7.向かう場所
ロウは、小型竜を行く当ても無く、駆けさせていた。
小型竜は、竜と言うだけあって、そこら辺の馬よりははるかに速く駆けさせることが出来た。
ただ、鍛えもしていない王女を乗せていたとなると、話は別である。
並みの護衛では、馬と同じ速度でしか駆けさせる事が、出来ないばかりか、休憩も多く挟まなければならないだろう。
だが、今王女を乗せているのは、ただの護衛ではない。
古の時代で圧倒的な強さを誇った『死の帝王』なのだ。
王女に負担を掛けることなく、小型竜の最大スピードを維持して、駆けさせるのは造作もないだろう。
現に、ロウと相乗りでレイチェルはウトウトしている。
「……眠いか?」ロウは、ウトウトするレイチェルに、聞いた。
「……はい。お恥ずかしいかぎりです。」レイチェルはロウの言葉を肯定する。
「寝てていいぞ。今日でどこまで行くかで、俺たちの生存確率が変わる。」ロウは、前を見ながら、言った。
「わかりました。お言葉に甘えさせていただきます。」そうレイチェルは、言うとロウにもたれかかり、スヤスヤと寝息を立てて、眠り出す。
余程眠かったようだった。
「……危機感を持て、レイチェル。」ロウは、ちら、とレイチェルを見て、荒々しい息を吐きながら言った。
次の日、レイチェルはやはり小型竜の上で目が覚めた。
ロウは、徹夜で小型竜を駆けさせているらしい。
それなのに、ロウに疲れは見えなかった。
相変わらず、小型竜特有の揺れもない。
「ずっと、駆けているのですか?」レイチェルは、ロウを見上げ、聞いた。
「ああ。あの城に、お前の国が戦争している相手の間者は、いるだろうからな。俺と分からないまでも、王女が城から出た事は、分かるだろう。だから、相手の意表を突き、どこまで遠く、どこまで消耗せずに相手から逃れるかが大事なのさ。」ロウは、楽しそうに笑って、言った。
「といっても、俺の魔力も限界に近い。今夜は、宿で休むことになるだろう。」ロウは、言った。
「……今は、どこにいますか?」レイチェルは、そう聞く。
「カルカの街の近くだな。今の地図は頭に叩き込んだから、間違いないだろう。」ロウは言った。
「どこに、向かっているのですか?」レイチェルは、ロウに聞いた。
「とりあえず、俺の隠れ家に。」ロウは、そう答える。
「その隠れ家は、残っているのですか?」レイチェルは、そう聞く。
「地殻変動がなかったらな。俺が、封印された後の歴史も頭に叩き込んでいるから、残ってるだろう。」そうロウはレイチェルに答えた。
隠れ家は、家みたいな建物では無いらしかった。