34、報告書
テレーズはアスカ商会のパパ ホリイク・タキトーか息子 ジョアン・タキトーかで迷いに迷っていた。どちらにしてもちゃんと情報収集。
ジョアンはテレーズより3つうえの21歳、パパ ホリイクは64歳、ママ モーラン42歳 他にも兄弟がいそうだけど…? 仲良し家族って感じ。やっぱりジョアンかなぁ〜?
若いし あのラブラブ夫婦には割り込めない気がするし…。でもパパは歳食っている分早く死んでくれるから自由なお金が早く手に入る……うぅぅぅ。
よし 決めた!! ジョアンにする! よーし絶対落としてやる!!
そして着実に距離を詰めていった。
「ジョアンー!」
「テレーズ、ほら 走ったら危ないよ。」
「うふふ 有難うジョアン。」
無邪気さを全面にだす。
「そうだ、頼まれていた件だけど 父さんに話したら 王宮の掃除婦なら入れそうだけどどうする?」
「うわぁー! 本当!? 流石ジョアンね!! 有難う!お願いします!!」
「役に立てて良かった。でもテレーズは字も書けるし所作も綺麗だったし王宮の侍女も褒めてたって言ってたよ。テレーズが頑張った甲斐があったね。」
「有難う えへへ 良かったぁ〜。母さん探すのにも生活はしていかないといけないからね。」
「偉いなテレーズは。」
「そんな事ないわ。ジョアンの方が凄い! いつだってみんなに優しくしてくれる。それって常に周りに気を配って些細な変化にも気づけるようにしているからでしょう?
意識的でも無意識でも他人にそんなに気を配れる人はそうはいないわ。それに気づいても手を差し伸べられる人は滅多にいないわ、素晴らしい人柄ね。
ジョアンは根っから良い人なのね!」
「そんな風に言ってもらえるなんて…恥ずかしいな。」
互いに見つめ合って笑い合って手が触れただけでドキドキして……。
ヒャッホーーーい 順調! 順調! 天使のテレーズにかかればこんなもんよ!
「ジョアンみたいな素敵な人…、 ジョアンって女の子にモテるでしょう?」
「テレーズ…そ、そんなモテないよ。」
「真っ赤になって可愛い。あー、どれをとってもジョアンったらモテる要因しかない!
はぁー、私なんかじゃ割り込む隙間ないのかなぁ〜。むぅぅぅ。」
「テレーズ! も、もしかして僕のこと? えっ? 本当? 君みたいな可愛い子が本当に僕を? 信じられないな……。」
「ひっくひっく なんで私だと信じられないの? ごめんなさい…迷惑よね。 ひっくひっく ごめんなさい、ワガママは言わないわ。でももう少しだけ好きでいさせて? 心の奥にしまうにはジョアンの存在が大きすぎて……。」
「テレーズ! ぼ、僕もテレーズの事 可愛いって思っているよ。」
「えっ? それって本当?」
「うん。 テレーズも僕の事好きって本当?」
「うん ジョアンの事 いつに間にか考えちゃう、そこにジョアンはいないのに 別の優しい人見ても、優しい笑顔を見ても、照れて恥ずかしそうに笑うのを見ても…いつの間にか私にはジョアンに見えちゃう… やだ、恥ずかしい!
でも 信じて? 私の胸を占めているのはいつだってジョアンだよ。」
「僕は意識しないようにしてたんだ、だってこんな可愛い子が僕を好きになってくれるなんて思わなかったから…でも これからは気持ちを隠さなくても良いんだね。」
こうして順調に交際がスタートした。
んーーー、上手くアスカ商会の次期社長夫人に収まれるなら別に王宮に行く必要はない!? でもお金はいくらあってもいいし…もっと大物ゲットできるかも知れないしね、コネは多い方がいいわよね!! それに情報収集も必要だしね。
「そうだ! 新たな陛下の即位に伴い臨時の使用人を雇うそうだよ? 臨時の雇用だから割のいい仕事だって言ってた。それも受けてみたら?」
「…うん、そうだね 教えてくれてありがとう!!」
あー でもレティシアからテレーズにヒロインを取り戻さないと! ヒロインは誰がなんと言おうとも私なんだから!!
テレーズはジョアンに頼んで臨時の使用人も登録しに行った。
「んんー。」
「起きたの? レティ。」
「うん おはようスタン。」
胸に顔を擦り寄せまだ目を開けない。
「ふふ くすぐったい。 今日の予定は?」
「んーーー、今日は何だったかなー? でも全部キャンセルーーー。」
「ん? どうした? 具合悪い?」
「ううん でも今日はスタンから離れたくない。」
「そうなの? 都合がつくならそれでも良いと思うよ。ちゅう 一緒にいようね。」
「うん そうする。」
そうは言ったものの 本当にレティシアはべったりスタンビーノにくっついていた。
執務室でスタンビーノの膝に座って胸にへばりついている。
その距離感ちょっとおかしくないですか〜??
ここ執務室ですしー、あなた達以外にもここに人がいるしー、イチャつくなら ここじゃなくても〜、ねぇ?
「スタン この報告書おかしいみたい。」
「どこが?」
「このあいだね。」
こしょこしょこしょ
「ああ、そうなんだ。うん、分かった。 ギルバート これはニセの報告書みたいだ。
まあ 通常のものを数字だけ変えたとかね、もう一度確認させて。」
「はい、……確認してみます。」
「それから これもおかしいみたい。」
「これは何?」
こしょこしょこしょ
「本当に? わぉ 凄いな……。 これも調査をし直させろ。」
「えっ? はい、承知致しました。」
「失礼致します。」
「バスキア卿 どうした、」
「こちらにレティシア様がいらっしゃると伺ったので。レティシア様 報告書が届きました。」
「有難う ハッサン。」
「何の報告書?」
「きっとシエルだわ。待っていたモノだと思うの。」
おや、 目が真剣になった。 ふぅう。
「見せてくれる?」
「勿論 どうぞ旦那様 ちゅう。」
レティシアは無意識にスタンビーノにキスをして胸の中に収まってしまった。
ああ、もう殿下……少しは遠慮するように教えてください。
レティシア妃殿下が可愛すぎて仕事に集中できませーん!
報告書を机に置くと…顔を上げた。
「リアーナはハラダーニュ国で国賓として扱われ神殿に入った…か。」
「本当ですか!? まだシャドウからは連絡がきていませんが!?」
「ねえレティ どう考えているの?」
「恐らく宝玉の側に置いて変化があるかを試すためでしょう…つまりこのやり方は確証がない、方法が分かっているならそんな手は取らないでしょうから……。」
「そう だね。だが上手くいかなければ次の方法を試すつもりだね?」
「そうなると思います。まあ段階は踏むでしょうが。
そしていずれ偽物だったと気づき また狙いに来るかもしれません。それとも焦りから……、向こうから来てくれるかもしれませんね。」
「レティどう言う意味?」
こしょこしょこしょこしょ
「レティ、危ないじゃないか! レティの周りの警戒を強めて。」
膝の上のレティシアをギュッと抱きしめた。
きっとこうしてくっついているのも訳があるのだろう……言えない分 こうして伝えている気がする。
それからもレティシアはずっとスタンビーノにくっついたままだった。それこそ軍部の訓練にもついてきたので、みんな反応に困った。無表情の完璧令嬢が無表情のまま常にスタンビーノ王子殿下に付き従っている ラブラブ蜜月夫婦と言うより軍師として付き従っているようだった。美しく鋭い氷のようで皆 気が引き締まる。
『おい、何で軍事練習にまで完璧令嬢がついてきてるんだ?』
『知らねーよ。』
『今後はこの軍部にも完璧令嬢が介入するってことか!?』
『それにしても すげー数の護衛の量だなぁー。何? あれって見せつけるために連れてきてる訳?』
『さあな、にしても 綺麗だけど……怖いな。』
『ああ、確かに あんな女房じゃ全然休まらねーな。』
『違いねー。勃つもんも勃たねーな。 あなたもっとしっかり勃ててください! なんて言われたら シュンとするってか?』
『くっくっく、王子はどうなんだろうな?』
『そりゃ、公務ですから頑張ります! でしょう。』
『ぶふふふ。』
下級兵士の陰口が聞こえる。
おーまーえーらーーー! 聞こえてるっつーんだよ!
レティシアの護衛たちは無駄口をきく兵士たちを睨みつける。
その後訓練が始まって男たちの血と汗がぶつかり合う生臭い戦いが始まった。
こんな状況 普通の令嬢は悲鳴をあげて目を伏せる。でもレティシアはじっと前を向いたまま微動だにしない。
「ハッサン、書くものを頂戴。」
「はい、こちらで宜しいでしょうか?」
「有難う。」
相変わらずの無表情、口調も端的 無駄がない 氷の令嬢のまま、指示を出す。
レティシア様は軍事練習を見つめたまま手元の紙にメモを取っていく。その行動を見た兵士たちはいつも以上に訓練に身を入れた。いつも以上の緊張感が続く。
レティシアはと言えば……、
サンダール地方のシーバルで模様のついた布?を作る。 軽いかな? 重いかな?
染色で何色が出来る…? どの位の色が出来る? 発色のいいものがいいな? 組み紐? はた織り? 公式行事で着るなら何に加工したほうがいい? あっ! スタンとお出かけ ここ二重丸 んーーー、何かあったかなぁ〜? いっそデート?
染色、染色…! あっ キチュネ! 大甲虫 まゆ玉! あー、でも遠くて取りに行けないかぁ〜。 あと毒抜きが必要なんだっけ?
トントントントン
紙を無意識に叩いていると、
「どうしたの?」
手元の紙を覗き込む。レティシアはスタンビーノに隠し事をしないと言った通り今は何でも話してくれる。だからスタンビーノも遠慮なく覗き込む。
だけど2人とも無表情…兵士たちは震え上がっている。
「何これ? 欲しいの?」
「欲しいと言うか…サンダール地方で町おこし? 今のままだと廃れていってしまうなぁ〜、と思って 何かできないかな?って思ったの。
ソトマウラ国に行った時 タッタン織りと言うものがあったの、それが王家の結婚式で数時間着ただけで今はブランド価値のついた一大産業になっていたの。それを利用してみようかな?って。
でもね、その後 取り仕切る人間もいなかったから何もしなかったら『タッタン織り』の名前だけ一人歩きしちゃって町の住民も『タッタン織り』の名前を使って沢山の加工品を作ってその価値を下げてしまっていたの、 折角作ったブランドとしての価値を守るために一定の基準を設ける必要があると思うの それにはある程度の介入が必要だと思うのだけれどね。」
「なるほどね。 でも国内で何故 サンダールなの?」
「立地的に良いと言うのもあるけど……、カーライル公爵家は その色々あったでしょう? 以前のようになるにはまだ時間がかかると思うの。でもそこに住む民たちには生活がある、少し助けになるかと思うの。」
「レティ……危害を加えたものにまで優しいね。」
「巻き込まれたのは民の方よ? 彼らこそ被害者だわ。」
「ふぅ、私に出来る事はある?」
「有難う、まだ構想だけで何もカタチに出来ていないから もう少し熟考してお願するかも、その時はお願いね。」
「ん、分かった。」
周りで聞いている側近、護衛はホッコリしている。
だけど、レティシアは無表情のまま、兵士たちは降格されたら!と戦々恐々としていた。
「それでは帰ろうか、騎士団長、 最近も他国に侵入された……あれは仕方ないとしても今後は無いようにしっかりと管理してくれる? そのうちにまたやって来そうな雰囲気がある 気を引き締めてね、きっとあちらは目的を遂げるまでは諦めないだろうから。」
「承知致しました。」
騎士団長もレティシアを狙った賊が侵入し身代わりを攫っていった事は知っている。
その表情は固い…兵士たちからは話の内容は聞こえない…表情を読むだけだ。騎士団長は厳しい叱責を受けたかのように表情を強ばらせている、兵士たちは心穏やかではいられない。
ところが話が終わるとスタンビーノ王子殿下が差し出した手に嬉しそうに手を添える 心からの笑顔を浮かべたレティシアがいた、レティシアの笑顔を見た兵士たちはその優しそうな笑顔のギャップに釘付けになり、密かに憧れを抱いた。




