バレそうになって
すると、むこうからお父さんがくるのが見えた。
私はきゅうに歩けなくなる。お父さんは近づいてきて、私にこう言うのだった。
「ちゃんと、マッチは売ってるか」
お父さんはみはりにきたのだ。私がちゃんとまっちを売っているか。私は小さくうなずいて、さっきの人からもらったお金をわたした。
「おお、ちゃんとやってるじゃねえか。しかもこんなに。よくやった」
おとうさんはじょうきげんでお金をもらう。わらっているけど、さっきの人とは大ちがいだ。
と、きゅうにいやなけはいがした。かいぶつだ。かいぶつがおそってくる。ものすごいスピードで、お父さんにむかってきていた。
「マチ、かいぶつがきた。へんしんするよ」
アウスピルリングがさけぶ。しかし、私はすぐにはへんしんしようとは思わなかった。
「どうしたんだよ。マチ」
私はどうしようかまよっていた。このままほうっておけば、かいぶつはお父さんをころす。お父さんが死ねば、少女は幸せになれるかもしれないのだ。
「マチ」
アウスピルリングが大声でさけんだ。そこで私はハッとする。人が死んで幸せになるなんてあってはいけない。そんな幸せはたぶん少女はのぞんでいないと。
「ごめん、アウスピルリング」
私はそう言って、へんしんした。そして、いそいでかいぶつにむかっていってなぐる。かいぶつはいまにもお父さんを切りさきそうとするところで、私になぐられて飛んでいった。お父さんはびびってこしをぬかしている。
こんどのかいぶつはこうもりの形をしていた。手が大きく前に出ていて、するどいつめをもっている。飛ばされているが、やっぱりいたそうじゃなかった。ピンピンしている。
かいぶつがとくべつなおんぱを出してくる。私はその音がうるさくて耳をおさえてしまった。そのすきにかいぶつがたいあたりしてくる。
ドンッ
にぶい音がして、私は飛ばされてしまう。そのままかべに思いっ切りぶつかってしまった。かいぶつはそのままおそってきて、こんどは私を切りさこうとしてきた。
私はすぐに飛んで、ぎりぎりでかいぶつのこうげきをかわした。そして、はんげきでかかと落としをくらわした。
ドドーン
かいぶつがいきおいよく地面にめりこむ。かなり思いっきりけったから、さすがに少しはきいててもいいはずだ。
ギョロロ
しかし、かいぶつは元気そうだった。目をこちらにむけ、すぐに空に上がってくる。
「くそっ、やっぱりだめか」
私はもんくを言いながら、まっちを点けた。
「まっちよ。ふきすさむ風をおこし、てきを切りさいてしまえ」
私がそう言うと、つよい風がふいてみるみるうちにかいぶつを切りきざんだ。かいぶつはほこりみたいに小さくなって、風に飛ばされてきえていった。これで、まっちはあと三本だ。
「マチ。おまえ、何やってんだ」
ひとあんしんしたところに、お父さんが話しかけてきた。まずい。
「えっ、あっ、えっ、ええーと」
「まずいね。魔法少女だってばれちゃだめだよ」
「わかってるけど、これどうすればいいの」
「しらない。まっちでもつかえば。ぼくにとってはどっちでもいいから」
やっぱりアウスピルリングははくじょうだ。しかたなく一人で考える。
きおくをきすのはだめだ。まっちがきえたら思い出してしまう。時間をもどすのも、同じでだめだ。まっちのねがいが火が点いている間だというのがつらい。お金出してだまっててもらうのも、やっぱりだめ。そもそもだまてってもらってても、しられてはいるのでたぶんだめだ。
と、いうか、だとするともうだめなんじゃないかな。私はこのまま地獄に落とされてしまうのかもしれない。
でも、ちょっとだけへんだと思うのは、だめなはずなのにまだ私はここにいて、しっぱいしたことになってないということ。もしかしたら何か方法があるのかもしれない。あっ、
私は思いついて、まっちに火を点けた。
「お父さん」
ものかげのおくから、少女がお父さんにむかって話しかける。お父さんはその少女と私をじゅんばんに何回も見て、目をぐるぐるさせていた。
「お父さんかえろう」
少女がもういちどお父さんに話しかける。
「あ、ああ。すみません。人ちがいでした」
お父さんが私にあやまって、少女がものかげにきえていく方へ歩いて行った。なんとかごまかせた。ちょうどそこでまっちの火がきえる。お父さんがものかげに行ってから、へんしんから元のすがたにもどった。
「あぶなかったねー」
「うるさい、はくじょうもの」
私はアウスピルリングのあたまにこぶしをぶつけた。
「いてぇー。何すんだよ」
アウスピルリングはもんくを言ったけど。私はそれをむしした。まっちはのこり二本である。
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