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断罪後の公爵令嬢  作者: まるや
14/61

14、ガラパーゴ国

レティシアとシエルは取り敢えず、ロメリッド国へ転移した。

寒い冷えた体を摩り『次は暖かいところがいいな』と単純に思ったから、だから今回は観光ではなく暖をもとめた食欲に負けた。


ロメリッド国のスランと言う豆と羊を赤ワインで煮込んだスープが絶品と言う話を思い出して、温かいスープが飲みたくてきたのだ。

「シエル どう? キャバーンは美味しい?」

キャバーンとは羊肉と野菜の肉団子のトマトソース煮込みだ。

「うん、美味しいよ。ほら、あ〜ん。」

「やったー!  あ〜ん! ハフハフハフ お、おいひぃ。モグモグ ゴクン うん美味しいね。シエルもはい どうぞ あ〜ん。」

「ん、あー。 パク モグモグ うん、いいね。こっちもいける。」

最初シエルは食べ物をシェアする事に当然抵抗があった。

だけど レティシアはどちらも試してみたい気持ちを抑えられず シエルにおねだり。

結局 根負けしたのはシエルだった。

しかも何故に『あ〜ん』で食べさせ合うのか……、その愛くるしさに負けてやったのが運の尽き……毎回 恋人の様に食べさ合う様になってしまった。

誰かに見られたら……と心配するも その温かさがくすぐったく悪い気もしなかったから言われるままに続けている。一緒にいる時間が長くなればなるほど人間らしい感情をシエルに齎す、レティシアは疎いが、確かにシエルには温かくて掴みどころのない核のようなモノが生まれていた。


『はぁ〜、どこからどう見ても・・・だな。』


人が多くいる食堂などでは手を繋いだりしない。

人に見られるからではない、いざと言う時にレティシアを守るのが遅くなるからだ。

それに関してはレティシアもキチンと聞き分けた。その代わりシエルの服を握りしめた。それがまた庇護欲をそそる。


「さて、今日泊まる場所を探すか。」

「うん。」



宿に着くといつも通り1つの部屋に泊まる。

そしていつも通りシエルが浄化魔法で体を清め寝やすい簡易ドレスに着替えさせる。

便利だけど、有難いけど、お湯に浸かりたい!


「シーエールー、お風呂に入ってお湯に浸かりたいよぉ〜。」

「無理だ。こう言う宿の風呂は共同だからまず汚い! 2〜3週間程度は水を替えたばかりと言い張る、寧ろ入った後 臭いが気になるほどだ。それに男女分かれているって言っても常に男が見張っていて若い女が入ればそのまま男も入ってきて犯される。だからティアは無理だ! 分かった? 理解した? そんな目には遭いたくないだろ?」

「は〜い…… 分かりました。」

しょぼんとしている。


「もっと王都に近い場所とかなら綺麗な宿があるかも知れないけど……イヤ やはり俺の目が届かないところは不安だ。個室に風呂が付いているところしか無理だな。」

「ごめんなさい、そうだよね危ないもんね。 ちゃんと理解しました、我儘を言いました!すみません。 あっ! そうだ じゃあ今度暖かい地方に行って池で水浴びしよう! そうすればシエルとも一緒にいられるし グッドアイディーア!って感じでしょ!」


「ああーーーーまあ そうだな、それくらいなら いいかも知れないな。」


「なら次の目的地はガラパーゴ国にしましょう!」

「はーーうん、まあ了解。」

「でも折角ロメリッド国に来たのだから…ロメリッド国と言えば 羊! 羊の食事も美味しかったけど、羊の毛を使った産業がいくつもあるの。それを見たいわ!」

「ん、じゃあ明日はそれらを見に行くか。」

「はーーい!!」


ベッドに腰掛けていたが布団の中に潜り込んだ。

今は押し問答をしなくてもシエルは同じ布団に入って眠る。しかもシエルを先に横にならせてその腕にしがみついて眠る。もうシエルも何の抵抗もしない、慣れって恐ろしい。

「おやすみなふぁい シエ…ル。」

「クス 寝つきがいいな…ああお休みティア いい夢を。」



その夜 不思議な夢を見た。


男と女が言い争っている。でも歪みあっている訳ではない…どうやら互いを思い合い意見の衝突と言ったところか…。次に見たのは先程の神殿の様な綺麗な場所ではなく狭く小屋の様な場所、だけどもう言い争いはなく穏やかな時間が流れている様だ。2人は愛し合っている、そう見えた。やがて小さな命が宿り可愛い男の子が生まれた。3人は幸せな時間を過ごしていた。

次のシーンでは一変、外から帰った男が見たものは愛する妻と子供の惨たらしい姿…殺されていたのだ。嘆き苦しみ男の怒りは地形や気候を変えるほどの猛烈なエネルギーだった。

何年も何年も愛する者たちを殺した者たちを呪い続けた男。

何年続いたか分からない、もしかしたら10年いや100年…気が遠くなるくらいの時間が経ったのかも知れない。気付けば自分以外誰もいない 住むことが出来ない不毛の地へと変貌していた。嘆き悲しむ間に愛する妻と子供の亡骸も無くなっていた…、男には何も無くなっていたのだ。そして男も姿を変えていた…男は竜の姿をしていた。



レティシアは男の悲しみが流れ込み苦しくて苦しくて慟哭をあげていた。

シエルは隣で幸せそうに寝ていたはずのレティシアが絶叫しているのでビックリして飛び起きた。

「ティア! ティア! どうしたんだ! 何があった? どこか痛いのか? 苦しいのか? どうしたんだ? 大丈夫か? さあ俺を見るんだ!!」

「ウック フグ ウック ア゛ア゛―――!!」

「ティア! レティシア!! 駄目だ! どうしたって言うのだ! 落ち着いて呼吸をするんだ! 大丈夫! 大丈夫だから落ち着け! 呼吸をするんだ!!」

「ガァっ!! ハーハーハーハー!!!」

必死にシエルにしがみつきシエルもレティシアを強く抱きしめた。

徐々に落ち着いてきたレティシア、優しく撫でながら注意深く観察するシエル。

いつまでもシエルの服を強く握りしめる手は開かれない その固く結ばれた手から血が滲む。シエルはレティシアのさせたい様にさせながら優しく抱きしめ頭に頬にキスを落とす。

「大丈夫、大丈夫だ 俺が付いている大丈夫。」

幾度も繰り返されるその言葉は シエル自身も自分に言い聞かせていた。


「ひっく ひっく う゛う゛ぅぅぅ シエルー! シエルー!」

「あーよしよし どうした? ん? どこか痛いのか? ほら、治してやるから言ってごらん? どこが辛いんだ?」

「ううん そうじゃないの、ごめんなさい 夢を見たの…凄く凄く悲しい夢を。」

「そっか、痛いのは心か? それは魔法ではどうにも出来ない…か。 こうして抱きしめていれば落ち着くか? 他にできる事はある?」

「有難う…シエル もう少しこうしててくれる?」

「ああ、ホットミルクでも飲むか?」

「ううん 今はこうしていたい。」

「そっか、じゃあこの姿勢だと辛いだろう? ほら 足の間に入れ 寄りかかっていいから。」

ベッドの上で壁に寄りかかったままシエルは抱きしめてくれていた。そして偶に頭にキスを落とし、優しく体を摩り体を揺する。大切に大切に腕に閉じ込めながら頬を手で包み抱きしめた。


きっとさっき見た夢は竜神様の過去だ。

竜神様は愛する者を奪われてこの地に…それ以来ずっとお一人でいらっしゃるのだ。

自分の中に飲み込んだタネ 竜神様の竜気を取り込み、竜神様の鱗であるシエルが側にいる事で竜神様の思いが流れ込んできたのだと思う。

痛くて苦しくて辛い。


竜神様は長い時をお一人で過ごし未だ心から血を流されているのだろうか?

何故 竜神様は矮小な人間を助けてくださったのかしら?

竜神様の加護なくば生きられない私たちをこうして手助けしてくださっている…。

愛情深く他人の痛みに敏感なのね。ご自分は今なお苦しんでいらっしゃるのに……。

レク様…レク様… 貴方様の痛みが流れ込んで苦しい。愛する神は自分を傷つけてばかりいらっしゃる、私に出来る事はないのかしら?


私にもここまで愛する存在が出来るのかしら?


いつの間にか眠ってしまった。

目覚めると寝た時のままシエルの腕の中で目覚めた。

レティシアは布団に包まれその塊ごと抱きしめられていた。

じーーーっと見つめているとシエルも目を開けた。

「もう大丈夫か?」

「うん ありがとうシエル…側にいてくれてありがとう。」

頬を胸に寄せると優しく撫でてくれた。まだちょっと気分はセンチメンタル…シエルに甘えていたい。


「シエル疲れたでしょう? ごめんね…ありがとう。お陰で落ち着きました。」

「うん、気にしなくていい 一緒にいるんだから気を遣って黙って無理するよりずっと良い。誰にだって辛い時だって言いたくない事だってある。でもそれは信用出来ないからではなく心の整理に時間が必要だったり、相手を傷つけないために必要な事も、状況的に言えない事だってあるだろう。

今のティアと俺には信頼関係がある…言えない事を無理やり聞き出そうとは思わない。ティアならきっと言える事なら言ってくれる。だから言えない事を悪い事だと思って自分を追い込むな、俺は何とも思っていない。

それよりティアが一人で泣かずに済んで良かったと思ってる、俺に出来ることがあって良かったって思ってる。だからまた泣きたくなったら言えばいい、こうやって寝るのも外で寝た時と同じだ いつも通りって事、なっ!」


「シーーエーールーーー! 有難う。ひっくひっく…凄く凄く悲しい夢だったの。

その人の孤独や喪失感が流れ込んできて苦しくなったの。でも…でもね シエルが側にいてくれたからもう平気だよ、えへへ 有難う シエル。

シエルは眠れた? 疲れた? 少し寝る?」


「んーーー、大丈夫かな? 一緒に寝てたから。」

「本当? でも今日はゆっくりまったり過ごそうか?」

「うん そうだな、俺は平気だけど 羊を使ったもの見に行きたいって言ってたから 午前中はゆっくりしてそれを午後にでも見に行こうか? それで美味しいモノ食べて移動しようか?」

「うん それがいい!」


2人は着替えてベッドの上でまったりしながらたわいもなお話をして、午後に羊の毛の加工店と皮の加工店を見に行った。




アシュトンは生まれてから一度も苦労というものをしたことがない。

5大公爵家の令息で眉目秀麗で神童と呼ばれ人々には常に羨望の眼差しで見られ、声をかけるのも憚れるほど近寄り難い特別な存在だった。


自分の尻も学園に入るまでは自分で拭いたこともなかった。

服だって5回は同じ服に袖を通すことはない。正直自分で管理していないのでどうなっているかは知らないが、使用済みのシャツは使用人たちで分けていたり寄付したり。そしてアシュトンは新調したものに袖を通す。これは消費する事で経済を回しているのもある。購入には自領の店を使う。ただ王都の流行りの店で作る事もある、流行を抑える事も重要な貴族の嗜みだからだ。

ハンカチ一つでさえ使用人が管理している。


こんな泥のついた靴など小さい頃に外で剣術の指導を受けた時以来つけた記憶がない。

ボロボロの服で家に帰ろうにも馬車1台自分で止められない。常に自分専用に場所があってアシュトンが乗りやすい様にカスタマイズされてた馬車にしか乗ったことがないのだ。


馬車を停めて屋敷まで送ってもらいたくても 身なりを見て馬車を停めてくれる者は誰もいなかった。自嘲する『私だってこんな汚い男が馬車を停めたら 轢き殺せって言うところだ』……何故 こんな事になってしまったのか。あまりに情けない姿に真っ直ぐ家に帰る気にもなれなかった。

だが正直言うと財布も持ったことがない。常に侍従が側にいて直接のやりとりはその侍従がしてきたのでお腹が空いたと感じてもどうしていいか分からない。

こうなってみて分かるのはあんなに自分は特別で出来ないことはないと豪語していたのに、飲み物一つ買う事も出来ない、一人では何も出来ない男だった。ただどうしていいか分からず途方に暮れていた。


人に見られたくなくて人通りのない道を行くとガラの悪い男たちに囲まれて暴行された。

「お前たち私を誰だと思っているのだ!!」

つい口をついて出た言葉、それを必死に誤魔化し飲み込んだ。

うっかり口にしてカーライル公爵家の名に泥を塗るわけにはいかなかった。


情けなくて情けなくて涙が出た。

膝を抱えて影で泣いている、これがアシュトン・カーライル公爵令息の姿など認められるわけがない!だが腕には犯罪者の烙印が押されている。これは消しようもない事実。 貴族籍を抜かれただの平民 これからどうやって生きていけばいいと言うのだ…。


結局 行く当てもなくカーライル公爵家の裏門に来ていた。

流石に表門でこんな格好の自分を誰かに見られる訳にはいかなかった。

裏門の近くに座り人に見られない様に座って誰かに気づかれるのを待った。

だがその日気づかれる事はなかった。惨めだが、ここでこうしているよりないアシュトンは必死で神に祈った。




レティシアとシエルはガラパーゴ国へ来た。


レティシアは元気を装っていたがまだあの夢を引きずっていることはわかっていた。

だからシエルはレティシアがしたい事をさせて少しでも気が晴れるといいと思った。


南国ガラパーゴ国は温暖な気候で開放的な人間たちが多かった。

大きな鳥にカラフルな家屋、見たこともない大きな果実、何とも言えない甘ったるい香り、それから動物たちのいわゆる獣臭もする、絵本の世界に飛び込んだ様だった。

『クワァーーーーーーー!』

ビクッと声の方に振り向けば 大きな嘴の鳥が飛んでいる。

ここは住んでいる人より動物の方が多そうだ。

ふっと右を見ると大きな目の動物が上からぶら下がって自分の顔のすぐそば15cmくらいのところにサルみたいな顔があってかなり驚いた。


野生動物の楽園って感じだわ。

シエルと水浴び出来そうな池を探して歩く 手を繋いで…さっき買った冷たく冷えたミキャンを食べながら散策した。

「あっ、これ甘い! はいシエル あ〜ん!」

「ん? あー。モグモグ あー甘いな。冷たいって言うのがいいな。」

「うん、世界ってやっぱり広いんだねー。竜神様にも食べさせてあげたいなぁ〜。」

「竜神様?」

「うん、シエルを私につけてくださった時、竜神様はあの地を離れられないからってシエルを私につけてくださったの、だから きっとこんな遠くまで来たことはないんだろうなって思って。」

「そうか…でもきっと俺を通してご覧になっていると思うぞ。」

「そっか! それならもっと沢山見せて差し上げたいなぁ〜。素敵な景色も美味しいものも 折角こう言う機会を頂いたのだから。」


「そうか。うん そうだな。 それにしても公爵令嬢の深窓の令嬢なのによくこんな生活できるな? 歩いてどこかに行く事も汚い宿も食べ歩きも…金を払って物を買えることにも驚いたよ。」


「そう? すごい? えへへ 実は秘密があるのよ。」

意味深にレティシアは笑った。

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