25、泥棒
テレーズはグレッグの元へ向かった。
一般兵にはちゃんとした休憩などない 整った環境などないのだ、訓練訓練でヘトヘトになり僅かな休憩時間を自分で作り出しては食事を詰め込み少しでも休息を取らねば体が保たないのだ、呼び出されたグレッグは迷惑そうに出てきた。
「用件はなんだ?」
「ねえ、聞いた? レティシア・マルセーヌが生きていたのよ!」
「それが何だ?」
「何よ! 私たちってあの女を殺した罪で平民に落とされたんでしょう? 生きているのなら貴族に戻して貰おうよ!!」
グレッグは無表情のまま聞いていた。
「テレーズは悪魔のような残虐な女でその上馬鹿だったんだな。
悪いがお前に2度と関わる気はない、帰ってくれ。」
踵を返し帰って行ってしまう。
「ちょ、ちょっと待ってよ! あなた貴族に戻りたくないの? 騎士を目指してたんでしょう? 平民じゃ騎士なんてなれないのよ!?」
「私の将来に構わなくていい。 ふぅー、昔のよしみで忠告してやる。
お前は罪を犯した、何の罪もない一人の女性にあらぬ罪を被せニセの断罪でお立場を奪い、誘拐し、殺害を目論んだ…お前は例えレティシア様が生きていようといまいと犯罪者だ、死罪に処されるところを苦しみを与えるためにこうして生かされているのだ。
身を慎み謙虚に生きよ、そうしなければお前を待っているの結局『死』のみだ。
生きていたと思うならば 余計な事を考えるのをやめよ、もがけばもがくほどお前は手にしていたものを失うであろう。」
「なによ、それ。 昔のグレッグは本物の騎士だった! 今のあなたとは大違いよ! 困っている女の子には手を差し伸べてくれる本物の騎士だった!!」
テレーズの叫びは届かずグレッグは戻って行ってしまった。
だって レティシアは悪役令嬢でバッドエンドは確定事項だった。だから仕方ないのにどうして私を責めるの!? ヒロインは幸せになれるものでしょう?
何よ! アシュトンもグレッグもホント使えない!! ムーカーつーくー!!
グレッグと別れて街を歩いているとダンビル男爵夫人を見かけた。義母のお腹が大きいのだ! どう言う事!? だって、だってお父様との間に子供ができないから私を引き取ったのよね? どうなっているの?
聞き込みをすると、やはりお父様との間に出来た子供だと言う。
私が家を追い出された後、お義母様がよく効く薬をお父様に飲ませたところ目覚ましい効果があったらしく無事に子供ができたと言うのだ!今は大きなお腹を自慢して歩いていると言う。
それって… 私がの罪が許されたとしても戻る場所はないって事なの!? 男爵家の財産は手に入らない? 最悪金を持っている男と結婚して男爵夫人としての悠々自適生活は?
私は一人ぽっちになるって事? やだよ、寂しいよ。 死にたくないよ。
……お義母様のお腹の子は私の妹か弟なのかな?
実際は義母が父親に飲ませた薬はただの胃薬。
父親のダンビル男爵は子供ができないのをいいことに慎むどころか相変わらず若い女を漁っていた。妻も抱いていたが好き放題していたのだ。
ダンビル男爵夫人も 正直 使用人の腹から生まれた子供を引き取るのは腑が煮えくりかえるほど激怒していた。でもあの時点ではいい手が思いつかず 呆気に取られている間にテレーズを引き取らなければならない状況になってしまった。
腹いせに見目のいい愛想の良い贔屓の店主と懇意になって何度か情を交わした。
するとあんなに頑張っても出来なかった子供が出来たのだ!! そこでダンビル男爵にはよく効く薬と偽って胃薬を飲ませ その後子供が出来たことにしたのだ。
所謂 托卵案件。妻に本当の病名も告げていないのに妻が持ってきたその薬が効いたなど良く納得できたものだ本当におめでたい。
諦めていた待望の子供ができダンビル男爵は大喜び、男爵夫人は自分の子供を後継に据えられるのだ、2人とも毎日がハッピーになりテレーズの事など忘却の彼方へやってしまった。
男爵も治ったつもりになってハッピー。ダンビル男爵家は今 春の宴の様な日々が続いていた。勿論 真相を知る者は男爵夫人以外一人もいなかった。
今 初めてテレーズは孤独の本当の意味を知った。
ここにいるのに誰の視界にも入らない事が怖くなった。
どうして私はヒロインなのに…お義母様に子供が出来てしまったら物語が変わって2度と元に戻れなくなっちゃう。男爵家令嬢テレーズが永久に消えてしまう。
誰にも必要とされなくなっちゃう。
どうして乙女ゲーム通りに行かなかったの?
私のせいなの? 何を間違えたの? この先どうしたらいいの?
蹲って動けなくなってしまった。
シナリオがないとどうして良いか分からないよぉぉぉぉ!!
筆頭侍女頭としてリアーナは好き放題していた。
レティシア妃殿下はスタンビーノ王子殿下の元へ行ったきりこちらの宮殿へ戻る事はない。
ドレスや何か必要な物は侍女のパメラが調整をする。まあリアーナの役割りはこの宮殿に勤める者たちの管理と統率、それから外部の身分で我を通そうとする者たちの盾になる事。
レティシアったらお茶会も夜会も殆ど出ない。
もっとバンバンお茶会とか開いてくれれば貢物が増えるのに!
そう、レティシアは人前にあまり出ないため少しでもお近づきになりたい人間から 貢物が日々届く。それを物色して気に入ったものを着服しているのだ。
レティシアは貢物に執着がないので リストを渡して確認するだけ…だから見つかる事はない。
レティシアの謁見は滅多に許可される事はない、何故ならいつもスタンビーノ王子殿下が同行されるからだ、王子殿下の予定と合わないものは全て却下。
後は王妃様と皇太子妃殿下とご一緒に参加されるもの、こちらはスタンビーノ王子殿下がいらっしゃらなくてもご一緒に参加される。
王族としての務めもこなす。
レティシアが王族に馴染み仕事が増えるとスタンビーノ王子殿下と一緒にいる事が以前ほど取れなくなった。(夜は勿論一緒にいる)
そこでスタンビーノ王子殿下はレティシアに側近をつけることにした。
本来であればこれをリアーナが担う筈だったのだが、レティシア妃殿下宮から出て来ず役に立たないので、身の回りの事はパメラ、仕事上の事は別の者を、更に護衛も別についている…2度とレティシアを危険な目に遭わせないと言う強い決意が見える。
名前は ハッサン・バスキア 24歳 バスキア侯爵家の3男 因みに既婚者。
レティシアの後ろにはハッサンとパメラ、エヴァン隊長とクレイブとロジャーが基本常に付き従う。
レティシアは仕事が早いので(勿論スタンビーノ王子のお手伝いだけではない)一人でも問題なかったが、スケジュールの確認など仕事の把握、近づいてきた者なども全てハッサンが管理している。
「妃殿下、次のペンドール伯爵との謁見まで40分ほどお時間がございますが如何致しますか? 王子殿下のところへ向かわれますか?」
「そう…ね、私の宮に行くわ、確かペンドール伯爵から先日贈られた物があったと思うの。
きっと今日はその話だと思うから。」
「承知致しました。」
久しぶりに自分の宮に足を踏み入れた。
そこは驚く光景が広がっていた。
リアーナがレティシアの居室でレティシアのドレス・宝石・靴を身に纏い料理人に料理を作らせ食べながら 着せ替えファッションショーを1人で行っていたのだ。
「ちょっと、誰に断りを入れて勝手に扉を開けたのよ! それよりお酒はまだなの!」
いい感じですほろ酔いのリアーナは相手を確認もせずに言い放ち、気怠そうに振り返った先にいたのがレティシアで吃驚して声も出せずに固まっていた。
「ちょ、ちょっとなんであんたがここにいるのよ!」
まさかの逆ギレだ。仮にもこの国の妃殿下に向かって……。
レティシアは無表情でその様子を見つめていた。
レティシアは元々人形の様に無感情な人間だ、何も言わないのを良いことに リアーナは丸め込むことにした。
「レティシア、こ これは違うの! ほら虫干しよ! ずっとぶら下がったままだと勿体無いでしょ? だからこうして部屋から出してあげたのよ! このドレス達だって着るために作られたのに貴女が着ないからこうしてドレスルームの中で腐っていくのよ、可哀想でしょう?だからこれは善行なの!」
「くっくっく 見苦しいな。料理人に作らせたこの1人では食べきれないほどの料理と酒はどう言い訳する?」
「貴方誰よ! 余計な口を挟まないで! レティシアは何も言ってないでしょう!
料理人達だって料理を作るためにここにいるのに貴女が帰って来ないでその手腕を振る機会がないのよ? 偶にはこうして機会を作ってあげなければ、ね! これも善行よ!」
「2週間前にペンドール伯爵から送られてきたものはどこにある?」
「えっ? ペ ペンドール伯爵って?」
「リストには確か 『メグラーンの壺の出土品』と記載されていたと思うけど。」
「はい、確かに私も覚えております。」
「今日の謁見はそれに関することだと思うから持っていきたいの。早く持ってきて頂戴。」
リアーナは顔色をなくしガタガタ震えている。
「おい、妃殿下が言っていることが聞こえてないのか? 早く持って来い。」
「ああああ、アレは片付ける際にぶ、ぶつけてしまって割ってしまって……。」
「何を言っているの? いいから早く持って来なさい。」
「あっあっあぁぁ。」
「妃殿下、王妃様付きのステラリア女官長様がお見えです。」
「通して頂戴。」
「えっ、ちょっ ちょっと待って あっ、こんなの見られたら!」
「レティシア妃殿下 失礼申し上げます。 あ・・・・・これはなんで冗談ですか?」
「その前にロジャー、悪いけどスタンビーノ王子殿下に今の状況をご報告に行って来て。」
「はい、承知致しました。」
「ちょっと! なんでそんな事するのよ! そんな事したら私 どうなるのよ!!」
「おい、さっきから貴様! 妃殿下に向かってなんて口の聞き方だ!」
「まずは 先程の言ったけど ペンドール伯爵の荷物はあるの? ないの?」
「お、覚えていません。」
「この期に及んでまだしらを切るつもりか!?」
「ではこれまでの私の宮に運び込まれたモノ…確か528点はどこに保管されているの?」
「ひっ!?」
エヴァン隊長がそっとリアーナの横に立ち剣を抜いた。
しゃくり上げながらへの字口にして何とか答えた。
「あ、あっちにあります。」
「それからパメラ、私のドレス・宝石・靴 その他の装飾品についても全て確認を行って頂戴、盗まれたものは何か正確に把握したいわ。」
「はい、承知致しました。」
「ま、待ってよ! わ、私がやるわよ! ね! だから待って頂戴!!」
「お前は先程 妃殿下が仰られたものの場所に案内せよ!」
「う゛う゛ぅぅく。」
「ステラリア女官長の用件は何だったかしら?」
「はい、この後のペンドール伯爵との謁見に同席される旨をお伝えに参りました。」
「まあ、ステラリア女官長自らお使いに来てくださったの!?
……貴重なお時間をごめんなさい。」
「いえ、私もこの場にいる事ができて良かったと思っております。」
「では一緒に参りましょう。」
地下にある倉庫には沢山のものが保管されている。
だが明らかにスカスカで528点あるはずの棚などにはよくて百点ちょっとしか置いてなかった。
「ねえ残りはどこ?」
「あー、その えっと! そう、きっと泥棒です! 泥棒に入られたのだと思います!!」
「悪あがきが醜いな。」
キッとハッサンを睨みつけるリアーナ。
「シレイラ、ペンドール伯爵の出土品が欲しいの、まだ残っているかしら?」
「はい、確かこちらでございます。」
「ああ、良かった。 王妃様の前で恥をかくところだったわ。用も終わったし戻りましょうか。」
リアーナはホッとした。レティシアは怒っている風でもない。
きっと従姉妹だし推定無罪 見逃してもらえると思っていた。
レティシアの居室に戻るとスタンビーノ王子殿下も来ていた。
「スタン 忙しいのにごめんなさい。」
「いや、構わないよ。 大丈夫?」
「ええ、イルタンこれペンドール伯爵との謁見で使うので運んでおいて頂戴。ああ、ステラリア女官長 場所は仰っていた?」
「いえ、ですが きっと王妃殿になるのではないでしょうか?」
「では、その様にして。」
「はい、畏まりました。」
「ふぅー、お母様が悲しむかしら?」
「まあ、仕方ないよね?」
「何故 伯母様が悲しむの?」
嫌な汗を流しながらリアーナがレティシアに聞く。
「だってドリトル伯爵家はお取り潰しになるんだもの。」
「な、何で家がお取り潰しになるのよ?」
ハッサンが睨むと口を手で覆った。
恐る恐る聞く。
「貴女が今着ているドレスは陛下から賜ったドレスよ? 貴女の胸元に輝くネックレスは王妃様から、履いている靴はスタンから右手に着けている指輪にバングル ここにあるものは全て両陛下と皇太子殿下ご夫妻 それに私の旦那様から贈られた物。
私はごく少ない荷物でここに来たの、つまりは全て賜った物なのよ? それを貴女は好き勝手しただけではなく売り払って着服していた。
私ね、スタンに言われて気づいたのだけれど、他の人より記憶力がいいみたいなの。だからシレイラが受け取った荷物で作成したリストと貴女が訂正させたリストも何が抜けているか分かるわ。リストをシレイラに作り直させた時点で貴女は着服する意思があったって事ね。
ドレスも宝石らも無くなったもの全てをドリトル伯爵家では弁償できないものね。
それから貴女が売り捌くために泥棒を手引きしていた事も全て把握しているわ。その上余計な人間まで一緒に引き入れてしまった……暗殺者を貴女は手引きしたのよ?
だから貴女はどの道処刑されるの、理解できたかしら?」
「う、嘘よ! わ、私たち従姉妹でしょう? ねえ、もう2度としないわ、許してよ!」
「先程から物言いが不遜で腹立たしいな。」
「私はここへ来た時から注意してあげていたでしょう?」
「えっ!?」
思い返せばレティシアはここにあったはずの◯◯がない、と言っていた。
王宮で窃盗事件が起きるとどう言う処分になるかも口に出して何度となく思いとどまらせる様にして来ていたのだ。
「あ、アレは一般的な事で……。」
「だって貴女だって断定してしまえば私は立場上 貴女を裁かなければならない、だから踏みとどまって欲しかったのだけれど残念ね。ごめんなさいスタンこれから用があって 後の事お任せしても良いかしら?」
「レティったら全部知っていたんだね。」
「貴方の手を煩わせたくなかったんだけど、ごめんなさい。」
「レティが謝る事じゃない。行っておいで。」
ニッコリ微笑むとレティシアは立ち去ってしまった。
レティシアの前世は秘書だ。
誰から何を貰ったのリストの記憶は得意分野だった。
自分の仕事を他人に穢されるのは前世だけでお腹いっぱいだった。




