孤独な少年
「神の財産とファミリア」にも投稿しましたが、これを第1話としたいと思います
少年は親に捨てられた。
1930年代。
当時の日本はとても貧しく、治安も悪かった。
そのため少年は5歳で親に捨てられ、道端でゴミを漁るような生活を繰り返していた。
いわゆるストリートチルドレンである。
その時の少年には捨てられる前の記憶がほとんど残っておらず、ただひたすら生きるためにゴミ箱をあさっていた。
しかし、それで金目のものや食べ物が見つかるわけもなく、1週間もの間、飲まず食わずが続く。
もう食べなければ意識を保つことができない。
目の前の八百屋から何か食べ物を盗もうとさえ思った。
そして少年は何を盗むか入り口から店内の様子を見ながら考えていた。
ふと、少年の目にみかんが映る。
みかんなら大きさ的にも盗みやすく、調理もしなくていいのですぐに食べられるという考えにいたる。
そしていざ八百屋に足を踏み入れようとした時、少年の足は思うように動かない。
何日も食べていないためにもはや立っているのも困難であった。
少年はその場に倒れる。
しかし意識はあった。
せめてあのみかんを食べることができればと手を伸ばすが、少年は店内に入ってすらいない。
その手がみかんに届くはずもない。
しかし、少年の手には確かにみかんがあったのだ。
少年は目を疑った。
しかし、迷っている暇もなく少年はみかんにかぶりついた。
理由はわからないが、みかんを手に入れたのだ。
少年は必死だった。
皮を剥くことなんて忘れて、とにかくみかんを食べる。
食べ終えても、少年の空腹は満たされるはずはない。
その時、少年の近くにパンを食べながら歩く男性がいるのに気がつく。
今度はそのパンを食べたいと思い、届くはずもないがまた手を伸ばした。
次の瞬間には少年の手にはパンが握られていた。
見ると、そのパンは食べかけであり、かじった跡が男性の持っているパンと全く同じだったのだ。
しかし、少年はそのようなことは気にもとめず、パンを貪る。
そして少年は気づく、自分が見たものなら、何でも欲しいものを生み出すことができるのだと。
この時、少年はこれが魔術だということまではわからなかった。
少年はこの力を使い、しばらくは生き延びることができた。
しかし、ある時その力が使えなくなる。
物を生み出すのに必要な魔力を使い尽くしてしまったのだ。
再び少年は餓死寸前の危機に追いやられる。
流石にもう助からないと悟った。
意識もハッキリしないまま、少年は寒さに震えていた。
路地裏のゴミ箱にもたれかかってそのまま少年は意識を失ってしまう。
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次に目を覚ました時、少年はベッドの中だった。
暖炉に火が焚かれており、部屋はとても暖かい。
自分は寒い路地裏で眠っていたはずなのに、何故このような場所で目を覚ましたのか、少年は状況が飲み込めていなかった。
辺りを見渡すと、本棚には厚い本がぎっしりと詰まっており、部屋の壁には所々に見たこともない文字や幾何学模様が書かれており、見たことのない置物もいくつかあった。
しばらく部屋を見回していると、突然ドアが開かれる。
ドアの向こうから1人の女性が顔を出す。
見た目は10代後半くらいだろうか。
髪の長さは肩くらいまでで、下の方がフワッと軽くカールしている。
顔が整っており、血色の良い紅い唇。
肌は白いが頬の辺りがほんのり赤みがかっており、健康的な印象を持たせる。
目は大きく、少しだけ吊り目だ。
身長は少し小柄で、150センチくらいだろう。
一瞬で少年はその女性に釘付けになってしまう。
何故かその女性から目が離せないのだ。
「目が覚めたみたいね」
女性のその一言で少年は我に帰る。
女性が少年のいるベッドの横に歩いてきて、そばのテーブルに盆を置いた。
盆の上にはスープの盛られた皿が載っている。
具がトロトロになるまで煮込まれており、流動食や離乳食に近い形態と化している。
少年が何もしないでいると、女性と目が合う。
その時、女性目の異変に気づく。
女性の瞳が、左右で色が違うのである。
右眼は黒いのだが、左眼が翡翠を思わせるような緑色だった。
しかも、右眼は普通に動いているのだが、左眼には生気を感じられず、動きもない。
そこで女性が口を開く。
「どうしたの? 君の食べ物よ」
その言葉に少年の空腹感が爆発した。
スプーンがある事もおかまいなしに、皿を持ち、スープを飲む。
あまりに慌てて食べるため、口元が汚れてしまっていた。
女性がポケットからハンカチを取り出し、少年の口元を拭った。
「取ったりしないから、慌てなくていいよ」
しかし少年は食べるスピードを緩めない。
少年の経験上、このようなご馳走にありつけるのは本当に久しぶりで、次はいつ食べられるかわからない。
そう考えると、ゆっくりと食べるなんて今の少年には無理なことだ。
やがて少年はスープを食べ終える。
頃合いを見計らって女性が口を開く。
「そういえば名前を聞いていなかったわね。私はマホ。真道 魔歩。君の名前は? 」
少年は首を横に振る。
「名前ないの? 」
今度は縦に振った。
「家族とか家は? 」
また横に。
マホは少年をまじまじと見つめながら、「ふーん」とつぶやく。
「〈魔術痕の探知〉」
マホが少年を見つめたまま、ブツブツと何かを言っている。
「名前のところに表記なし。記憶に欠損あり。言語発達に遅れあり……」
少年はその姿を奇妙に思いながら見ていた。
「ごめんなさい。そうだ、名前が無いのなら、私がつけてもいい? 家や家族のこともわからないみたいだし、しばらく一緒に暮らしましょう? 」
その言葉に一瞬目を輝かせるが、すぐに不安や申し訳なさも込み上げてきた。
「子供が大人に気を使わなくてもいいのよ。もしもの事は後で考えたらいい」
そう言って、少々強引に同棲を決める。
「それなら、名前を考えなきゃね……」
マホは真剣な目をして考え始める。
右手の人差し指で右の眉毛を弄っている。
どうやら考え事をしている時の癖のようだ。
「コウ……なんてどうかしら」
少年が首をかしげる。
「字は成功の功よ。文字通り、成し遂げるという意味。“いたわり”と読むこともできるわ。努力家で優しい子に育って欲しいという思いを込めて、コウ」
その時、少年が初めてマホの前で口を開く。
「コウ……それがぼくのなまえ? 」
「そうよ、今日からコウ、君は私の家族よ」
それが少年、コウと後に賢者と呼ばれる女性、マホとの出会いだった。




