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断罪後の公爵令嬢  作者: まるや
19/61

19、霊峰 モントラ山−3 

一緒に連れて来てもらったラーズとサックは大喜びしていたがすぐに顔色が悪くなった。

「「ささささ寒い ガチガチガチガチ。」」


レティシアとスタンビーノは不思議な顔をしている。

「ああ悪い 忘れてた。パチン」

しれっとシエルが言う。


そう、レティシアとスタンビーノ王子たちは山へ行くと言うのにいつもと変わらない様相だったのでラーズとサックも普段と同じ格好しかしていなかった。シエルの結界による保護がないと凍死しそうになる程寒い。

ラーズとサックは2人で抱き合って温め合った。

シエルはスタンビーノが手を外さないのでそのまま何も言わずに手を繋いでいた。


5人は御来光が見える場所に移動し日の出を待った。

真っ暗な闇に赤黒い闇が生まれた、闇は燃え上がり瞬く間にオレンジに染め黄金の輝きを持ち始め白銀の珠は輝きを増し眩しくて直視出来ない。たった今生まれたばかりの生命・力強さ・清浄 圧倒的で絶対的なパワーを感じ何もかもを浄化していくようだった。


そこにいる者は誰もが無言になりその光に心を奪われ涙を流した。


「スタン…この御来光を一緒に見ることが出来たわね。」

「ああ、そうだね。 ……有難うレティ 生きていてくれて…、この景色を一緒に見てくれて…… 私の側に今もいてくれて有難う。」

「うん……あっ、はい。スタンが私を殺そうとしたんじゃなくて良かったです。」

「なんで急にその口調?」

「冷静になったら ちゃんとしなくちゃって…気づいたから。」

「…そうか、でも急に距離を感じるな、もしかして本当は怒ってる!?」

「ううん、ちゃんと誤解だって分かっています。でもスタンは王子殿下でいらっしゃいますから、礼儀をもって接するべきかと。」

「怒っていないならシエル殿に接するみたいに私にも接してよ。公の場では流石に不味いだろうけど、私たちは夫婦になるのだろう? だったら仲の良い夫婦になりたい。

駄目…かな?」

「…駄目じゃない…です。」

「ほら、口調。 ね、普通の恋人たちみたいにまずはなろう?」

「……うん。」


この会話の真ん中にはまだシエルがいる 比喩ではなく現実に。

それはまだシエルとスタンビーノも手を繋いでいるから。今はレティシアとシエルを2人にさせたくなくて手を繋いでいる。居た堪れない。



「レティシア様。」

その声にすぐに振り向いた。

そこには会いたい人物がいた。

「エヴァン隊長?」

「はい、……この度はお辛い思いをさせて申し訳!」

レティシアはエヴァン隊長に思いっきり飛びついた。

「エヴァン隊長! 良かった生きてて良かった! 私のために死んだりしないで!!」

「レティシア様……勿体ないお言葉です。ですが我らは守るべき主を奪われ…殺され…。これは我らの矜持です、何もなかったようには……出来ないのです。

レティシア様がお気になさる事ではありません。」


「どうして? どうしてなの! 私は生きていたいのに何度も殺されそうになる! 生きたいのに奪われそうになる…貴方たちは生きているのに何故 名誉とかに拘って 何で命を無駄にするの!? それが私のせいだなんて私がその後 普通に生きられる訳ないじゃない!!」


こんな感情的になるレティシアを初めて見た者たちは固まった。

「レティシア様…お気持ちは有難いですが既に決定された事です。我らは側でお守り出来ずともずっとレティシア様のご無事を祈っております。」

「っ!」


「エヴァン隊長はどうしてここにいるの?」

「ああ、それはレティシアと話しをしたくて来たらエヴァン隊長に止めて貰うつもりで ここにずっとこのモントラ山に泊まり込んで貰ったんだ。」

「では沢山の荷物があるのですね? では下山し殿下のお泊まりになっている宿に来てください。話しはその時にしましょう。シエル お願い。」

「じゃあ王子の部屋に戻るぞ。」

そう言うとエヴァン隊長たちを置き去りに、何も言わずに元いた部屋に戻って来た。


「それでは殿下、エヴァン隊長たちが戻ってくる頃にまた参ります。

シエル 行きましょう。」

それだけ言うと消えた。


さっき迄は誰もがシエルとレティシアの関係は兄妹のような恋人のような甘いものを感じていたが、今ははっきりと主従関係に見えた。

そしてまたレティシアの今まで見たことのない一面に驚いていた。


スタンビーノが声をかける間もなく消えた。


慌てて町中の宿を探したがどこにもレティシアとシエルの姿はなかった。

転移で消えた2人を探す手立てはなかった。



3日後 エヴァン隊長率いる5名が下山し、そしてスタンビーノ王子の宿に戻って来ていた。そこにはレティシアの姿はなかった。山頂で別れて以来レティシアは姿を消していた。焦れるスタンビーノ王子はいつ来るとも分からないレティシアを待ち続けた。


スタンビーノ王子は王宮に無事レティシアと接触し無事を確認した旨を報告した。

その報告を受け王宮では安堵のため息が溢れた。


「これで各地の天災は落ち着くでしょうか?」

「分かりませんな、カーライル公爵の報告では奥方がアシュトンを領地に匿ったせいだ、己に罰をと言っておりました。レティシア様がお戻りになったとして、彼らの罪が消えるわけではないのでしょう。レティシア様がご無事なのは他でもない竜神様はご存じだったのですから。」

「そうだな…そうなのだ、我ら愚かな人間の目を覚まさせるためにお与えになった試練だ、これでお終いとはならんのだろうな。」


「ところでマルセーヌ公爵はレティシア嬢の事はご存知か?」

「分かりません、実はあのノーマンたちの断罪の時以来体調を崩され登城しておりません。」

「目の前で何度も自分の娘がどんな目に遭ったか再現されて かなり衝撃を受けていましたからな。『何の自由もなく笑顔もなく育てて殺された…あの子は何の為に…』と何度も呟いてお帰りなられました、無理もない事です。」

「では 早く連絡して差し上げなければ。」

「左様でございますな。」


だが既にマルセーヌ公爵は知っていた。と言うのもスタンビーノ王子の元を離れたレティシアは実家に戻って来ていたのだ。

実家に部屋に転移すると呼吸を整えた。

自分の父親に会うのに物凄く緊張した…、父は5大公爵の1柱 竜神様についてはご存知のはずだ。どう言う反応をするか正直怖かった。

「シエル、一緒にいてくれる?」

「ああ 勿論。」


そっと人目につかないように父の私室を訪ねる。

コンコン

「入りなさい。」

カチャリ  パタン


「何の用だ?」

相手を確認もせずに虚な様子、久しぶりに見た父はやつれ白髪が多く10歳位老けていた。

いつもキチッとしていて 貴族然としていた。それが目の前の父はいつもは撫で付けられた髪も何もされておらず手で梳かしただけ、シャツも第2ボタン迄外され疲労感がでていた。

声をかけるのすら躊躇われたがそうも言っていられない。


「お、お父様……。」

ガバッと顔を上げた。

信じられないものを見たかのように目を見開き吸い寄せられるようにレティシアに近寄って来た。涙が取り止めもなく溢れ出している、父の口から漏れる言葉にならない擬音、

「あ゛があ゛― う゛う゛ぅ゛ぅ゛ だぁ゛―。」

「お、お父様どこかお悪いのですか? 人を呼びますか?」

ゾンビのように歩いてくる父にオロオロしてしまうレティシア。ガバッと抱きしめると、

「夢じゃないのだな? 無事だったのだな? レティ……レティシア!!」

「お父様! 戻って来た事を喜んで下さいますか?」

「馬鹿! 当たり前だろう!! 馬鹿 大切な大切な娘、ずっと不自由を強いて笑顔も見せなくなった娘、完璧令嬢と言われながら感情を無くしていくような娘に何もしてやる事も出来ない不甲斐ない父親 何度王子の婚約者にした事を後悔した事か! すまなかった…無事で良かった…良かった。 でもどうやって!?」


「お父様…、実は瀕死の状態で助けてって願ったら竜神様がおいでになり助けて下さいました。

ですがあの時はスタンビーノ王子殿下は私を疎ましく思い、本当に殺そうとしているのかも知れないと思って…死にたくないから戻りたくないってお願いしたんです。

それで他国を転々としていました。」

「そうだったのか…、無事で良かった…。 ふぅぅ、そちらは?」

「この方はシエル 竜神様の鱗です、私が国外にいくと言ったので護衛につけて下さいました。」

「なんと! 竜神様の……有難いことだ。 

マルセーヌ公爵家当主 ジャルガン・マルセーヌでございます。

我が娘を護ってくださり感謝申し上げます。」

「礼には及びません、それが竜神様の命ですので。」

「それでも このレティシアの様子を見ればいかにシエル様が大切にしてくださったかが分かります。 心より感謝申し上げます。

『竜妃』になるべく厳しく育てて参りました…その分 愛情に飢えていたと思います。ですが失ったと知って初めて愚かな親だと思い知ったのです。

何の喜びも幸福も知らないまま逝かせてしまったかと思うと申し訳なくて申し訳なくて…こうして生きていてくれて有難くて言葉になりません。」


「お父様…。」

「こうして家に戻って来たには理由があるのかい? 私に協力できる事はあるのかい?」

「スタンビーノ王子がモントラ山まで迎えに来てくださったの。

今回の件はテレーズとノーマンたちの暴走だって言いに…、私もね ずっと勉強して来て『竜妃』について学んできた、だからその重要性も分かっているわ。

だから直接 スタンビーノ王子に聞こうと思っていたところに直接迎えにきてくれた、だからここに戻るつもり、でもね 私の護衛をしていてくれた方達が処刑になると聞いて、これから話しをしてその処分を取り消していただきたいの。その為の時間を王子殿下と陛下に作ってそれまでまた身を隠すつもりなの。でもその前に家族に会いたかったの。」


「そうしたいのだね? 分かった、好きにしなさい。もう私はレティに何も言えないよ。この数週間 ずっと後悔しかなかったからね、お前のしたいようにしなさい。

お母様たちには会うかい?」

「会いたいけど、巻き込むことを考えると会い難いのと…シエルを説明できないの。」

「そうか、分かった。この後はどうするのだ?」

「部屋で少し休んでシエルに転移して貰ってどこかへ行くわ。3日後位にスタンビーノ王子と待ち合わせしているの。」

「そうか。ここでも領地でも別荘でも好きに使いなさい。

レティシア 無事でいてくれて有難う。シエル様、どうか娘を宜しく頼みます。」

「お父様も元気でいて下さいね。また来ます。」

「ご心配なく必ず守ります。」


2人が転移で部屋から消えるとマルセーヌ公爵はフラフラと歩き出しソファーに座り瞳を閉じて額を抑えまた静かに涙を流した。


レティシアはシエルを自室へ誘った。

「今日はここで眠りましょう?」

「ああ、分かった。」

部屋を歩いて見て回る。令嬢に部屋のわりに華やかさのない飾り気のない部屋だった。

ある物は難しそうな書物ばかりで若い令嬢らしくはなかったが、レティシアらしいと言えばレティシアらしかった。『竜妃』に必要な物と、公爵令嬢として必要な物しかなかった。

ドレスも宝石も靴も品位を保ち王子殿下の婚約者として恥ずかしくない物、それでいて付け入る隙 攻撃材料になる物は持たない。


今回の旅にしてもレティシア自身は何も持っていない。

魔法でドレスも下着も出している。各地で気に入るものを欲した事もない。

地のものを見て食べる物を購入し食す、その場で消費している。

急に転移する事になっても何も困らない。


今 レティシアが唯一執着するものは俺だ。


そしていつも通り俺を同じベッドに誘う。

「シエル 早く来て 寒いぃぃ。早く温めて。」

おいおい、これが誘い文句じゃなくて何だと言うのだ。

好きな女がベッドに誘う…そう俺はレティシアが好きだ 流石に自覚した。 はぁ〜、こんなにも意識されないことってあるのか? それとも意識していて誘っているのか?

いや そんな事があるわけない。 レティシアは恋愛の機微にかなり疎い…俺を弄ぶつもり…いや そんな事はいい、今重要なのは レティシアの側にいるのは俺だと言う事だ。

俺の役割はレティシアのやりたいようにさせてやる事。


パチン

着替えを済ませて布団の中に入る、そして首の下に腕を入れ肩を抱く。

「これでいい?」

あくまでも自発的ではなくレティシアが望むことをしてやっただけだと…そう装う。

「うん、もうシエルと一緒にいるのが当たり前になっちゃったみたい。

いつも有難う シエル…お休み。」

「ああ、お休みレティシア。」



後日 ケンブラント公爵が『レティシア様がどうやら生きているようですよ』と知らせにきてくれた。

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