9.国境を越えれば
レイチェルとロウは、国境を越える境界たる国境門にきていた。
ただ、相手国と戦争中のため、門は固く閉じられている。
「どうするのですか、ロウ?」レイチェルは、小型竜を止めさせ、目を閉じているロウを上目遣いに見つめ、聞いた。
「あ?どうするも何も越えるに決まってるだろ?」何言っているんだ、というように、レイチェルを見下ろし、言い放つ。
「どうやってです?」レイチェルはコテン、と首を傾げ聞く。
ハハッ
ロウは笑った。
狂気が滲む、恐ろしい笑顔。
___ピィッ
口笛を吹く。
小型竜は、ドドドッと最大スピードで走り出す。
そして。
ダッ!!
小型竜はとてつもない跳躍力で国境の塀を飛び越える。
ただ、さすがのロウも完全に揺れを無効化することが出来なかったらしく、着地のときぐらりと揺れた。
「わぁッ」レイチェルは小さく悲鳴をあげる。
「大丈夫か?」ロウはレイチェルを支え、聞く。
レイチェルは軽く目を見開き、頬を赤く染めた。
ぴょんっと小型竜は塀から飛び降り、走り出す。
小型竜を操り、ロウが小型竜を走らせれば、どんどん景色が流れていく。
___ガァ。
ロウとレイチェルに聞こえる声で、小型竜が鳴いた。
ロウは小型竜を止まらせ、辺りを窺う。
ロウはレイチェルに静かにするように目配せして、小型竜から降り、レイチェルを茂みに隠れさせると目立つ街道の真ん中に立った。
街道の奥から、数名の兵士が現れる。
「そこの者!!何者だ!!」兵士は高圧的に聞いた。
「ボ、ボクですか?」ロウは涙目になりながら、気の弱そうな男児のように振る舞って聞く。
なかなかの演技であった。
「そうだ。なに、何者か答えれば、何もせん。」兵士は鷹揚に頷いて、言い放つ。
「ボクは近くの村の者です。農民の子供だったんですけど、冒険者になりたくて村を飛び出したんです。」ロウはありふれたことを言った。
ありふれたことであるため、疑われることがないだろうと言ったようである。
「そうか。」兵士は納得したように言って。
ロウに剣を向けた。
「な、なにするんですか!!何者か答えれば何もしないって!!」ロウはうろたえ、再び涙目になって言う。
「そうだな。正直に答えたのならば。__ただの農民の子であれば、兵として招集されているはずだ。それに、この近くの村の人間は野良竜にすべて食われてしまった。もういるはずがないのさ。」兵士は意地の悪い笑みを浮かべて、言った。
ロウは、逃げれないと悟り、ロウらしい狂った笑みを浮かべて、笑う。
「ばれないと思ったのだがな。やはり、なまっている。」ロウはため息と共に、隠し持っていた二振りの刀を取り出した。
「戦う気か?」にやり、と笑い兵士は突きつけた剣でロウを切り裂こうと。
した。
が。
その剣はロウに塞がれ、火花が散った。
「ははっ」ロウは狂ったように顔をゆがめ、笑い声を上げる。
防いでいない方の刀で、兵士をなで斬りにし。
殺した。
ロウは深紅の瞳を、残りの兵士に向けると、獲物を見つけた肉食獣のように飛びかかる。
ロウが簡単に兵士を殺すと浄化の魔法で死体を消した。
レイチェルには、刺激が強いと判断したためだ。
レイチェルに大丈夫だ、と安心させるように言って、再び小型竜に跨らせると、自分も飛び乗り小型竜を走らせ、その場から立ち去ったのだった。




