28、ハラダーニュ国
ハラダーニュ国はヴァルモア王国の2つ隣の国になる。
『ルドゥドワ女神』を信仰し、温暖な気候で作物が良く実り近隣諸国とも活発に国交を結び国の財政も豊かな活気にあふれた魅力の多い国のため、他国からよく狙われる国でもあった。
だが、国が安定していて兵力も手厚い補償がされており国に対する忠誠心も厚い、自国を守ると言う自尊心も愛国心も強い とてもお手本にしたい模範的な国であった。
『ルドゥドワ女神』を祀るセグルド教は 国教にもなっており、国をあげて 今の生活があるのは女神様のお陰と常に感謝を忘れなかった。国民性は穏やかでお人好し、普通であればとっくに近隣諸国に食い物にされているところだろうが、結束し憲兵の中に相談係を設置し民の暮らしに寄り添い困った事を相談できる体制を作ったりして国を挙げて国民を守っている。
普通の憲兵は『金を騙し取られた』と訴えても高位貴族からの訴えでもなければ取り合ってもくれない。だが、このハラダーニュ国の相談係では両方から話を聞いて捜査してどちらの言い分が正しいのか 耳を傾け解決してくれるのだ。決して権力者だけの見方をするわけではないと 信じられる役人たち だから国民は安心して何でも相談し、またこの国を皆が守るため治安も良かった。
敵国に踏み込まれた時も国民が一丸となって愛すべき国のために戦い、このハラダーニュ国を守った。
国の根幹を守る近衛騎士の中に『ルドゥドワ女神』の名を頂く『ルディ団』と言う騎士のエリート集団がおり、身分に関係なく純粋に力を示した者が名乗れる事も人気の一翼を担っていた。
優秀な者しか入団出来ない『ルディ団』は入団出来ただけで英雄並みに人気が高い。
全兵士たちは日々研鑽を積み『ルディ団』の一員になれる様努力している。
セグルド教も通常は偽善で終わってしまったり権力と裏で繋がっていて、弱い民を食い物にしたりするのだが、国力があるので食べ物に困った事がない。
国民は自分のところの作物を少しずつ教会に持ち寄り、豊作を感謝しお裾分けをする。
故に教会も人々からの寄付で賄う事ができる。
勿論、商売に失敗した者、子を捨てた者たちもいない訳ではない。
だが、そう言った者たちも教会や国の支援を受けて自立し、その後はそう言った自分と同じ境遇の者の手助けなどをしていたりする。
だから近隣諸国からはこのハラダーニュ国への移住希望者が後を絶たない。
金を掴ませて国籍を買いたがる者も多いが、あまりに多いため現在は国に管理されていて最近は移住を受けていない現状である。
そこで輸出入に強いマードック商会に頼み事をしてくる者も多い。
マードック商会とは国内最大の卸問屋で輸出入でかなり儲けている。
だが儲けてもいるが孤児を引き取り従業員にするなど、慈善活動も行っている。怪我をした兵士たちの再就職先にもなっていたりと評判もいい。
だからこちらにも商売の話だけではなく国内の貴族や役人と懇意になりたい者たちが押し寄せる、それでも金で動く様な者はいない。
ハラダーニュ国の政策 困窮しない生活の保障は人々に余裕と信念と正義を持たせていた。
近隣諸国の王族との縁組も毎回持ち上がる。
より良い条件でハラダーニュ国から食糧支援や輸出入のいい条件を引き出すためだ。
だが、こちらも殆ど縁を結ぶこともない。
自他ともにこのハラダーニュ国が1番豊かで幸せな国と自負しているためと言われているが、かつて王女が隣国 コードラス国へ嫁いだ事はあったがやはり水が合わなかったのか暫くすると弱って死んでしまったらしい。それを人々は女神様の加護が届かなかったから…と言った。本当かどうか分からないがそれ以来王族が他国へ嫁ぐ事は無くなったらしい。
寛容でおおらかな民族だが一部閉鎖的な一面も持ち合わせていた。
スタンビーノはレティシアがハラダーニュ国の何に興味を示しているのか明確に知りたかった。ここ最近の執着はどう考えても ちょっと旅に行きたいとか、ハラダーニュ国と懇意にしたいと言うレベルではなかった。いつの間にかレティシアは独自にルートを持ったらしくそっちからも詳しい情報を得ているらしいのだ。今までは基本的にレティシアが報告を受ける内容はスタンビーノにも入っていたので把握ができていたのだが、独自のルートを持った事によりスタンビーノが把握できない情報に不安を感じていたのだ。
レティシアはスタンビーノの宮にも自室がある。
やはり覚えるべきことも やらなければならないこともあるので新たに作ったのだ。
深夜 レティシアの自室にレティシアを探してやって来たスタンビーノ……。
部屋に入ると薄明かりがついており、レティシアは机の上に突っ伏して寝ていた。
もう、また無理して……。
部屋を見回し、机の上の資料に目を通す。
件のハラダーニュ国について調べさせた資料だった。
そこにはハラダーニュ国の成り立ち、ルドゥドワ女神、セグルド教についての…それらに関する事ばかりが記載されていた。
どう言う事だ? これはやはり旅や商売に興味がある訳ではない…成り立ち?
気にしたこともなかったが……我が国とかなり近い…のだな。ん? ルドゥドワ女神…ほう、この国は素晴らしいな…確かに興味深い国だ。
レティは私と造る国について考えてくれていただけ? 私の考えすぎ…か?
「レティ、こんなところで寝ては風邪をひくよ ふふ。」
揺り動かした体は腕が制御の効かない縄のようにダランと下へ落ちた。
薄明かりで気づかなかったが レティシアの顔色は血の気を失い真っ青だった。
スタンビーノは背筋に冷たいものが走った。
「レティシア! レティシア!! おい! どうしたのだ!! レティシア!」
呼びかけても何も答えない。
額に手を当てて熱があるのか確認したが寧ろ冷たくより不安になった。
「誰か! 誰か!!」
「どうなさったのですか!?」
「レティシアの意識がないのだ! 医官をすぐに連れてくるのだ!」
「レティシア様が!? はい、ただいま!」
スタンビーノはレティシア抱き上げてベッドへ運び、何度もレティシアに呼びかける。
だが反応はない。
不安で胸が潰れそうだった。
またレティシアを昔のように突然失うような事があったら…と思うと 今にも泣き叫びそうだった。誰か助けてくれ! 私からレティシアを奪わないでくれ!!
必死に理性をかき集めて何とか最低限の平静なフリを保った。
医官の見立てでもどこが悪いとは分からなかったが、かなり衰弱していることだけしか分からなかった。
何の手立てもない……焦りからレティシアの手を握り額をつける。
「レティ、レティ 私を1人にしないで…。」
別室に医官や護衛や侍女は隣に下げられ 2人きりになったスタンビーノは、無力感に襲われていた。
レティシアは『勉強することしか許されなかったから』そう言っては 自分に出来ることを真面目に取り組んでいた。
ふっ、ほんと真面目すぎるほど真面目だった…私は劣等感から そんなレティシアをライバル視してムキになっていた、私がレティシアに対する見方を変えたら違う人間に見えるようになった…何でもそつなくこなすクセに人間関係には不器用で 甘えるのが苦手な優しい女性。……レティシアは昔も今も変わっていないのだ、私が変わったのだ。
レティシアは私に嘘をついたことも……ない。
……………レティシアの言葉は・・・言えないこともあるだろうが いつだって真っ直ぐだった。そう 彼女はとても完璧人間に見えて実は不器用な人間だ、私に向ける眼差しは温かく嘘がない。そう、私に対してはいつも真実を伝えてくれていた。
よく見せよう、とか裏で画策するとかそんな事はない。取り繕った嘘なんてつかない。
なんだ!? 何かが引っかかる…ここ最近忙しくてちゃんと会えていなかったし抱き合うこともなかったが態度に違和感もなかった、レティシアから会いに来た事があった……そうだ!『充電させて!』だ!!
もしあれが 言葉通りの意味なのだとしたら?
ちゃんと思い出せ!! あの時なんてレティシアは言っていた!?
『神殿に行く暇もなくて、だからスタン充電させて』!!! そうだ 彼女はそう言った。
スタンビーノはレティシア抱き起こしギュッと抱きしめた。
「レティ、目を覚まして!!」
腕の中で力なく青い顔のレティシアを抱きしめていたが、
『そうだ、竜神様! 竜神様にレティシアを助けて頂こう!!』
そのまま抱き上げると
「神殿へ行く。」
そう言って歩き出した。スタンビーノにはなんとなく予感があった。
この選択は間違いではないと………。
神殿の扉を開けさせると、断りもなく真っ直ぐ竜神様の元へと急ぐ。
「竜神様! 竜神様! レティシアをお助けください!!」
神に願いを乞う際は対価が必要……、だがもう何も考えられなかった。
シーーーーーーーン
「りゅ、竜神様? どうなさったのですか? 何故 何もお答えにならないのですか?」
目の前の竜神様は横たわり何も答えない。
スタンビーノは唯一の頼みの綱でありこの国の守り神が動かない事を受け止められない。
ここに声を出して誰かを呼ぶ事も 助ける医者も意味がない事も理解していた。
呆然とそこにレティシアを抱いたままへたり込んだ。
そこにどのくらいいたのか布団に包まれたレティシアは温かかった。
その温もりに縋った。
ん!? 温かい! そうだレティシアは死んでいない。
「レティ! レティ!!」
「ん………、スタン?」
「レティ!!」
スタンビーノはこの意識を逃さないように必死で抱きしめた。
「レティ、レティ、レティ………良かった 目覚めてくれたんだね。」
「レティシアは意識を失っていたのか?」
「竜神様! お、お目覚めですか!? 何ともないのですか!?」
「そうか、レティシアの意識が戻らず心配してここに連れてきたものの私の意識までないから ソナタは放心していたのだな? それはすまなかった この通り大丈夫だ。」
「竜神様…、レティシアは竜神様にお会いでかなかったり私に会えないと 死んでしまうのですか?」
スタンビーノの声は酷く頼りなく不躾だけど確証が欲しくて本音が漏れてしまった。
「ふー もう隠せないな、レティシアは私と強く同調してしまうらしい。
レティシア……もう動けるか?」
「はい、もう大丈夫です。スタンが一緒にいてくれたし竜神様の傍に連れてきてくれたので。」
「スタンビーノ、レティシアはソナタに隠し事をしていたのではない。私に関することゆえ口に出来なかっただけだ。
レティシアよ、これ以上はスタンビーノの心が壊れてしまう、話してやるが良い。
周りの者も心配しておるようだ、一先ず皆の元へ帰ってやりなさい。」
「はい、竜神様………また来ますね。」
「ああ、待っている。」
スタンビーノは竜神様に礼を言い、レティシアを抱き上げてまた部屋に戻って行った。
レティシアの護衛たちもスタンビーノの腕の中で目を覚ましているレティシアを見て咽び泣いて喜んだ。
「レティシア様…ご無事で何よりです。レティシア様…我々に出来る事は 何かございませんか?」
護衛たちの死にそうな声に反しレティシアの声はひどく明るい。
「うーーん そうね 皆 心配かけてごめんなさい。夜も遅いわ…皆 戻って休んでちょうだい。 私もスタンとゆっくり今日は休むから。」
「はい……。」
落ち込んだ顔はますます固くなった。
「ふふ 皆どうしたの? 明日になったらまた護衛をお願いね。 頼れる事はお願いもする ただ今は夜だから…休みたいだけよ、今は頭が働かなくてごめんなさい 元気になったら考えるね。」
護衛たちはハッとした顔になってから
「今日はもうゆっくり休んでください。」
「ん、そうする。またね。」
そう言うとスタンビーノの腕の中に 亀が甲羅に戻るように首をすくめ安心して目を閉じた。本当は今まで気を失っていたわけだから眠いわけではないけど、それが精一杯だった。
そんなレティシアの額にキスを贈る。
「まあ もう大丈夫みたいだから通常通りに戻ってくれ。」
スタンビーノの宮殿へ戻っていった。




