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断罪後の公爵令嬢  作者: まるや
42/61

42、竜神様の家族

パレードが終わり王宮へ戻ってきた。

式典などは既に済んでいたので今回は国民へのお披露目のためのパレードだった、これで一連の儀式は全て終了となった。


竜神様に早く会わせてあげたくて気がはやる。


だが、その前にシエルの話を聞いた。

シエルから聞いたハラダーニュ国の現状は想像だにしないものだった。


リアーナの遺体が出発した馬車はグレッグたちがその動向を探っていた。それとは別にシエルはハラダーニュ国内の状況を見て回っていた。

どこも宝玉の加護は消え神罰が降っているような状況だった。生きているものは豊穣の神の怒りに触れ その命を刈り取られていった。また幼くとも安寧の神もその力をもって神罰を下し人々は歪み憎しみ合うようになっていった。今まで千年以上も続いた理想郷はあっという間に崩れ 各地で諍いが起き病気が蔓延しその勢いのまま王都も襲っていた。


国王や神官たちは災いの元と考えていた宝玉がこの地から去った事で落ち着きを取り戻すと思っていたが時限爆弾のように去った後も毎日数を増やしてバタバタと死んでいった。

だが、国王と神官長は死ななかった。

毎日毎日目の前で沢山の人々が死んでいく様をなす術もなく見ているだけ……しかも護衛も侍女や侍従も身の回りの世話をする者は死んでしまった。その大量の死体を片付ける者も自分を世話する者もいなくなっていた。国王と神官長は大量の死体に中で生きていた。



バマラーン第2王子とジャビスタ第3王子が密かに馬車で出国したと知ると、国民は『この国が滅亡するから王子たちだけ逃がしたのだ!』実しやかに広がり最早収拾がつかなくなった。

あんなにも争いごとを好まず、話し合いで解決し困っている人には手を差し伸べ信頼と協力と愛こそが全てと声高々に自慢し理想国家と謳われたハラダーニュ国の姿はどこにもなかった。全てを失くした者が 憤りをぶつけるべく誰も護衛をしていない王宮の門の前で大声を張り上げている。


「返せー! 俺の家族を返せー!!」

「補償はどうなったー!」

「医者はどこだー!」

連日門の前で声を張り上げている。

突入してしまえば最早止める人間はいない、毎日恐怖の中で狂う事もできずに怯えていた。


「王と神官長が生かされているのはより苦しみを与えるためだな。」

「あの国がそんな事になっているだなんて…。リアーナは? あっ、ごめんレティが嫌なら後で聞くけど。」

「ううん、聞きたい。」

「リアーナはレティシアとして慎ましく過ごし聖女のようだって言われていたよ。

本当の事は魔法で制限されて何も言えないだろ。

ヴァルモア王国に戻ってもハラダーニュ国にいても殺される未来しかない、だから大人しくレティシアとして振る舞ってその時を静かに待ってた。

第3王子なんて自分の婚約者よりリアーナを大切にしていたよ。生意気な第2王子も最初はリアーナに良い感情を持っていなかったけど、リアーナが命の期限があると知りながら健気に生きている姿に絆されて 2人の王子はリアーナを献身的に支えてた。


宝玉…つまり竜神様の奥様とお子様だが、最後の力を振り絞って千年後の復活を呪いにこめていたようなんだ。そして千年の時が経ち呪いが発動した。それが20年位前、徐々に覚醒していたみたい でも緩やかだった。だけどリアーナが来てその血を捧げられ早まった。

リアーナもその家族を辿ればどこかに竜神様の血統があったようで その血で急速に覚醒が早まっていった。

ハラダーニュ側は早く宝玉に元に戻って欲しくて大量の血をぶっかけてた。でも宝玉は元に戻るどころか 赤黒く禍々しさを増していった。焦った神官たちは意識のないリアーナの肉をこそげ取り捧げたりもしたが変化がない、そこでリアーナが死ぬその日か次の日には心臓を捧げるつもりだった、だけどそれより早く宝玉が脈動をし始めた…まあ神の心臓は封印が解けハラダーニュ国の思う元通りではなく、神核が本来の姿を取り戻した訳。 ハラダーニュの奴らは訳も分からず ドクンドクンと脈動するから恐ろしさのあまり葬ろうとしたけど既に自己防衛を始めた宝玉に手出しが出来ずに、このヴァルモア王国にリアーナの死体ごと押し付ける事にしたって訳。まあその際に自分たちの国の成り立ち、宝玉とは何かを知って尚更 手元には置いていけなくなり怖くてヴァルモア王国に押し付けに来たんだ。」


「はあー、凄まじい事になってるな。」

「リアーナはどうなさるの?」

「既に死んだ事になっているからね、そのまま処分になる。」

「そう…、シエル…最期は静かに逝けたのね?」

「うん、流石にプライドの高い母親と姉が牢の飯をタカリにくるのは堪えたみたいだよ。それと…レティシアより自分の方が王妃に向いているって思っていたけど、成り代わってみて危険なことばかりで現実があまりに脳内お花畑とは違ってて… それも堪えたみたい。でも、苦しまずには逝けたかな。」

「そう、有難うシエル。」

「有難うございます シエル殿。 それではこれを持って竜神様のところへ伺おう。」

「うん、上手くいくといいね。」


はやる気持ちを必死にしまい神殿へ向かった。

竜神様は横たわり寝ているのか意識がないのか こちらに気付く事はなかった。

レティシアは宝玉の入った箱を竜神様の目の前に起き そっと箱を開けた。

その箱には血の滴る心臓がドクンドクンドクンドクンと脈打っていた。そしてついいつもの癖で自分の腕を短剣で切りその血の滴る腕を竜神様の口に突っ込んだ。

「「なっ!!」」


ドクンドクンドクンドクンと脈打っていた心臓が不定期に脈打つ。ドックンドクドクドクドクドッドッドッ! それはまるで竜神様に気付け!そう言っているようだった。


静かに竜神様が目を開けた。目の前にある心臓に気づき驚愕し目を見開いた後、寂しそうな顔になった。

「フェルティア? オルシィミ?」

名前を呼ばれた心臓たちはカタカタと動き始めその箱を飛び出してシュルシュルと何かの形を取り始めた。レティシアは腕を引き抜きスタンビーノの横に戻ってくるとシエルが治療を施した。シエルはその腕を見ると悲しそうにさする。

「馬鹿…自分を傷つけるなんて。もう、痛くない?」

「うん、有難うシエル、でもねいつもは竜神様が治してくださるのよ、だから問題ないわ。」


『問題ないって…。 問題ないわけないだろ…馬鹿。』


そこにはレティシアが夢に見た竜神レクトル様の 奥様とお子様の姿があった。

だけど ちょっと違う、夢で見たお2人は清らかに輝いていたのに ここにいるお2人はなんと言うか禍々しかった。


「レクトル…会いたかったわ。」

「お父様、私を覚えていらっしゃいますか?」

「ああ? ああ… 勿論 覚えている……が、お前たちは変質してしまったのだな。」

「「変質? 変質……、変質、変質、変質、変質、変質。

アイツら人間のせい! 変質! 変質! 変質! 変質! 変質!!」」


その様子を見て 夢で見た頃の家族になるのは難しいのかも知れない…そう思った。竜神様は生きる希望をもう一度持つことが出来たのだろうか? 希望を抱かせてショックが大きくなってしまったのではないか? この心臓さえ取り戻せば全てが上手くいくと思っていた……期待が大きかっただけに落胆も大きくなった。


神々の話に口を挟む事は出来ず成り行きを見守った。



「レクトル…変質した私たちは もう家族ではないの?」

「いや、私も見ての通りこんな姿になってしまった。だが、その邪気は抜かなければならない。その邪気は私の守るこの地に災いを齎す。」

「確かに私たちの胸には仄暗い憎悪が渦巻いているわ、でも 今はそれを気に入っている。」

「フェルティア それは私の愛したあなたではない。」


ああ、私は失敗したのだ、竜神様に更なる苦痛を与えてしまう。

ごめんなさい 竜神様………


「私たちの心には愛が消えてしまったみたい。オルシィミ そう思わない?」

「はい お母様 心臓が戻ったのにここがポッカリ空いてしまったようです。」

「うふふふ なら埋めればいいわね。」


そう言うと、フェルティアはレティシアの中に入り込んだ。

「オルシィミ! ここにはもう一つ命があるわ! あなたもいらっしゃい!!」


そう言うとレティシアの体にオルシィミも入り込んだ。

「レクトル! この娘の体は清らかで居心地がいいわ。このままこの娘に宿ればオルシィミもこの娘に腹の中の命に宿れる、いい母体だわ!」

「「レティシア!」」

「お父様、お父様はお母様と私に死ねと言うの? それとも変質して美しくない神核だから出て行けって言うの? お母様と私は3人で暮らしていたあの時に戻りたい その一心で戻ってきたんだよ? もう必要ないの?」

「オルシィミ…だがその体はレティシアのものだ、私が大切にしている者だ。」

「私とオルシィミよりこの娘が大事だといーうーのー?」


「竜神様! もういいのです。私 夢の中で3人の幸せそうな家族の形が大好きでした。だからもう一度あの幸せな家族に戻してあげたかった。

スタンごめんね、竜神様のような家族になりたかった やっと温かい家庭を築けるそう思ったのも本当よ 大好き 優しくしてくれて信じさせてくれて有難う。

シエル…シエルは私にとってこの世界で1番優しい場所でレティシアを忘れられる唯一の場所だった。公爵令嬢でも妃殿下でもなくただの女の子になれた、すごく楽しかったよ。

有難う みんな大好き 幸せになってね。」

「何でだよ! 何でそんなこと言うんだよ! 子供って? 子供って何? レティ! レティ! 諦めないでくれ! 俺を置いていかないでくれよ! レティシア!!」

「ティア! ずっと一緒にいようって! 今回こそはおばあちゃんになるまで生きたいって言ってただろ! ダメだ! 何でいつもこうなるんだよ!!」

「レティシア! 俺は俺の手で幸せにしてやりたいんだよ! 頼む! 頼むから!! 諦めないでくれ!!」


「黙りなさい、我々の母体になれるのだ、喜ぶが良い。その代わりソナタのこの国には豊穣と安寧を授けてやろう。」

「竜神様!! 何故! 何故いつもレティシアばかりが犠牲になるのですか!! お願いです、私からレティシアを奪わないでください!!」

「あーー、煩い! この者は竜妃である、竜神に捧げられる生贄である。1番適した使い道であろう。」

「竜神様―――!!」

「煩い、消えよ!」


神殿からスタンビーノとシエルは締め出された。

いくら開けようとしても体あたりしても扉はびくともしない。

スタンビーノは諦めきれずに扉を開けながら慟哭を上げた。あまりの発狂ぶりに心配した護衛たちが止めようとするが、手や足の骨にヒビが入り血が飛び散っても扉から離れられずにその場から動こうとせず必死に入ろうとしていた。シエルはそっとスタンビーノを治療し入る方法を探った。


「スタンビーノ、一先ず部屋に戻ろう。俺たちにどうにか出来ることではない。」

スタンビーノはシエルを泣きながら睨みつけたが、次第に口がヒクヒクしてきて嗚咽が漏れた。シエルはスタンビーノの肩に手を置き背中をさすった。スタンビーノはそのままシエルにしがみついて声を上げて泣いている、護衛はオロオロしながらその様子を見つめた。



スタンビーノは皇太子宮に戻ってきた。

「少し落ち着いたか?」

シエルの口調は レティシアには兄弟のように砕けていたが、スタンビーノの対してはキチンと敬語を使っていた。シエルは偶に転移して近況報告をしていた。ずっとレティシアはスタンビーノの側にいるので必然的にスタンビーノともよく会っていた。

そこでレティシアとシエルの会話を聞いていて自分だけ疎外感を感じるようになり、自分に対してもその口調で話してほしいと懇願した。まあ、シエルは竜神様の鱗だからどちらが立場が上かと言えばシエルの方だ、だけどそれを説明できないのでレティシアの従者に甘んじていたのだ。最初は躊躇したがシエルは『いいって言うならじゃあ それで』そんなものだった。

スタンビーノにしても何もかもを曝け出せる相手は貴重で3人だけの秘密の関係はかなり親密だった。


「レティシア… ここ最近眠いって気づくと寝てたんだ。式典の準備で忙しいと思っていたのに…こ、子供が出来ていただなんて!! ううぅぅぅ。」

「ああ。」

安易に大丈夫だなんて言えなかった。

本当はシエルは体内に宿るもう一つの命について気づいていた。だけど、竜神様が身罷られた場合、レティシアが懸念した通り、『竜妃』として生贄に差し出される未来はないとは言えなかった。

ハラダーニュ国も宝玉の加護が失われる事を考えれば、何を犠牲にしても優先される事項である。バマラーン王子もジャビスタ王子も偽のレティシアに心酔していたが、国と天秤にかければその立場ゆえ私情を優先させる事は出来なかった。

レティシアはスタンビーノが自分をどんなに愛してくれていても、ヴァルモア王国の加護が消えてしまえばここに住める人間がいなくなるつまりヴァルモア王国が滅亡すると言う事だ、竜神様の延命に手を尽くす際に『竜妃』の役割について知る事になり、国は生贄の復活を望み、『竜妃』のタネよりまずは竜神様のお命を優先する。つまり、今回の計画が上手くいかねば子供どころかレティシアの命も保障できない状況だ、そうなった場合スタンビーノは苦しむだろう…だから出来ればスタンビーノにはせめて子供のことは知られたくないと言った、知って仕舞えばもっと苦しむ事になるから、と。


しかも状況は最悪だった。

奥様とお子様も神核の変質……レティシアの体内に入り込んだが竜神様は何も仰らなかった。やはり愛するご家族を自分の手で葬るのは難しいだろう。そうなればレティシアは……奥様とお子様の母体として喰われてしまうだろう。

だから今は大丈夫とも竜神様が何とかしてくださるとも言えなかった。


「長生きしたい…長生きして一緒に旅行に行くって うっく ふぅぅぅ。」

「ああ。」


レティシアはレティシアとしての生が終わったら、シエルと竜神様と一緒に居たいと言っていた。スタンビーノが先に逝ったらレティシアは『よぼよぼのおばあちゃんでも生贄になれるかしら?』なんて言っていた。ただの鱗なのにシエルを大切にしてくれるレティシア、人として親愛の情を寄せてくれる…そんなレティシアを心から愛している。スタンビーノと同じように唯一無二の存在なのだ。


矮小な自分たちにはなす術がない、絶望に中 戻って来ないレティシアを思って泣くことしか出来なかった。


「今はレティシアの体内には2人の神が存在する。レティシアが出産するまでが勝負だな。中の様子は今はまだ視える。逐一知らせてやるから、体力を温存しておけ。」

「ああ、分かった、有難うシエル。」

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