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薬草山と魔術入門書  作者: 穂国キート
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少年の行動


「ボウズ、怪我はないか」


確認のためにシーヴズが少年へ近づこうとすると、横から出されたレオルドの腕で制された。なんだと見やると、レオルドは少年を凝視するようにしていた。

シーヴズが口をひらく前に、報告が一切はいっていないと音量を落とした声でいわれる。


魔力を保有していたとしても、いまの一連の出来事は驚愕に値する実力であるだろう。成長の著しい魔力保有者は、魔術協会の規定で帰属する国への報告が義務付けられている。生まれ持ったものが開花する、基礎教育過程でだいたいの判断がつくのだという。

基本方針としては一応とつけ加えるべきか。


魔術界は二十代で実力者たちが出切る世界だとされており、引き抜きは十代でおこなわれることが多い。報告義務は二の次、三の次にされることがよくあるそうだが、コルギー王国では正常に機能していた。国内にある魔術協会支局から適時適正に国へお知らせがきているそうなのだが、国の方針として将来のことは自由にえらばせるようにとなっている。

それで本当にいいのかとシーヴズもおもったことがある。レオルドはその報告も把握しているようだった。さすが、右大臣が引っぱってきた人材だ。優秀である。


少年はまだ十二、三の年頃にみえる。これからの可能性もあるだろうと返せば、支局から著しく優秀と通知がきたのは現支局長補佐役の女性が最後であり、八歳当時でお知らせとなっていたそうだった。彼女はその後、特例の十八歳で魔術師資格を取得し国内支局へ勤務となった。それから十年が経ち、いまにいたる。


魔術協会関連は支局長が右大臣の幼なじみであるため、すべて右大臣の管轄となっている。必要とおもわれる事項はその都度、確認しておくようにとレオルドにまわされてくるが、魔術協会に関しては着任時に内容を頭にいれたところから変更や更新はされていないそうだった。


「可能性はふたつしかない」


少年が国内の魔術の授業をうけていないか、魔力を保有していないか。


「いまのを見ただろう。あれで魔力なしは」


「身体能力ではない、とまではいいきれない」


魔術教育除外国で魔術師殺しと物騒な異名をとる国も世界にはある。魔術行使者との差を驚異的な身体能力で埋めあわせているというが。あくまでも噂だろうとシーヴズは返した。

レオルドは少年の剣が魔道具である可能性が高いという。そこは同意できた。剣の魔道具といえば、魔剣だ。何振りか世の中にはあるらしいが、それを魔剣らしく使いこなせるのはやはり魔力保有者になる


レオルドはこの少年がちかくの家の子供ではなく、山賊の子供だとおもっているのだろうか。もしそうだったとしても、賢そうな子供なので事情を話せばわかってくれるのではないかとシーヴズはおもう。

国有地になっている山から山賊たちを追い出すために派遣されてきているのだとしても、べつにとっくみあう必要はないだろう。話しあいで片づけば、そちらのほうが断然いい。自分がすこし話してみるといいかけたとき、部下の悲鳴に似た声で退避場所に駆けつけることになった。


「血が…!」


六人中四人は、かすり傷や片腕の負傷ですんでいた。重症者はふたり。応急処置はすでになされていた。しかし血がとまらないと繰り返されていたように、まだ血が流れつづけている。手で患部を直接圧迫しているが、それでも一向にとまらないようだ。傷薬の小瓶がいくつも周囲にころがっている。


「使用して、この状態なのか?」


レオルドが確認すると、そうですという返事があった。この状態では運ぶにも運べない。圧迫をやめるとさらに出血してしまうとのことだった。はじめに避難した場所から動けなかったのは、これが原因であったらしい。レオルドとシーヴズがすぐに応急処置を見直したが、手当ての仕方はまちがっていない。


傷薬を使用したあとの空瓶も何本か、ちかくで確認できた。全量を複数本、使用済み。傷薬をつかっても止血すらできないのであれば、負った傷のほうに問題があることにならないか。この負傷に対応できる人間をこの場所までつれてくるとしても、時間がかかりすぎてしまう。

シーヴズは残りの傷薬をあけながら止血帯をさらに重ね、巻きなおしているレオルドと視線をあわせた。


どうする!?


ちかくで空の小瓶がひろわれた。


「あー、これじゃダメだよ」


瓶口に鼻をもっていき、クンとひとかぎした少年がいった。

いまの熊が最近、西側をあらしていたやつのはずである。そうであるならば毒持ちなのだと。


「毒?」


「凝血しにくくなるみたい。そんな風に、血がとまらなくなる」


「おまえ、薬か毒にくわしいのか?」


少年は空瓶を握ったままの右手で、山の上を指さした。


「幼なじみがこの山の薬師の家系」


息を飲む間と声が六人分そろった。


「コルドバーン家かっ」


「そう」


幼なじみの家がむかしから管理をまかされている山だときいているのだが、このごろ入りこみが多く、見まわりが追いつかないのだと少年はぼやく。

そして、薬はこんなうすいものではなくという。


「ハチミツみたいに、とろっとしたやつじゃないと効かないよ。ロイヤー…だっけ?」


「ロイヤル級か」


「ある訳ないだろうっ」


どれだけ貴重で目玉がとびだすほどの高級品かわかっているかと、シーヴズは少年にいった。一国の王に対して使用される最高級品質の薬品がそう呼ばれるのだ。

少年はそのくらいの薬効がなければ、ほかは水とおなじだと返してくる。


「その毒を解毒しないと治癒もきかないよ。たぶんだけど」


それは本当に深刻だ。人家に声が届くあたりまで運び、怪我人がいると救援をもとめれば治癒魔術でどうにかなるとたかをくくっていた。


少年は顔から血の気が失われていっている重症な部下のひとりを指さし、それという。


「この傷薬のほかになにを使ったの? ふりかけてあるやつ」


それがまだあり確認できるのならば、上に運ぶまで一時的に血をとめておく薬くらいはつくれるかもしれない。幼なじみがその毒の分析もはじめていたようなので、上までふたりがもてば助かるかもしれない。

と、そこまでいった少年は思い出したように首を左へかたむけた。


「ほかのひとにあげる薬効のあるものをつくるときは、調剤資格がいるんだっけ。おれは持ってないから、そういえばダメだったね。国のひとたちっぽいし。じゃあ、おれはこれで──」


大丈夫だっ、とシーヴズは叫んでいた。レオルドが緊急時特例を早口で説明する。部下たちは、ふりかけたなにかを懸命に探しはじめていた。

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