第4話 光と闇
1メートル先さえ見えない暗いトンネルの中を僕は走っている。
僕の右手は小さな小さな7歳くらいの少女の左手に繋がっている。
彼女はゴスロリ系の服に身を包み、まだ幼い顔立ちをしているが将来は絶対に美人になると確信できるほど整った顔立ちをしている。
後ろからは子供にもわかるような鋭い殺意が当てられている。
僕は無我夢中で彼女の手を引きながら走る。
突然、後ろから飛んできたフルーツナイフが僕の左手に刺さる。
「っぐぁーっく」
僕は痛みに耐えられずにその場に膝をついてしまう。
「あそこだぞ!」
「はやくしろ」
「このままだと、にげられっちまう」
後ろからは男たちが迫ってくる。
自分の中の警鐘が全力で危機を伝えてくる。
「ー様、早くお逃げになってください」
「はやく、はやく、こっちよ」
僕は彼女が読んでいる方へ向かって走った。
向かった場所には備え着けのランタンがあり、彼女がその灯りを付けると、そこは大きな空洞になっていることが分かった。
さらに、部屋の中心には魔法陣のようなものがある。
「もう大丈夫よ」
「え――どういうこと?」
彼女は僕の目の前に手を翳して、何かを唱える。
「大丈夫。あなたは私が守るわ」
その瞬間、僕は体の中から何かがスッと抜き取られたように感じ、物凄い脱力感とともに意識を失いそうになったが、彼女をこのまま一人にするわけにはいかず、気力を振り絞る。
「あああああぁあああああああぁああああぁ」
「―君、大丈夫ですか!」
気づくと、そこは見慣れた保健室だった。
「国崎君、大丈夫ですか」
保健室の先生ー田中先生、年齢不詳で白衣を身に着けていて、年齢、体重を聞いた人は生きている人がいないという都市伝説をもっている。田中先生の一人娘がこの学校に通っているという噂があるが定かではないーが僕の顔を覗きこみながら心配そうにそう問いかけてくる。
「は、はい。大丈夫です」
「それは、よかった」
「僕、どうかしましたか」
「それはもう、うなされていてとても心配だったんだから」
「それは心配をおかけしました」
あれは、夢だったのか… それにしては、リアルな夢だったな。
「ホントよ~。終いには大声で叫ぶし、心臓に悪いわ」
「う、ううーごめんなさい」
「まあ、別にいいのよ。私の仕事はあなたみたいな子の面倒を見ることなんだから。それより、もう体調は大丈夫。まだ具合が悪いなら、寝ててもかまわないけど」
「いえ、大丈夫です」
僕は、寝かされていたベットから立ち上がり、ドアの方へ行く。
「お大事にね」
「ありがとうございました」
「あ、ちょっと待って」
外に出ようとした僕の足を止めた田中先生はおもむろに何やらくろいお守りを僕に渡してくる。
僕はそれを受けとってまじまじと観察するが見覚えがない。
「これ、何ですか」
「国崎君をここに連れてきた子が『これ、国崎君のものなんで、渡してもらってもいいですか』って言ってけど」
「いやーまったく見覚えがないんですけど」
「まぁ、あの子はあなたのものって断言してたし、もらっておいていいんじゃない」
「そういう、ものですかね」
「そういう、ものよ」
知らないものを受け取るのは気が引けたが田中先生に諭され、受けとっておく。
お守りのようなものをズボンのポケットに突っ込み、ベットから立ち上がった僕は外へ向かう。
「それじゃ、お大事にね」
「ありがとうございました」
保健室を出たところで後ろを振り返り、『保健室』と書いてある、プレートを見る。
その瞬間、今日は二回も保健室にお世話になっていることに気づいた。
なんて、ついてない日なんだ。
そんな感慨に僕は浸る。
日常ー生きているだけで辛い僕にとっては、この感慨に浸っている時だけは現実から解放されたように感じられた。
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保健室から教室に戻った僕は午後の授業は受ける。
この学校では1から4時限目が午前中にあり、5・6時限目が午後にある
僕が戻ってきたタイミングは5時限目の途中だった。
昼休みに所用があったため、弁当を食べることができなかった。
授業中、”ぐぐぅ~”と腹の虫が鳴く。
しかし、僕に食べるものはない。
持ってきたはずの弁当は今は田村のもとにあった。
5時限目と6時限目の間の休憩時間。
田村が近づいてくる。
「昼は、どこにいってたんだぁい?」
慧は手を付けていない僕の蓋の開いた弁当を僕の机の上で逆さにする。
間の前に叔母が弁当に詰めた冷食が落ちていく。
僕は慧のことを彼にばれないように睨む。
田村は優越感に浸った醜い顔を僕に向けてくる。
「あぁぁ、なに、にらんでるんだよ!」
慧は僕の机を蹴る。
だが、僕は反応しない。
それが僕にできる最後の反抗だと思うからだ。
「ねぇ」
東大寺さんが席を急に立ち、そう勢いをもって、大声で言う。
クラスに静寂が訪れる。
注目が東大寺さんに注目する。
「優芽。どうかしたのかい」
東大寺さんは柴崎君にそう話かけられると、先ほどまでの勢いはなくなってしまった。
そのまま、この沈黙が永遠に続く…かのように思われたが、この静寂を破ったのは意外な人物だった。
”ガラガラガラ”
静寂を破った人物がドアを開け、教室に入ってくる。
彼女の名は、西岡先生だ。
西岡先生は僕のことを一瞥すると、めんどくさそうに、
「なぁ、田村。ほどほどにな。問題が起こったら、いろいろめんどくさいから」
「わかりまっしたー」
慧は適当に先生の話を聞き流がしつつも、体裁上は先生の言うことを聞き、僕の机を最後に蹴った後に、彼は自分の席に戻る。
”キーンコーンカーンコーン”
始業のベルが鳴る。
ベルが鳴ったっていうのに、まだ立って話している女子生徒がいる。
「西園寺。話に花を咲かすのはいいが、もう授業時間だ。いい加減、席に戻りなさい」
「は~い」
「おまえたちもだ」
西岡先生は西園寺たちが席に戻ったのを確認すると、聞き飽きた始まりの合図を言う。
「それでは授業を始めます」
その瞬間、教室の床が光り出す。
光が教室を覆う。
クラスのみんなが混乱する。
「えぇ、これ何!?」
「眩しくて、前が見えないよ!」
「早く教室から出るんだ!」
西岡先生が、話終わった瞬間に光始めたため、先生の仕業かと思い、先生の方も見たが、先生も混乱している。
どうやら、先生の仕業ではないようだ。
始めは白い光だけで、光っていた教室だったが、人一人分の黒い点が現れる。
それも約半数のクラスメイトのいる場所に。
その黒くなったころから、黒い炎のようなものがクラスメイト達の足に絡み付く。
「なんだよ、これ」
「う、うごけねぇ」
東大寺さんも黒いのに足を取られている。
彼女は懸命にそれを剥がそうとしているが、彼女のか弱い力ではあの黒いのは剥がそうになかった。
僕は、彼女を助けようと、彼女に近づこうとしたが、それは出来なかった。
なぜなら、僕が、行動を起こしたのと同時に、光が強まり、直視できないほどの光にクラスが覆われたからだった。
その瞬間、浮遊感が僕の体を覆った。
光が止み、強い光の残像がまだ少し残る僕の視界がとらえたのは僕が知っている世界の光景ではなかった。
誤字・脱字等々連絡してくだされば嬉しいです。
ようやく、転移の片鱗をお見せすることができました!
これから、どんどん異世界っぽくなっていくと思います。




