夜明けまであと…
お久しぶりです
「さよならだ」
地面から無数に生えた固定砲台の銃弾がチェイスを狙って一斉に放たれる。
その攻撃には文字通り『隙』が無い。
後退以外の選択肢を選ばせない。
だが、それでチェイスは退く?
否
そんな状態でもチェイスは前進を選ぶ。
顔を歪ませながらでもその足は止まらない。
「クソが……痛ェだろうがよッ‼︎‼︎」
銃弾を全て体で受け止めながらチェイスは固定砲台のすぐ側まで辿り着き、自らの腕で薙ぎ払う。
巨大な怪獣が人類の叡智を焼き尽くす。
そんな映画のワンシーンのように呆気なく無数の砲台が吹き飛んでいく。
そしてその先には。
「遠距離攻撃だけだと思うなよ?」
ゼロ距離からのSG
その弾の一つ一つがチェイスの肉体を抉る音をチェイス自身が確かに聞いた。
「イライラさせやがってよ…‼︎」
チェイスの腕の筋肉が怒りのあまり倍近く膨張したその時。
「…クソが」
腹部から流れる血もそのままにチェイスは突然そう呟き、何処かへと走り去った。
「なんだったんだアイツ……」
突如にして終わった戦いはただ不完全燃焼だけを残した。
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「クレッタよ、ここがギルドの臨時拠点じゃ」
ここに生き残っていたギルドメンバーの数『31』
この熾烈な戦いに対する生存人数としてこの数字を多いと取るか少ないと取るかは人それぞれかもしれないが
これから始まる更に熾烈な戦いを勝ち抜くための数字としては明らかに
「少ないな……」
「そうじゃ。 はっきりと言ってしまえば少な過ぎるという言葉では補いきれぬ戦力差じゃが…それは『殲滅』という一点においてのみじゃろう? 」
ギルドマスターのその一言には明らかに意思があった。
『殲滅』以外の方法でこの戦いを終わらせるという企みが。
「敵のボスだけ潰すってことか…? でも、それの方が厳しいんじゃねぇか? 闇討ちしようにも本拠地も分からねェし…」
「スカリアという機関が建てられた事は知っているかね?」
「スカリア? なんだそれ」
「簡単に言えばこの戦いから罪のない民衆を守るために作られた臨時国家のようなものだ。 王は不明。 現在も民衆を守るために最前線で戦い続けているらしい」
「それが灯火の作った国とでも言うつもりか?」
「事実それが1番可能性が高いしそれ以外わし等に可能性はないじゃろ。 問題は…」
「理由が分からない。か?」
全く理由が分からなかった。
事実、その場所には膨大な『力』が蓄えられているのだが、それに気付くことが出来るのはかなりの実力者、更に実際にその地に触れなければ気付く事は無い。
「とりあえずこの31人とわしが連れてきた臨時戦力のこの人との32人でスカリア国に攻め込む。と言っても大多数は関係ないだろうからあまり物騒な感じにはするなよ?」
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「とにかく我々はこれから先ほど見たスカリアという国に向かいます」
「何故だァ? あんな胡散臭い国。 一周回って何もねェだろ。 せめて半分ずつで別の場所にも向かった方が良いんじゃないか?」
劉がそう聞くと、シリウスは静かに首を振る。
どうしても行かなければならない理由があるようだ。
「実はあの場所は我々灯火の『悲願』を成し遂げる地として昔から目を付けていたのです。 それを知り得たのはおそらく『私』と『ゼロ様』それと…」
「あのマドゥってロボだけって事かァ? …まァそれなら可能性高そうではあるがなァ……」
「待って」
勇者がその話を遮る。
理由は皆薄々感づいていた。
否
皆聞けずにいた。
何故ならその時だけやけに空気が重いから。
灯火側の覚悟の違いが分かるから。
その話がしたくないと言う気持ちがまるで透けるから。
だが故に勇者は『それ』を聞く。
「悲願って何? あのロボットとの因縁は何? きっと今回の件とその二つは関係があるんじゃないの?」
ただでさえ膚を劈くような寒さが一層増したような気がした。
風の音すらもはっきりと聞こえる。
そんな静寂が数秒続いた後、シリウスは重い口を開けた。
「ゼロ様はただ一人の為にこの『灯火』を設立致しました。 守るべき恋人の為に…そして」
「マドゥこそが『守らなければならない』原因を作った元凶です」
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ギルドにはそれぞれランキングが設置されている。
対魔物と対人の二種類に分類されるのだが、第3位までは両方変わらない。
一位はイブリース・アシャ・ソマノフ、2位は雀・李玉
そして三位に位置付けられたその者は…
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(最優先はスカリアの丘を獲る事…あそこさえあれば俺の目的は達成できる……)
洞窟を抜けたゼロは一人大地を駆けていた。
目指すは力が実る丘。
(後は『彼女』が生きてさえいれば……)
今この時
この戦いに奔走するもの全てが一つの国を目指した。
調整中




