそれとなく探りを入れますか?」
「…例えば 暗部の者を使って亡きものにする事は出来るだろう。だが問題はそれでは解決しないのだ。
夢花で操られた民や使用人たちそれに密偵や刺客 それらにどんな影響が出るかも分からない。
例えば、貴族会で5大公爵家は己の役割を理解している故 今のところ法案や側室などについても却下できている、重要な政策にも事前にある程度道筋を作れる。だが貴族会 全員に蔓延し5大公爵家にまで影響が出れば、無理な要求にも いくら真がこちらにあろうと王家としても従わざるを得なくなる事態になるかもしれない。
側室を持たない事は竜神様の意向だ、私自身も持つ気はないが これが可決され正式に持たなければならなくなったり 他の件についても理を人間が勝手に変えるような事態に陥った時 竜神様の加護がどう作用するか見当もつかない。国の政策についても簡単に一部の者たちの好きにする事ができる様になってしまう。
シエル殿は その前に我々の手で処置させる為に情報をくださったのだろう。」
「シエル殿とは何者…あ、いや どのような方なのですか? 何故あの時 笑っていらしたのですか?」
「シエル殿は……特別な方だ。レティシアを守る為にいらっしゃる。
私も正直 何についてお笑いになったのかは分からないが…、何かの意図に気づかれたのかもしれないな。」
「そのー、不躾な質問ですが……シエル殿と妃殿下は随分…その…親しくされているのですね?」
「ああ、レティシアは兄のように慕っている。」
レティシアを守ることがシエル殿の存在理由なのだろう。
「殿下は気にならないのですか? あっ、すみません。妃殿下が柔らかい表情をされるのは殿下の前だけでしたので、シエル殿の前でも見せた事に正直驚いてしまって。」
「ふっ、そうだな間違いではない。誘拐された時はレティシアが素直に感情を見せるのは唯一シエル殿だけだった。私がやっと信頼に足ると判断されてその仲間に入れてもらえたのだ。」
「はぁーーー。」
「まあ、機会と許可があればそのうち教えてやる。 さあ、それより今は国内に蔓延する夢花をどうするかだ。」
「手っ取り早く地下都市を焼き払っては?」
「まあ、それもいいだろう。だが問題はそこに囚われている一般人だ。それと夢花が無くなり暴れ出す者たちの処置だ。」
「そうか、毎日摂取し長年にわたり薬漬けだった者たちがどう言う行動を取るかも読めなければ、薬を抜いて元に戻るかも狂ったままなのかも分からないと言う事ですね。」
「ああ、そうなった場合 罪の立証も難しくなる。 与え続ければ平常を保てると知れば薬をくれと言うものもいるだろう。」
「くそ! 人質は国民だなんて。オルデバ公爵が意図した事なのでしょうか?」
「恐らく夢花は偶然の産物かもしれないが、…いや多分そうだ。 長年燻っていた思いが 『夢花』の存在によって一気に動き出してしまったのだろう。夢花を手にした今 歯止めが効かなくなっているだろう。
例えば健康食品と偽り継続して食べさせる事が可能になれば オルデバ公爵の人形が増殖していく事だろう。」
「急ぎ 対策を考えます。」
「5大公爵家にも至急連絡を取って呼び出してくれ。」
「承知致しました。」
「それから、王宮内で菓子を配り歩いている者は掴めたか?」
「すみません、誰もいない時に置かれていくのでまだ掴めておりません。ただ……。」
「ただ 何だ?」
「夢花入りの菓子が置かれていたのが…、 侍女など女性が多く集まる場所に置かれたのが『はじまり』のようです。」
「つまり 犯人は女……。」
「証拠はありませんが。」
「いや、間違いないだろう。菓子が休憩場所にあるなど男性では違和感を持たれ記憶に残る。その点 女性の休憩場所であれば気にも留めずに摘みやすい。 見つけ出すのだ!」
「はっ!」
「ああ、それから聖女リリーについては何か掴めたか?」
「数ヶ月前から各地で目撃されるようになったそうです。
教会には司祭のポートス氏がおり、各地の奉仕活動は教会へ寄せられる依頼や司祭連合によって決まっていると。シスターたちの所属は基本的に司祭たちの采配で決まるそうですが、稀に希望を叶えて勤務地を決める場合もあるそうです。
やはりシスターたちの仕事内容は大体同じでリリーだけが何か特別な事をしている訳ではないそうです。他の者に比べると顔の美醜の差はあれど 特別に『聖女』とまで持ち上げられるほどの事はしていないと、疑問に思う者もいました。
同じシスターの中では可愛いからとチヤホヤされて聖女と持ち上げられるリリーを好ましく思わない者もいました。ですが暫くすると文句いう者はいなくなったそうです。」
「やはり夢花が使われたと思います、リリーが夢花を使ったのは間違いないでしょうが、操る方か操られる方かまでは分かりません。
それと配属先については司祭のポートスが関与していると思われます。ポートスも操る方か操られる方かは分かりませんが、行方不明の子供の捜索の際のアリバイにも一役買っているので繋がっているのは間違いありません。」
「シスターたちも大分汚染が進んでいる様で、リリーが『聖女』として目立つようになったので 物色の役割を他の者が担っているかも知れません。」
「はっ! よくもまあ。くそっ!」
本体が見えず皆 苛立ちを募らせた。
「殿下、休憩室に勝手に置かれていた菓子には全て夢花が含まれていました。」
「その上、ご丁寧に持ち帰れる様にもなっていました。」
「最早 王宮に夢花に汚染されていない者はいないかもしれないと言う事か…。」
「はい。主従関係については知る術もございません。今、殿下を襲えと指令が下されば全員が襲ってくる可能性もあります。」
「何か打つてはないのか? 殿下、護衛をお増やしになってください。」
「だが、アスカ商会もオルデバ公爵もここまで掴んでいる事は知るまい。まだ中毒者を増やす事に夢中のはずだ。奴らの計画と目的を探り出すのだ、いいな?」
「「「はいっ!!」」」
テレーズはアリアンと別れた後 念の為アリアンがヒロインの作品の攻略者に会いに行ったが、流石に高位貴族に面識のない平民が声をかける事は出来なかった。
得意の変装メイクで本屋に行って自分の目で確認、 アリアンには『そんな本知らない』と言われたがアリアンが知らないだけで売られているのではと思って行ったがやはり売られていなかった。
ねえ、私はこの世界のヒロインのはずなのに何で幸せじゃないの?
どうしてこんなに思い通りにならないんだろう…。
誰かが私の邪魔をした…とか?
1番考えられるのは…レティシア? ううん違う、だってあの女は邪魔だけど崖から落とす事も出来たし、虐めてこなかったのは悪役令嬢回避のためではなく本人が学園に来ていなかったからだし。 他の登場人物で違う行動を取ったのは…スタンビーノ? スタンビーノが1番台本通りに動いていない!?
まさか、スタンビーノが転生者!?
いや待って待って、スタンビーノも私に落ちたわ! だから多分違う。
(テレーズにおちたか?と聞かれれば落ちてないと答えるだろう。スタンビーノにとっての1番の理解者はレティシア、そしてライバルでもあった無関心なレティシアの気をひく為にテレーズを利用しただけだ。スタンビーノにはテレーズの上辺だけの言葉では届かなかった…のだが テレーズは気づいていない)
第2作のヒロインだって実在した…第1作のキャストも勿論全員存在した。
間違いなくここは乙女ゲーム中!
それと認めたくはないけど第1作がヒロインがハッピーエンドで終わらなかったから、その後のストーリー展開が変わってしまったかも知れないという事だ。
第2作はそもそもの設定がテレーズが皇太子妃になった状態から始まるのだ。つまり大ベストセラー『ライラック姫の真心と純愛』がこの世に生み出されなかったので、続編は始まらない。
ポクポクポク………チーーーン!
そうだよね、私は第1作のスーパーヒロイン テレーズ・ダンビル!!
第1作の主要キャストと恋愛してこそ物語りが輝くっていうものよ! フンス!
そして物語りを正規の王道ルートに戻すには スーパーヒロインの私とメインヒーローのスタンビーノが恋に落ちるしかない!! やっぱこれだよ! 初心に返ろう!
私 ちゃんとやればできる子だもん! スーパー可愛い私に好きって言われて落ちない男は いなーーーい!!
ちゃんとお化粧してドレス着れば すんごい可愛いんだから! 可愛いは正義!!
んーーー、でも今は綺麗で高価なドレスもお化粧品もない。
あっ! ジョアンにおねだりしてみよーっと!
「トラビスタ様――――!!!」
「……………。」
「トラビスタ様――――!!!」
「ん? そなたはレティシアか?」
「はい! お久しぶりです!!」
「ご無沙汰しております、シエルです。」
「ほうほうほう、こんなにもすぐにそなたたちに会えるとは思うていなんだ。して今日はどうしたのだ? ん!? レティシアそなたは随分腹が膨れておるな。はて?」
「うふふ 実はここに子供がいるのです。あと2ヶ月位で生まれる予定です。」
「ほーーーーーーう、そうかそうか それはめでたいめでたい。どれ、無事に生まれるよう加護を授けてやろう。ん? レクトル以外の気配もするのぉ?」
「はい、実は…レクトル様の奥様のフェルティア様とお2人のお子様であるオルシィミ様からも加護を頂きました。」
「なに!? フェルティアとオルシィミが戻ったのか!?」
「はい、今はお三方で同じ時をお過ごしになられております。」
「そうか、消えゆくレクトルの気配に気を揉んでおったが…そうか、愛する者を取り戻せたのだな。そうか、そうか 感慨深いのぉ〜。きっと、そなたとの出逢いが生んだ奇跡なのであろうな。」
「とんでもございません、神々は我々に様々を与えてくださるのに、何もお返しできず心苦しいばかりです。何かお役に立てる事があれば良いのにといつも思いあぐねております。」
「ふふふ、そなたは愛され上手だな。
さて、今日はどうしてここへ来たのだ? その腹でまた旅行って事もあるまい。」
「はい、厚かましいお願いがあって参りました。頂いた水の加護の使い方を学びに参りました。」
「ほう、それは水の力が必要という事なのだな?」
「私からご説明申し上げます。」
シエルが今ヴァルモア王国で幻夢によって生み出された夢花で精神を支配される薬が蔓延している事、レティシア並びに王家の命だけではなく全国民が一部の人間によって害されている事実、それを収めるためにレティシアにフェルティア様が水の加護の使い方を学ぶようにご指示があった、と話した。
「ほぉぉぉぉぉ、幻夢とな? なるほどなるほど。」
考えているようだが、角度によってはクリスタルが透明すぎて何しているか見えない。
そっと、キチュネを差し出すと、パァーーーー!っと笑った気がする、そしてモシャモシャキチュネを食べている。
「ふむ、それだけの数をレティシア一人で浄化させるのは効率が悪いであろう。」
ジーーーとシエルを見つめている。
すると何かが産み落とされた? 確実に触りたくない場所から何かが出てきたそれも透明の何かが 普段は排泄物が出るであろう場所からポチャンって音と共に…。
んーーー、お話中におそそう? 神様でもちょっと 人知れずこっそりして欲しい。そう思っていると、
「違う。」
考えを読まれた!?
「いや、顔に出ておる。」
「失礼しました。」
「我は神じゃ、排泄など必要ない。これは我の眷属じゃ。シエルを見ていて気づいた、そなたにこの者をつけてやろう。名をつけよ。」
「えっ? 宜しいのですか?」
「創造の神の眷属は便利であろう? 水は生命の維持に不可欠なもの、流れが悪ければ滞る、居れば幻夢の浄化にも役立つであろう。」
「あ、有難うございます!! 有難うございます!!」
「そなたは何事にも一生懸命で感謝を知っておる、だから我らはそなたが可愛い。
さあ、名をつけよ、きっとそなたの役に立つであろう。」
「えへへ 有難うございます 嬉しいです。 それではアクアと名付けます。」
「うむ 良き名である。アクアよ、そなたは我の愛するレティシアの力になってあげなさい。そこなるシエルと協力してレティシアの助けとなるのだ。」
「承知致しました。レティシア様 シエル宜しくお願いいたします。」
「こちらこそ アクア宜しくね 私の事はレティシアでいいわ。」
「…シエル殿は何と呼んでいらっしゃるのですか?」
「ティアよ。」
「では私もティアとお呼びしてもいいですか?」
「レティシア様が変装されていた時の名残りでそう呼んでいるだけですので、皆様はレティと読んでいらっしゃいます。そちらの方が一般的ですのでレティとお呼びするのが宜しいかと思います。」
「承知致しました、ではレティとお呼びいたします。」
「ふふ 宜しくお願いします。」
「そうだ、幻夢の作用に反するものがあったのう。」
「反するものですか?」
「そう、幻獣たちが幻夢を好むのは体内で魔力が活性化して力が漲るからだ、つまり減退するものもあるのだ だからそれがあるところにはあまり寄り付かない。
好むには意味がある 魔力の活性化を促すのは幻夢だけにある効能ではない。他にも 幻獣たちが体力を回復させるもの、魔力を多く含むもの…それと同じように幻獣たちが嫌う反する作用があるものも存在している。」
「まあ、理とは本当に表裏一体なのですね。」
「ふっ、その通りよな。幻夢は幻獣にとっては好むものであるが人間にとっては毒となったわけじゃな。」
「幻夢のエキスに反応する植物と鑑定するものをレクトル様とフェルティア様が作ってくださいましたが、本人も気づかないうちに飲まされ続けた人が突然摂取をやめた場合 暴れたりしてしまうわけですが、治す方法はまだ見つかっていないのです。」
「そうか、減退させても人間が壊れては意味がないという事だな。レティシアの近場の人間であればアクアの力を借りてそなたが体内の異物を循環させて体外に排出させれば良いのだが……数が多くては面倒であるな。」
「お薬があればいいのに……、皆 元に戻ればいいのにな。」
「ふむむむ、もしかすると……。」
???
「確かめる価値はあるやもしれぬ。」
トラビスタ様は意外なものを紹介してくださった。




