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断罪後の公爵令嬢  作者: まるや
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1、マジか

ううぅぅぅ、痛い 動けない 何これ!?


目覚めたレティシアはあり得ない方向に曲がった自分の体を見つめた。

ザァァァァァ

ついてない、雨まで降り始めた。痛いぐらいの大粒の雨は傷ついた体に容赦なく打ち付ける。


あーーー痛くて痛くて気を失いたい、どうせ動けないし記憶を整理しよう。



そうだ、私は レティシア・マルセーヌ 公爵令嬢 18歳

ヴァルモア王国の第1王子 スタンビーノ殿下と婚約していた・・・よね?


そう、今日は貴族学園の卒業式の後のダンスパーティが行われていた・・・はず?

じゃあ、何故ここ 崖の下で卍みたいな形で頭から血を流して内臓も破裂して横たわっているかと言えば・・・はぁー、思い出した。


私は断罪されたのだ。

あっという間の出来事だった。


そしてちゃんとした裁判も何もないまま、第1王子所属の生徒会の権限?で 元平民の男爵令嬢に対する多数の虐めや嫌がらせで…のちの王妃の資質なしとし、国外追放となって実家に戻ることもなくボロい馬車で国外まで一気に走り国から出て この地で崖から落とされ殺された……ような気がする。

ん? まだ死んでないから殺されそうになった…か?

それにしても生徒会の権限って何だ? それも誰も注目していないところで耳元でノーマンに言い渡されただけ。呆気に取られて放心しているとワインを掛けられ 言われるがまま部屋について行くと……記憶が途切れた。

よくある皆の前で第1王子の暴走で婚約破棄を言い渡されたわけでもない。何だかよく分からないまま気づけばこうなっていた。


あーあ、辛い人生だったなぁ〜。


6歳でスタンビーノ王子の婚約者になった。

家柄、容姿、血筋、年齢 まあそんな大人の事情で決まった婚約者ポジション、6歳から未来の王妃に王妃教育が始まった。常に完璧を求められ大口で笑う事も本音を言う事も許されない。側には王室の暗部のシャドウと呼ばれる影が常につき守られている…守りと言うなの監視だ。


一切の自由もなく18歳となった。

レティシアはこのヴァルモア王国の5大公爵家 マルセーヌ公爵家の令嬢、代々この5大公爵家から第1王子の妻は選ばれる事が慣習となっている。

選ばれてしまった私には逃げる事は出来ないただ言われた通り動く人形であるしかなかった。


では 何故そんな護衛がいる中こんな事態になったのか?

何してんのよ、こんな時こそ助けてよ! ほんと勘弁して欲しい。



それにしても国外追放の上、すぐに殺すとかって酷くない!?

ぶっちゃけ王子との結婚なんて自分で望んだ事じゃないんですけど!!

だいたい学園に行っていない私がどうやって男爵令嬢虐められるっていうのよ!


殺すほど憎かったの!?

いや、違うか 私が邪魔だから? 邪魔者を殺してでもあの男爵令嬢と結婚したかったの……か? 男爵令嬢によく思われたくて? あー、分かんない。

おっかしーなー、そんな感じじゃなかったのになぁー。恋愛初心者の私でも最近のスタンビーノ王子とは良い感じだったと思っていたんだけど勘違い?

でも…私たちに自由なんてないのに…王子も 分かってるよね〜? 

あ゛――― もう分かんない!!

はぁー……いいなー 私も相思相愛の恋してみたかったなぁ〜。

あれ? でも なんかへん。

スタンビーノ王子はあの時いなかった……本当に王子の意思かなー? 誰か他に犯人がいるとかーーー?



今日は卒業式で卒業パーティだったが、実を言うとここ3ヶ月くらいは学園には1日も行っていない。王宮で儀式をしていたからだ。その間シャドウの影武者が学園に通っていた。

それを上手く犯人に利用されたのだろう。


動かない体で周りを見渡すと大破した馬車に 地面に叩きつけられて死んだ馬、それに私。

くっそ! 雨がさっきよりさらに強くなってきた、ぶふっ息するのも苦しい。顔に当たっている地面の石にも雨の水溜りが出来て 正直自分の意思では顔を動かす事も出来ない。

痛くて動けないのに…雨までって……コンチキショー!!


あっ、今 崖の上から何かが光った。

ヤバイ、逃げるなら今でしょ!


敵か味方か分からない今、レティシアは気合を入れて痛い体に鞭打ち集中した…そして転移した。


崖の下は河川敷 細い川が流れている。その石の上にレティシア様も馬も血を流してピクリとも動かない 放射線状に広がる夥しい血痕の量、生存は絶望的だった。馬車も大破してコッパ微塵……すぐにもお助けしたいがここは崖 近場に降りられそうな場所はない。周辺で下に降りられそうな場所を探す、シャドウが崖の上から降りて近くに来た時には川が増水し馬車も馬も何もかも濁流に流されてしまった。

そんな馬鹿な!?

シャドウの一人が命綱をつけて川に飛び込みレティシアを確認したがやはりあるのは血溜まりだけだった。さっきまでそこにあったレティシアも痕跡も 川の水が押し流してしまった。


「くっ!」

ザバッ!!


「どうでしたか?」

「駄目だ、何もかも水に流されてしまった。一旦戻って報告しよう。2人はこの流れを追ってどこかにレティシア様がいないか確認するのだ。」

「はい。……くっ、すみません!!」

「今更だ。 行くぞ!」

「はい。」



スタンビーノ・ヴァルモア 18歳 このヴァルモア王国の第1王子。

6歳の時に王宮で顔合わせをし婚約者が出来た。

相手はこの国の筆頭公爵家の娘で名前をレティシア・マルセーヌ。

6歳ながらに気品のある綺麗な女の子で『この子が僕のお嫁さんになるのか 可愛い子です良かった』そう思った。


月に一度父親を伴って登城しお茶をする。

お茶をする時は流石に僕と彼女と護衛と侍女だけになる。

お互いに最近読んだ本の話や帝王教育で勉強した外国のことなどをよく話した。この月に一回の逢瀬を僕は心待ちにした。彼女も王妃教育が始まっているらしく共通の話題で盛り上がれる。同年代の他の子とでは正直 話が合わないのだ。

僕と同じように彼女も頑張っている事がモチベーションに繋がった。


私たち2人の未来は変わりようもない決定事項。

それに亀裂が入ったのは貴族学園に入った頃から・・・。10年間の穏やかな関係が16歳で貴族学園に入学し新たな交友関係によって変化をもたらした。


スタンビーノとレティシアの2人は同じように王宮で勉強していたのに成績に開きが出てきたのだ。レティシアは物覚えが良かった。良いというか、一回習った事を忘れないのだ、だから偶に昔の事を紐付けされて出てくる問いに 私はなんだったかなー? あー、なんか過ぎる…あったかも知れない、と曖昧になる事も正確に間違いなく答える。

最初は私が忘れてしまった事をフォローしてくれるレティシアを頼もしく思った。

だが、その差は徐々に大きくなり 自分だけではなく周りにも期待の分 失望の色が濃くなって、立場が逆転しつつあった 周りのレティシアに対する期待と羨望が次第に大きくなっていった。


周りも私を貶せないので、『スタンビーノ王子殿下は勿論素晴らしいですが、レティシア様も同じように素晴らしくありますね。』レティシアを褒める時に枕詞のように私を褒める、それがまた癪に触る。


貴族学園に入学、私とレティシアは首席で合格した。

正直私はホッとしていた。それから少ししてレティシアは王宮で儀式の為学園を度々休むようになった。王宮での儀式は秘匿されているため公には出来ない、そこでシャドウから影武者が代わりに学園に来るようになった。


そんな時に元平民の男爵令嬢 テレーズに会った。


ピンク色のホワホワの髪に薄紫の瞳に人懐っこい柔らかな笑顔 何もかも私を癒した。

その上 話してもいないのに彼女は私の内なる苦しみに気づき寄り添ってくれた。


そして『頑張っても失敗しちゃう』と落ち込む彼女 何事にも一生懸命だけど少しおっちょこちょい、完璧な令嬢ではないところが何より私の自尊心を満たしてくれた。


気難しい私の友人たちにもすぐに打ち解け、私の横にいる事が当たり前になっていった。

いつの頃からか、私の妃にテレーズがなってくれれば 私はもっと評価されるのに・・・、癒やされるのに、頑張れるのに…… レティシアが何をしたわけでもないのに不満ばかりが募っていった。


そんな折 テレーズが言ったのだ。

「レティシア様に嫌がらせをされている」


「なんだって!? 何をされたの?」

「ひっく ひっく 教科書を破られたり、裏庭に呼び出されて殿下の婚約者は私なのだからベタベタとひっつくな、と言われました。うわぁーん! 私はただ皆と仲良くしたかっただけなのに!!」


それを聞いた私の友人は激怒した。そしてそれからレティシアに冷たく当たるようになった。だが、私は知っていた……レティシアがそんな事するはずがないと。何故ならば今 学園にいるには影武者でレティシアではないのだから。


職務でレティシアのフリをしている影武者がテレーズを虐める理由がない。

きっとテレーズの自作自演だろう、分かってはいてもこの愚かな少女が愚かゆえに愛しかった。だから私は私の取り巻きたちがレティシア(替え玉)に嫌がらせするのを止めなかった。そしてテレーズが更なる自作自演をでっち上げるのを見て見ぬ振りをした。



数ヶ月後 本物のレティシアが学園に戻って来た。

私の友人たちが敵意を持って接している事に 些か驚いてはいたが、特に何も言わずいつも通りだった。はっ、流石完璧令嬢。

そうか、影武者からも報告が入っていたのだろう、取り乱す事も権力を振り翳すこともなく淡々とやるべき事を遂行していた。

そんな中 行われたテストでやはりレティシアは満点をとっていた。やはりな……、王宮の

儀式の間はずっと翡翠の間に籠ると聞いていたがそんな事では簡単に成績を落とさないか……そんな感情しかなかった。



レティシアは私がテレーズと一緒にいても何も言わなかった。

あの澄ました顔が嫉妬を滲ませてくれれば少しは気分が晴れると思うのに。

私はわざと王宮の講義で忙しいレティシアの前でテレーズを街へ誘った。


テレーズは大袈裟なほど喜び極上の笑顔ではしゃいで見せた。

それを可愛く思い、ここにはいない婚約者に思いを馳せた。


テレーズは元平民の男爵令嬢だ、言ってみれば街など私より詳しいのだろう、事実 あれやこれと説明も加えてくれた。

だがレティシアは…6歳で婚約が決まり 王妃教育が始まった。今だって生まれた時から王宮にいる私より忙しく王宮で過ごす時間が長い。

レティシアはきっと街で買い物などしたことが無いだろう……万が一などあってはならない、常に護衛に囲まれ自由もない、彼女の意思では無いと分かっていながら彼女を傷つけたかった……。 彼女の人間的な感情を見たかった、完璧令嬢の仮面を外してしまいたかった!!


街にいる人たちの顔を見ていて急速に冷静な思考が戻ってきた。何故 私は無神経にもレティシアの前でテレーズを街へ誘ってしまったのだろうか! 私はなんて愚か者だ!! 私以上に彼女は理不尽に自分の人生を奪われたと言うのに!!


スタンビーノは ここへきて自分も王子に生まれ自由がなかったように、レティシアも何一つ自由がなかったと思い至った。レティシアは完璧令嬢を演じていたわけではない、自由のない生活で人間らしい感情を忘れてしまったのだ、あれは諦めの顔だったのだ!



そして学園でレティシアと話をした。


「……………。」

「殿下、お話があるのでは無いのですか?」

「…そう、あるのだが何から話していいか分からないのだ。

いや まずこれからだろう、レティシア 貴女の前でテレーズを街へ誘ってすまなかった。」


護衛も下げ教室には2人きりとは言え 一国の王子が臣下であるレティシアに頭を下げたのだ。

レティシアはそれをただ見つめていた。


スタンビーノはレティシアの反応がどうであるかより 自分の思いを素直に伝える事にした。

「まずはその謝罪をしなければならないと思ったのだ。

私はレティシア 貴女にいつの頃からか嫉妬していたのだ。同じように学んでいるのに貴女は1度学んだ事を忘れず常に完璧であった… 私は劣等感に苛まれた。テレーズと街に出掛けた時 レティシアは街を歩いた事などないのだろうと思い至り、私との結婚が貴女を縛っているのに無神経で幼稚で自己中心的な感情で貴女を傷つけたと気づいた、本当にすまなかった。」


「スタンビーノ王子殿下…… 私は物覚えが悪い方なのです。」

「何を言っている、いつも過去に習った事だっていつだって完璧な形で答えていたでは無いか?」

「物覚えが悪いから必死でいつも忘れないように家に帰ってからも予習復習に時間を費やしました。寝る時間を惜しんで…毎日2時間眠れればいい方です、具合が悪ければ薬を飲み歯を食いしばって勉強しているのです。それしか私には許されていないから。


口を開けて笑ってはいけない、王子殿下の恥となってはいけない、模範とならなければいけない、自由な感情を持ってはいけない、王子殿下のやる事に興味を持ってはいけない、意見してはいけない、自分の意思を持ってはいけない・・・。友人は選ばなければならない、批判的な意見を口にしてはいけない、誰かだけに肩入れしてはいけない……規則、規則、規則。

私に許されたのは学ぶ事だけ。


王宮のしきたりは私の感情を殺さなければ生きるのが苦しかった。

それでも頑張れたのは6歳の頃の楽しかった記憶と、私に選択の余地などないと言う現実です。生きていくためにはやるしかない……本当にそれだけなのです。」


目の前のレティシアは心が疲弊していた。虚な瞳には何も映らず期待もしていないようだった。

何故 私は唯一の理解者となれるはずだったのに 寄り添うことができなかったのだ!!


「すまない、すまなかったレティシア………、すまないレティ。」

スタンビーノは泣きながらレティシアを抱きしめて謝罪を重ねた。

レティシアはただそれを黙って受け入れた。


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