退屈の終わり2
高森は異世界へ渡る
「うっ・・・」
一瞬の眩しさの後、視界が鮮明になっていく。
「ここが・・・」
どうやら森の中にいるらしい。疑っているわけではなかったが、本当に異世界へと来ることが出来たようだ。
「さて勇者よ、さっそく第1の村へ向かうぞ」
「あぁ、そうだな・・・って、ん?」
「なんだ?」
「え、誰?」
知らない男がいた。
「あぁ、すまない、自己紹介をしていなかった。」
「俺はガルム、案内役だ。」
ガルムと名乗った男、身長は高森と同じくらい。端正な顔立ちをしており、短めの髪にこちらで言うところのインドの僧侶のような格好をしている。
「えっと・・・案内役はクリスじゃ?」
「女神様がそんな雑務するわけないだろう。」
頭大丈夫か?とでも言いたそうな顔でそう述べるガルム。
「いやいやいや!案内役も任せてくださいとか言ってたぞ!」
「あぁ、クリス様は少し言葉が足りないところがあるからな。」
「つまりはあれか!?案内役(の手配)も任せてくださいってことか!?」
「まぁそうゆうことだな。」
「クリスはどこ行ったんだよ!」
「俺に引き継ぎを行った後に天界に帰ったぞ。女神の仕事を勇者の発掘までだからな。」
「ふざけんな!詐欺じゃねぇか!」
せっかく女性と冒険が出来ると思った矢先にこれである。実際に異世界へと渡るとそこに居たのは男。いきなり見知らぬ男と二人旅である。詐欺だと怒るのは当然だ。しかし。
「おいおい、お前は世界を救うことを了承して勇者となることを決めたんだろ?案内役が男とか女とか関係ないじゃないか。」
「喧しいわ!あいつ勧誘の時出会いがどうのこうのって推してきたぞ!?期待して何が悪い!」
「そのあたりの事情は知らんが、別に問題あるまい。お前がこの世界で出会う者とどういう関係になろうと自由だ。」
「むっ・・・」
確かにそうだ。出鼻を挫かれ冷静さを失っていたが彼女を作るなら何もあの女神に拘る必要はない。異世界だって女性はいるだろう。これまでに読んだ異世界もののラノベだってほとんどが次々に女性が仲間になりハーレムになっていった。
「すまん。冷静さを欠いていた。引き継がれてるなら知ってるだろうけど、俺は高森敦だ。これからよろしく頼む。」
「あぁ、よろしく。」
手を差し出し握手を交わす。ガルムとは長い付き合いになるだろう。仲良くするに越したことはない。
「ところでガルムも何か神様的な存在なのか?」
「さっきも言っただろう、案内役だ。」
「あぁいや、役職じゃなくて種族的な・・・」
「だから、案内役だ。」
「ん?」
「ん?」
「あっ!えっ?種族:案内役!?」
「そうだが?」
「いやいやいや!種族が案内役ってなんだよ!案内役は役職であってどんな種族でも出来るだろ!」
「おい、人の種族について否定するのは差別だろう。俺は案内役として生を受け勇者を案内することに誇りを感じている。それを否定するのは勇者と言えど許さんぞ。」
「あぁいや別に否定するつもりは・・・」
どうやら本気で怒っているらしい。怒鳴ったりはしていないが険しい表情をしている。
「やれやれ、ここは異世界だぞ。お前がどういう常識を持っているのか知らんが、いちいちこんなことで驚かないことだ。」
険しい表情が呆れ顔に変わる。
「くっ、まぁ確かにここでは俺の世界の常識なんて当てはまらないか・・・」
ここは異世界、元いた世界では言葉を交わせる生命体は人間しかいなかった。女神なんてものも空想のお伽噺でしかなかったのだ。自分が知らない種族がいても何ら不思議ではない。
「すまない、ちょっと驚いただけで別にガルムを否定したかったわけじゃないんだ。」
「わかってくれればいい。」
「それより第1の村へ向かうぞ。」
ガルムが俺の後ろを指差しながら言う。
「ここから近いのか?」
「森を抜ければすぐだ。安心しろ。この森にモンスターはいない。」
「そうか、なら案内、任せるよ。」
「あぁ、任された。」
男二人で森の中を歩く。どうやらこの場所は人の行き来があるらしく、軽く舗装されているようだ。
「そうだ、最初に言っておく。」
ガルムが歩きながら言う。
「俺に戦闘能力はない。案内役はあくまで案内役、これまでにいくらか勇者を案内してきたが、その経験値は全て案内能力に全振りされている。」
「体を鍛えても変化はないし、戦闘向けの能力が手にはいることもない。」
「案内能力?」
「読んで字の如し、案内するための能力だ。知らない世界でも地理を把握できたり、そうゆうのだ。」
「へぇ、それは案内役全員がそうなのか?」
「あぁ、戦闘に参加しようと剣を持って敵に振りかぶっても何やかんやで自分に刺さる。」
「何やかんやの間に何が起こればそうなるんだよ・・・」
いったい何をすればそんな状況が生まれるのだろうか。少し見てみたい気もするが、そんな状況を無理に作れば本当に案内役を失いかねないためこの男には武器を持たせないよう決意する高森。
「でもまぁ俺も今はレベル1なんだろ?ってことは戦闘能力はガルムと変わらないよな。」
あの女神は転生直後のレベルは1と言っていた。つまり戦闘能力がないのは自分も同じである。
「まぁ今はそうだな。剣が自分に刺ささらないだけマシといったところだ。」
「ってことはレベル上げ頑張らんとどうしようもないよな、今は武器もないし。」
「武器は第1の村で一式揃えることが出来る。金は勇者の元いた世界での貯金に見合った額が天界から支給されているから安心しろ。」
「なんで変なところでリアル感出すんだよ・・・」
「さすが彼女なしの童貞だ。結構溜め込んでいるな。」
なにやら硬貨が入っているらしい巾着袋を揺らしながら言うガルム。
「喧しいわ!そうゆうお前はどうなんだよ!」
聞いてすぐ後悔する。ガルムは結構イケメンだ。女性経験くらいあって当然だろう。しかしガルムの答えは意外なものだった。
「俺も女性経験はない。」
「・・・なんだよ~。お前も一緒なんじゃん。」
ニヤニヤしながら言う高森だったがガルムは気にもとめずにこう続けた。
「そもそも案内役に女性経験は必要ない。恋愛もしない。男女の区別はあるが、案内役は無性生殖なんだよ。」
「はい?」
「男も女も一人で子を作れるんだ。」
「まじ?」
「ピッ⚫ロ大魔王は知っているよな。あんな感じだ。」
「えぇ・・・」
こいつ口から卵産むのか・・・とんでもない種族だな。そんなことを思いながら、口に出すとまた差別だと怒られそうなので黙っておく。
(ってかなんで異世界の存在のくせにピッ⚫ロ大魔王なんて知ってるんだよ。)
「資金は潤沢、これなら結構良い装備が整えられる。童貞で良かったな。」
「うれしくねーよ。まぁでもそれなら一安心か。」
そんなあってもなくてもいいような会話を続けながら森を歩く。しばらくすると木々の数が減っていき、開けた場所に出た。目の前には村がある。どうやら第1の村とやらに着いたらしい。
「よし、着いたぞ勇者。この門を潜れば第1の村だ。」
こちらを振り返りながら言うガルム。言われていたようにモンスターが出ることもなく、スムーズにたどり着くことが出来たことに安心する高森。
「なぁ、その勇者って呼び方、なんか堅苦しくて嫌なんだけど。別の呼び方で頼むよ。」
これまで普通の社会人だったのに急に勇者と呼ばれても反応し辛いし違和感もある。
「高森でも敦でも、勇者以外なら好きに呼んでいいからさ。」
「ではあっちゃん。」
「いやいきなりフレンドリーすぎんだろ!どうした突然!!」
「お前が好きに呼んでいいって言ったんだろう。」
「いやそうだけども!もっとこう堅いキャラしてたじゃんお前!!」
「堅苦しいのが嫌なんだろたーくん。」
「呼び方変えてくんなや!なんでチョイスが可愛い系なんだよ!!苗字か名前でいいじゃん!」
「好きに呼べと言っておいて文句の多いやつだ。わかったよハイフォレスト」
「ハイフ・・・って高森を英語にすんな!分かり辛いからツッコミが遅れたじゃねぇか!!」
「大丈夫だ。充分切れのあるツッコミだ。安心して養成所に入るがいい。」
「お笑い芸人じゃなくて勇者になるんだよ!!」
ゼェ…ゼェ…と肩で息をする高森。ガルムの唐突なボケのせいで村を直前にどっと疲れが溜まった。
「どうしたんだよいきなり、さっきまで堅物感出してたのに。」
「お前、異世界に来てからずっと緊張してただろ。」
「なっ・・・バレてる・・・」
そう、高森はずっと緊張していた。誰でも新しい環境に身を置くのは不安を感じるものである。クリスと話しているときは勢いもあって意気揚々と異世界へのゲートを潜ったが、いざ異世界へと渡ると様々な不安が過る。死んでも元の世界に戻るだけとわかっていても、やはり戦いの中死ぬのは怖い。新たに出会う人たちと上手くやっていけるかもわからない。そんな緊張を感じていた。
「じゃあお前、俺の緊張を解くためにわざと・・・」
「あぁ。」
なんだ、いいやつじゃないか。ガルムの言う通り不安で一杯だったが少なくともこの男とは上手くやっていける。そんなことを考え少し涙目になって感動している高森。しかし。
「3割程度はな。」
「え?」
「残りの7割はこいつ絶対ツッコミ属性だな~って感じたからボケてみた。」
「いやぁ、俺の思った通りよくツッコんでくれる。打てば響くってやつだな。」
はっはっはっと今日一番の笑顔を見せる。
「てめぇようは面白がってただけじゃねぇか!!」
こめかみに青筋を立てながら詰め寄る高森。それを飄々とした表情で受け流すガルム。
やっぱりこいつとは上手くやれねぇ!数秒前の感動はどこかへ消し飛び、そう思い直す高森であった。
こんばんは。投稿2回目です。
1話目2話目と読んでくださった皆様、ありがとうございました。