10、レティシアの捜索とヴァルモア国の秘密−2
相手は強盗か人攫いかの類いだろう。
ティアは物凄く美人だ 黙っていると少し冷たい印象になるが今は表情がコロコロ変わって愛くるしい。金持ちに高く売りつければ一生働かなくても済むだけの金が手に入る。
きっと日中あちこち動き回っている時に目をつけられたのだろう。
全部殺してしまえれば楽なのに。
まあこの程度であれば問題ない……か。
扉を閉めて廊下で5人を速やかに始末し そっと廊下の窓から外へ捨ててやった。
30〜40分ほどして部屋に戻ると 部屋の窓が開いていた。
嫌な予感がして心臓がドクドクと脈打つ。ベッドの布団を捲るとそこにいるべきレティシアがいなかった!!
「くそっ!!」
自分の意識を集中し自分の核を探る、そしてそれと呼応するものを脳内で探索する。
『いた!』
窓からレティシアは連れ去られていた、その後を追う。
この宿に2人で泊まっている…1人をわざと5人で襲って気をひいている間に 別の者がレティシアを攫ったのだ。しかも私は自らの手で扉を閉めてしまった…レティシアを起こさないようにとの配慮が裏目に出た。
レティシアをまた攫われてしまった!! なんたる不覚! もう二度と恐ろしい目になど合わせないつもりが!!
怖い思いをしていないだろうか? 泣いていないだろうか? 怪我していたりしたら殺す! いや 既に殺す事は決定事項、あとはレティシアを怖がらせないように処分するだけ…間に合え!間に合え!!
まさか触れたりしていないだろうな!!
青白い炎が体から立ち上る。
意識を集中してレティシアの前に転移した。
突然目の前に現れた美丈夫は怒りで青白い炎を纏っている。
「「「うわぁーーー!! ば、化け物だ!!!」」」
シエルは何も言わずに1人 2人と1撃で仕留める。
あまりの速さで反応できない。慌てて剣を持ちレティシアの首に当て
「動くな! この女の命が惜しかったら武器を置け!!」
ヒュン!
残念ながら男がレティシアに当てていた剣を手にした腕は既に体から離れていた。
そして次の瞬間には首が切り離されていた。
シエルは無事にレティシアを腕の中に取り戻した。
「申し訳ありません、お怪我はないですか?」
「シエルこそ怪我はない?」
「はい、私は大丈夫です。それよりティア様は?」
「大丈夫よ、私が呑気に寝ている間に……ごめんなさい。」
「ティア様……こう言う時も『ごめんなさい』じゃなくて『ありがとう』でいいんですよ。
それより血塗れになってしまいましたね。 パチン すみません、宿の横に他の男たちを捨ててきてしまった為 後で騒ぎになると思います。このまま別の場所に転移してもいいですか?」
「うん、宿代は?」
「前払いでしたから問題ないと思います。」
「良かった、荷物はないから大丈夫よ。」
シエルは次に行きたいと言っていたトゥクル街の林の中に転移した。
「申し訳ありません、まだ夜中なので夜が明けるまではここで過ごします。寝にくいでしょうが少しでもお休みになってください。」
「シエルは?」
「私は一応ここら辺を警戒していますから、お気遣いなく。」
「んー、どうやって寝たらいいの?」
「そうですね…、この木に寄りかかってお眠りください、地面に座ることになりますが大丈夫そうですか?」
「分かった。 ねえシエル……結界張ってシエルも寝よう? まだ夜中だし……。」
「……そうですね。分かりました。ではお隣失礼致しますね。」
「うん、お休み…シエル…守ってくれて有難う。」
「ふふ はい。お休みなさい。」
だがゆっくり休めない……レティシアはこんな鬱蒼とした野外で寝るのは勿論初めて、当たり前だ公爵令嬢が野宿だなんて生まれて初めてだろう。レティシアは寝心地が悪いらしく落ち着かずによく動く。眠った と思っても体が落ちて覚醒する、痛くなって姿勢を変える横向いたり膝を立てたりその内地面に丸くなって寝始めた。これではこちらが気になって眠れない。
「はぁ〜、参ったなぁ〜。 ………失礼しますね。」
シエルは大木を背に自分の足の中にレティシアを囲い膝で固め脇の下の腕を入れてずり落ちないように抱きしめて固定すると寝やすくなったのか、シエルの胸に頬をすりよせて幸せそうに眠る。
くっそ、なんだよこれ、めちゃくちゃ可愛いな。野宿で地面に座っても文句一つ言わない。それどころか俺の傍は寝心地がいいとでも言うような仕草、ずっとこのままいたいと願ってしまう……はぁ〜 無自覚って怖い。
シエルの腕の中で目覚めたレティシアは寝ぼけていたけど事態を把握しても慌てる事はなかった。
「おはようシエル。はれ? 途中から凄く暖かくて寝やすくなったと思ったらシエルのお陰だったのね、有難う。シエルは疲れてない?」
「はい、大丈夫ですよ。」
「えへへ いつも有難う。」
「もう少し日が高くなって人が行き交うようになってから出ましょう。」
「はい。…シエルはちゃんと眠れた?」
「大丈夫ですよ。」
「大丈夫かどうかじゃなくて 眠れたか眠れなかったかよ?」
「…少しだけ眠むれました。」
「なら少し眠って今度は私が見張ってるわ! ね?」
『はぁ〜、私が頷くしかないのだろう。』
「ではそうさせて頂きます。結界を張っている範囲でなら散歩をなさってもいいですよ。」
「うん、有難う。」
シエルが休んでいる間 林の中を散策した。
遠くまで行くとシエルに叱られるのでシエルが見える範囲で散策。
この国は南国なので生えている植物もヴァルモア国とは全然違うし巨大化している気がする。こうなると虫も巨大………うぎゃーーーー!! 声を殺して逃げる。 声を上げればシエルが目覚めてしまうからだ。だけどよく見れば巨大虫も結界の中に入ってこれない。
なるほど元々いれば別だけど向こうから入ってくるのは文字通り蟻一匹入れないって訳ね。
むむむ あの虫だけど…よく見れば葉っぱを食べてお尻からなんか出してる。
所謂 うん◯? とはちょっと違う。なんかネチャー! ドバー!!って感じですんごい嫌だけど 凄い光り輝いていて綺麗……イメージ シルク? うーん、それよりも丈夫でパールの光沢を纏ったようなめちゃくちゃ うん綺麗。あれが肛門から出たと知らなければ大ヒット間違いなしだな。
わぁー、オレンジ色の実だわ。ふふ 美味しそう…、あ! あっちのは割れてる! ちょっと味見して美味しかったらシエルに持って行ってあげようかな…。
うぉっ! 熟して割れて美味しそうと思ったのに割れた実の中から出ているのは濃い紫色の毒々しい色の粘着質な液体。ま、禍々しい! くっそー、舐める気失せた。
新しい発見は楽しかったけど、うっかり口にした物が毒だと余計にシエルに迷惑をかけるので大人しくすることにした。
シエルはレティシアが近くにいる気配を感じながら ちゃんと眠っていた。
まあ何を隠そう連日あまりよく眠れていなかったのだ。
レティシアもいざとなれば転移できる、シエルは最初のうち レティシアの行動を追っていたがレティシアがじっくりと虫の観察をし始めた事でうとうとし始めたのだった。
シエルは神経を研ぎ覚ましこの近くの脅威などを探っていた。
だけどいつの間にか思ったより深く眠ってしまっていた。
甘い香りに柔らかい感触……。
ああ、次はちゃんとした宿に泊めてあげられるといいな。
そうだ、レティシア様は無自覚だが町娘の格好をしていても育ちの良さと美しさが隠しきれていない。目をつけられないように少し変装する必要があるな。
脳内は覚醒しながらまだ考え事をしながら目を閉じていた。
不意に柔らかさがここには不似合いなことに気づいて目を開けた。
木に寄りかかっていたはずなのにいつの間にか横になっていたか…だが、なんだこの感触!!
起き上がると頭をぶつけた。
「いったー!」
「いて! えっ!?」
シエルはいつの間にかレティシアの膝枕で眠っていたのだ!!
「えっ! えっ!? えっ?? ええええ!! すみません! すみません!!
えっと どうして? あ、あれ!?」
動揺がすごい。
「大丈夫? シエルがね、寝てたんだけどずるずる倒れていったから膝を貸したのよ。
ちゃんと眠れた? おでこ大丈夫? 痛かった?」
「馬鹿な! そ、そんな 私の事なんて放っておけばいいのに。足 痺れてないですか?」
「うん? ふわぁぁぁぁぁ し、痺れてる。く、くすぐったいような ぎゃーー! ひゃーーーん!」
「ああ もう! パチン ほら、大丈夫ですか?」
「うん、もう平気。有難うシエル。」
「有難うって俺のせいでしょ?」
「なんでシエルのせいなの? いつも腕を貸してもらってるお礼よ。」
「すみません。」
「シエルったらこう言う時はごめんじゃなくて有難うって教えてくれたのはシエルよ?」
「…そうでしたね、有難うございます。」
「どう致しまして!
そうだ、シエルに聞きたいことがあったの。」
「何です?」
「まずはあれなんだけど あの虫のこと知ってる?」
「…あれは 大甲虫ですね、あんな見てくれですが草食昆虫です。」
「大甲虫ね…なんかねお尻からすごく綺麗な糸みたいなの出すんだけど、あれは何か知ってる? あの大甲虫ってこの国以外でも生息しているの?」
「あれは、繭玉です、あの中で子供を育てます。繭玉ですが光り輝いてとても綺麗なので目立つでしょう?その中の幼虫をコモーリが食べようとやってくるのです。でも大甲虫は食べられたくない、そこで囮の繭玉を置いておくとコモーリがやって来る それをカラスタが食べる…そう言う食物連鎖になっています。そして本物の繭玉はこっそり隠して育てます。
あの繭玉は大甲虫の巣作りにも使われます。丈夫で汚れに強く万能ですが人間が触るとかぶれるようですよ?
基本的には暖かい地方にしか生息していないみたいですが天敵のコモーリが多く生息する地では見つけるのが難しいと言われています。」
「ふぅーそうかー。綺麗だと思ったんだけど……そっかー なるほどねー。
じゃあさー、このオレンジ色の実の事は?」
「ああ、これは……キチュネです。」
そう言うとシエルはその禍々しい色の果汁のようなものに人差し指を伸ばした。そして指で掬うとそれを口に入れた。そして今度はそれをレティシアの口の前に持って行った。
『これを食べろって事よね?』
パクっ!
シエルの指に食いついた。
「うわぁー! 甘〜い! ねえ、シエル 甘くて美味しいね! あれ? シエル?
どうしたの?」
シエルが固まっていた。
おい! 俺は単に食べられる事の証明をしたに過ぎないのに まさか俺の指を舐める?咥えるだなんて!! しかも指についた果汁を舐めとった。その感触にゾワゾワしたものが走る。
前髪の横の髪を耳にかけて口を開き俺の指を×××。スローモーションのように鮮明に蘇り何度も脳内で再生される。
勘弁してくれぇ〜。 ヤバイって。
「ねえねえどうしたのー?」
「…あ、いえ なんでもありません。」
「こんな見た目で凄く美味しいんだねー。毒はないの?」
「ゴホン はい、毒はありません。でもほら。」
シエルは口の中を見せた。キチュネは一度果汁がつくとなかなか落ちないんです。外見と違って中身は毒々しいでしょう? 丸1個食べると3〜4日はこのままです。だから悪魔の実としてあまり出回らないのです。でも動物には人気です、一番は美味しいからですが、もう一つは自分を強く見せるためと言われています。口のあたりをドス黒くして水面に映る自分の姿を眺めていると言われているのがシュジュメールです。」
「そうなのねー。勉強になるわ! いつも有難うシエル!」
「はい。」
こうしてレティシアは能天気に世界旅行を楽しんでいた。




