表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

最後の願い

 わたしが(そら)そらを見上(みあ)げると


 空はやっぱり青空(あおぞら)


 わたしをいっつも暗くする


 そばにかがやく太陽(たいよう)


 (ちから)いっぱい(ひか)ってて


 わたしの(はだ)をつきさしてくる


 (くろ)(くも)がただようと


 空をかくしてくれるから


 (すこ)しわたしはあんしんする


 (かみなり)ゴロゴロ


 (あめ)ザアザア


 わたしは空が(だい)きらい


 


 少女(しょうじょ)がじさつする(あえ)()いてた日記(にっき)だ。(わたし)はさいごの()(なに)かヒントはないかなと、もういちどこの日記をよんでみたのだ。


 少女は空が大きらいみたいだ。なんとなく気もちはわかる。私もあぶないあそびをしている(とき)はいつも空がきらいだった。少女と(おな)じで太陽の光が私をつきさしてくるようだったから。まぶしくて、まぶしすぎてきらいだった。


 まっちはのこり二本(にほん)である。不幸(ふこう)な少女をこの二本でどうやって(しあわ)せにできるか。さっぱりわからない。いろいろ(かんが)えながら(ある)いていると、一人(ひとり)少年(しょうねん)がこっちに(はし)ってきた。


 少女のともだちである。少女にはともだちが少ないけど、というかともだちは()(まえ)の少年だけだけど、いちおう一人はいるのだ。ただ、まいにち()えるというわけではない。少年はとなり(まち)にすんでいて、この町に()るのは一か月(いっかげつ)二、三回(に、さんかい)だ。


 ひさしぶりに会ったからか、少年は少女の名前(なまえ)をさけびながら元気(げんき)よく走ってきていた。私も()をあげてそれに(こた)えようとする。


 その時、みぎがわから(くるま)が走ってくるのが()えた。少年からは見えないばしょだ。このまま少年が来るとぶつかってひかれてしまう。


 私はとっさにまっちをとり()して()()けた。


「少年よころべ」


 すると、少年はころんで、くるまにひかれなくてすんだ。よかったとあんしんする。しかし、これでまっちはのこり一本(いっぽん)になってしまった。


 私は少年と(はな)(あいだ)(うわ)の空だった。もう絶望(ぜつぼう)しかない。少女を幸せにする方法(ほうほう)もわからないし、まっちものこり一本だ。かいぶつがおそってきたらそれでおわりである。ただただ、きらいな空をながめることしかできなかった。


 少年は私のようすがへんだから、ふしぎなかおしてかえって行った。私はぼーっとしながらずっとそこに立っていた。


「マチ、かいぶつが来るよ」


 アウスピルリングがさけんだ。それで私ははっとする。どうやらさいごの時が(ちか)づいてきたようだ。このたたかいがおわれば、私はけっかにかんけいなく地獄(じごく)()とされる。いや、まっちをつかわなければよいのだ。私は、かくごをきめてへんしんした。


 かいぶつは、いままででいちばん(おお)きいかいぶつだった。ドロドロとしていて、お(やま)のようになっている。私が百人(ひゃくにん)あつまっても、かいぶつの(ほう)が大きいかもしれない。私の(なか)の絶望が大きくなった。すると、かいぶつも少し大きくなったようにかんじた。


 私はいきおいよくなぐりにいく。


 ドフッ


 ぶつかったのにぶつかったかんじがしない。かいぶつはぜんぜんうごかなかった。ぜんぜんきいてないみたいだ。私はいじになって何回(なんかい)も何回もなぐって、けった。(こころ)の中の絶望はなぐるたんびに大きくなり、かいぶつはなぐるたんびに大きくなっていくようだった。


 と、そこで()づいた。もしかしたら、このかいぶつは私の絶望がうみ()したものなのじゃないかと。私が絶望すればするほど大きくつよくなってしまうのではないかと。だから私は希望(きぼう)をもつようにがんばってみた。


(私は天国(てんごく)に行く、私は天国に行く、私は天国に行く)


 がんばってそう考えると、こんどは少しだけかいぶつは(ちい)さくなったようだ。やっぱりそうだ。このかいぶつは私の絶望なんだ。


 しかし、それが気にくわなかったのか、かいぶつはドロドロのつるを何本(なんぼん)も出して、こうげきしてきた。私はいっしょうけんめいよけたけど、けっきょくいっぱつあたってしまった。すごいいきおいで()ばされて、地面(じめん)にたおれる。からだ中がいたい。()(くち)から()てくるほどだ。ゲホッゲホッと血をはきすてる。


 かいぶつはつるをゆらゆらさせながらゆっくり近づいてくる。だめだ、かてるわけない。もしかてたとしてもどうせ少女を幸せにする方法がわからない。私の絶望はものすごく大きくなり、かいぶつはしんじられないくらい大きくなった。もう、まっちをつかうしかない。


 私はさいごの一本になったまっちを点けた。


「まっちよ。あのかいぶつをもやしつくしてしまえ」


 すると、かいぶつの足元(あしもと)からものすごい(ほのお)がもえ上がった。いっしゅんでかいぶつをつつみこみ、かいぶつは火だるまになってしまった。かいぶつははいになっていき、きえていった。


 私はさいごのまっちを見ながら、そのようすをボーっと見ていた。この火がきえれば私はきっといまよりもつらい地獄に落とされる。それを考えるとかなしかった。


 もし、まだ一本あったなら、どうせしっぱいするのなら、少女のためにさいごはつかいたかった。(なに)をねがえばいいのかわからないけど、それでもいっしゅんでもいいから少女を幸せにしたかった。せめてもの私からのプレゼントをのこしたかったのだ。きのうの(ひと)が私に希望をくれたように。


 まっちの火がのこりはんぶんくらいになった。


 と、そこで気づく。もしかしたらまだおねがいできるかもしれない。だって、まっちは火がきえるまでならなんでもかなえてくれるからだ。そうだ。まだおねがいできる。なんでいままでそれに気づかなかったのだ。


 私の目が少しだけかがやいた。


 しかし、何をねがおう。少女が幸せになるねがい。それはいったい……。


 そこで私はハッとする。あの日記だ。


「まっちよ。少女に空を。すみわたるうつくしい空を。かがやき元気をくれる太陽を見せてあげて」


 そうだ、少女はまだうつくしい空を見たことがない。せめていっしゅんだけでいい。うつくしい空を見せてあげたかった。こういう空もあるんだよって、しってほしかった。それで幸せになるかわからないけど。まっちがきえたら、やっぱり空をきらいになってしまうかもしれないけど、いっしゅんだけ大きらいな空を大すきな空に。私にできるのはたぶんそれだけだから。


 少女は、私は空を見上げた。どこまでも青い空がスーッとひろがっている。まるですいこまれてしまうかのようだ。そして、太陽があたたかい(ひかり)でつつみこんでくれた。あたたかい。心の中まであたたかくしてくれて、元気が出てくる光だ。なみだがつーっとほほをつたった。


 まっちの火はそこできえた。


 目の前がまっくらになる。このせかいに来た時と同じだ。でも、こんどは(した)に落ちていくのではなく、(うえ)に上がっていくかんかくだった。そして、しばらくするとこんどは目の前がまっしろになって大王(だいおう)さまがあらわれた。


「さたを(くだ)す」


 大王さまの(こえ)がひびきわたる。いつかと同じだ。私はさいばんの場所(ばしょ)にもどって来たのだ。


「そなたに()まれかわるチャンスをあたえる。このまま地獄へ()くか、()まれかわってよいことをするかをえらべ」


 ただ、少しちがうのはかみさまがいっぱい見ているというのと、行き場所が地獄だけじゃないということだ。


「ミッションせいこうだってさ」


 アウスピルリングの声がした。まわりを見ると、いつもみたいに飛んでいる。目が()うとウインクしてきた。


「生まれかわるチャンス」


 私はつぶやいた。


「そうだ。もし生まれかわってよいことができるなら、生まれかわってもよい。しかし、そのやくそくができぬなら、地獄へ落とす」


「生まれ、かわりたいです」


 私は(こた)えた。


「かみがみはお前をずっと見ている。もし、またわるいことをするようならこんどはほんとうに(くる)しい地獄に落とされるだろう。よいな」


「はい」


 私はなみだをながしてつよくうなずいた。




 オギャーオギャー


 (ひと)つの(いえ)一人(ひとり)(あか)ちゃんが生まれた。赤ちゃんは(おんな)()で、元気(げんき)いっぱいだった。


「女の子だから、この子の名前(なまえ)はマチにしません」


 お(かあ)さんがそう()った。


「うん。そうだね。そうしよう。(おとこ)の子だったらソラだったのにね」


 お(とう)さんはそう言った。


 この二人(ふたり)はむかしからのおさななじみで、お母さんの(ほう)は小さいころ、とてもびんぼうだった。お母さんのお母さんは死んでしまって、お母さんのお父さんは暴力的だった。お母さんはいつも生きるのがつらかったけど、あるクリスマスの日にきらいだった空を見ると、それがとてもあたたかいものにかんじたのだ。


 お母さんはそれからがんばって生きた。暴力的だったお母さんのお父さんとたたかって、たたかって、さいごにはかったのだ。お母さんのお父さんはちゃんとしごとをするようになり、お母さんもそのおてつだいをしたのだそうだ。


 いまではおさななじみだった少年(しょうねん)とむすばれて、ゆうふくなかていをもつことができた。そして、こどもがうまれたのだ。


「お母さん。いま幸せだよ。ありがとね、マチ」


ご感想など頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
https://marchen2018.hinaproject.com/ 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[一言] 素敵なお話でした……!! マッチ売りの少女モチーフの見事な展開……!! 本当、幸せになってくれて良かった……!! 暖かいお話をありがとうございました(*´︶`*)ノ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ