23、成婚式−2
無事に引っ越しも終わりレティシアの王宮での生活が始まった。
レティシアの王妃教育も終了し、皇太子妃殿下と公式行事のお供や引き継ぎなどが終わるとほぼフリータイム。レティシアはこれまで自由時間がなかったので手持ち無沙汰で困った……、そこでスタンビーノ王子殿下の執務室へ向かった。
コンコン
「お邪魔してもいい?」
「レティ! 何かあった? さあ入って。」
「お仕事中ごめんなさい。」
「構わないよ、どうかした?」
「ん、実は今まで忙しくしていたから時間が空くと何をして良いか困ってしまって…。ここにいてもいい? お邪魔なら戻るけど。」
「んー、別に邪魔にはならないけど…、ここで何する? 見ているだけではやっぱり暇だろう? ……ナディル レティに机と椅子を用意してやって。」
「はい、承知致しました。」
「じゃあさ 後で机が届いたらここにある資料の仕分けして貰ってもいい?」
「うん 有難うスタン。」
レティシアは元々スタンビーノより優秀だったのだ、暇だと言うのだから使わない手はない。レティシアはスタンビーノの執務室で多くの時間を過ごす様になった。
スタンビーノがいない時は神殿に足を運んだ。
神殿の奥深くは許された者しか入る事ができないので護衛たちも待機、レティシアだけが入って祈りを捧げている。
「シエル殿を最近見ていないけどどうしているの?」
「分からないわ 姿を消して傍にいるのかも知れないし自分のようを済ませていたり。最近は私も呼んだ時しか会えないの…きっと竜神様のところへ行っているのではないかしら?」
「そうなのか。」
「王宮は人が多いのでシエルのする事がないって。
それにいつまで一緒にいられるか分からないから 私もシエルに頼らず身近に頼れる人間を作ってそばに置いたほうがいいって言われて以来 あまり出て来てはくれないの。」
シエル殿は本当にレティを大切に思っているのだな。先を見据えた行動をとってくださっている。
そのお陰もあって何でもシエル殿頼りだったレティシアは周りの者たちと良好な関係を築けている。だがそれも表面上のような気がする。逃亡先の様なあの笑顔を見せることは無くなっていた。
晴れ渡る秋の日にスタンビーノ王子殿下とレティシアの成婚式が執り行われた。
新たな竜妃の誕生に国全体がお祝いで幸せなムードに包まれた。
街には竜妃に花としてマグノリアを模った白い花があちこちに飾られ、竜妃の旦那様として王子殿下を模したエメラルドグリーンの色のガラスに入った蝋燭に火を灯す。
幻想的でとても美しい光景だ。露店ではエメラルドグリーンのりんごのような飴と白い蜂蜜の様な飴が飛ぶように売れる。そして王宮と5大公爵家からは竜神様と竜妃に感謝を込めて『ポンボス』と言う挽肉と林檎と野菜が詰まったマグノリアが表面に型取りされたパンが配られる。
国中に配られこの時ばかりは身分も関係なく国中がお祭りムード一色、普段は食うに困るものも何度も並んでポンボスを貰って腹を満たし笑顔を浮かべた。
その夜はスタンビーノ王子殿下とレティシアの初夜。
王宮内の神殿の水場で禊をし、神官長の前で互いの胸にキスを落とす。するとお互いの胸に対になる紋様が浮き上がってくる。
「これにて魔法刻印の儀式を終了致します。」
ここも王族と5大公爵家のみの参加で儀式は行われた。
番となった印を刻むのだ。つまりは竜神様が『認めた者』と言う証だ。
因みに紋様が浮かび上がらぬ時はどちらかの不貞が疑われたり、複数の女性や男性の交際を疑われたり、タネが芽抜いていない偽物と言うことになる。まあ、そうなった場合はこの後秘密の審議に入るわけだ。
ようやく全行程が終了し、スタンビーノ王子殿下とレティシア妃殿下はスタンビーノ王子の寝室に入る事ができた。
「はぁ〜、疲れたねレティ。」
「スタン〜、少しギュッてしてくれる?」
ドキっ。
「うん おいで。あーーー、ごめんね 王子でなければこんなに疲れる結婚式ではなかったと思うと申し訳ない。」
「クスっ、スタンったら。スタンのせいじゃないでしょ? ふふ これで私たち夫婦なのね。ねえ、スタン夫婦ってどんな形をしているの?」
「どう言う意味? 形ってなぁに?」
「私はどうやら皆と同じ様に平等に仲良くは出来ないみたいなの。」
「うん、それで?」
「私は自分が信じる人に依存する傾向があるみたい。」
「ふふ 自己分析をしているのがレティっぽいね。それで?」
「私は今 スタンとシエル それにエヴァン隊長とパメラを信頼しているみたい。だからその4人には甘えたくもなっちゃう…そうすると距離感を間違えるみたいなの。」
「うん、それで?」
「例えばスタン、あなたはこの国の王子でしなければならない事も沢山あるのに 私は手が空くとスタンに会いに行ってしまうでしょ? それをねリアーナに叱られるの。
スタンにべったりくっついていると自由がないから嫌気を差して早く飽きられるって。
でも私にとって気を許して一緒にいられて甘えたくなるのが4人の中ではスタンとシエルだけなの、シエルは今いないし、一緒にいても許してもらえるのはスタンだけでしょう?だからどうしてもスタンを頼ってしまう…。でも 夫であるあなたに嫌われるのはとても悲しいの。
だから 週に3日は来ても良いけど毎日は駄目って言うならそうするわ。
夫婦の形を教えてくだされば努力しようと思うの。」
「ブフッぅぅぅ くっくっくっく あははははは!! レティ! 可愛い! ちゅう!」
「????? どうしたの?」
「本当に真面目なんだから! その前に私…俺を信頼してくれて嬉しいよ、ちゅう。
それから確かに朝から晩まで一緒だと刺激が減るかもしれないか? 会えない時間が有れば会えた時の喜びを知れるかもね。でも俺たちには24時間一緒にいるなんて事あり得ない。何より 他の誰でもない俺に会いに来てくれる事が嬉しい! 一緒に仕事の話を出来る事も嬉しい! 俺に依存? 凄く嬉しい! ドロドロに甘やかしてもっと俺がいないと駄目にしたい!って思ってる 心配しなくても良い、俺はちゃんと何かあればレティに言うよ、忙しければ忙しいから今日は無理とかね。だからそのまま信じていて ちゅう。」
「スタン…こうしてくっついてもいいの? 淑女らしくないって嫌いにならない?」
「嫌いどころか大好きだよ! ずっとこうして腕の中に閉じ込めていたいと思っている。周りがなんて言おうと俺たちが幸せである事が1番大切だと思う、確かに令嬢としてはこうして自分からくっついているのは良くないかもしれないけど、俺はレティシアなら嬉しいよ、だって愛する奥さんを愛してるって抱きしめて抱きしめられて温かさを感じられる、幸せだって心が温かくなる 一緒にいれば不安もない 最高だよ!」
「スタン 大好きよ。」
「嬉しい 初めてレティが俺を好きって言ってくれた! ちゅう ちゅう 俺も愛しているよ、2人で幸せになろうね。ちゅう。」
「うん 私もスタンを幸せにしたい。」
深いキスを重ね契りを交わした。スタンビーノが今まで見た事もない真剣な顔とギラつく男の顔で自分を翻弄するのが少し怖くもあった、43年で初めての経験に恥ずかしいけど 教本には『相手に全てを任せ受け入れるべし』ってあったから お任せした。
大人の扉は何度も私の反応と様子を確認してくれるスタンビーノの目が優しくて途中から体の力が抜けた。緊張で気持ちがいい!とも思わなかったけど 聞いていたほど痛くて死にそうとも思わなかった。でも、初めて見たスタンの裸は女体とは全然違ってなんとも言えない色気を感じた。ちょっとボコボコしていて手でなぞると スタンが困ったように『擽ったい』と言った…男の人だけど『凄く綺麗』そんな感想を漏らしてしまった。何もかもが初めて未知の世界だった!ああ、これで本当にスタンと夫婦になったんだと思うと『家族』と言う存在が胸にズンと響いた、嬉しくて涙が伝った。
初めて夫婦として迎えた朝は少し気恥ずかしく素直に甘えるにはちょっぴり抵抗を感じた。レティシアは下腹部に痛みと異物感を感じていた。これは43年間で初めての感覚だ。
ああ、本当に私 スタンとエッチしたんだ〜、本当に私の旦那様なのね えへへ 恥ずかしいや。私に家族が出来たんだ… 私の旦那様。
「ニマニマしてどうしたの? レティおはよう 体は大丈夫?」
「うふふ おはようスタン 体はね お腹にまだスタンがいる様な感じがするの、それとまだ少し痛いかな。 ニマニマはね、スタンは私の旦那様で家族なんだって思ったら自然とそうなっちゃうの。」
「くわぁー! レティ可愛すぎる!! むちゅーーーーぷはぁ! 体が辛いだろうから今日はやめておくけど 次からは我慢できる気はない。俺の奥さんは可愛いなぁ〜。」
「スタン…あまり愛想の良くない私を可愛いって言ってくれて有難う ちゅう。」
そんなレティシアに頬にキスで返す。
「ねえレティ、今夜はどうするの? 自分の部屋に戻る?」
「ん? えっとスタンに呼ばれない限りは自分の部屋で過ごすものじゃないの?」
「まあ そうなんだけど…良ければここで一緒に暮らさない? 1人の時間も欲しい?」
「ううん、正直誰かと一緒に暮らすって家族以外ではなかったからどうしていいか分からないけど、スタンがいつもそばに居てくれるのは嬉しい。」
「そっか、じゃあ一緒に暮らして別の方がいいって時は話し合ってそうしよう。寝室は別がいい? ここで一緒に…あっ、毎日こう言う事する訳じゃないからね! 毎日は流石に俺も若いと言っても…疲れているとムリだったり…お酒人だりすると出来なかったり…するから、何もしないでも隣で体温を感じながら一緒に寝よう!」
「うん、有難う!!」
有難うって言ってくれるんだな、可愛いなレティシアは。
スタンビーノ王子の居室にレティシアの荷物も運び込まれ生活の全てをここで行う様になった。仕事に向かうスタンビーノ王子を見送りレティシアの用事を済ませるとスタンビーノ王子の執務室へ向かう、仲睦まじく微笑ましく見守られていた。
だが祝う者ばかりではなかった。
レティシアを殺害した罪で平民に落とされた者たちは納得がいかない。それはその親も然り……殺害したのが替え玉だったのならこの措置は厳しすぎると抗議したのだ。
アシュトンの母 キャロンは抗議文を作りすぐさま撤回を求めた。撤回は叶わなかったが、公爵家の名を使い金を使い、牢に囚われてたままのアシュトンを救い出した。アシュトンはすっかり痩せこけ目をギョロつかせかつての貴公子ぶりは見る影も無くなっていた。
アシュトンを憲兵に渡し、妻キャロンと離婚しやっと復興の目処がたってきたカーライル公爵家、それとは裏腹にパメロン侯爵家に災が降りかかって来た。それはある日突然…。
「この子アシュトンは今日からここで一緒に暮らします!」
キャロンが玄関にアシュトンを連れて来たのだ。
「お前 何を勝手な事をしているのだ! アシュトンとは縁を切る様にあれだけ言ったのに理解していないのか!!」
「だってレティシア様はスタンビーノ王子と結婚したではないですか! つまりあの時レティシア様がこの子たちによって殺されたって言う判断は間違っていたと言う事でしょう? だったら今すぐあの措置を訂正して元の位置に戻して頂かなくては! 社交界にも正式に間違いだったと訂正をして、王家にはこの子の補償に良い就職先を紹介させねば気が済みません!!」
「旦那様!! 旦那様!!」
「どうしたのだ! 何を慌てているのだ!」
「たった今、ガラクザン橋とケンガップ橋もそれにトランジィ橋も崩落したと言う連絡がございました。ここは孤立いたしました。」
「何だと!? キャロン!」
首がもげるほど振り向き 血走った目でキャロンを睨みつける。
「だから言ったではないか! アシュトンと関わりを持ったら縁を切ると!
あああああああなんて事をしてくれたのだ! 出て行け! 今すぐ出て行け!! 二度と顔も見たくない! 私はアシュトンに関わればお前を殺すとも言った それなのにお前はまた約束を平気で破った!今すぐ出て行ってくれー!!」
「お、お兄様あんまりです。それに橋がなくば出ていく事も出来ないではありませんか!そんな冷たい事を仰るなんて見損ないました!」
「お前はなんて言ってアシュトンを牢から出したのだ?」
「それは勿論 カーライル公爵家の名で…、だってあの裁きは無効なのですから…すぐに…アシュトンの解放と…私の身分…。何を考えてらっしゃるの?」
「カザストン この2人を憲兵に引き渡せ、身分のなりすましだ。」
「はっ、承知致しました。」
「い、嫌よ、止めて!! どうかしちゃったの? 何で私まで!!」
「お前が約束を守らないからだ! もうお前は私の妹ではない! 2度とここへ来るな! 支援など期待するな! お前らは犯罪者だ!」
優しい兄の面影はなく目が血走り憎しみの目を向けて来ていた。後退りするものすぐに捕まりキャロンとアシュトンは牢送りとなった。
そしてもう1人黙っていられないのがテレーズ。
テレーズは危ない男たちの手先となって金を稼いでいた。そんな生活をしながらでも情報は入ってくる。当然レティシアが結婚した事は耳に入って来た。
「ちょっと何で生きてんのよ! 死んだんじゃなかったの!?」
何よ! 話が違うじゃない!! あの女を殺した罪で平民に戻ってこんな生活しているのよね? じゃあ何のためにこんな事してるの!? ふざけないでよ!!
一人で復讐を遂げることが難しいことは分かっていた…よって一緒に捕まった3人を巻き込むために所在を探し始めた。
牢の中にいるアシュトンと久しぶりに再開した。
だがその姿は変わり果て学園で会っていた自信に満ち溢れ何もかもを持っている 光り輝き人を傅かせていたアシュトンとは別人の様だった。
何を言っても声が届いてはいない…そんな様子だった。
「ねえ聞いているの!? あの女! レティシアが生きていたのよ! 信じられる? 崖から落ちて死んだんじゃないの!? だからこんな人生になったんじゃないの!? 許せないわ! 死んでないならこんな処罰は不当でしょ? あのムカつく奴らをギャフンと言わせてやらなくちゃ! この腕の犯罪者の焼き印だって消させなきゃ! 同じ目に遭わせてやりたい そうでしょ? それで王族として迎えさせて一生悠々自適な生活を保障させなくちゃ!! ねえ! ちょっと聞いてるの!?」
かつて 聖女の様に優しい女神の様な女は目の前でけたたましく捲し立て喚き散らす……
そこにいる私の母と同じヤカマシイ女だった。
テレーズは本当に馬鹿だったんだな。
あの時 誘拐し殺した女は間違いなくレティシア様だった。
何故レティシア様が生きているかだって? あの時我らだって何度も死にかけたのを蘇生させられて繰り返し体に刻み込まれたじゃないか……。つまりはあの時の主様にレティシア様も助けられたのだ、その上で周りの反応からすると保護されていたのだ。そしてあの場にいた者たちにも罰を下したのだ…そしてこの度ご回復され主様に王子殿下と王室は許され成婚となった。
私たちの罪は変わりようもない事実なのに それを撤回させるなど馬鹿も休み休み言え。
これ以上 私を巻き込むな。
私は死を間近にして矜持を捨て生き延びる道を選んだ、死にたくなかった。
最初は私を簡単に捨ててしまった父を憎んだ。母が私自身より私の王子の側近と言う立場に固執していることは分かっていた。それでも私を救おうとする母の手が有難かった。でも本当に私を救う事により甚大な被害を齎す現実に心が悲鳴を上げ始めた。汚い牢から出されて向かった伯父の家、着いた途端に天災なのか人災なのか いや天からの警告が次々起きる。いい加減理解する…私に救いの手を差し伸べると災害が起きるという事。
だから父はあの時言ったのだ、『言ったはずだ どんなに可哀想だと思っても関わってはならぬ、関われば国と領地に被害を齎す、そしてゆくゆくはお前とアシュトンを苦しめる だから関わってはならぬとあれほど言ったのに!!』
父はきっと主様の正体をご存知なのだ…人間ごときが足掻いてどうにかなる存在ではない…と。 父は『あのまま死なせてやればプライドを保ったまま死ねたのに』全て正しかった。
あんなに優しかった母は 牢に入ると気が狂わんばかりに泣き叫び不満をぶつけてきた。最初は国に、父に…そして疲れてくると伯父に……その場にいない対象に不満をぶつけても欲求が満たされないのだろう、矛先が私に変わった。隣の牢から起きて眠る瞬間まで私を責め立てる。罪悪感に苛まれる…ここに救いはない。心が悲鳴をあげる。
ああ、父はやはり正しかった…母と私が苦しむ事をご存知だったのだ。
父上、私はどうしたらいいですか? 私は死ぬしかないのでしょうか?
こうなった今も私は まだ生きていたいと願ってしまうのです。
私はどうしたらいいですか?




