1日
多分これで戦争1日目の夜に突入してると思うんですけど、正直この辺りで一回私の記憶にリセットがかかったのでなんかミスってる気もします()
一応2周くらいはしてちゃんと確認したと思うんですが…
「何故彼女を被験者に選んだ。 何の罪もない彼女を」
ゼロはどこか悲しげな顔をしながら壊れた機械にそう告げた。
全ての負の感情を詰め込んだようなその声色はこの世に現在存在する言葉では言い表せないような重みを持っていた。
天井はしっとりと濡れ始め、今にも毒が降ってくる
その瞬間。
壊れた機械は確かに嗤っていた。
この世に存在する負を全て詰め込んだ眼前に存在する人間を。
哀れでも同情でもなく。
確かに嗤っていた。
「そもそもなんで選ぶ事に罪が必要なのです? それこそナンセンスと言うもの……」
「この世は常に理不尽。 それを早く受け入れたほうが楽……」
言葉は最後まで紡がれなかった。
これ以上話してもゼロに有益な情報など無いと悟ったから。
それ以上に積もったゼロの怒りが拳という形に現れたから。
それ以上に…
「この世は常に理不尽…? なら俺がその理不尽をブチ壊してやる……‼︎」
「あらあら、勇気を以て為すことは有っても無謀を以て為すことなど無いと思っているのですが……」
壊れたフリをした機械が再び口を開く
次の瞬間ゼロの周りには金属片が飛び散った
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「イイ感じ…♪」
イブリースがリリィと会話をしていたのと『同刻』
イブリースが微笑んでいるのは
一人の空間
ではない。
「…んで、ダレ?」
「気付かれていましたか……」
「真実を知りに来た旅人だとでも思ってください」
この世界では滅多に見ることのないスーツを着た眼鏡の男。
ナルセである。
ニコニコと微笑んでいる。
が、次の瞬間。
「…‼︎」
「ヤルね…♪ 人間の中では最高峰の技術♪」
既に首までコンマ1ミリ。
ナルセの刀がそこまで迫るが悪魔の肉には届かない。
それでいて当の悪魔は片手で刀を掴みながらその力に感嘆している。
ここまで端的に力の差を感じることなど今後、ナルセ程の実力者には無いだろう。
が、
「まぁそうなる事は分かっていました。 寧ろ大切なのはここからですし」
「それで、何が聞きたいノ? 一個だけ教えてあげよっカ?」
「それは有難い。 では……」
「『質問がある』」
空気がピンと張り詰める。
それはまるで時間が止まるような中で行われた。
ナルセが問いかけるのは
「この世界は一体なんですか?」
一人間には到底答えることの出来ないようなその質問。
ギルドに所属しているだけのただの人間には答える事が出来るとは思えないその質問。
ただ
イブリースは
答える。
「その質問は少し難しいネ。 この世界を1回目と捉えるか再演の中の一巡と捉えるかでかなり変わってくるケド……」
「前者で捉えるなら神々の遊戯。後者で捉えるなら僕の贖罪。もっと深く捉えるなら王の残滓……カナ? コレ内緒ダヨ?」
「貴方の贖罪……?」
「コレ以上は答えナイ♪ 後は自分が生き残って調べてみるといいヨ?」
そう言うと、イブリースは軽い足取りで空を翔び
そこでフードを被った男に出逢う。
「そこまでだ。 図に乗るな創造者が」
「成る程ネ…♪」
イブリースは無数に放たれた銃弾を
その身に全て受ける。
「⁉︎」
「悪いけどそれは囮♪」
直後、その体は霧散し
イブリースがフードを被った男の背後に現れる。
そのままイブリースは男の背中を蹴り飛ばし。
「バイバーイ♪」
虚空へと消えていった。
「イブリース・アシャ・ソマノフ…一体……」
「何者なんだ…?」
ナルセとカネヒラは考える。
まるでおもちゃ箱の中でおもちゃが家の外に思いを巡らせるように。
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身体に肉を持たない。
骨だけで構成されたその男
『カプリチオ・アームノイド』はコツコツと骨を鳴らしながら歩いていた。
無論、魔物が蔓延る世界だからと言って骨だけで生活している人間はいないので、すれ違う人々は皆奇怪な視線を向ける。
しかも
「ワタシはカプリチオ・アームノイド。 君が束ねるギルドと次に全面戦争をするであろう組織の幹部です…ところでそこの少女は?」
そんな状況で。
ただでさえ自分が怪しまれている中で。
その骨は自らが目の前にいるギルドマスターに宣戦布告をしたと言うのだからその動揺は計り知れないだろう。
「ほう…そんなことを言ってわし等から逃げられると思っているのか…?」
「‼︎」
ギルドマスターが拳を堅く握ると、まるでその周りの空間が歪んでいるかのような錯覚が起きる。
あるいは
錯覚ではなく実際に歪んでいるのかもしれない。
だが、
「……と言いたいところだが、今は相手をしている時間すら勿体無い。 それに見たところ…」
「…『かなりの手練れだ』だな?」
「おやおや…二人とも良い観察眼をお持ちのようで。 先程私に戦いを挑んで無残に散った彼とは大違いです。 えぇ、ワタシ賢い人は好きです。大好きですよ」
それだけ言うとカプリチオはカラカラと笑い
「では今回は宣戦布告だけと言うことで」
またコツコツと歩いて行ってしまった。
「これはまた厄介なことになったのぉ……」
「戦いは終わらない。って事か」
今起きている大きな問題だけでなく
先に起こるであろう『更に大きな』問題にも思考を巡らせながらギルドマスター達はまた走って行った。
「ようやく涼しくなってきたな…戦いはもうブッ壊れちまいそうなほど熱いが……」
「まだまだ前哨戦じゃ。 この戦いは恐らく未だ氷山の一角と呼べるスケールにすらなっていないぞ?」
ここまででようやく。
この戦いにおいて1回目の夜を迎えようとしていた。
涼しげな夜風が吹雪のごとくギルドマスター達の体を打ち付けながら
太陽は全てを見放して視界から消えていった。
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「クレッタ…大丈夫かな?」
沈み行く太陽を横目に見ながら、新しい秘密基地で勇者は一人
無意識に呟いていた。
無論、皆その事が気にならない訳ではないのだが誰もがその自己犠牲に救われ、引け目を感じ、敢えて触れられずにいたその事実に勇者は一人
触れていた。
「あの女がアンタにとってどんな存在だったのかなんて事はオレ様は知らねェが…ま、『アレ』は犬死にするようなタマじゃねェ。 アンタは安心して待ってれば良い」
劉が「それに…」と続ける。
「お前が、だけじゃ無い。 ここに居る誰かが加勢すれば何とかなる相手だったか? お前の目にはそう見えたか?」
「それは……」
勇者は言葉に詰まる。
ただ涼しげな夜風だけが二人の足元をすり抜けていく。
「意地悪だったな。 ただ最初に一つだけ伝えておきたかったんだよ」
「え…?」
「ずっとお前は何かを背負って生きてる。 自分の身に余るほどの大きすぎる罪の様なものを背負っている。 そして自分にそれ相応の価値があるなんて『思い上がっている』」
劉は真剣な眼差しで勇者を睨んでいる。
勇者もそれに確かな信念がある事を知っている故に睨み返す。
それが事実故に反論の弁を述べる事すらせずにただ
その言葉すらも背負う。
「お前は弱い。 それは誰が見ても分かる事実だ。 なのにお前は世界最大級の実力だと『錯覚』して一人で走ろうとする。 だから…」
そこまで言った劉の言葉が止まる。
その次に出る筈だった教訓も全て受け止めるつもりだった勇者は一瞬戸惑いの色を見せるが、直ぐに真剣な顔色に戻す。
が、その続きが語られることは無かった。
「初対面なのに言い過ぎちまったな。 すまん。 本当のお前がどうなのかは全く知らんが、要は『悩み事があるなら全員に振り撒いて軒並み不幸にさせちまえ』って事だ。 結局自分が生きてりゃそれで良いんだよ。人間なんてのは」
劉はそうとだけ告げて勇者の側から離れていった。
そして離れたその先で…
「そう…『人間』ならな……」
誰も聞こえぬ程の小さな声で
ポツリと独り呟いた。
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「天木所長! 劉将軍より連絡です‼︎」
「許可とか要らないから。 こっちだって忙しいんだし早く話してくれない?」
『遠く』離れたとある研究所で彼女達はせわしなく働いていた。
全ては人類の再興の為。
「『失われし子供達の集大成』に似た『存在』を派遣先で発見したと言っています」
「‼︎」
余りにも『有り得ない』報告に天木は手を止める。
「…どうせ劉の事だ。 ただ強くて人間だからって勝手に判断している訳では無いのか?」
「それに加えて『人工的な手が加えられている』との事です。 如何致しましょうか」
その程度の事で、と一蹴しようとしたが妙なものが天木の心の片隅で
隣に並ぶ不気味な機械のメーターの様に浮き沈みを繰り返す。
この機会を手放してはいけない様な気がする。
劉だって直感的な所があるが、今まで幾度となく無視しようとしたその直感は何だかんだで上手く転がることが多かった。
ならば、と天木は続ける。
「劉将軍には可能な限りの監視を命令しろ。 雀将軍には何も告げるな。絶対にだ」
「了解しました」
彼女達は皆一つの信念の元に集っている。
『人類の再興と自らの贖罪』の為。
【PICKs】劉 神鸞
アマテラス製薬による計画『プロジェクト:アシュオン』により生まれた被験体No.14
主な目的は彼らが信仰する『主神』への贖罪として邪神を滅ぼす事。
しかし、劉 神鸞本人としては『主神』に対して不信感を持っており、場合によっては反旗を翻す事すら厭わないと思っている。
又、それとは別に自らをプロジェクトの産物や、自らの思い通りに動く人形ではなく『人間』として扱ってくれたジェネラ・グリードラスに対しては、全幅ではないが、付き合いの短さを考えると異例な程には信頼を置いている。
因みに、プロジェクトの同異関係無くアマテラス製薬から派遣された人間は互いに連絡を取ることはない。




