影
最近、今までよりはモチベとか上がってきました
「お前ら…一体何者だ? さっきも実はいただろ」
クレッタは全て気付いていた。
この場所に存在する『気配』が32を超えていたことに。
かつて『二人』で魔族と対等に戦い、滅ぼされる事が確定と言われていた人類に活力を与え、人間に自治領を与え得るどころか、人間と魔族の立場を対等にまで持って行った伝説の英雄『ギルドマスター』ですらも気付き得なかった程の希薄な影に気付いていた。
「我々が誕生してから今に至るまで…我々に気付いた存在などいなかったんですがね……」
「私をただの素人どもと一緒にするな。私は今まで…」
「今まで、何ですか?」
「私の、今まで……」
「…あぁ、なんだ。 そういう事でしたか」
クレッタの心が揺れ動くその時。
影は何かを察した。
それが何かは分からない。
「クレッタさん。 貴女の為に一つだけ言っておきましょうか」
「何、だ…」
影は耳元で何かを囁く。
その瞬間
「ッ‼︎ ……何、を、した……⁉︎」
「おやおや、まだ喋れるのですか、ですが大丈夫ですよ。 我々がしたのは『応急処置』です。 恐らく貴女の症状が続くのは数分程度だと思ったのでその間だけ『接続』を断たせていただきました。 きっと『今のあの方』は強さを求めるでしょうから被害もないでしょうし」
というと体を動かす事も出来ない程に痺れたクレッタを横目に、影が消えていく
「待、て…」
「安心してください。 我々は貴女を可能な限り守る事になっています。 またいつか会えるでしょう」
影は止まる事なくその場から去って行った。
クレッタに残ったのは体の痺れと一つの疑問……
「あれ…今、私…」
ではない
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「んで」
マドゥ討伐隊が二手に分かれて数十分。
ケインズ=メイソンは歩みを止める事無く後ろにいる『少女』に話しかけた。
「何かしら、お姉さんはまだまだ大丈夫だけど」
「なんで一緒に来たんだ? ってかそんなに大人ぶらなくてもいい」
「え、何でって…」
「私も元傭兵だからだけど?」
一瞬、ケインズの止まる事の無かった歩みが明らかに止まった。
その後、後ろを振り返ると
笑いとともにその歩みは再開された。
「ハハハッ‼︎ お前みたいな嬢ちゃんが『元傭兵』? 元ってことは当時はまだ男でも武を志す様な年齢じゃないだろ」
「本当よ? だって憧れてる人がいるんだもの、その人はね……」
「待て」
「‼︎」
先程まで愉快に大声で笑っていたケインズの声が急に厳しくなる。
その瞳の先に映っているのは明らかな異形の怪物。
混乱に乗じて人間領を侵攻しようとしている魔族がもうここまで来ている様だ。
「どうするの? レヴィアニールまではあの道を通らないとかなり時間がかかると思うんだけど」
「いや、ここは正面突…って行き先を言った覚えはまだ」
「そこの野郎」
小声で話す二人の間に静寂が訪れる。
遠くからこちら側に向かって声が聞こえる。
全身が鱗で覆われた緑の怪物はゆっくりとこっちに歩いてきている。
その足が地面につく度に
ドン、ドン
と衝撃が大きくなっている。
来る。
その衝撃がこれまでのものとは桁違いに大きくなったその瞬間。
「おい、止まれ、そこのデカブツ」
「…彼女の前で強がりか? 苦しまずに殺されたければ止めた方が良いと思うぞ?」
「決して言葉だけではないし、コレは決して彼女ではない」
「実際違うけど…そこまでバッサリ言われるとちょっとショックね…」
戦場で明らかに薄着なその少女は完全に嘗められている。
というか実際自分も嘗めている。
「下がっておけ。 ここはまず自己紹介代わりに実力でも見せとかなきゃな」
「…期待しておくけど、無理そうだったら直ぐに言いなさい?」
「お前に言ってどうなるんだよ…ッ!」
ケインズはギルドの中でも珍しく銃を主に使う。
その大きな理由は『自らに極めて高い戦闘能力は存在しないから』だが、それ故に生まれるメリットも存在している。
相手も同様に『対徒手』を想定している。
つまり相手に不意打ちを当てることができる。
たかが一瞬
されど一瞬
その隙をケインズが見逃すわけもなく
初撃は寸分の狂いもなく相手の右目を撃ち抜く。
「テメェッッッ‼︎」
「片目が無くなった相手なら余裕だな」
重装備を感じさせない軽やかな動きでケインズは相手を翻弄する。
主に死角
相手の右目側に回り込み、ケインズの銃は常に相手を捉え続ける。
「嘗めるんじゃ…ねェ…ッ……‼︎」
緑の怪物が強く地面を踏みつける。
ただそれだけ
ただそれだけで土は舞い上がり、怪物の姿は粉塵の中に消えて行った。
それに、こんな状況では両目、片目、盲目関係なく、全て等しく『見えない』
特にヘルメットを被るケインズの視界は他者よりも狭く。
先程まで敵がいた方向に向かって必死に撃つも
「チェックメイト…だな」
「‼︎」
緑の怪物は素早くケインズの後ろに回り込み、その握り拳は正確にケインズの顔面を捉えていた。
が
「ぐぁ……」
「…誰が頼り無さそうだって?」
「…お前にも度胸はあるんだな」
「強がり言っちゃってぇ」
戦場にはあまりにも似合わない白のロングスカート。
それを大胆に翻し露出させた太腿から見えたのは
その持ち主とは似合わぬ程に殺意に満ちた二丁拳銃。
既に煙を上げているそれは右手で相手の拳を、左手で相手の心臓を正確に撃ち抜いていた。
「ロートルに『怪獣退治』ってのは厳しいモンがあるからな……」
「ロートル? さっきの動きで? 冗談はその重装備だけにしなさい♪」
「はっきり言うが俺には戦闘の才能なんてモノは無い。 だから出来るだけ保険を掛けた上で長年積み上げてきた勘を頼りに戦う。 五分五分をずっと生き抜いてきてる様な物だ」
「ふーん…ま、いいけど」
グレイは何故か不満そうにふてくされると、その銃をしまい
「じゃ、行こっか。レヴィアニールまで」
「…待て、何故俺が今から向かう場所を知ってる?」
地上最大の軍事都市レヴィアニール
世界中に居る才能の無い者が最後に縋りに集まる『どうしようもない街』
確かに戦いという一つに関して最も優秀なのはレヴィアニールに違いない。
だが
この男には優れた能力がない
ギルドに編入されたことを考えれば、まずレヴィアニールという選択肢は無いはずだ。
そんなことレヴィアニールで会ったことが無ければ気付くはずがない。
只の傭兵としてではない
レヴィアニールに所属していた傭兵『ケインズ』として
「…わかった? 確か時期的には入れ替わりだったから忘れられてたとしてもしょうがないけど」
「なるほどな、さっきの件は信じる事にするよ」
「それで」
獣から逃れる際に確かに徒歩を上回る速度で走ってはいた。
だがそれで3日後に着く筈のレヴィアニールには着いている訳がない。
しかし今
目の前に並ぶその兵士を
ケインズとグレイは
確かに知っている。
「あー…」
「ケインズじゃないか‼︎ どうした? 久しぶりだな」
レヴィアニールに行くことは誰にも伝えていない。
恐らく隣に並ぶ少女も同様に伝える時間などは無かった。
つまりこの『銃を片手に持つ無数の兵士』は
確かに何者かの意思によって『目の前に現れた』
スパイよりも恐れる事態が起こっている。
敵は味方の中に紛れているだけではない。
『個々の行動を追えている可能性がある』
「グレイ…」
「分かってる」
「お前ら…」
「本当にここにいたのか」
「…え?」
「匿名で連絡があってな、お前がピンチだから助けてやれって。 それも要請とかなんかじゃなくて正式な依頼で『助けてやれ』って来たんだ。しかもこの道のりで行けばいい筈だみたいな最短ルートまで渡されて…」
「…要するにお前らは『俺がここにいるから助けろ』という依頼が来て、それに従った。って事か?」
「あぁ、そうだが…心当たりとか、なんかあいつならこういう事しそうだなって。もしかしてそういうのが無いのか?」
「グレイ、お前は…」
「そんな事出来る余裕なんて無かったでしょ。多分…」
「この戦い。私達ですら把握しきれない『誰か』が動いてる」
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「アレー? エインガナクンってこういう事しないタイプだと思ってたんだケド」
「別に良いだろ。 他人に興味が無いから無駄死にさせたいって訳でも無い」
その手には見慣れない文明の利器
この世界にキーボードやモニターはあまりにも不自然だ。
そんな罪人が覗くのは『世界』
「それにヤツが合流するハメになったのはお前が逃した魔物が原因だろ。 俺らみたいな影は極力他人を巻き込まないって決めたんじゃ無いのか?」
「神を殺したあの日から」
もう少ししたらこの辺の後書きも更新しますから…()




