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薬草山と魔術入門書  作者: 穂国キート
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会合の昼休み


死の沈黙についての注意が再度うながされ、食事休憩となった。用意されていたワゴンが運びこまれ、学生時代をおもわせるワンプレートの食事が各席にならべられはじめる。


「…すくなくないですか」


フローレンスのとなりの席にすわるマッシャーが軽食の分量となっている食事の量を気にした。現在は会合中。議論前提であり、日中は満腹状態にしない。眠気防止のため、つねに小腹が空いたままの状態が理想となっていることを教える。

途中で絶対に腹がなるというまだ育ち盛りのような相手に、よくいまの内容を視聴したあとに食い気がでるなとフローレンスは溜息をついた。

オズが横からワゴンのところへいくように声をかける。そこで、パンの追加がもらえる。


「ありがとうございます!」


ここは食堂ではなく会議室だという前にマッシャーは足早にむかっていた。初回参加の新人を今回の顔ぶれのまえで、うたた寝をさせるわけにはいかないとフローレンスが苦情をむければ、オズはさきほどの内容が出たあとで昼寝できるならむしろたくましいだろうという。


「図太い神経のまちがいだろう。そっちが知っていた内容は?」


「あったら困っていない。それにしても、どうするんだ。開示を一部にしたとしても大騒ぎになるだろう」


一部という範囲すら今回は多岐にわたると話している横で、ミミフクが隔離区画にもどってもいいかと総代表に確認をいれた。

ちかくまでやってきていた周囲がすぐさま却下とこたえる。


「冷静になりなさいよ、おまえさんたち」


「冷静だわ、このボケが。これだけの物事持ちこんで逃げるな」


調子のもどってきたペルシャンカにミミフクはそういうところだといった。自分は会合の出席者ではなく、ただの説明者として参加となっている。視聴中は議論ができないため、食べながらの一時間でも無駄にはできないはずである。


「大半が数日前からきて本部につめていたんだろう。明日には国へ帰らなきゃまずいんじゃないの? 方向性だけでも議論しておかないと今回はたいへんだよ。気のせいの可能性はない。しかも、シュウくんのおしゃべりがはいっている後半はおもたい。まとめられる範囲をさっさとまとめておいたほうがいいよ」


重たいってなんですかと、こちらもやってきたディンが聞き返す。

前半はユウシによる議題内容の開示くらいのことであり、本番は自分の道をもくもくとつきすすんでいるシュウが自ら話し明らかになる物事であるとミミフクはこたえた。

最後までみれば、ほぼ全員が夕日みたいな~とおもい、やる気をなくすに決まっている。


「はい?」


「そうなるよ、絶対。大半が」


「ジジイ、戯言をいってる場合だとおもっているのかっ」


ペルシャンカは絶対にそうなるとミミフクはいいきった。ジョンヌがのばされかけているペルシャンカの腕と、ミミフクのあいだに割ってはいる。


「おまえは支局長だ、ミミフク。会合出席許可を満場一致で出す」


「賛成です!」


すぐさま総代表のマープルが同意を表明した。さすがに一存はまずいのではないかと周囲の反応がわかれるなか、ミミフクが開場前にいっただろうと返す。

魔術界とは縁をきるといったはずだと。


「クソジジイ、そんなことがこの状況で通ると──」


「わしはもう数日前に最後まで目のまえでみた。ひと通り何遍も考えたあとだ。おまえさんたちにはもう半分が残っている」


今回はこうすれば全員出てくるだろうと確信が持てる、ここにいる旧知の者たちを相手にしても、最後に出す結論の予想が半々以上にはならない不安定さとなっている。

さらに最重鎮といわれる顔ぶれですら個人のおもいがどうあったとしても、国もとの体質や事情によっては納得のいかない決定を正面にたてなければならなくなるだろう。


「おまえさんたちとですら敵対関係になりかねん。このうえ旧家と魔術界の残りがある。わしが出てくるのはこれで最後だ」


マープルが待ってくださいと悲鳴のような声をあげたが、ミミフクはコルドバーン家の少女がこれまで経験してきた全記録を提出しろと、本部がいってくる可能性があると返した。


「まさか…! そんなことはありません」


「おおいに、これがあるんだよ。後半の冒頭でわかる。これについてはシュウくんと直接交渉をするように、今いっておくよ。ユーシちゃんを巻きこまないように。あの子には一切の手出しをさせない」


自分がこの問題に関わらせたようなもののため、個人的な最優先保護対象としたとミミフクがいう。状況はより重大なことになるのである。後半開始早々に全員立ちあがりかけるか、ひっくり返りかねない。

全員、体調は万全にとミミフクがいった。

本番は、後半である。


出ていこうとしたミミフクは前総代表と呪物協定側の年長陣に片隅へとつれていかれ、逃げようとしながら結局はその一角で昼食となっていた。

それぞれの席にもどって昼食となったが議論どころではなかった。食事を摂るのもそこそこに多くが入門書にかじりついている。


この調子で短期採決まですすむものか疑問をかんじながら、フローレンスは手早く食事をすませた。食器は自分たちが片づけるといってくる同国のふたりに数年前まではここが職場だったとことわり、立ちあがる。片づけてから、まわりより頭ふたつ分は突き出ている人物の席へと歩いていく。


「ディン、すこしいいか」


「おまえ、食うのがはやすぎるぞ。ちょっと待て」


そのまま食べながらきくようにいった。今回は時間がかぎられている。同窓会でもやるのかと社交的なのかそうでないのかわからない、椅子からはみでている部分の多い大柄な男がいってくる。


「おまえがやれ」


「幹事をか? それならホールエのほうが」


「ここのまとめ役だ」


幹事と似たような仕事だが、前任が魔術界の顔といって過言ではない人物である。食事の手をとめ不自然にふり返った見開かれた目に、顔をあわせるなり打診をかけられたと話した。

数日前のことだが、今回が世代交代のいい機会だろうといわれた。緊急召集の内容開示をうけ、今後の調整がどうなるかはまだわからない。ただ自分は抜ける。


「おまえ、なにをいってるんだ。そんなことが」


「ジジイに愛弟子といわれた」


ディンが、がっくりと肩を落とす。

そんなことはいつもの軽口だろうという、むかしから体格がよく見あげていた記憶しかない相手にフローレンスは立ったまま、やや視線がしたに落ちる違和感にむけてつづけた。


「警告だ」


「…警告?」


ミミフクが魔術界と縁をきると宣言のようにいったのは、引退という形式的なものでは今回の複数の案件で引退している場合かと最前線にひきもどされかねないためだろう。そのミミフクが一切関わらないと完全引退し、つぎに矛先がむけられることになるのは。

今回の召集状関連でいわれなかったかと、フローレンスはディンにいった。


ミミフクから連絡がなかったか、教え子だろう。


「いわれたよ、何人にも確認をとられた。こっちにまわってくるって?」


そうなるに決まっている。そして重大問題となる今回のような案件で、ミミフクは年下の層をたよるということはしない。たよるとすれば…。

同世代の方々だなとディンが相槌をうった。その面倒さはおなじだろうという相手に、愛弟子と勘違いした呼び方をされるのは自分ひとりだと返す。


「フローレンス、それは仕方ないだろう。おまえが一番ミミフクさんにちかいんだ」


「国や知り合いの範囲にいわれるのはあきらめるが」


問題はそのほかにある。自分はすでに過去、問題を起こしている。今回のことがなかったとしても角が立つ物事がある状態だった。いずれは本部に顔を出さなければならないなかで、ある程度の面倒事は覚悟していた。

ただそこに、ほかの人間まで巻きこみかねないとなれば事情がかわってくる。


「フローレンス、それは全員おなじだ」


「今回のことがなかったとして、その状態だった。これだけの大問題が出てきてほかの問題をかかえていられないだろう。おまえは安定してる、おまえが適任だ」


「ちがう、おまえだ。こんな時間がないところでする話じゃないだろう、ほかの同年連中もあつめないと」


「時間がここしかなさそうだから、いっているんだ」


眉を怪訝そうによせたディンに、リターナと話したかときいた。


「いや、部屋から出てこないらしい」


そうだとフローレンスはうなずき、そちらもどうもわるいらしいと返した。病気なのかといってくる相手に戦闘部隊だというと顔がひきつった。


「フローレンス、その話は今回──」


自分が所属していた部隊の話ではなく、四年前のリターナの件のほうだと言葉をかさねる。事故という以上のことをきいているかたずねると、事故があったとしか知らないと返ってくる。


「おまえたちは関わるな、こっちでやる。いまのうちに片づけないとまずい」


「待て。とにかく、いまはよせ。絶対に駄目だ」


状況を考えろ、会合の内容を思い出せといってくる相手に、四年前の犠牲者の葬儀当日、都合がつかず出席できなかったのだとフローレンスはきりだした。

遺族が落ちつくのを待ち、訪問しようとしたのだが。


「誰ひとり、所在がつかめない」


「……そりゃあ、引っ越し先を必ずまわりにいわなきゃならないってことでもないだろう」


「あの部隊の関係者でリターナしか、いまの所在地がつかめない」


「……なにがいいたい」


戦闘部隊所属となっていた当時、不遇な事故と片づけられた一件で自分は騒いだ。ディンは騒動というよりも、絶対安静の人間が動きまわっていたのが間違いだったという。


「あれは本当に無茶をしすぎだ」


「あのときはこっち側からも結構な人数が出てきただろう」


「全員、おまえを心配していたんだぞ」


「つぎ、おなじことになりそうだったら先に黙らせないか」


「……おい、待て」


黙ってきいていろと、フローレンスは話をすすめる。自分もこれだけの問題が積み重なっていくなか、過去の話で揉めようとはおもわない。しかし四年前の件に問題があるならば、本部内部が深刻な状態になっている可能性が出てくる。

自分の事故当時は、旧家の当主陣が対応者だった。


「あれで多少は変わった。どうなったかは知っているだろう」


「タタン家が責任を取るかたちになって、規約も変更がでた」


フローレンスが本部の戦闘部隊に籍をおいていたのは、六年前まで。ミミフクやディンらといった周囲に強引につれ出されたその日から今日まで、本部には一度も足をはこんでいなかった。


六年ぶりとなる本部は気がおもく、思い出したくない記憶もちらついたが周囲を見まわす余裕はもてた。今回の召集ならリターナもくるだろうと他人の心配もできるようになっていた。


リターナの到着をきいて、フローレンスは部屋を何度か訪ねた。しかし、室内にいるはずの相手からまったく反応がない。

自分同様、本部に身をおくには複雑な心境だとしても、今回の新旧取りあわせた面々に一度も挨拶まわりをせず閉じこもった状態でいるのはどういうわけか。


ここ最近の出来事なら本部にいるのもつらいという心境はわかるつもりだが、事故が起きたのは四年前。会合の出席者としてやってきているなか、見知っている相手とすら顔をあわせることをさける状態でいるのは不可解だった。

べつの問題でもかかえているのと、そうしたことを考えながら最後に会った記憶をたどった。


最後に顔をあわせたのは事故が発生したと発表のあった直後、入院中だった病室に見舞いにいったときが直接会った最後だったかと思い返し、リターナにたずねようとしていた本題がよぎった。

四年前の事故関係者、所在地不明。


自分が問題ありと抗議したことで変更となった、緊急時の対応。旧家の当主陣から本部の上層部委員会に戦闘部隊の緊急時対応担当が移行した。四年前はそこが対応にあったはずである。

対応に問題があったとはきいていないが、なにかあったのかと当時の上層部役員を記録室で確認することにした。


「タタン家が退いたあと上層部がどういうメンバーになったか、みたか?」


「あぁ、ざっとだが」


本部の記録室で最新、おそらくは現状の構成と考えられる名簿が照会のはじめに表示された。

それは普通だろうというディンに、そうだとすると最悪だとフローレンスは返す。自分も、あの直後に発足となった上層部委員会の全役員を覚えているわけではないが。


「要職どころが今もそっくりそのまま並んでる」


「……は?」


何拍かあけ、ディンはあるわけがないといった。本部の上層部委員会は任期がながくても三年、通常は二年ほどとなっている。再選出ということもあるが、重職の役回りは十年間あけなければ任命とはならない。

フローレンスは知っていると、ひと言でこたえた。


「可能性として、六年前で記録更新がとまっているか」


「本部の記録室だろう、そんなことが…」


「あれが本当に現状なら、ここの上層部関連の規約がいろいろと改変になってる可能性がある」


青ざめていく相手に本部から規約の変更なり改変を考えているという内容で、あのあとに通達があったかと確認した。


「いや…、おまえのとき。六年前が最後だ」


魔術国であり、本部とのつきあいも古いディンの本国にそうした一報がはいっていないのであればとフローレンスは息をついた。


「こっち側、リターナ以外だれも本部の内情を知らないぞ。たぶんだが」


「待て、…待てよ。はやまるな」


「可能性としてだ」


そうだ、可能性だとディンが自分にいきかせるようにくり返す。

たまたま名簿の更新が大幅に遅れているだけならば、問題はない。ようやく部屋から出てきたリターナも激務つづきで疲れており、たまたま憔悴状態での会合参加となったのかもしれない。


「……待て、待てって」


「あいつの状態がひどすぎるから、いま話してる。……上級の沈黙魔術で口封じをかけられているとおもっておいたほうがいい」


無言で手のひらだけを待てというように向けてくるようになったディンに、六年前に選出された上層部の委員長はだれだったか覚えているかとつづける。

相手の顔がさらに青ざめていった。


「まさか、まだそのままなんてことが」


現在の役員名簿として表示されていたため、これが本当に現状であるならば相当に深刻なことになっているのではないかと、フローレンスはさっさと記録室から退出してきた。

ここ数年の上層部委員会メンバー選出について、なにかきいているかとたずねる。自分は六年前を最後に上層部についての話題はまったくなにもきいてない。


ディンが、がっしりとフローレンスの右腕をつかんだ。


「本気でまずい、今回は待て。ひと通りの確認がさきだ」


「その結果を考えたあとでいっているか?」


現在、会合中となっているこの場所にいる旧家関係者はリッシアン家のみ。ミミフクが中心となっての召集となっているため、ほとんど見知っている顔ぶれとなっている。


「いいか、議決が出次第解散になる。死の沈黙範囲外の内容はすぐに上層部の耳にはいる。旧家の当主陣よりもはやいかもしれない」


「……全範囲にしよう」


「できるわけがないだろう。入門書の話は持ち帰り次第一部開示になる。ディン、この顔ぶれがそろうのは最後だ」


「さすがに、今回の世代交代は無理だろう」


フローレンスは息をつき、何枠目で出席しているつもりなんだと返した。二枠か三枠ならば、その発言も許されるだろう。


「それは、わかっているが」


「最重鎮といわれている六十代の層は全員が魔術好きだ。もう国のことより、入門書を集中的にやりたくなっているところだろう。ミミフクのジジイもさっきの時間、ずっと横で入門書をみてた」


「……」


「たのめて相談役だろう。それ以外をたのみこんだら、説教くらうぞ」


今後のことは、そこが抜けることを前提に考えなければいけない。この会合が終了となった時点で各国がバラバラとなり、すべてが一気に動きだす。


「どうして、こんな時間がないなかで話しているとおもってる」


本部の内情がきわめて不透明となっているなか、そこを中心に物事をすすめていくことになる。数年前ならば自分たちが用件をいいつけられ、使者として本部にくることになっただろう。

二枠目にすわっていられた頃ならば。


そして、通常の使者程度ならば本部の受付職員対応となるだろうが、各国の重要案件対応になった場合の対応者は。


「上層部、役員」


くぐもった声を発し気分がわるいという相手に、ここ数年内の時事をよく思い出せと強制する。


「だれが委員長に選出されていたか、本当にわかっているんだろうな」


「当たり前だ、エディオット・ショイブルだろう」


「つぎ、ショイブル家の当主の年齢」


年齢? と聞き返しつつ、やや年下のはずであるので二十五、六だろうとこたえがあった。

旧家七家とされるうちのひとつ、ショイブル家の当主ルビーノは二十六歳。マープルの当主交代にあわせ、三年前に当主となった。


「ショイブル家の、前の当主が逝去したのは何年前だ?」


「たしか、五年……っ、おい!」


だからそれだとフローレンスは返す。ショイブル家の前当主が亡くなり、正統継承者である現当主のルビーノが継ぐまでに二年間の空白があった。理由は様々いわれているようだが、今回の話はそこではなく、旧家の当主にひと月以上の不在期間はないところにある。


その二年間の空白を埋めたのはエディオット・ショイブル。ショイブル家の当主代行をつとめていた。


「さすがに、当主代行の期間は本部の役職を辞退して」


「だから、わからない。ただ最悪の場合、あの男が一時期本部の上層部の委員長権限と旧家の当主権限を同時に保有していた可能性がある。万一、現実でそうなっていたら、総代表として本部内で旧家当主の権限を放棄しているリッシアン家以上の権限保有にあたるだろう」


「まずいどころか、よりによってだぞ」


最長で三年前まではエディオットが上層部委員長として適正に任命されていてもおかしくないはずだとフローレンスがいえば、まるまるかぶるだろうと文句があった。

その重複が懸念される期間に、リターナの配属されていた戦闘部隊の事故。その翌年に、はやすぎるといわれた前総代表の引退がある。


さすがに、さすがに…それはないとディンが動揺したようにいった。前総代表は呪物の管理懸念が生じたための引退だった。

当時、一部では精神負担が重なったのではといわれていただろうとフローレンスは返す。戦闘部隊の問題つづきの件がとりあげられ、自分は本部責任者として当然の責任だとおもっていたが。


「あのおっさんは、まともだ」


「リッシアンさんを、おっさん呼ばわりするのはよせ」


前総代表は旧家当主による多数決の方針を動かせなかったところに問題があるくらいで、世間の評価はよい。


「辛口なのはおまえくらいだ」


「あのおっさんが在任中、気づいていないはずがない。見過ごしもないはずだ」


ディンがそうだ考えられないと息をついた。考えすぎだという相手に通常ならばほかの職員も勤務しているなか、考えられないとフローレンスも返す。

ただ、むかし本部に在籍し、手空き時間で本部の規約や内部規定の資料を読んでいたときに。


「ここの規約関連、特別措置の全項目を知っているか? 箝口令がしけるらしい」


「箝口令?」


一度も適用例はないらしいが、そんなことも強行できるのかと当時おもった記憶がある。そしてこれが上層部委員会の単独決定でもおこなえる。


「……」


「おまえが知らないなら、らしいとしかいえないが一般職員は全員口封じできそうじゃないか」


「万一…委員長役が継続だった場合、そこだけで十二分に深刻だ」


「問題はこれを最大限改正した場合、総代表まで強制をかけられるかだ」


「……」


「あのおっさんもリターナとおなじ、発言封じがかかっている可能性がある」


もし、この方法が上層部委員会の決定のみで可能だった場合、適用対象が現状不明。職員登録している本部職員のみか、あるいは本部敷地内にいる者たちとなるのか。

万が一、そうであるならば外で話さないとまずいだろうというディンに、フローレンスは現状を再確認させた。


ミミフクが中心となっての召集、最重鎮層が滞在となっているため本部は厳戒態勢中。会合が解散とならなければ、上層部の役員でもこちら側には干渉できない状態が現在である。

そして自分たち三十代層にはつよく出られたとしても、ミミフクが集合をかけた六十代層には無理であるだろう。


「今回はジジイとペルシャンカさんがいる。もし上層部がなにかしてきても、つぎの瞬間には大騒動決定だ」


今回を逃すと最悪な事態が現実になっているほど、どうしようもなくなっていく。それでも自分たちは最悪、本部からこちら側の人員を回収して引きあげればいい。


「おいおいおい」


「おっさんも、いまはそれが可能だが」


ディンの顔がこわばった。


「……総、代表」


「そこがどうにもならねぇな、と相談にきてるんだ。あいつの手口、知ってるだろう」


「全部、他人に押しつけて自分は一時消息不明。……ふざけるな、押しつけさせるか」


マープルは解任まで本部から動けず、就寝場所も本部の敷地内。上層部がどこまでのことを実行にうつしているか不明となっている現状では、マープルとコエットをすぐに保護下におけるよう、あらかじめ準備しておかなければ疑惑すらぶつけられない。

自分の考えすぎならなによりだが、どうもきなくさい。


「今回の会合でなら、四年前の戦闘部隊の件を詳細確認の口実にできる」


リターナと自分がいるため、四年前の確認として一度この場で出し周囲のようすをみる。こんなときに蒸し返してという、ディンとおなじ反応が起きるならば全員が本部の現状を知らない可能性が濃厚。

そうなるのであれば当時と現在の上層部委員会の役員変遷がどうなっているか、今日中に不安要素の確認をとらなければまずい。最悪の状況となっているようなら、共通認識が必要になる。


今回は一度ながし、国にもどってから確認をする手間をかけるというならば、ディンが中心となってうまくすすめていくことになる。


「おい、待て」


「この会合が解散になったあとは関われない。こっちで動けば、すぐに警戒される。リターナの相手してるのがせいぜいだろうな」


丸投げするなとディンが頭をかかえ、決議を一日ひきのばし確認をするのが妥当だろうといった。役員確認のことをいっているのであれば、確実に知っているマープルとコエットが室内にいることを思い出させる。


そうだ、コエットといって立ちあがろうとするディンの椅子をフローレンスはがつんと蹴りつけた。


「なっ!?」


「万一、あのバカの名前が出て、まわりにきかれてみろ。おっさんへの糾弾がはじまる」


糾弾がはじまってしまえば疲れるのを待ち、落ちつけるしかないが本当に前総代表に発言封じがかけられている状態ならば、いくら追求をかけても回答がなく悪化していくだけだろう。

一方的な混乱は、今日一日の残り時間が無駄におわることを意味する。


「上層部の役員確認はひと通りの話し合いがおわってからやらないとまずい。任期の超過だけでも、判明すれば大騒ぎになる内容だ」


場をただ混乱状態にするのは無駄であり、やるのであれば分担をきめて前総代表と現総代表をわけるところからはじめなければ意味がない。規約の変更が正式に通っているのであれば、マープルはおそらくエディオットに口先でまるめこまれている。


「あのバカがまだ委員長になっているなら、おっさんとマープルを責めても仕方がない」


「一体だれが、あんなやつを推したんだ」


「いうだけ無駄だ。それより問題は総代表の保護だ。こっちで出来るとおもうか」


ディンは腕を組んで考えたあと、いやといった。確実なのはこちら側での保護ではなく、旧家の当主側だろう。エディオットが本当に現在の上層部委員会委員長の役職についているのであれば、当主たちによる認可はうけていないのではないか。


「さすがによりによって、あの男には続投させないだろう。六年前の選出でも揉めたときいている。当主陣は知らないとおもうぞ」


「ショイブル家は知ってるはずだ。かばうぞ」


「…あとあるとすれば、カイアスティ家か? 若当主は平気だろう」


そのあたりの詳細は、オズが今回参加となっているために関係性はきくことができるだろう。そこまで落ちついて話しあえる状態にどうやってもっていくかが問題になる。

もうひとつは、世界代表側の会合解散後に召集がかけられる旧家会合開催までの数日間、マープルの周囲が通常の態勢にもどること。


「いまのうちに、つぎの召集をかけられないのか?」


「その変則がゆるされるのか、わからない。それにジジイは旧家全体を警戒してる。当主陣とは相性が最悪だ」


死の沈黙の適用範囲が決まらなければ、ミミフクも本部に停留中となる。ばったりと顔をあわせたが最後。

そこまで詰めたすべての決定が吹き飛ぶぞと、フローレンスは確定の口調でつげた。


「そうだよな、別件はどうなるか」


「俺も連中と顔なんかあわせたくねぇし」


「……問題だらけだな、どこもかしこも」


「おまえが中心でどうにかするんだな。今回はさっさと帰る方針で──」


「役割分担をしよう。まずない事態だとおもうが、かすりでもしていたら一大事だ」


フローレンスは肩で息をつき、同期へといった。六年前よりもひどい状態に陥っているのであれば自分もおもうところがある。

近々、同窓会をしようとディンがいう。

手が近々あくのであれば、それはなにかが修復不可能でおわったときだろう。


「縁起でもないな、おまえ」


「面倒な仕事が積みあがっていっているだけだろう。……だから、片づけるときにまとめて片づけろって話なんだよ」


「おまえ、もしかして怒ってるか? たのむから、落ちつけよ」


残り時間が数分というなかでの打ち合わせがはじまった。

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