15、ガラパーゴ国−2
「秘密?」
「うん、あの崖から落とされて死にそうになった時に思い出したんだけど、私 前世の記憶があるの。私の前世はこの世界とは全然違うところで その世界では遠野柑奈って名前のOLで 普通に働いていたの。私の前世の世界では貴族とか魔法とかがない世界、国を治めているのも王様ではなくて国民が選んだ人が代表で治めるの、こことは違って世界は平和で戦争とかもなかったわ。
まあ、そんな世界で私は生きていたのね。 自分で稼いだお金で食べ物も買うし、洋服も買うし、住む家の家賃を払うし自分で料理もしていた、私はそこでは平凡な人間だったの。だからこの生活も苦じゃないわ、ううん寧ろ凄く楽しい! 前世の自分と合わせてもこうやって誰かと旅したことなんてなかったから 2つの人生分のご褒美を貰っている気分よ!」
「前世!? 前世の記憶か……、因みに幾つまでの記憶があるの? おばあちゃん? あれ今回は兎に角長生きしたいって言ってたけど?」
「う…ん、へへ 前世でもね25歳の時に殺されたの。だから 折角生まれ変わったなら今回は誰かに殺されて人生が終わるのではなく おばあちゃんになるまで生きたいなって思ったの!」
「ごめん 辛い事を聞いたね。」
「ううん、シエルならいいわ! …違うか シエルには知ってて欲しかったんだと思う、内緒よ? だからね、今は第3の人生って思っているの。うふふ。」
「この間泣いていたのは…前世の事…思い出したから?」
「…ううん 違うわ。この間のは私の事じゃないの。本当に夢の中の人の人生を垣間見た感じで、とても悲しかったの。ふふ 心配させちゃったのね、ごめんねシエル。」
「余計なこと言ったか…ごめん。」
「もう 謝んないでってば。 そうだ! 湖じゃなくて川にしようか!」
「そうだな、川を探してみるか…。動物が多いからきっと川はあるな、湖は深そうで肉食の動物がいては入れなかったからな。」
「そうだよね!」
森の中を流れている川で童心に帰って水遊びを楽しんだ。
薄手のノースリーブのシャツに膝上までの短パンになった。令嬢としてはあり得ないけどシエルにイメージを伝えて変えてもらった。
「こんなの 令嬢が着て外に出るものじゃないぞ!」
「前世だと普通だったのよ、それに別にいいじゃない、シエルと2人なんだから!」
そう言うとジャバジャバ水の中に突進していく。
「こらっ!待てって! 水の中に何がいるか分かんないだろう?」
「何かあってもシエルがきっと治してくれるわ! わぁー! 冷たくて気持ちいい!!
シエルも早くおいでよー!」
「まったく! これで公爵令嬢に戻れるのか?」
「そうだよねー、またあの窮屈な生活に戻らなくちゃいけないんだよねー。」
「戻りたくない?」
「うーーーん、何とも言えない……かな? 前世と合わせて43年間必死で頑張ったご褒美を今貰っている感じなの。でも、今世で頑張った事を放り出す事も出来ないし、もう種は芽吹いているしね。
でも最終的に必要とされなかったら やっぱりもう一度頑張れる気はしないかな。
今はシエルが側にいてくれるけど、国を出るなんてことになって1人ぼっちになったらやっぱり一人では生きていけないもの、それが現実。
スタンビーノが国外追放で殺そうとするほど憎いって言うなら・・・公爵令嬢を捨てるわ。
もう、公爵令嬢ではないかも知れないけど…。竜神様…の元に置いてもらえないかしら? そうしたらシエルともいられるかしら?」
「ティア… 絶対に殺させる様なことにはしないから。 そうだな、もし生きる場所がなくなったら…竜神様がお許しになれば一緒に暮らそう。竜神様と3人で生きよう! ティアは竜妃だもんな。 心配するな!」
「うん! 心配してないよ! それなりに人生経験あるし! それより今はエイ! シエルと一緒で楽しい! 43年間で1番自由で1番楽しい!」
「冷てえっ! やったな? ほれ!」
「あははは 気持ちいいー!! 」
ばっしゃーーん!
バシャバシャ
レティシアは横に寝そべって水の中に顔をつける。そのまま回転してゴロゴロしている。
ちょっと頭が乗せられる石を見つけると、その石の上に頭を乗せて水から顔だけ出した。目を閉じてこの穏やかな時間に幸せを感じていた。
はぁーーー、プール行ったのも小学生の時以来だから随分久しぶりだー。
中学生の時に両親を亡くした、祖父母の家からの帰り道の高速道路で 居眠り運転の車に突っ込まれたのだ。車は横回転して何が起きたか分からなかった。車の中のモノが目の前で一緒に宙に浮いている。あちこちに頭も体も打ち付けていつの間にか出血した血があちこちに飛び散っている。私は頭を強打して意識を失った。意識を取り戻した時には両親の葬儀も何もかも終わっていた。私は最初記憶がなく混乱していた。
両親を失った私はその後祖父母に引き取られ、1ヶ月ほどしてから記憶を取り戻した。それからは必死で勉強した。もう頼れる両親はいないと自覚したから。祖父母は優しかったが、老い先短いことは分かっている、いつまでも側にはいないと頭では理解しているから。
だから中学2年の夏から人を頼る事も出来ず、ずっと一人で頑張る事しか出来なかった。
高校生になって友達はプールに行ったり海に行ったりカラオケに行ったりJKを満喫していたけど、学費を稼ぐためには空いている時間にはバイトを入れた。親の保険金はあったが 祖父母が体を壊し医療費に充てられた。バイトが終わってから勉強して2〜3時まで勉強して朝は新聞配達をした。大学の時に祖母の持病が悪化し入院して間も無く祖父が先に死んでしまった。祖母が倒れた事で無理をしていたんだろう…その知らせを聞くと祖母も気力を無くし日に日に弱っていって後を追う様にして死んでしまった。
そして私は天涯孤独となった。
祖父母が相次いで死んだことにより皮肉にも金銭的ゆとりができた。だからバイトを少し減らしてその分学業に打ち込んだ。こうして何のコネもない私が就職できた、就職したらしたで周りは優秀なモノたちばかり必死で食らいついていった、まあその結果が嫉妬で殺された訳だけど……つまり何が言いたいかと言えば、前世と合わせても恋をしたことがないって事。
恋愛関係がまるで分からない。
スタンビーノとは婚約者だった訳だけど…記憶が戻る前だから、貴族の結婚なんて政略結婚の道具でしかない、女に生まれた私にはその価値しかない。スタンビーノとの距離感は小さい頃から間に侍女と侍従2人分くらいは元々あった、それが当たり前だったからテレーズが間に割り込んできても気にも留めていなかった…ポヤポヤしている間にスタンビーノが謝ってきて学園入った頃より近くなった気はするけど、相変わらずラブラブってほどではなかった?から、 まあ貴族の節度あるお付き合いってところで 私たちは仲が良いのか否かそれもよく分かんなかった。はぁーーー、私って嫌われてたのかなー? 友達にもカウントされない感じ?
水に浸かったまま考え事をしているとシエルが覗き込んで、
「体調悪いのか?」
凄く心配した顔をしてた。
「ううん、こうして楽しい気分で水に浸かったのは33年ぶりぐらいなの。だからこの時間が愛しいなって感慨深く思っていたの。
前世で両親を亡くしてからは頼れる人もいなかったし、 こんなにも心を許せる存在が出来たことが嬉しくて…心配してくれる人がいるって心が温かくなるのね。いつも側にいてくれて有難うシエル。」
「ああ。」
あ゛あ゛―――! 可愛い!可愛い!可愛い!!
無自覚で素直な言葉口にするから うっかりすると心を持ってかれる。
なあティア、俺がお前の唯一無二だって勘違いしそうになる。
もっと警戒してくれ、俺だって男なんだって…いつか手放さなきゃいけないのに手放せなくなる、お前が欲しいと足掻きたくなる。お前の信頼が今は少し苦しいよ。
「あっ! なんか光った!!」
「どうした?」
「あっちで今光ったの!」
「んー? えっ? 水の中か?」
「行ってみようか?」
「いや、おい! 何か分かんないんだからやめろって。あ゛―聞いちゃーいねー。」
川にズボズボ入って深くなると泳いで潜って光っている所を目指した。
光っている所ら辺に来たはずなのにそこには何もない。
あれ? ここら辺が確かに光っていたのに………???
水面から顔を出すとやっぱりそこが光ってる。
もう一回潜って見る…やっぱり何もない。
あ、あれ? 魚や葉っぱがあそこだけ避けて通ってる? 違うかぶつかって脇へ逸れているんだ。あそこに何かあるんだ。
「シエル…あそこに見えない何かがあるみたい。」
「そうみたいだな、こちら向かってくる気配もないけどあそこだけ僅かに水流が起こってる。つまりそこにただあるのではなく何かが水流を起こしてるんだ。」
「……あっ! キチュネ! キチュネをここから流してみたら形が分かるかも!!」
「なるほど、じゃあ取りに行ってくるか。」
「一人で大丈夫?」
「馬鹿、一人で行くか!ティアも一緒、行くぞ!」
「ギャウ!」
一瞬でキチュネのあった森に転移してキチュネを6個もぎってまたすぐにガラパーゴ国の水の中に戻ってきた。
1つのキチュネを握りつぶす。
何故か…ふぁっはっはっは! 跪け! 命乞いをしろ! 我は魔王なり! とー言いたい気分になった。きっとこのキチュネの禍々しい色がそう言う気分にさせるのだろう。
指と指の間から黒紫色の果肉と果汁が水にさらわれて水に滲んでいく。墨汁が水に広がる様に透明度の高い水に薄い紫色が広がっていく。
すると紫の水に染まらない場所がある。えーーーっと、クリスタルのカブトムシ?
頭のところからニョキッとツノが生えていて丸いフォルム、うん…カブトムシっぽい。
「シエル…あれは生きているのよね?」
「おお、多分な。」
よく見ると下の方が少し開きキチュネ水を飲む?舐める? そんな様子を見せた。
「飲んでる?」
「ああ、キチュネは甘くて美味いからな。」
あれ? 透明だったはずの透明カブトムシに川の流れとは違う流れが出てきた。細い筋に伸びてある場所に溜まっていく。なるほどスケルトンで食堂の流れが見えてるのね…えっ!? でも内臓は見えてない…いつ透明になるんだ?
喉らしきところで少し溜まってゴクン!とばかりに一気に降下、おおう 袋状の貯水池に溜まってく感じ……ああ、あれは間違いなく飲んでいますね? ふふ〜ん、美味しいでしょ? 甘いでしょ?
「シエル、あれは喜んでるね。」
「ああ、気に入ったみたいだな。」
「あっ! 何かこっち見てない?」
「ああ、ロックオンじゃないといいな。あっ、歩いてくる。どうする?」
「まあもう少し見てみよ。ここは結界の中だし、いざとなれば転移できるし。」
「了解 こっちおいで。」
シエルはレティシアの腰を抱いた。
「そなたたちがこの紫の水の素か?」
「あっはい。これはキチュネって言う果物です。水の中で光っているモノが気になって水に色をつけてしまいました、ごめんなさい。」
もう色はだいぶ薄まった。
「いや、美味かった。 ところでそなたたちはここで何してるのだ?」
「水遊びです。」
「そうか、水遊びか…、礼にワシのツノを滑らせてやろう。」
そう言うとレティシアとシエルをツノで持ち上げそのまま水の上まで持ち上げた。
うぉーーー!
天然のウォータースライダー! やった事ないけど!
「ひゃーーーーーー! 楽しいぃぃぃぃ!!」
「むぐぐぐ 楽しいな。」
そっか、そっか友達はこれが楽しくてプールに行っていたのか! 小学生の水に浮き輪でチャプチャプ流れるプール楽しいな、とは違う刺激があったんだね!!
(イヤ違う。女子高校生、女子大学生は純粋にプールを楽しむために行っているものは3割りだ。後は出会いと求めていたり流行を求めたりするモノだ)
レティシアが大喜びするのでクリスタルのカブトムシは根を上げる事なく何度もツノで滑らせてくれた。
「ふぁーーー! 楽しかった!! ありがとうございます!!」
「うむ、そなた名前は?」
「レティシアです。」
「シエルです。」
「レティシアにシエルか、ワシはトラビスタだ。」
「トラビスタ様はずっと水の中にいるのですか?」
「ああ、ワシはこの国の水の神なのだ。ここは多くの生き物が棲んでいる、ワシはここでここに生きるモノたちを見守っているのだ。」
「まあ 神様のツノでごめんなさい。」
「よい、ワシも久しぶりに楽しかった。 そなたたちは何やら別の神の匂いがするな。」
「彼女は竜神様の加護を頂いております。」
「レクトルのか? そうか………。ワシもそなたに加護をやろう。レティシア、レクトルを頼むぞ?」
レク様はレクトル様と仰るのね。
「トラビスタ様はレクトル様をご存知なのですか?」
「まあ 同じ神ゆえな。だがもう随分会ってもいない。余計なことは言うまい。
元気で過ごすが良い。」
「はい、とても楽しい時間が過ごせました。有難うございますトラビスタ様。」
その日はガラパーゴ国のチャーミ街で宿を取り休むことにした。
「おいで、沢山体を動かして疲れただろう?」
「うん、クタクタ〜。つくづく自分が子供だって思い知ったわ。遊んでいる時は夢中で楽しかったのに 楽しい時間が終わると…筋肉痛に見舞われる!! 運動不足ね、完全に!!
でも本当に楽しかったー!! シエルここへ連れてきてくれて有難う!!」
「クスっ、元気になって良かった。ほら筋肉痛をとってあげる。さあ、今日はゆっくり眠ろう。」
「うん、シエルの傍はとても良く眠れるの。お休みなさい、シエル…大好きよ。」
えっ?っとレティシアの顔を見ればもう寝ていた。
シエルは湧き上がる思いを胸の奥に仕舞い込み、安らかな寝顔を見守った。




