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断罪後の公爵令嬢  作者: まるや
45/61

45、復調

レティシアは日中なのにスタンビーノの宮殿の自室にいた。

スタンビーノはレティシアがいる時は常にそばにいたかったが、皇太子としての役割もある……、一緒にいたいのは山々だが仕事を放っておくことも出来ない。外せない仕事は泣く泣く別行動になる。


と言うのもあれから夜はレティシアをレティシアとしてスタンビーノの元へ送ってくれるようになったのだ。そしてその他にも日中 皇太子宮殿に来ては3人でお茶をしている。

3人とは…、レティシア、フェルティア、オルシィミだ。


フェルティアとオルシィミはレティシアの体内にいるので表の人格になると人間の感覚を味わう事が出来た。初めに感じたのは『寒さ』だった。


「これ、レティシア何故こんなに寒いのだ?」

「すみません、羽織るものをお持ちさせますね。」


外にいる侍女に言って持って来させ羽織らせる。まあ、実際は自分が羽織るのだが。

「ふむ、一枚羽織るだけでも違うのだな。」

神であった時は耐性があるので暑いも寒いも感じた事がなかった。それこそ人間的感情も。


レティシアの中にいるのでレティシアの感情が否応なくなだれ込む。

フェルティアやオルシィミは神であるからレティシア感情に影響を受け思考を左右する事はないが、『知って、考える』きっかけではあった。


そして水の神のトラビスタを神でもないレティシアが感じ、発見する事は本来不可能だった。仮に気づいても神であれば完璧に気配も消せるし、転移も出来る。つまりレティシアに姿を晒すことをよしとした結果である。


川の水にキチュネを流し水に色をつけた…そしてその色水が美味かったからトラビスタが浮かび上がり身を晒したと言う。まあ それだけではなく 興味を持ったと言うべきだろう、そしてフェルティアも興味を持った。


『レティシア、キチュネを我も食してみたい。』


シエルを呼んで持ってきてもらった。

ここは神殿なので皇太子宮殿に行ってそれを食べた。食べて味わうのは人間の体でしか出来ない。レティシアの体を使いキチュネを食べた。

「美味である。」

『僕も食べてみたい!』

「ふむ さあ召し上がれ。」

「おおおぉぉぉ、美味―い!! 美味しいですね。」

『ちと 代わるのだ。』


キチュネをフェルティアとオルシィミが代わる代わる食べた。

スタンビーノが戻ってきた時 レティシアが口の端から紫の毒々しい液体をこぼしてニヤー!と笑っている姿を見て失神した。美女は少し冷たい印象があるのでまるで魔女が何かを貪っているように見えたのだ。スタンビーノは『レティがとうとう魔物に』と思ったのは内緒だ。


フェルティアとオルシィミは初めて食べた『食べ物』が美味しかったこともあり 夢中になって食べたのでレティシアの顔の汁が滴れた紫の筋と口の中の黒紫色が3〜4日落ちなかった。 スタンビーノがキスする時 若干止まるのは仕方のないことだった。


それからと言うもの人間の食べ物に興味を持った2人は 昼餐を摂るようになった。

時間が合う時スタンビーノの同席も許した。そして様々なことを4人で話すようになった。まあ1番大変なのはスタンビーノ、向こうは人格が入れ替わるだけなので口調で判断しなければならない。



「フェルティア様は豊穣の神であらせられるのに 作物の味などはご存じないのですね。」

「ふむ 恩恵は与えるが我などは食さずとも済むゆえ 今までは興味もなかったな。」

「なるほど、考えれば考えるほど有難いことですね。」

「どう言う意味か?」

「神に必要ないものを我ら人間は与えていただいているので。」

「ふむ。」


「レティシアの世界には 命を頂く…もが。 お母様!」

「何でもない。レティシアが動物も植物も共に命を頂く行為だ、なれど植物と違い動物は命のあり方が分かり易いゆえ植物の命を軽んじているようで、と胸を痛ませていたのだ。

神としてはその考え方を好ましく思う。」

「はぁ〜。そうですね、人間とは強欲で命を奪うために命を育むのですから。」


「まあ、そうとも言えるが それだけでもない。

動物も植物も 中には神の力だけでは種を残すことが難しいものたちがおる。それらも種を残すために進化を遂げている。他者や多種族の手を借りるものもおる。そして人という存在が発芽を促し効率的に育てるゆえに種を存続しておるものもある。

全てを悪と決めつける必要はない、ただ全てのものに命は宿りその命を育み命を燃やす、当たり前ではないと知っておるだけで良い。」


「有難う存じます。しかと胸に刻みます。」


4人のお茶会が常習化すると竜神レクトルが臍を曲げた。

「フェルティア、オルシィミは私の家族なのに何故 私の側ではなく他所へ行くのだ!」

素直にフェルティアは人間の食べ物が美味しくて、と漏らした。

そこでフェルティアはレクトルにもレティシアの中に入るように勧めたが 流石にスタンビーノが黙って許容することができず 結果お茶の時間スタンビーノの体をレクトルに貸すことになった。


こうして5人のお茶会もするようになった。


本来 皇太子スタンビーノは忙しい、レティシアも皇太子妃としての仕事も何も出来ていない、だが相手は神、 陛下も何も言えなかった。いや、言うどころか 国内の問題は次々解決していく。何と言っても豊穣の神と安寧の神がついているのだ 問題があるどころか何もしなくても良い方向へ向かっていく。

国王としてはこんな現状を見てしまうと、レティシア 1人の命を犠牲にすれば国の発展は間違いないと言う現実に レティシアを取り戻す事よりもスタンビーノに別の妃を迎える事を視野に入れ始めた。


国王陛下に呼び出されたスタンビーノは、陛下は水面下で新たなる妃擁立に動くように言った。

「あんまりです! 何故そのような事を言うのですか!」

「冷静になりなさい、お前は皇太子だこの国において何よりも大切なのは『竜神様』と『種の継承』それに『国民』だ、お前はその役目を放棄するつもりなのか?」

「私の妃はレティシアただ1人です! お腹には私たちの子供だって宿っているのですよ! それを見捨てるなんて出来ません!!」

「では聞くが その子が無事出産できたとして王族としての職務を全う出来るのか?」

「それは……。」

「お前は王位継承権第1位 その重責からは逃げられない。

或いは、神に願い出て王位を継げる者をもう1人作るまで猶予を頂くか…それしかない。だが、その場合もレティシアはお前の元には残らないであろう事を忘れるな。」


この国は一子相伝…しかも側室は許していない。だが今回私が拒否し陛下に新たに子供が出来たとしても私が健在のまま弟に譲位しても条件を満たす事は出来ない、つまり種をいただく事は出来ないのだ。私に移ったからには私の第1子男児が必要になる。その子が腹の中にいて男か女か分からないが、今のところオルシィミ様のものとなれば破綻してしまうのだ。

その場合 父上が言った通り 神の許しを得て 別の妃を得て子供を作るか、レティシアの体を借り受けもう1人子供を作るかだが それにフェルティア様が協力するかは不明である。


スタンビーノの気持ち的にはレティシア以外抱きたくない。それをレティシアが認めても嫌なものは嫌なのだ。

その夜 スタンビーノとレティシアが2人きりになれる時間、レティシアが眠ってからスタンビーノはレティシアの体を抱きしめ腕の中に閉じ込めてじっと見つめていた。

神殿に閉じこもっていた時は魔法で体を綺麗にしていたが、夜はスタンビーノの元で眠るようになってからはお湯にも入るようになり、レティシアのお気に入りの鈴蘭の香りが髪から漂う。その長い髪に指を通し優しくすく。白い肌を手でなぞる 安心した様にぐっすり眠っている。閉じた瞳も結ばれたぽってりとした唇も小さな鼻も長いまつ毛ももったりとした耳たぶも何もかもが愛しい。顔中にキスを落とし見つめる、愛しいと思う気持ちは沸々と湧き上がり取り止めもない。

眠っているレティシアの唇に自分の唇を重ねた。

その柔らかな感触にもっともっとと欲求が高まる。自分だけのもの、この腕の中に閉じ込めておきたい。いつの間にか首筋に唇を這わせ手慣れた調子でレティシアの服をはいでいく。滑らかな肌 指の跡に形を変える乳房 舌を這わせれば 眠っているレティシアの口から吐息が漏れる。横にしたレティシアの足の間で欲望を弾けさせる。


「レティシア、レティシア 愛している、愛している 私だけのもの 私の愛する人 どうか、どうか私の傍にいて ずっとどうかずっとこのままで。」


一晩中繰り返される言葉。

レティシアよりもスタンビーノの苦悩の方が大きいとは レティシアは知る由もなかった。



ある時 神殿内にいつもとは違う空気感が漂った。

それが何かは分からなかったが、ほのかに温かく優しく眩しく心地よい。

レティシアは前世で疲れた時に外で陽の当たるところであの雲がハンモックになったら最高だな と思っていたがそんなイメージが広がった。

ああ、小さい頃 土手でソリに乗って芝滑りしたあの頃を思い出すな。ふふ、寝そべって本を読んだり人目を気にせず大の字になって眠ったり……そう言えばそう言う場所がないわね。外で元気に遊ぶ子供は平民だけだなんて勿体無いわね。



皇太子妃との謁見を求める者たちは連日列をなしている、だが全て却下されている。

当然と言えば当然だが、皇太子妃の懐妊は国を挙げての慶事だが 未だに発表されていない。取り敢えず、体調不良とだけ伝えられている。


代々側室を持たないヴァルモア王家だが、レティシアは完璧令嬢と言われながら最初から誘拐などのケチがついていた。体調不良が伝えられるレティシア、スタンビーノにまたも側室をとの声が上がってきている。陛下と臣下から上がる声 頭の痛い問題だ。スタンビーノは深いため息を執務室の自分の机で吐いていた。



そんな折 神殿のレティシアから呼び出しがあった。中身は勿論 フェルティア様だが、一般には知られていない事だ。今日はスタンビーノも手が離せない仕事があった。

連絡をしてきた侍女に、

「すまない、すぐには行けそうもない。2時間以内に向かう様にすると伝えてくれ。」

「承知致しました。」


王宮の皇太子宮に出入りできる侍女などは基本 下級貴族や貧乏貴族の第2子以降だったりする、この事は屋敷に伝わりまた誤解を招く。

『お忙しい皇太子殿下を神殿に呼びつける役立たずで病弱な皇太子妃殿下』


レティシアは夜 皇太子宮殿に戻ってきて朝スタンビーノを送ると神殿に入り、スタンビーノも偶に参加するが昼餐の後、お茶をしてまた神殿籠る。まるで神殿が自室の様に私物化している…それが一般貴族の評価だった。



仕事に折り合いをつけて神殿に向かうと顔色の悪いレティシアが迎えてくれた。

「フェルティア様ですよね? 如何致しましたか?」

「そこへかけよ。スタンビーノよ このレティシアの顔を見てどう思う?」

「? とても顔色が悪いと思います。」

「そうであろう? レティシアは未だにレクトルに己の血を分け与えているのだ。」

「!!! そんな、レティシアは大丈夫なのでしょうか? お腹の子は問題ありませんか?」

「我はこれ以上の負担は体に良くないと思う。」

「うっうっうっ!!」

スタンビーノは胸を押さえて苦しそうに膝をついた。

「大丈夫か!? スタンビーノよ、 レクトル!レクトル来てくれ!」

「スタンビーノよ、落ち着くのだ 深呼吸するのだ。 大丈夫だ、大丈夫。」

「プハッ! ハーハーハーハー。」

スタンビーノはかなり思い詰めていた、ある日突然消えてしまうレティシアを 幸せを それを見つめるとどうしても胸がキュッと掴まれた様に苦しくなるのだ。


「スタンビーノ、レティシアの献身のお陰で私は調子を取り戻しつつある。」

虚をつかれ 呆然と竜神様を見つめた。

「そ、それはどう言う意味でございますか?」

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