11、レティシアの捜索とヴァルモア国の秘密−3
1ヶ月以上経った頃だった。
ヴァルモア国内の土地で異変が起こり始めた。
多くの水を讃えている『アキュロスの棲家』と呼ばれる 山の中腹にある湖から流れ落ちる雄大な滝 その湖の水が枯渇し始めていると言うのだ。
この地方は水を使った産業が多い。滝から流れ落ちた水は街を巡り水車が石臼を回している。その水がこの土地で収穫した豆で味噌を作っていたり、染色をしたりと街だけではない国の生活も支えている。
他の場所も色々と被害が出始めていた。
王宮では各地の『異変』の話題で持ちきりだ。
「いきなり3色池の水が全部枯れてしまったと聞きました。誠でしょうか?」
「ええ、ええ 私も聞きました。かなりの収入源を失ったとか…どうしたものでしょうな。」
「他にも鉱山で崩落があって随分被害が出たとか…、困りましたな。」
「加護が消えたと言う事ですか・・・。」
「そうなのでしょうな・・・。」
「神官長様! 神官長様様! お助けください!! 我々はお取り潰しでいいのです。このままでは領民を飢えさせてしまいます。痩せた土地は戻すのにかなりの時間がかかります。どうか、どうか竜神様にお願いして頂けないでしょうか!! どうか、どうか…!」
「残念ですが我々にできる事はありません。竜神様がこの試練をお与えになったのはきっと深いお考えがあってのこと、我々はそれを糧に成長せねばなりません。
この苦しみから逃げる事ばかりを考えてはなりません。今 あなたに出来ることを懸命に励むのです。」
「神官長様! いっそ私に罰をお与えください!!」
「皆の反応はどうだ?」
「竜神様の怒りに触れた、と申しております。」
「正に神の怒りに触れたのだ。スタンビーノからの連絡はまだか?」
「はい………。」
「困ったな、確かなのだろうか? レティシアが死んでいない状況で加護が消えたと言うのか? それだけお怒りなのか、それともやはり死んだのか? ふぅー、何かしら足取りは掴めたのだろうか?」
「定期的に来ていた連絡が遅れているのが、殿下自身に何かあったのではなく吉報だといいのですが…。」
「陛下、神官長様がお見えです。」
「んん、通しなさい。」
「失礼致します。」
「どうだったか?」
「自分の家を取り潰してくれ、自分に罰を……と。」
「そうだろうな。」
「竜神様のお怒りは解けないのでしょうか?」
「……これは言ってみればみせしめなのだ、このままでは終わらぬかもしれぬ。」
「既にレティシア様には種が発芽し成長していましたゆえ、見つけられねば 我々は大変な時代を生きねばなりますまい。 いや生きていられるかどうか…。」
「他の王族の方々の魔術は如何ですか!」
「私は元から生まれ持っているゆえ変化を感じないが皇太子妃マルグリッドはかなり不良を感じておるようだ。」
「ふぅー、困りましたな。このヴァルモア王国は竜神様の加護あっての国、加護が消えたと言う事は…やはりレティシア様はもう……。
スタンビーノ王子殿下の読みが間違っていたらどうなるのでしょう?」
「私もそれが恐ろしい。ただ、加護が消えたのがあの3家であるから…やはり、これは竜神様の仕置きだと思うのだ。」
「左様でございますな。 しかし民は竜神様は信仰であって実在しているとは思っていないでしょうからな。その怒りはどこへ向かいますやら……。」
「左様でございますね、事情を知らぬ者たちは既にレティシア様が亡くなったとして、新しい王子殿下の婚約者を擁立しようとする動きがあり ちと厄介です。」
「厄介とは?」
「レティシア様の捜索にこれ以上の国費を使うのは無駄だと。」
「愚かな……はぁーーー、更なる怒りを買わねば良いが。」
このヴァルモア国は元来 不毛の土地だったのだ。
竜神様が棲まうこの土地は荒野が広がり人の住める土地ではなかった。
1000年くらい前 戦争が起き逃げ場を失った者たちが辿り着いたのが この地だった。
どうせ戻れば殺される…行き場もなくここで暮らし始めた。
だが暫くすると弱っている者たちはますます弱って行った。
竜神様の竜気にあてられて体を蝕んでしまうのだ。このままではここで死ぬか戻って死ぬか結局は死しかなかった、その時にある若者が呼びかけた。
「竜神様! 竜神様 助けてください!! 我らはもうどこにも行くところがない! 死にたくない…何故 逃げて逃げて生きねばならぬ? 我らをここに置いてください! 対価が必要と言うなら私の命を差し出します! だから…だから竜神様の御許で生きる事をお許しください!!」
その若者 トーマの魂の叫びに竜神は応えた。
不毛の土地に加護を与え人間が住める様にしてくださった。人口が増えると更に加護の地も増やしてくださった。
王都から遠い地には竜神様の鱗を頂き祀って加護を増やして頂いた。そうして脈々と人は竜神様の加護に縋り感謝しながら営みを続けた。
竜神様は何も要求しなかった…ただ脆く儚い人間がこの不毛と呼ばれた地で生活出来るように協力してやった。
長い長い月日を経てトーマが住んでいた地は『ヴァルモア王国』と呼ばれるようになった。
王と呼ばれる者もそこに住んでいた者も時と共に移り変わった。
だが変わらぬ事も、引き継がねばならぬ事もあった。
600年ほど前にユイシー山が噴火したのだ。
大きな被害が出て折角400年かけて築いてきたものがその土地一帯全て溶岩に飲み込まれてしまった。
そこで当時の王がまた竜神様に救いを求めた、『助けてください』『お願いします』『何とか生かしてください』
以前より遥かに広大な大地となった領土を最早 鱗数個では加護しきれなくなったのだ。
そこで王の娘と竜神は交わった。
そして生まれた子供を次代の王とした。竜神は次代の王(竜神の血をひく者)の妻に種(特別な鱗)を飲ませた。その種は竜神の竜気に慣れさせ竜気を持った子孫を残すためのもの…時間をかけて馴染ませ発芽してから交配する。この国を守護する者に竜気を分け与えているのだ。竜神の鱗の代わりに守護させるために竜気を持つ存在を作っているのだ。
全てはこの不毛の大地で人が生きていくため。
ただ他にも細かい制約がある。
次代の王の妃となる者はただ1人、その1人の分しか種は渡されない。
これは竜族は番ただ1人を生涯愛するため、側室などの考えはないからだと言われている。
子供が出来なかった場合、兄弟や傍系で血を継ぐものとの縁組、その場合も妃はただ1人分しか種は与えられない。過去に王位簒奪した際 手順を踏まなかった為 あっという間に加護が消え人が住めない国と変わって行った。そして結局その際も傍系に王位が戻ってこの国を守った。
それからある時代 王が早逝し直系子孫がまだ若く王弟へと玉座が移った際、その王弟は既に側室を持っていた、その側室が自分の子に王位を継がせようと目論んだ事があった。
その際は加護が通常より早く消えてしまった。この秘密は一子相伝の為結局は前王の子へと元に戻った。例えば謀略で秘密を知った子供が殺された場合 真実を知る者がいない、その場合が竜神が分身を出して教えて存続させた。これまでも度々加護が消えることがあった…過失の場合は見せしめの加護を消される事もあった。竜神様は常に初代の王の子孫である我々の側にあり護ってくれていた。そして同じように戒めも与えた。
この長い歴史の中で大切に胸に刻みながら存続してきた王家に伝えられてきた秘密の儀式。
スタンビーノも危うい所だったが最終的にレティシアと信頼関係を築いていた。
種を与えられた者を『竜妃』と呼び大切に保護し護らなければならない存在を まさかの誘拐の上の 殺害など…あってはならないことだった。レティシアを失えばこの国の加護は消えるのだ。竜神様が許さず完全に加護が消えればまた不毛の大地へと戻ってしまうだろう。
その上 竜神様はレティシアを気に入ったと言った。
見つけられなければどうなることか……。
スタンビーノはレティシアの事を考えていた。
レティシアは真面目な人間だ理由もなく姿を消すとは考えにくい。
あの崖から落とされて川の水が増水して流された…と大半の者は思っている、つまり死んだと思われている。 そもそもレティシアが転移出来るのは種を体内に取り入れた事による副産物だ つまり知る者は殆どいない。
そうなるとレティシアは死んだと思われているのに追っ手を躱して隠れているとは考えにくい。つまりレティシアの意思で戻って来ないと言うことだ。
もし体が回復していたとしたらここから離れて…… どこへ行くかな?
私たちはレティシアも言っていた通り勉強しかして来なかった。
レティシアが知っている事は王妃教育で学んだ事だろう。隣国・世界情勢 レティシアは何に興味があるって言ってた?
有名な観光地は『それほど美しいなら一度行ってみたい』そう言っていた……。でもたくさんあったな……、だが、どこかで手がかりがあるかもしれない、行ってみるか!!
まずはどこから行くか?
ソトラウラ国のハネチャナ…か?
さて行くとしてもレティシアは金を持っていない、しかも血だらけのボロボロのドレス 卒業パーティーのままだろう…それはどうしただろうか?
竜神様はレティシアを見たと言った…では きっと回復してくださったに違いない。
いや 考えても仕方ない。まずは行って痕跡を見つけるのだ、そして無事を確認してから探し出せばいいのだ。生きていると言う確証が欲しい!
「今から言うところにそれぞれ小隊を作り探しに行く。おそらくレティシアは追っ手に捕まれば殺されると思って身を隠しているのだろう。だが同時に生きているとは知られていないと思っているだろう。
特に顔を隠したりはしていないだろうが、我々を見たら隠れる可能性がある。
よってまずはレティシアが生きている確証が欲しい、立ち寄った形跡がないか確認してくれ、そして密に連絡を入れてくれ。」
「「「はっ!!」」」
「エヴァン隊長、貴方には行って貰いたい所がある。」
「…承知致しました。」
選ばれた捜索隊は一気に世界各地に散って行った。
スタンビーノの読み通り3ケ所でレティシアと思われる人物を見たと言う人間を見つけた。
『やはり生きていた!! 怪我をしている様子もない…竜神様に治癒して頂いたのだな…良かった…良かった。生きてた!!』
「一つ気になる情報が……。」
「なんだ?」
「レティシア様はどうやらお一人ではないようです。従者だとは思いますが…その…同じような年頃の男と一緒だったと…各地で目撃されています。」
「若い男? …………レティシアの家の者か? 連れ去られた時レティシアはたった1人だった。崖から落とされた時も1人……我々より先にあの場に従者が着いたのだろうか?
マルセーヌ家に念の為確認を取れ。だが、慎重にな…王家に不信感を持っていた…これ以上神経を逆撫でしないように。」
「はっ。」
レティシアが1人ではなかった事を喜ぶべきか憂いるべきか……。
確かにレティシアは公爵家の令嬢だ、勉強は出来ても一人で生きるには難しいだろう。
現状 無事でいるのは一緒にいると思われるその男のお陰なのだろう……。
もう一つ気になるのは…神出鬼没の出現…日数で考えるならば同一人物とは考えにくいほど離れた場所で目撃されている。
これは レティシア本人だとするならば魔法で転移していると考えるべきだろう。
2人で行動する…2人分の転移…それほどレティシアの魔法操作が長けているという事か?
それとも男の方が魔法を使っているのか…。
見つけても魔法で転移されては捕まえようもない。
どうしたらレティシアに話を聞いてもらえるだろうか?
スタンビーノはレティシアに近づく方法を考え始めた。




