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ことわざ

作者: 木下美月

 

「良薬口に苦し。良い薬は苦いが、優れた効き目があるという事をこの言葉は教えている。しかし現代は技術が発達しすぎた。昔と違い、良薬を甘いキャンディに閉じ込める事も可能になったのだ。これでは偉人の言葉のありがたみがまるで感じられない」


「確かに博士の仰る通り。近頃は苦い思いをしなくても、最良の効果を発揮する物ばかりです。科学が発展した現代では、様々な価値観が昔とは変わってきているのでしょうね」


「その通り。便利になり過ぎたこの世では、先人達の生きた証を無価値にしてしまうきらいがある。過ぎたるは猶及ばざるが如し、やり過ぎは不足しているのと同じくらい良くない事なのだ」


「なるほど。昔を生きた人の教訓から価値を見出す事は、子供の道徳観を育む事にも繋がりますからね。現代の若者のどこか欠落的に感じる性格は、便利な生活の副作用だったのでしょうね」


「そう、私はそこに注目した。社会に溢れている、あらゆる高度な機械。それらの性能を幾らか下げてしまうのだ。例えば、目的地までの最短ルートを示す地図アプリ。現在地もルートも表示させないようにするのだ」


「利便性を低くした、ただの地図にしてしまうんですね。それを、博士が今手に持っているチップを端末に用いれば出来る、という事ですか」


「まさしく。これが私が発明した、道徳観を育むプログラムだ」


「詰まる所、現代の技術を、数代前の技術まで下げてしまうのですね」


「ああ、そうなるな。結局、人間の心というのは、多少の不便を自ら解決していく方が豊かになるのだよ」


「仰る事はわかります。しかしそれは、その、道徳観は育まれても、先駆者が築き上げてきた技術を拒む様な行為ですよね。こんなチップが出回ってしまったら、人類は進歩する事を辞めてしまうんじゃないでしょうか。ほら、まさに、あれですよ。小さな欠点を直そうとして、かえって全てを台無しにしてしまう。ああ、そうだ。角を矯めて牛を殺す。あのことわざの通りになってしまいます」


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