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無有病

とても久しぶりな気がします。

この家にいることが長くなる期間は現在に至るまで気付いたらほとんど読書で済ませていたのですが、ここからは本格的に投稿を進めていきたいという気持ちです。

「俺はお前達と同じ『強い人間』だ…それ以上に必要な情報があるかァ?」


チェイスの返答は簡潔にして明瞭。

彼の存在の異常性、そしてその『異常』の存在理由

ただ強くあること

その二つを一つの返答で確かに表した。


「そうかそうか…それは確かに君を明確に示しているのだろう…」


「『私と同じ』という戯言を抜きにして考えればの話だが」

「アンタの話は聞いてるよ…確かこの戦争でマドゥの野郎を出し抜こうとしてる不穏分子だったか? まァ俺にはそこは関係無ェが」

「きゃっ…‼︎」


その言葉の(おわり)を待たずしてチェイスは大地を強く蹴る。

ただそれだけの行為が強さという彼の持つ絶対によって一つの兵器と化す。

これまで本気を出さなかった男の『一歩』でありながら、それは恐らくこの熾烈な戦いの中で繰り出された衝撃の中で特筆すべき程の純粋な強さを滲ませていた。

もしもその衝撃が殺される事なくイヴィルの身体にその強大を叩き込むことができればそれは特筆から最大にもなり得たであろう。

だが、イヴィルは単なる絶望に身を落とす程に柔な存在では決して無く

それでいてその剛は片手間に『それ』を扱う確かさにまで昇華されていた。

そもそもチェイスの攻撃は

彼に届いていない。


「…お前の強さの秘訣はその『右手』かァ?」

「答える義務はない。そうだろう?」


強さ

チェイスの存在理由の全てを乗せた拳は

イヴィルが自らの身体の前に掲げた右手

ジレンマを跳ね除けてまで自由にしたその右手の目前に

何も存在しないという『認識』だけが存在しているその空虚な空間の中に

止められていた。


「私は君と違って可能な限り殺生はしたくないんだ…今日のところは引き下がって貰えないものだろうか」

「その態度が気に入らねぇな…いかにも正義ぶってよォ……」


チェイスは際限なく拳に掛ける力を強めていく。

だが、その全ては目の前に『確かに存在する』『何も存在しないという』認識の前に止められている。

顕現する矛盾はそれを目撃した全ての存在の前に圧倒的な違和感をもたらした。


(一体…)

(何なんだァ…?)

「君がどれだけ頑張ろうと私を超えることは出来ない。実力やら能力やらの差では無い次元でだ」


ジレンマもチェイスも

決してその実力がイヴィルの喉元に届く事はない道理はない筈である。

だが、一方で彼らはイヴィルの能力の一切を感じることができない。

『感じることが出来ない』事を感じている。

似た様でその二つの事態が引き起こす対処は重大な差異を生み出す。

もしも『未だ感じざるもの』があるのであれば、それはさほど大事ではない。

無論、感じざる実力を恐れるのであるが、その事実はまた、『未だ感じざるもの』が存在する事を証明している。

しかし、『感じることが出来ない』事を感じているのであれば…


「…君たちはどう対処する? どこまで退却したところで『結局』感じることが出来ない物が存在するこの脅威に」

「随分厄介な能力(モノ)だなァ…」


それは事態が確定不可能である事を確実にする。

何も『何者か』に腕を掴まれているわけではない。

殴った本人が何よりも自覚している。

これはイヴィル自身の『感じることが出来ない』物によってもたらされた怪異に他ならない事を

故にチェイスが取る策は単純明快である。

あるいは単純明快にならざるを得ないと言えよう。


「…確かにそれしかないな。 頑張って私の認識の外まではみ出したまえ」

「言われなくてもォッ‼︎‼︎」

「…」


投げ飛ばされたそのままの姿で地面に横たわりながら

ジレンマはただひたすらに殴るチェイスを

ただひたすらにそれらを認識するイヴィルを

ただひたすらに境界(みわ)けていた。


_________________________________________


「イヤイヤ…キミもここにクルのχ(カイ)?」

「ウム…君の様な非道たった一人にこの一大事を任せる訳にはいかないのでな……」


イブリース・アシャ・ソマノフ

現世界最強の存在を自負するそれの瞳には

『その足元まで届きうる』貴重な存在が反射されていた。


「デモだからといってキミがクルなんテ…他のヤツラは忙シイのχ(カイ)?」

「勘違いしている様だが、そもそも我々が暇な瞬間など存在していない。 君がただ一人業務を全部丸投げしているだけだろう?」

「良いジャン。別ニ。自分から自分に投げてるダケなんダシ♪」


たった刹那の間

イブリースの体が霧の様に曖昧になったかと思うと、もう一つのイブリースがまるで先程からずっとそこに顕現していたかの様に分かれていた。

その瞬間はきっと誰にも認識されないであろう。

恐らくはイブリース本人にだって。


「その態度がこの監視に繋がっているだけだろう。 それに君にそこまで深く関与するつもりもない。 自由に遊んでいてくれたまえ」

「アリガトー♪ やっぱイヨロイさんは外見ににてフトッパラダネ♪」

「…そういう態度じゃないのかい?」


彼らは地上の裁定者

この世界を存在に結びつける『鎖』に他ならない。


_________________________________________


世界に神様は一体何柱存在するのだろうか

絶対唯一の神様が万物を司っているのだろうか

それとも神様も決して完全な存在にはなり得ず、そこにあるのは無数の座と役によって補完され合う我々と変わらない不完全なのだろうか

それとも自然という大きな調和がこの世界を成しているだけなのだろうか


少女は()っていた。

それらの総合(すべて)が正解であり、それらの各個(すべて)が間違いである事を

この世の全てが神である事を

全ての分類の根源が認識である事を

全ての認識の根源が境界である事を


いつからかその少女は

自ら世界に境界を引き始めた

いつからかその少女は

既存にも新規にも属せない孤立を味わう様になった

いつからかその少女は

他者に成り果てるようになった

それが己の一切の尊厳を奪い去る業であると知りながら

それでも彼女はひたすらに完全を求めるようになった。

自らに他者を

他者に自らを

自らに神を

神に自らを

自らに自ら以外の全てを求めた

『チェイス』、『イヴィル』=アルカードに対してアイザック・『ジレンマ』表記なのは、まぁ分かるとは思いますが、アイザック・ジレンマは本人の名でも姓でもなく、アイザックファミリーのジの番号に連なる存在という意味での個体番号のような物だからです。アシモフは本名なので『アシモフ・〇〇』ではなく『〇〇・アシモフ』ですしアシモフとしての連なりを重視したくて〇〇にルビでアシモフと振ることが多いです。

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