急加速
「やっぱアイザックっつってもナンバー3ともなればこの程度か」
片手間にアイザック・トリガーを相手するチェイスは戦いに飢えていた。
一方で片手間に相手をされるトリガーは苛立ちが加速度的に上昇しているのだが、
「調子に乗ってくれてんねェ……そんな」
「『そんな調子でいてくれると俺も嬉しい』か? 余裕ぶって切り札がある様に見せて…正直無様だぜ?」
「‼︎」
トリガーの怒りが最高潮に達する。
自らを。
底辺から人類の頂点まで上り詰めたこの自分の実力を。
目の前に聳え立つ余りにも大きな壁を。
そしてそんな見ず知らずの通りすがりの人間に『無様』とまで貶されながらもどうすることも出来ない自分にも。
トリガーはこの日
世界の全てへの怒りを募らせる。
その全てを証明する物が。
「…⁉︎ 新しい能力が目覚めたか」
「感情は瞬間的に新しい能力を目覚めさせるっての。本当なんだな…ありがとよ? そんでもってお前とはさよならだ」
地面から無数に生えた固定砲台が一斉に火を噴くその瞬間
チェイスの顔が一瞬引きつったのをトリガーは確かに見ていた。
_________________________________________
「こっちの方に走っていったのは見ていたが…私とした事が失敗したな」
実際はあの場所で自分が殺されるのだと悟ったから拷問された時の為に敢えて新拠点の場所を聞き出していなかった。
だが、こうなった以上は、自分も合流する以外の選択肢はない…聞いてもいない新拠点の場所を自分の足で探す以外は。
「どうにか合流する方法は……?」
手も足も出なくなった
その次の瞬間。
クレッタの目の前に現れたのは。
「お主…何者じゃ?」
「…私は貴方の味方だ。 雀 李玉に連れられてここまでやって来た」
もう一つの正義。
ギルドを束ねる長。
ギルドマスター
「なんと…! 最初の電話以来音信不通になった故てっきり死んだものだと思っていたが…既に仲間を率いて動いていたとは……」
(ここは二手に分かれて黒幕を挟み撃ちにするのが最善か……)
人類は確かに。
希望の道へと戻り始めていた。
_________________________________________
それと同時期。
「誰? お前みたいな骨だけのヤローがギルドに居た記憶なんてないんだけど。 灯火?」
「違う。どちらでもない」
骨だけの男が杖を突きながら嗤う。
その男が仕えるのは記憶。
この世の根幹に携わろうとする愚かな集い。
杖を突く度に地面から死体を這い出しながら、男はにじり寄ってくる。
その力なさそうな歩みはどこか不気味にも見えた。
「『カプリチオ・アームノイド』…と名乗る男が来たと伝えてくれ。 いや、それじゃ誰も釣れないな…ダメか」
「やっぱり、ギルドNo.2を誘拐したと伝えておいてくれ。 そうさえすれば君の命は助ける……かどうかは分からんが、ここまで言った以上君は一度報告に帰らなければいけないのではないか?」
_________________________________________
記憶本部では今も慎重な行動を繰り返していた。
無論、それこそが基本の団体ではあるのだが、この混乱に乗じて他団体が積極的に動いている今にしては中々に異常なものであろう。
「ウィル・カローリの死亡を確認……やはりこの戦いに我々は干渉するべきではないかもしれんな」
「イヴィル様」
「どうした?」
「雀 李玉…とここでは呼んだ方が良いか」
ギルドでNo.2の実力を冠するその男はイヴィルという男にとある案を示す。
実際はそれこそが雀自身が記憶に入った理由でもあるのだが。
「私はギルドという正義の立場にもあります。 それを利用して有力者達の闇討ちをさせていただいてもいいでしょうか」
「私は別に構わんが、今する必要はないのではないか?」
「いえ、十分にあります。 全人類を加味しても特に危険な存在がギルドにはいますから」
「……イブリース・アシャ・ソマノフ。十数年前の『第一次終世戦』を魔王に協力したとも言われているあの大悪魔が」
_________________________________________
三つ巴の戦いに突如として現れた獅子は、その実力を遺憾なく発揮していた。
具体的に言うならば世界で見ても指折りの軍神、そしてアイザック・ペンタリア、ヘプタリア、更に『始まりの女』と呼ばれる女とたった一人で数分戦えるレベルである。
爪というには余りにも鋭利過ぎる爪を忙しく動かし、何度も敵の肉を断ち切ろうとする程には余裕を持ちながら数分戦えるレベルである。
結論から言えば、今この場を支配しているのは紛れもなく獅子だった。
「その程度か? 軍神様ってのはよ?」
「『その程度』で十分全人類の上位1%程度には入れるんだがな……」
「7、こいつすごいウザい」
「5、同意。 一緒に潰そ」
「アンタ等…今から全員殺すから……!」
「血気盛んなのはいいことだ。 全員で仲良く殺し合おうぜ?」
完全に…とは言えないが、4vs1の構図が出来上がっていると言うのに、獅子は尚も戦いを楽しむ。
アイザック・ペンタリアがアイザック・ヘプタリアを獅子に向かって思い切り投げ飛ばすが、獅子はそれをひらりと躱してしまう。
始まりの女が、まるで気が狂ったかのように大鉈を振るうが、それすらも難なくかわし、終いには脇腹にカウンターを食らわせるにまで至る。
軍神が、一瞬のうちに一本背負いを食らわせた…
と思った時には獅子は既に軍神の背後に確かに存在している。
「緩いな。 まだこっちからは何も仕掛けてないぞ?」
「……」
確かにそうだった。
まだ獅子は傷ひとつ付いていないが、それと同様に傷ひとつ付けていない。
その現場は希望というよりは圧倒的な
「絶望的な力の差……だなァ」
「やっと分かってくれたか…あの3人はまだ全然分かってくれない。いや、分かろうとしてくれない様だが」
「まぁ良いだろ、今回はただの試合だし」
【TIPS】アイザック一族
この世界で最も優れているという噂もある有力一族
常にナンバー1からナンバー9までが存在しており、度々紛争などが起きた際に出動し、活躍に応じて順位が変動する。
一族の者は、本名とは別にアイザック・◯◯(メタ的視点を入れるならばラテン語での数字を模した物)という、所謂『コードネーム』をつけられる。
一族と称してはいるが、血が繋がっている純粋な一族『純血』と血は繋がっていないが『純血』を殺す等で例外的に一族への編入を許可された『混血』の2組に分かれる。
初代アイザックと呼ばれているアイザック・オリジン(本名不詳)は今もなお生存が確認されており、年齢は最低でも500歳前後ではないかという噂。
一応本拠地はギルド『アーチ付近支部』の付近に存在しているが、アイザック・モノとアイザック・トリガーに関しては別の場所に拠点を持っているという事が報告されている。




