47、消えた子供
3人は許されてはいけない人間だと言われた気がした、そしてシエルは自分たちの味方ではないとも知った。今なお怒りを募らせていると。
ノーマンは思い切って聞いてみた。
「シエル様…、シエル様のご主人はレティシア様なのですよね?」
冷たい視線をノーマンにやると、
「ああ、そうだ。」
シエルは誤魔化すでもなくあっさり答えた。
「レティシア様は殺しても足りないであろう私たちを何故助けたのですか?」
「………。」
説明するには レティシアが言った乙女ゲームと言うのものを話さねばならない。
レティシア曰く レティシアはその乙女ゲームの中では悪役令嬢なのだと言う、そしてこの3人とスタンビーノそれにあの諸悪の根源テレーズがその物語には出てくると言う。
主要な登場人物はこの6人で主人公のテレーズが誰と恋に落ちるかでいくつものストーリー展開が変わると言う。
レティシア曰く テレーズが誰を選ぼうとも常にレティシアは悪役令嬢として君臨するらしい。スタンビーノの婚約者でありながら テレーズがノーマンを選んだとしても恋人としてではなく取るに足らない貧乏男爵令嬢を虐め倒すらしい。そしてその中でレティシアは断罪され最後はいつも死ぬ運命にあったと言う、正直 意味が分からないけどレティシアが私に嘘をつくはずがないから理解し難いながらもその話を飲み込んだ。そしてそのストーリーの中ではこの3人にも役割がある…それはレティシアに敵意を向けることだと言う。断罪はこの3人とスタンビーノの4人と虐められても健気に振る舞うヒロイン テレーズの5人で行われると。
『だからテレーズを好きになったのは3人の意思だったのか分からない…私は偶々そのストーリーからはみ出る事ができた 死なずに済んだけど、決まっていた運命から彼らもどの道 役割として 逃げられなかったのかもしれない。私が助かったことで弊害が出たのかな?って思うの。だから 私も死ぬ運命から助かったのだから 彼らにも一度は機会をあげたいの、それで彼らが助かるかは分からないけど 今 この世界で私たちはゲームの時間が終わっても生きているのだから 生き直す機会を彼らにもあげたい。』
そう言っていた……。
「レティシアはあの3人はテレーズを好きになりテレーズの為に一生懸命だっただけなのだと、自分はこうして今 生きているのだからテレーズに踊らされてしまった彼らにも一度だけ生き直す機会をあげてもいいと思う、彼らは殿下のご友人で優秀な方たちだったからってな。」
「「「レティシア様!!」」」
「今も危険な目にあっているとはどう言う意味ですか?」
「ノーマンは知りたがりだな。」
今はノーマンと呼ばれることを嫌がるのを知っていてわざと口にする。
「お前たちは『竜妃』とはなんだと思う?」
「王位につく者の妃と言う意味ではないのですか?」
「あっ、でも竜神様が実在していた……。では竜神様の妃? いや王妃様も『竜妃』だがご健在だ。」
「『竜妃』とは生贄に選ばれた娘の称号だ。」
「「「えっっ!!!」」」
「有事が生きた際 竜神様に捧げられる存在 それが竜妃の本来の役割だ、そして今 有事が起きている。
リアーナは神官に血を抜かれていたが、レティシアは自分の意思で自らの腕を短剣で切り血を流し毎度気を失うまで血を捧げている。その上…………。くっ。
今苦境に立たされているのは お前たちがレティシアにした事も要因の一つとしてある、それなのにレティシアはお前たちにも慈悲を施す。生贄になり死んだらスタンビーノに新たな妃を選ぶ様に説得までしている。
なあ、お前たちにレティシアが何をしたって言うんだ!! なんでアイツばかりがこんな運命を背負わなければならないんだよ!!」
シエルから迸る怒りのオーラに3人とも顔面蒼白で拳を固く握り、改めて己の愚かさに恥入り何も言う事ができなかった。
シエルの叫びは レティシアに対する愛だ、それが痛いほど伝わってくる。
3人は何も答えることが出来なかった。気まずい沈黙の中シエルは指示を与え消えた、3人はどうすることもできず…取り敢えず王都へ戻った。
旅の準備をしていると目の前で子供が誘拐された。
3人は顔を見られるわけにはいかない、故にすぐに助けにいけなかった。二手に分かれシエルの指示を仰いだ。シエルは顎に手を当て考えると、魔法で3人の顔を変えた。
「お前たちの顔を変えたが気づかれない様に後をつけろ、まずは情報を集めろ。 旅はお預けだ。」
「「「はっ。」」」
子供を攫った荷馬車は後ろにも人を置き後をつけられていないか確認しながら慎重に走っていく。手慣れた感じだ。荷馬車は郊外へ行くと馬車に乗り換え あっという間に王都を出て行った。気づかれない様に追っていくと バートン伯爵領に入って行った。
荷馬車は検問のように立ち塞がる人間たちと会話をしているかと思ったらそこからはゆっくりその場を抜け音を立てないように進んでいった。あの立っている男たちは後をつけられないための措置かもしれない 仲間と思っていた方がいいだろう。馬を置いて暗闇に紛れて追って行くとバートン伯爵領にある屋敷に中に入って行った。
屋敷に周りには柄が悪い用心棒ではなく、組織的にしっかりした護衛の様な男たちが屋敷をぐるりと囲んでいた。 敷地内にも3人1組で警備をしている。かなり厳重である…きな臭い。
まずはここは 誰が何の目的で子供攫ったのか、確認する必要がある。到着した時にはもう荷馬車は見当たらない、やはり偶発的に拐ったわけではないのだろう。
手分けをして敵の人数など調査を始める。
後から来たシエルが3人を隠蔽結界を張った。
これにより誰にも気づかれずに密偵活動ができる。
……シエル様って当たりがきついけど やる事は凄い優しいんだよな、絶対傷つかない様に気を付けてくれる。レティシア様の事になると急に毒舌になるけどそれ以外は案外優しい人だ。レティシア様にはスタンビーノ皇太子殿下がいらっしゃる…随分気安い関係のようだけどどう言った関係なのだろう? …辛くないのだろうか?
おっと、仕事仕事!
周辺を探るとここはアスカ商会と言う大商家の持ち物で商品を管理している倉庫なので警備員が多いと街の者は言っていた。
表向きは普通の商家だ、社長のホリイク・タキトーは評判も良く信頼も厚い。
誰に聞いても善人で街の名士で通っている真っ当な商売人だ、悪どい商売でも?と調査しても全くもって表面上で分かる事はなく悪い噂一つなかった。妻も息子も評判もいい。だが、誘拐された子供は間違いなく王都からこの屋敷へと運ばれたのだ。
数日この街に滞在する事にした。
「あんたたちどこから来たんだい?」
「マッコシックの街からだ、以前はハラダーニュ国からの輸入品を取り扱っていたんだが、突如滅亡しちまって商売が上手くいかなくなって 俺たちみたいな若い奴らは皆 切られちまったんだよ。」
「で、商売人に昔ここのアスカ商会ってのが評判が良かったから、まあ見に来たって訳だ。」
「へぇー、あんた達ハラダーニュ国に行ったことがあんのかい?」
「ああ よく行ってたよ、とても綺麗で街の人間も気のいい奴らばかりで ふんだくる事はできねーけど、金払いもいいし治安もいいし騙される事もねーから 商売はしやすかったんだけどな。」
「最後を見たかい? 詳しい原因は知ってるかい?」
「病気だとか、内乱とか色んな噂があったが本当のところどうなんだい?」
「いや 分からねーな、連絡が来ねーなって 見に行けって言われて行ったら国境の警備兵もいねーし、暫く走っても無人でよー、草木は枯れちまってて 緑や赤やオレンジ色が目立つ街が茶色や土色になっちまって、まるで様変わりしてて別の国に来たかと思ったわ。しかも王都に近づくと人がバタバタ死んでてよー。気持ちわりーから帰ってきた。」
「ああ、異様な光景だったよなー。何だか時が止まったみたいだったな。」
「病気じゃねーのかよ!」
「俺たちも慌てて帰ってきてブルブル震えて篭ってたがなんともなかったんだよ。まあ 水に何かしらの毒物が流されたかも なんて話しもあったが本当のところは分かんねーな、何せ生きている人間がいないからな。」
「ひーーー、鳥肌が立ったぜ、ここ最近で1番気持ちわりーな。」
「で、アスカ商会ってのは儲かってんだろう? 俺たちみたいなもんも雇ってくれるか?」
「どうだろうなー? 沢山人は雇ってるんだけど、屋敷を警備させている奴らはずっと変わってねーみたいだし、外との取引に連れて行く奴らもリーダーみたいな奴は変わらねーなー いつも同じ顔ぶれだ。用心棒みたいな奴らも噂だと孤児を引き取って育てて仕事を与えてるって話だから忠誠心が高くて入れ替えがねーみたいだ。」
「くーーー、じゃあ駄目か! 折角なら儲かってて良い主人のとこがいいと思ってたけど、じゃあ 別口探すか!」
「そだな、ベンポールの方にでも行ってみるか!」
「ああ、あそこは良い女も多いって言うし、そうするか!」
「まあ折角だから2〜3日はゆっくりしようぜ? 俺はここで見かけた可愛こちゃんと上手くいったら連れてくつもりだからな。」
「お前は女と見るとすぐ惚れる、少しは懲りろっての!」
「がははは、色男のくせに振られんのかい?」
「ああ、大抵『真面目すぎてつまらない』って言われてな。」
「くっくっく、そりゃーきちーな。 ほら一杯奢ってやるよ。」
「ヤローにモテてもなー。」
「「「だはははは!」」」
2人の男が席を立って帰って行った。
「あー、酔っ払った。ションベン行ってくる。」
「おー、落っこちんなよ!」
「おー。」
そっと2人の後をつけていく。
やけに周りを気にするので、隠密結界をかけてつけいていく。
(シエル様がそれぞれに隠密結界を魔道具にして渡してくれた)
やはり男2人はアスカ商会の屋敷に入って行った。屋敷の前には犬までいやがる!だけど、この結界のお陰で犬にも気づかれなかった。
「お前たちか、どうだった?」
「はい、職を探している者たちでした。以前はハラダーニュ国と商売をしていたらしいのですが、現在は首を切られて新たな職場を探していると言っていました。」
「気になる事はなかったか?」
「はい、特にありませんでした。うちでは新しい人間をあまり雇わないと聞いてベンポールに2〜3日後には向かうとのことです。」
「そうか、ならば問題ないな。ご苦労だった。」
「新たな者を連れてきた途端現れたので、こちらを探っているのかと思いましたが気のせいだったようで良かったですね、父上。」
「ああ、まあ常に警戒は怠るなよ。それで聖女はどうだ?」
「今回はタイミングが良かったし、見目も良かったので攫ってきてしまいましたが、やはり聖女の近くで頻発すれば疑われるので注意が必要です。 今のところ聖女様との関連は疑われておりません。」
「ふぅー、そうだな 聖女は別で用途ができたゆえ なるべく別で探すようにしなさい。」
「はい、少し離れた場所で今は物色させています。」
「そう言えば、この間逃げ出そうとした雌鶏はどうした?」
「はい 床替えをしました。雌鶏のくせに雌鶏の役割を全うできないのでね。」
「そうか、大きな雌鶏は面倒だから気をつけるのだぞ?」
「はい、心得ております。 そうだ、聖女に食いついてきましたよ?」
「そうか、ふむ 試しに1人くらいそろそろどうかな?」
「まだ 下級ですがどこまで及ぼせるか試してみましょう。」
「ああ、人員には気をつけるのだぞ。」
「はい、お任せください。」
雌鶏? 床替え? 下級? 聖女? いったいなんの話をしているのだ!?
商売の事か…さて どちらを追うべきか?
その後も取り敢えず動きはなかったので飲み屋に戻った。そして情報の共有。
「成る程 怪しさ満点だが特に決定的なことが掴めてはいないのだな。」
「ああ、父親と息子どちらを見張るか それぞれに従者がいて小さな紙に書いて指示を出しその場でその紙を燃やす徹底ぶりだ、それと屋敷内を探したが拐われた子供はいなかった。」
「ますます怪しいんだがな…。」
「ああ。一度街を出たフリして戻って探るか?」
「そうだな、それが良いだろう。」
「あれ? シエル様は?」
「分からない 消えた。」
「そうか、じゃあ 俺たちは出来ることをやろう。」
「「ああ。」」
シエルは聖女の情報を掴みに消えていた。




