51、夢花 ムカ−2
「その夢花を栽培し人身売買をしている……、まさかここ最近レティシアの周りで起きている件とも結びついているのですか!?」
「それだけではない。」
「それはどう言う事ですか?」
「考えろ。」
「では王宮の侵入者以外についても何かあると言う事ですね?」
ニヤっと笑う。
「クッキー……。」
「そうです! 至って普通の事しかしていないのに 異常に高い人気!」
「そうか!『聖女リリー』はアスカ商会の手の者なのですか!?」
「そんなまさか!」
「『聖女リリー』の秘密はそれだけではないがな。」
殺気が漲った。他に何があるって言うのだ!?
「密偵は明確に自分を裏切らないためと理解できますが、『聖女リリー』は何の為にそんな事をするのですか?」
シエルは黙したままだ。そこで口を開いたのはギルバートだ。
「民意を操る為…ですか?」
コンコン
「レティシア妃殿下がお見えです。」
「通してくれ。 あっ、隠したほうがよろしいですか?」
「問題ない。」
「どうしたの レティ?」
「スタンとシエルにお願いがあって。」
スタンビーノの横に座るとシエルは移動してきてレティシアの横に座った。結果的に3人で座っている。でも3人はそれを当然として誰も何も言わない。えっとー、どう言う関係?
「お願いって?」
「先にお話をすませて。」
チラッとシエルを見れば頷くのでそのまま話を再開させた。
「どこまで話したかな?」
「『聖女リリー』の企みについてです。」
答えたのは まさかのレティシア。
「ん? 聞こえてたの?」
シエルがニヤっと笑っている。そっとスタンビーノの耳元で
「シエルが頭の中に落とし込む…聴こえるようにしてくれてたの。」
「そう。 …そうだったね、『聖女リリー』とアスカ商会の目的は何だ?」
「最初の目的は恐らく見目の良い子供の物色です。」
「レティ!?」
「優しいシスターであれば自然と子供たちは集まります。目をつけた子に『美味しいクッキーをあげる、でも沢山はないから皆にはあげられないの 内緒で後で取りに来て』そう言えば心を許した子供は喜んでくるでしょう。でも、同じ場所 リリーの側で忽然と子供が消える事件が頻発すれば怪しまれます。だから別の場所など転々として物色するうちに『聖女リリー』が予想外に評判になってしまった。
そして思わぬところから『聖女リリー』を利用する事を思いついた人間が出てきたって事でしょう?」
「成る程…、それがバース男爵、チャールストン伯爵、ブルックス侯爵たちなのだね。」
「あまり目立ちすぎると本業に差し支える、だけど外面のいいアスカ商会のタキトーたちは無視も出来ず 逆に利用する事を考えた。違う?シエル。」
「ふふ、正解。」
「あの、我々にも分かるように話してください。」
「そうか……なるほどね。」
「だから 我々にも分かるようにお願いします!!」
「つまりだ、アスカ商会は独自の商売の為に夢花を作り出し人身売買商売とその餌である夢花で大儲けしていた。だが人相の悪い人間が子供を物色していてはすぐに目について足がついてしまう、そこで自分たちの手の者『リリー』をシスターとして潜り込ませ子供を拐っていたが、同じ場所で何人も拐えばいずれ足がつく。そこでシスターの奉仕活動として各地に出張させて物色していたのだ。
だが今度は評判を聞きつけた貴族にリリーが目をつけられてしまった。そいつらの目的は体の弱い皇太子妃の代わりに、王位を継ぐ子供産む側室に 自分の息のかかった者を王室に入れる事。自分の娘を本来ならゴリ押ししたいが なかなか5大公爵家の壁は厚く食い込めない、議論される前に却下されてしまう。だが、民心を味方につけて『聖女』として自分の手の者を送り込めるなら、何も娘じゃなくても良い いや寧ろ『聖女』であれば中堅貴族同士が協力出来る関係になれる。利害の一致が生まれた訳だ。」
「そしてそれだけでもない。
まずは王宮だ、新たに雇った者たちが怪しい動きをすればすぐに目につく。だが、この夢花を使えば…。」
「そうか、侍女たちや皇太子妃宮に配属された者たちの休憩所に菓子でもそっと置いていけば良いのだ。誰かが持って来れば印象に残ってしまうが、置いておくだけで良いのだ。そしてある日突然 菓子を置くのを止める…症状が現れた者にだけそっと菓子を差し出せば、傀儡の出来上がりだ。そうか!それで繋がり掴めなかったのだ!」
「そう、たった1人自由に王宮内を動ける人間を送り込むだけで あっという間に間者が沢山あちこちの部署に忍び込ませられるのだ。」
「くそっ!」
「そして 王宮内の間者は情報収集だけが使い道ではない。」
「確かに、良心の呵責も後見人も実家も無視して何でもやる従順な人形が手に入るなら、もっと過激な手に出てくるという事ですか?」
「そう言う事だね。 でもそれだけでもない。」
「ふぅ〜、お前たちの家の者だって関わっていれば お前たち自身の失脚も免れない。しかも、食べ続けている限り何の症状も出ないとなると 私たち自身の食事に混ぜられる可能性だってある。当然 毒見に症状は出ない。」
「なんて事だ!!」
「それと……、アスカ商会は密偵たちを誰に売る為に作っていたか…?」
「ま、まさか!! それがオルデバ公爵なのですか!?」
「元は 良質で従順な奴隷をオルデバ公爵家の為に作ることが目的だったんだ。」
「何故、まさか! そんな…。」
「お話し済んだ?」
場違いに割って入ったのはレティシア。
自分たちが夢花で狙われているかもしれないと言うのに 気にするでもない様子に呆然と見つめているギルバートたち…空いた口が塞がらない 妃殿下自身が狙われ薬漬けにされる可能性だって、それにお腹のお子様に影響があったら…。
「ああ、ごめん 大分待たせてしまったね。なあに? どんなお願い?」
ええーー!! そこはもう少し後にしてくれって言うところでしょ! 何 激甘仕様出してんだか! そこはガツンだよ ガツン!!
耳元でコッソリお願いする。
『あのね、今からガラパーゴ国にシエルと行ってきても良い?』
『ええ!? お腹もそんなに大きいのに!? 何しに行くの?』
『んーーー、竜神様たちが折角 水の神様から加護を頂いたのなら 力の使い方まで教わってきなさいって。子供が生まれると体調を崩したり自分の時間をなかなか取れなくなるから動ける今のうちにって。シエルに転移で連れて行って貰うから負担もないし。いい?』
『うぅぅぅ、レティと離れたくない…けど、竜神様が仰るなら仕方ないか…。』
『終わったらすぐに帰るけど 色々と… ふふ お願いね。』
『はぁ〜、仕方ない… 気をつけるんだよ。』
『はぁーーーい、ちゅう。』
クルッと振り向いてシエルにも耳元で囁く。
『シエル! またガラパーゴ国のトラビスタ様のところに連れて行って!』
『ん? どうした いきなり?』
『竜神様たちがトラビスタ様に加護して頂いた水の力の使い方を教わってきなさいって。』
「……ははっ! あははははは はーっははははは。」
『シエル? 大丈夫?』
『くふっふっふ、了解 ああ了解だとも。』
シエル殿が笑ってる、どう言う意味だ?
「では、スタンお部屋で休むわね。」
「ああ、気をつけて。送ろう…いや、シエル殿がいるから大丈夫だろう、宜しくお願いいたします。」
「ああ、お腹も大きいしね、不安な話ばかりでは胎教に悪い。部屋でゆっくり楽しい話でもしているよ。 スタンビーノ 情報を有効利用してくれよ?」
「勿論です、感謝致します。」
レティシアとシエルは執務室から下がって行った。
その後レティシアとシエルは自室に戻ると、すぐにガラパーゴ国へ転移して行った。
スタンビーノはすぐさま指示を出す。
まずは王宮内の菓子を回収し、調査をしたり 侍女や侍従 王宮で働く者たちには敢えて仕事を与えて監視し、夢花の影響があるか否か確認し 問題がある者は全員暇を出し、念の為追跡調査もする事にした。
夢花のエキスは無味無臭 しかも熱を加えても効果に影響がない、だからクッキーなどに練り込まれていたりするのだ。実際に食べても分からないとなると検出に四苦八苦する…かと思ったが、事前にシエルが栽培している花の株を転移でフェルティア様へ送っていた。
フェルティア様が確認するとアスカ商会が栽培していた花は『幻夢』と呼ばれているものだった。元は幻獣などが主食にしていた植物、幻獣が食べると力の回復機能があるらしい。幻夢のエキスを取り出し多くの傀儡を作りレティシアと王家を狙っていると知るとレクトルたちは怒りを激らせた、レクトルとフェルティアが新たな植物『ピョル』を作り出した、そしてそのエキスを垂らして青く変色すると幻夢が含まれていると分かりやすく反応するようにした。これにより王宮内の夢花の存在を明らかにする事ができた。毒見前に検査もするようになった。
シエルの情報で地下都市の入り口などに兵を配置させた。
それからアスカ商会の倉庫、聖女リリーも徹底的に監視し、倉庫からの出荷物に関しても厳しく監視し把握するようにした。
それからオルデバ公爵についても密かに探らせるよう指示した。
「殿下、オルデバ公爵とはどういった方なのですか? 殿下は詳細が分かる前からオルデバ公爵が怪しいと、 何かしら絡んでいると疑っていたのですよね?」
「そうだな…全てが明らかになるまではオルデバ公爵について一切を秘匿せよ、いいな?」
「「「はい。」」」
「オルデバ公爵家とは5代前の王弟の血を汲む者たちだ。
知っての通り我が国の王位継承は長男による一子相伝で繋いでいる。王位を継ぐ者の妻はただ1人しか娶る事ができない、それは竜神様がお許しにならないから、そう言われている。但し本妻に子が持てなかった場合、男子が出来なかった場合、王位を継ぐ者自身が子を成せなかった場合などは 竜神様の意向に従う形で王位を継ぐ者を選定し直す場合もある。
まあ 今はこの話は置いといて、5代前のビューロス王が突然早逝された。
当時嫡男 メビュースロ殿下はまだ6歳と言う若さで 国政を担うには早すぎる。そこで王弟 ジュードラス殿下にメビュースロ王が成人するまでと 一時的に摂政として実権が渡ったのだ。
ジュードラス…殿下は王家のしきたりとは『ただの建前 飾り』だと思っていたのだ。
何しろジュードラス殿下は『王家のしきたり』では王位を継げる立場ではなかったので詳しいことは何もご存じではなかった。そこで名実ともなる王位簒奪を目論んだ。
ジュードラス殿下はハミルトン侯爵家のご息女カミーユ様と既に婚姻され2歳になるお子もいたのだが…ご側室にされ、ガーランド国の第3王女イザベラ殿下を正妻とされた その背景には王位に立つ際の強力な後ろ盾を得る為の婚姻と思われた。その後 イザベラ殿下との間にもお子をなされた。ご自身の力を誇示する為にも精力的に政務に邁進された……だが、それとは比例するかのように国政は傾いて行った。
メビュースロ王がご成人なされる12年間は地獄だっただろう…王位を望めば望むほど国は傾き 空回りしていく運命、そして健やかに成長される甥。焦りが刃となってメビュースロ王へと向かった事だろう。だがその刃は当時の最高権力を持ってしても届かず メビュースロ王がご成人の誕生日の朝 目を開いたまま起き上がる事は2度となくなった。生きてはいたが 言葉も発せず指一つ動かせずモノを飲み込む事も出来ず…衰弱していった。飲まず食わずだと言うのに骨と皮の屍のようになっても2年は生きた。
そして当初の予定通りメビュースロ王が実権を取り戻した。
途端に国政は元に戻り始めた。どんなにジュードラス殿下が心血を注ぎ立て直しを図ってもどうにもならなかったのに……まだご成人されたばかりで何も出来なかったであろうメビュースロ王が継いだ途端何もかもが上手く回り始めた。その功績の全てはメビュースロ王のものとなり 国民は真なる王の誕生を喜んだ。
寝たきりのジュードラス殿下はその知らせを聞くと涙を流されたそうだ。
そして寝たきりの状態でご家族と共に離宮に移され死んだように生かされ、再生し始めたヴァルモア王国の変化を聞かされ感じ、どんなに尽くしても拒まれ続けたヴァルモア王国がメビュースロ王を迎え新たに芽吹いていく姿を目の当たりにし、絶望して2年後 静かに寂しく亡くなられた。恐らく過ぎた野望を抱いた罰だったのだろう。
イザベラ殿下のお子様が女児だったため伴侶にオルデバ公爵を叙爵させた、カミーユ様はジュードラス殿下がお亡くなりになった後 ご実家のハミルトン侯爵家にお戻りになり、お子はリンクス公爵家の次男に嫁がれた。カミーユ様もハミルトン侯爵家も ジュードラス殿下の仕打ちに不満があったのでジュードラス殿下の命日の2年後からは供養の式典にはご出席にならなかったと言う。イザベラ殿下はこの国について深くご存じではなかっただろうし、きっとジュードラス殿下からは王妃にと望まれてこの国に嫁いで来られたのだろう。イザベラ殿下にしてみれば、メビュースロ王とこの国こそが夫の命を奪い、王妃と言う立場を奪ったも同然だった……、恨みつらみをお子へ子守唄のように聴かせ育てたらしい。それがオルデバ公爵家なのだ。
現在では何かある度にオルデバ公爵家の影を感じるほどに、オルデバ公爵家と王家との確執は深い。 ただ…… いや。」
「「「…………………………。」」」
それって王家の汚点とも言えるものを 臣下に秘匿命令をしたとしても言っちゃってもいいの!? いや、そうか 先程シエル殿がアスカ商会の得意先が いやオルデバ公爵の子飼いだと明言してくださった。つまりは相手は昔年の恨みから王家簒奪を狙っているゆえ注意するように促してくださったのだ。つまりこれを念頭に動けと言う事なのだ。
確かに本来であればオルデバ公爵とアスカ商会 それに夢花 どれも現時点では接点も何も掴めていなかった……きっと今ならその野望を何とか出来るという事なのか…?
王位の簒奪? それとも崩壊? 真の目的は何なのだろうか?
シエル殿の意図は他にもあるのだろうか…?




