41、想定外
バマラーン第2王子とジャビスタ第3王子はひっそりとヴァルモア王国に入国した。
本来はバレないようにヴァルモア王国に入国したらすぐどこかに遺体と宝玉を置いてくるつもりだった…だが、美しく高潔なレティシアの事を思うとなるべく王都の王子の近くに連れて行ってあげたいと思った。誰とも知られず適当に埋葬されるのではあまりに可哀想で 申し訳なくて…、下手すればそのまま捨てられるだけだ。
知られるわけにはいかないと分かっていながら、あともう少し、もう少しと王都へと近づいていった。
ヴァルモア王国の街はどこへ行ってもお祭りモードで人々で溢れていた。
最初は丁度 祭りの時季なのだろうと思っていたがどうやらそうではないと分かった。
宿で宿泊するために降り 食事を摂っていると近くの男たちの声が聞こえる。
「実にめでてーなー!」
「ああ、全くだ。スタンビーノ王子殿下が皇太子になったし、 あとは子供ができれば最高だな!」
「違いねー。皇太子妃殿下となられたレティシア様は小さい頃から才色兼備で有名だったもんな、人前に出る事は滅多になかったらしいが、実のところご結婚されてからはかなり仲睦まじいって話しだ!」
「ああ、聞いた聞いた! 何でもお住まいになられている宮殿も分けずに生涯 妃はレティシア様ただお一人で構わないと宣言されているって?」
「ああ それとスタンビーノ皇太子殿下の執務室にレティシア様の執務机もあるって話だ。
何で知ってるかって言うと スタンビーノ皇太子殿下がレティシア妃殿下がお過ごしやすいようにと特注でご依頼なさったからとか…、かなりのアツアツって話だ!」
「いやー、ご夫婦仲が良いって話しは 聞いてるこっちも安心だーな。」
「ホントそれだ! 貴族なんて表面ばかり取り繕うものと思っていたが、先日お2人で街に降りられた時 偶然見ちまったんだけど 手を握って庶民の食べ物 しかも屋台の飯を食べさせあってた! ありゃーたまげたね!」
「それ俺も聞いたけど ホントの話だったんか? 他人の空似かと思ってたが。」
「レティ、スタンなんて呼び合って 見つめ合って 腰に手を回して うひゃー! 好きとか愛してるとか囁き合って もぅ見て要らんねーってほど仲睦まじかったよ。」
レティシア様はそれほどまでにスタンビーノ王子と仲がよかったのか… 我らはなんと罪深い事をしたのか。
「スタンビーノ皇太子殿下とレティシア皇太子妃殿下がこっちのルートで国王陛下ご夫妻がもう一方のルートだろう?」
「ああ、そう聞いてる。ああ レティシア皇太子妃殿下を一目見て目に焼き付けてーなー。」
「すんげー美人って噂だもんな 何時ごろ通るんだ?」
「あと1時間後くらいじゃねーかー?」
「じゃあちょっくら行って 良い場所とってくるわ。」
バマラーンとジャビスタは違和感を拭えなかった。
「レティシア皇太子妃殿下もご一緒の来られるのですか?」
「ん? あんた旅人かい?」
「ええ、今日ここに着いたばかりなので…どこもお祭りムードで驚いてしまって。」
「そうかい、前の国王陛下からケルスターク陛下に譲位したためスタンビーノ王子殿下が皇太子殿下になられた そのお祝いのパレードをしてるんだよ。」
「……さっき聞こえたんだが レティシア皇太子妃殿下ってのはそんなに美人なんですか?」
「ああ、それは間違いない でもニコリともしない人形みたいな人だって有名な話だ、だがお忍びで偶にお二人で街に降りられているところを見ると スタンビーノ皇太子殿下がものすごく甘やかしていて それに応えるレティシア皇太子妃殿下も蕩ける瞳で全身で『好き好きー!』って言ってるみたいでこれがえらく可愛い。」
「ああ見た見た お忍びのつもりなんだろうが なんてーか どこから見ても王子様とお姫様って感じでバレバレでな、つい目が追いかけちまう。手を繋いで見つめ合ってたりしてくすぐってーのなんの!」
「何でもずっとお妃様教育が厳しくて家と王宮以外出た事も行ったこともないらしく、暇が出来ると街を案内してるらしい。それで実際に目にされ作ってくださったのが、あそこにある病院や平民に文字や勉強を教える学校?を作ってくださった。他の貴族と違ってこれ見よがしに権力と金を使って威張り散らす奴らとは全然違う やっぱりこの国の王となるお人って感じだよなー。」
「あっ! あの! レ レティシア様は誘拐されたとかって聞いたんですけど…?」
「ああ、随分前にな。確か 卒業パーティーで誘拐されたんだよな……アレは痛ましい事件だったな。」
「ああ、でも皆が死んだって言って川を捜索するのをスタンビーノ殿下が『レティシアは生きてる!』って言って各地を探した結果 無事発見されたんだよな!
何でも大怪我を負って意識がなくて寝込まれていて気づくのが遅れたとか……、無事 殿下自らが発見され連れ帰ったって話だ、これも竜神様の加護のおかげって アレでまた竜神様の人気が爆上がりしたよな!」
「愛し合う2人の力に手をお貸しくださったってなー。」
「レティシア様が誘拐されてそれに関わったとされた家は次々異変が起きて大変だったらしいが、お戻りになられると徐々に以前の姿を取り戻されたって話だ!」
「今! 現在はレティシア皇太子妃殿下はお戻りになっているのですか? 生きてらっしゃると?」
「勿論だよ! あんたそんなに気になるならパレード見たら良いじゃないか、直接その目で確認できるさ。」
「ああ、有難う…そんなに美しい人なら是非拝みたいものだ、はは…は。」
ジャビスタ第3王子とバマラーン第2王子は愕然とし馬車で横たわる美しい人に目をやった。
どう言う事だ!? まさか…替え玉?どちらが!? いや待て、実際に結婚となると偽物と結婚は意味がない。何せレティシア様は『竜妃』なのだから偽物を『竜妃』と偽る事は考えにくい。ではここにいるレティシア様はいったい誰なのだ!?
取り敢えず この後のパレードで実際にレティシア様を見ることができると言うので自分たちの目で見て確認する事にした。
パレードの列が近づくまで焦れた。頭の中がモヤモヤする。
4頭だての白馬の馬車のオープンカーに新たに皇太子となったスタンビーノと妃のレティシアが乗り その周りには白い軍服の護衛が馬と徒歩とで50名ほど周りを囲んでいる。
一向が近づいてくると目を凝らしながらスタンビーノ皇太子殿下を見た…。
晴れやかな笑顔を国民に振り撒いている。時折 横にいる妻を気にしながら手を振っている。国民からも支持が高いらしく護衛に特別な緊張は見られない。
そして逆光で見にくかった皇太子妃レティシアに注視する その姿を凝視すると目に飛び込んできた、ロイヤルパールホワイトのドレスに金糸と銀糸で緻密で繊細な刺繍が施されパールがふんだんに散りばめられ光り輝き ティアラと共に眩しい。
だがそんな事はどうでもいい、ここにいるレティシア様と似ているのだろうか?
あちらが影武者じゃないのか!? 我が国にいた聖女のようなレティシア様が本物ではないのか!? そんな思いを抱え確認した…あっちがニセモノだろう?
………… 愕然とする 顔は似ていなかった。
いや、若干の面影はあったが 見た瞬間に馬車の上にいる方が本物と分かった…。
魂の輝きとでも呼べば良いのか、美しさも雰囲気も何もかもが圧倒的で 食堂の親父たちが言っていたように隠して隠れるものではなかった。あまり表情のない精巧な人形のようなだが 偶に視線を人々に落とすと手を振る。それを見た国民は愛想のない皇太子妃に手を合わせ拝んでいる。きっと表面的な人気取りなど必要ないのだろう…無表情がより神々しく感じる『竜妃様』そう呟いて崇めている。その目には薄らと涙まで浮かべている…聞きしに勝るカリスマ性と合わさり スタンビーノ皇太子殿下とレティシア皇太子妃殿下の人気は熱狂的だった。
偶にスタンビーノ皇太子殿下がレティシア皇太子妃殿下の手にキスを落とす すると柔らかく雪解けのような温かさで微笑まれ頬を染める。その様子に国民はまた熱狂した。あちこちで歓喜の声が上がる。
レティシア皇太子妃殿下がこちらに視線をやった。目があった気がした…すると目を見張り隣のスタンビーノ皇太子殿下に何かを話した。すると馬車が止まった。
不味いバレたのか!?
すぐにその場から離れようとしたが、2人の視線の先は私たちではなかった。
ゆらゆらと揺れながら近づく怪しげな女、周りの護衛たちに緊張感が走る、幽霊のように体を揺らし近づいたのはまさかの人物、死んだはずのレティシア様だった!!
死んだレティシア様は宝玉を抱え馬車に近づいた、近づく女に気づいた護衛は女の周りをぐるりと取り囲んでいたが 意外なことにそれをレティシア皇太子妃殿下が制した。そしてその宝玉を受け取った。その箱の中身は知るはずもないのに無警戒で手を差し出し嬉しそうに愛おしそうに受け取り、大切そうに胸に抱え涙を流した。宝玉を渡すと死んだレティシア様はその場にバタリと倒れた。
「す、既に死んでいます。」
護衛兵士が言うと人々から絶叫が飛び交った。
だがそれもすぐに止んだ。
レティシア皇太子妃殿下が胸に箱を抱いて涙を流している姿に魅入ってしまったからだ。その慈愛に満ちた表情に目の前の死体のことなど記憶の彼方に追いやった。
人々は目の前で人が死んだ事などなかったかのように忘れ熱心にレティシア皇太子妃殿下を見つめ、感動し同じように涙を流した。
スタンビーノ皇太子殿下はすぐさま収拾を図りあまり騒ぎにならなかった。
予定は詰まっているので箱はレティシア皇太子妃殿下の膝の上に乗ったままパレードは継続され目の前を過ぎていった。
バマラーン第2王子とジャビスタ第3王子は戸惑っていた、死んだレティシアはそう確かに死んでいたのだ! ハラダーニュ国の医官が確認しただけではない、冷たくなりその手や顔に触れた2人には目の前で動いていた女が生きてはいないと知っている。しかもここまで到着するまで食事もましてや排泄も何もしていない、間違いなく死んでいたのだ!
それが動いていた!! しかも宝玉を本物のレティシア皇太子妃殿下に手渡した…それを妃殿下は喜んでいた? 普通では考えられないが、無理やり考えるならば…魔法或いは 宝玉が死体を使って妃殿下の元へと運ばせたのだ。何故!? 何のために!? 本物のレティシア様は中身をご存知だったのか!?
魔法は元々ある世界だが今は一部の者しか使えない貴重なスキルだ。
ハラダーニュ国では千年前に天才と呼ばれた存在がいたが、現在に至っては宮廷魔導士の中にも魔法を使える者は殆どいない。きっとそれはここヴァルモア国でも同じようなものだろう。そう考えるならば、偽のレティシア様を動かしていたのはやはり宝玉なのだ。
危険なのものをこの国に持ち込んだ事が今更ながらに怖くなった。
自国を救うために 女性を誘拐し、自国を救うために 危険な宝玉を他国に押し付けたのだ。千年前の先祖が自国を守るために行った神殺しを軽蔑したがやはり血は争えない、結局大義名分を掲げて同じ事をしている。
しかしあの聖女のようなレティシア様は一体誰だったのだろう?
何故レティシア様として誘拐されてきたのか……分からないことばかりだ。
ハラダーニュ国を出国するとき通った街並みは崩壊が進んでいた。
どうにも出来ない自分が歯痒く情けなく目を伏せてレティシア様と宝玉を運んできた。
果たして戻った時 少しは落ち着きを取り戻しているのだろうか?
この喜びで溢れたヴァルモア国は今後 私たちが最後に目にした悍ましい光景に変わり果てる事になるのだろうか?
自分たちの罪深さに憤る。後悔しても最早後戻りは出来ない。
聖女のようなレティシア様……貴方が誰かは分からない、だけど間違いなく貴方は素晴らしい方だった。貴方をこのヴァルモア国に連れてくる事ができました。
本当なら生きている状態でお返ししたかった、若い貴方の人生を奪ってしまい申し訳ありませんでした。兵士たちの手によって回収された偽物のレティシア様…どうか、貴方の家族の元に帰れますようお祈り申し上げます。
ハラダーニュ国の王子2人は自国に帰るために静かに馬車を走らせ始めた。
「レティそれは何?」
「竜神様のご家族です。中で脈動しています。」
「何だって!? では心臓? 神核って事!?」
「はい、私の中の種と共鳴しています。」
「パレードが終わったらすぐに向かおう!」
「はい、これで竜神様の体調が戻れば良いのですが。」
「ああ、でも向こうからやって来てくれるとはね。一緒にいたのは?」
「あれはねー、ハラダーニュ国の第2王子と第3王子だよ。」
姿は見えないけど声が耳元で聞こえる。
「シエルね!お帰りなさい!!」
「おっとティア ちゃんと前見ててね、1人で話す変な人になっちゃうから。
ただいまティア、随分疲れているようだけど大丈夫?」
「うん…シエルは? シエルには変化はない?」
「んー、まあ。俺はもう切り離されているからね。」
「シエル殿 お帰りなさい。ハラダーニュ国へ行っていたとか…いかがでしたか?」
「あー、ハラダーニュ国はもうすぐ滅びるかもね。」
「はっ!? どう言う事ですか!?」
「まあ……、顔、 顔が崩れていますよ? 後どれくらい?」
「あと20分くらいです。」
「そっ、じゃあその時にゆっくり。」
そう言うとシエルは消えたようだ。とんだ爆弾を落としていったものだ。
その後のパレードは気もそぞろになった。




