邂逅
いよいよ本格始動と言うべきでしょうか。
Fakeを読んで自分の中のテンションも高まってきたところなので出来る限り投稿し続けていたいです。
まだ投稿してない小説が3、4作程あるものですし
勇者たちはリオンの街をただの宿泊地として利用するつもりだった。
魔王討伐を最大の目標に置く二人にとっては、ここに人類にとって害をなす人類『灯火』があろうがなかろうがどうということはないし、邪魔されない限り手も出すつもりはなかった。
しかし、知らぬ間に二人は見慣れないビルの前に立っていた。
それはその『灯火』のアジトそのもの。
そして
「ゴメンねー? ボクのチカラで無意識にこっちに引き寄せちゃった☆」
「この人誰?」
「私も分からん。」
目の前には見慣れない男がいた。
まるで道化師のような格好をしたその男は二人の言葉を無視し続け、話を続けた。
「んで、早速お願い事があるんだケド……このビルの中でギルドと『灯火』って言う二つの組織の幹部格が戦ってるカラ……君たちにはギルド側の助っ人を頼みたいんだよネ」
「助っ人? なんで私たちなんかに頼むんだ? 他のギルドメンバーにでも頼めばいいじゃないか」
「君たちは関わらなくてはいけない」
道化師は1秒毎に表情を変える。
先程までまるでふざけていた男がたった一つの質問を境目に真面目に語り始めた。
その道化師とは会ったことも、勿論話したことも一度もない筈なのだが、その声を聞くと何故か昔を思い出す。
数年前などではなく、もっと昔の様な……
「聞いてル?」
「え? ……ごめん、もう一回言ってくれる?」
「モウ…一回だけダヨ? …簡単に言うとこの世界は終わる運命にあるから、他者がその要因に絡むことによって未来を変えようとしてるんだって」
「は? お前この道化師の事信じるのか?」
「いや、まぁ…別に助けなくても問題は無いだろうけど、困ってる人がいたら助けるべきかな…って」
「よくその実力で人助けを語ろうとできるな」
「まァまァ落ち着いてサ、助けに行ってきなヨ? ボクは忙しいからもう行くネ?」
「待て‼︎ お前は何者なん…だ……」
振り向くともう道化師の姿は見えなくなっていた。
しかし、足音が響いたわけでも無い。
まるで最初からそこには誰もいなかったかの様な雰囲気が広がっている。
ただ、そんなことよりも今考えるべき事はある。
道化師の言っていたこと。
「勇者はギルドの戦いに参加するつもりなんだな?」
「実力がなくても…せめて正義のために戦いたい。 正義のために死ねるならむしろ本望だね。 その前に魔王は倒しておきたいけど」
「…」
私は考える。
あの道化師の所作、言葉。
それだけでは無い。
その『存在そのもの』と言うべきか。
全てに何処か違和感を感じていた。
去り際もそうだ。
足音一つ立てずに一瞬のうちに視界から消え去るほど速く動くことが出来るのだろうか。
それとも……
「じゃあ先行ってるね。」
「ちょ、ちょっと待て勇者‼︎」
私の答えを待つより速く物語は加速する。
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「ふぅ……」
イブリース・アシャ・ソマノフはギルドの中でも頭一つ抜けて実力のある男。
しかし、それ以上に性格、言動、渇欲……
その全てに難があった。
会う度に変わる顔や体型は見るもの全てを惑わせ、全人類を挑発するかの様な言葉遣いはギルドの重役の頭を悩ませる。
極め付けには『自分が興味を持った事以外では例え誰からの指令が来ようとも動かない』と言う自己中心的な活動方針だろう。
そのせいでイブリース一人で事足りる事件でも上位ギルドメンバー総出。なんてこともよくある。
「おい。」
「ン?」
「何勝手に人類史に干渉してくれてんだよ……」
そんな問題児の元に
神が上から
飛来する
「オォ…これはこれは大層な登場で……てっきりまだ動かないと思ってたんだケド?」
「…『あの事』を知ってるのか?……とにかく、誰か分からんような奴が未来を変えてるからわざわざ来てるんだろうが。 お前がいなかったら今頃もっと早く本格的に動けるように調整するよ」
ソラ
この青い空を守るという由来から付けられたごく一般的な名前だ。
実際に死守している存在であるという事さえなければ。
「お前が何者かは知らんが、特異点の『清掃』は我々の仕事だ。 我々に任せてもらいたいものだ」
「ボク……神さま如きに負けるほど落ちぶれたつもりないんだケド」
それだけ言うと、イブリースの体が突然目の前から消え去った。
しかし、ソラはその程度では動じない。
「…透明化程度が、神の前にそれが通じると思ってたのか? 愚か者」
そう言うと、ソラが無数の『陣』を展開する。
それらは一つ一つが世界最高峰の質を持ち、全てソラを中心として球状に展開されていた。
「全て見透かしてみようか……『世界識別』」
『陣』を通したソラの目には人の形をした物体がはっきりと見える。
それが例え目には見えないものであっても、そこに確かに存在しているのであれば分かる。
その影は。
『無数にある』
「何…ッ⁉︎」
「だから言ったジャン。 ボク、神さま程度には負けないって」
イブリースは球の中にいた。
神の喉元に見えない刃物を突きつけて。
圧倒的な勝利を示していた。
「分かったカナ?」
「流石にこの状況でも分からない程には成り下がってはいない……」
「ボクからの要求はタダ一つ……彼等と特異点を邂逅させろ」
「何故かは分からんが…それだけで良いなら現状は引かせてもらおう…だが、大ごとになりそうなら今度は本気で介入するからな」
先程までの陽気な声から一変、低く荘厳な声でイブリースはその『言刃』を突きつけた。
神もそれに応える。
すると、イブリースは取って代わってまた飄々とした態度に戻る。
全く掴めない存在だ。
「んじャ。 ボクはそのコトだけ言うために来たカラ。」
「待て‼︎」
「ヤダー♪」
イブリースはまたもや虚空に消えていった。
謎だけが刹那ごとに積み重なる。
ただ一つ分かった事は
「あの男…一体……」
イブリースという男には一世界では対応しきれない程の謎があるということだけ。